「季節」に対して自然と集まってできた作品
──“ユ”は落語家の立川吉笑さんへの書き下ろしですね。
paya:そうです。突然「楽曲を作ってください」という連絡をいただいて。立川さんが落語家のいちばん位の高い真打というものに昇進する際に、師匠に認めてもらう時の公演をするので、それに対するテーマ曲を作ってほしいというオファーをいただいたんです。
──落語そのもの、もしくは立川さんの落語からインスピレーションを?
paya:両方ですね。制作期間中に1日中落語を聴く日々を繰り返してはいたんですけど、あえて落語の要素を無理やり入れようとはしていなくて。あくまで自然と出てくるものを曲にしようと思っていました。大量にインプットして、自然と滴り落ちてくるくらいのエッセンスを入れたいなと。
──どのあたりに落語を感じさせると思いますか?
paya:「意味が化けるまで」という歌詞を印象的に使うようにしているんですけど、これは落語のなかにある、物事を違う角度から解釈するという点と共鳴する部分があるからこそ、この言葉を使いたかったのかなって思いますね。
──いししさん、“ユ”はどんな曲になったと思いますか?
いしし:“ユ”はバンドのなかでも、テンポがいちばん速い曲で…
──は、速いですかね?
いしし:私たちのなかでは、速いんです(笑)。テンポが速いなかでこれだけの文字数があるので、踊るように歌いたいなって。私たちのなかではリズミカルですし、結構緻密な歌です。
──吉居さんのギターについてはいかがですか?
吉居:詩を見ながら、サウンドに寄ったギターをつけたいなと思っていて。僕が担っている役割をガッツリ出した方がいい曲かなと直感的に思ったので、まずふたりが得意な部分を思いっきり出してもらって、逆にふたりが出せない部分を僕が補おうと考えましたね。
──“STAY”ですが、歌詞にも「嬰児」とあるように、赤子を思いながら作ったんですか?
paya:あー!なるほど。確かにそう思いますよね。でもこれは赤子というより、単純に眠っている人をイメージしていて。あと冬のことを歌っているんです。冬って寒いイメージがありますけど、逆にその寒さから身を守るために暖かい格好をするじゃないですか。だから冬に対して、暖かいイメージもあるんです。そういう寒さのなかにある暖かさを表現したいなと思いながら作りました。
──いししさん、“STAY”はどんな曲になりましたか。
いしし:この曲を録るにあたって、リファレンスが入ったプレイリストを共有してくれたんです。それらの曲に一貫して流れるまどろむような空気感が今までにない雰囲気だったので、その空気感を自分のなかに落とし込んで、歌の発声に変換していきました。
──どんな曲が入っていたんですか?
paya:僕、マック・ミラーが好きなんですよ。特に後期の音源にはすごく影響を受けていて。
──他はどんな音楽を聴かれるんですか?
paya:スーパーオーガニズムが好きです。ああいうクリエイティブな共同体に憧れがあったので、影響を受けていますね。あとはceroも好きで。バンドのフォーマットや根本的な設計がこれまでとは違う組み立て方をされているので、自分的にしっくりくるんです。
──では“HOLIDAY”はどういった心境で制作を?
paya:映像制作会社P.I.C.Sさんへの提供曲なんですけど、まず「HOLIDAY」という言葉をお題として先にいただいて。「そろそろ休みの日がくるぞっていうワクワク感が欲しいです」というご希望をいただいたので、じゃあ休日そのものというよりも、休日に至るまでの心の在り方とか心境を表現しようと思ったんです。なのでワークデイの心の持ち方を書いているんです。
──吉居さんはいかがでしょうか。
吉居:この曲もサウンドに寄せてギターをつけました。後になって客観的に聴いてみると、跳ねているようなフレーズを弾いているので無意識に休日感を出そうとしていたのかなと。
──最後に、今作はどんなアルバムになりました?
paya:自分たちの表現の中で季節というものがどうしても重力を持ってきてしまう、というより季節というものがそもそも重力を持っていて。そこに対して自然と集まってできた作品のような感覚があります。どういうものなのかあまり実感が湧いていないのですが、これからまた年月をかけながら、手触りを確かめることができるんじゃないかと思います。
──今後の活動も楽しみです。
paya:今後は音楽だけではなくて、映像や写真、詩や短歌など色々な分野を巻き込んでいけるような形で活動していきたいですね。

編集:梶野有希
編集補助 : 稲垣志真
季節を巡る、幽体コミュニケーションズの新作ミニアルバム
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PROFILE : 幽体コミュニケーションズ
2019年に結成された、男女混合の3人組バンド。フォークやヒップホップ等様々な音楽を圧縮コピーして混線させたチープでストレンジなサウンドの上に、男女混成によるあどけない歌声と四季に呼応する詩世界を同居させている。^
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