どうしても喪失を背負ってしまう──個性にもがくことで保たれるpollyの精神性
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pollyの4枚目のアルバムは、レコーディング当日にデモを聴くこともあったほどギリギリのスケジュールで完成された。苦難の末に曲のバリエーションは一気に広がり、一聴すればより色彩豊かなバンドへとアップデートされたことは明白である。また新体制になってから初のアルバム作品という意味でも、今作がターニングポイントであったことは間違いない。2022年に志水美日(Key/Cho)が正式に加入してから今年の7月で早2年を迎えるが、今作は彼女自身もエンジニアと共に音色のジャッジやミックスなど全体の雰囲気作りにかなりの時間を割いたという。つまり、フロントマンの越雲龍馬(Vo/Gt)を近くでみてきた人間が彼の世界観をできる限りそのまま活かそうと熟考した先で本作は完成したのである。これまで以上に純度の高い作品であることは言うまでもない。(編)
2022年のメンバーチェンジ後、初のアルバム
INTERVIEW:polly
pollyの新作『Hope Hope Hope』がリリースされる。pollyは2022年にギタリストとベーシストが脱退、同年後任として志水が加入。現在は越雲、高岩栄紀(Dr)と3人編成になっており、本作はメンバー・チェンジ後初のアルバムということになる。メランコリックでアトモスフェリックで美しいサウンドと、別れと喪失を歌った歌詞が印象的なこのアルバムは、いかにもpolly らしい、pollyにしか作れない作品と言える。メンバー3人に話を訊いた。
インタヴュー&文:小野島大
なるべく純度高く、イメージしているものを表現したい
──このメンバーになってからはじめてのフル・アルバムが完成しました。率直な手応えをお聞かせください。
越雲龍馬(Vo/Gt):僕は2枚目のファースト・アルバムみたいな気持ちで作ったんですけど、納得する作品になりました。これが広がらなかったらどうしようって思っています。けっこうもう、そういうモードですね(笑)。
高岩栄紀(Dr):今回はけっこう、個人的に楽しくやれたなと思います。いろいろな曲の色があって。レコ―ディングでも楽しかったですね。
──いままでのレコーディングとは違う感触があったんでしょうか?
高岩:そうですね。今回はけっこう、(スケジュール感が)パツパツでやったんですよ。
越雲:僕がレコーディング前日とか、当日まで完成しきれなかったというか。彼に共有するのも深夜になっちゃったりとか。
高岩:レコーディング当日に曲が聴けていなかったりとか。
──じゃあ曲を知らないうちにいきなりレコーディングとか、そういう状況だった?
高岩:そういう状況でしたね。その日にいきなり聴いて、みたいな。それはそれで楽しかったなと。精神的にちょっと焦りはありましたけど。
──これまでの彼の作った曲と比べて、なにか違いはあったんでしょうか?
高岩:"kodoku gokko"とか、あまりpollyのなかにはないハイテンポな曲でしたね。あまりハイテンポな曲を叩いてきてこなかったので……そういう部分では苦戦もしたけど、達成感がありました。よくできたなと。
──志水さんはpollyではじめてフル・アルバムを作ることになったわけですけれども、言いたいことは言えるようになってきました?
志水美日(Key/Cho):そうですね。言いたいことはガンガン言っていると思います。
──音源を聴いていてもライヴを観ていても、志水さんの比重というか、果たす役割みたいなものがどんどん大きくなっている印象なんですけど。今回のレコーディングではどういうことを考えながらやりましたか?
志水:今回はフレーズを話し合う作業は前作よりは少なかったけれど、音色選びとかミックスのバランスの話し合いの方が多かったかなという印象です。しっかり意見を出して、いろいろ言いあって。イメージをすり合わせるみたいなのが難しかったというか。"See the light"とかいままでのpollyのテイストとしては新しいアプローチだったので、どう聴こえるんだろうかと。ほんの少しの音量の差とかで曲の雰囲気がガラッと変わっちゃうので、けっこう悩んで。この音色をもっと上げないと雰囲気が出ない、とか。
──音源におけるアレンジというのは単にフレージングとか、そういうのだけではなくて、音色とかバランスとかそういうことがむしろ大きいということですね。
志水:そうですね。個人的にはライヴの時のシーケンスの音量とか、その微々たる差をけっこうこだわって話し合ったりする。キーボードに関してというよりは、全体の曲の雰囲気がちゃんとに聴こえるようなバランスをとる方にすごく今回は意識とか、時間を割いた記憶があります。
──自分のプレイそのものというよりは、全体のバランスとか音色の方が気になると。
志水:そうですね。前回の"ごめんね"とか"Kikoeru"とか、その場でピアノのフレーズとかを話し合ったりしていたんですけど。今回は元々のシンセフレーズが決まっていたので。フレーズとかを弾くエモーショナルな部分というよりは、全体の感じを意識しました。
──つまり、一プレイヤーというよりは、全体のバランスを見ているプロデューサー的な視点の方が志水さんは強かった?
志水:越雲がやっていることの補助みたいな感じというか。基本、意見がそんなに割れることはなかったので、「このパターンはどう?」とか伝えてみたりとか。そういうことの方が、時間的には使ったかなと思いました。
──要するにpollyは、越雲さんの作った曲とか、彼のセンスみたいなものがまず中心にあって。それをどうやって効果的に聴く人に伝えていくかが大事。越雲さんが持っている世界観みたいなものをそのまま活かしながら、どうやって見せて、聴かせていくのが効果的なのかっていうのを考えているわけですね。
志水:そうですね。そういう意識でした。なるべく純度高く、イメージしているものを表現したいというのは、ライヴでも音源でも思っています。彼がイメージしている通りになってほしいというのは、エンジニアと話しています。伝わってほしいと思いながら。