出発点である自分と向き合うきっかけに──ミクロを意識したJYOCHOの新作
京都発のプログレッシブ・ポップ・バンド、JYOCHO。これまでマクロを意識していたのに対し、“ひとりひとり”というミクロへと目線を移した新作アルバム『しあわせになるから、なろうよ』がリリース。JYOCHOらしさを象徴するサウンドを損なうことなく、今作ではDTMやエレクトロなどの新しい要素や、ギターを引き算することでフルートやベースの音色が引き立つようなサウンドメイクにも挑戦している。100ヶ国以上にリスナーがおり世界各国からも注目されているバンド、JYOCHOに新作について話をきいた。
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INTERVIEW : JYOCHO
JYOCHOが2022年2月16日、3年ぶりとなるアルバム『しあわせになるから、なろうよ』をリリースした。JYOCHOらしさ満開の数学的に構築されたサウンドメイキングと抒情性を掛け合わせた楽曲はもちろん、ポストプロダクションにこだわって制作された楽曲から、ギターの轟音で聴かせる楽曲まで、これまでになかったアプローチをした楽曲を含む全8曲。基本的に、ギターのだいじろーが楽曲制作を行い、各パートのフレーズも構築して渡すアプローチを取っているJYOCHOに対し、今回OTOTOYでははじめてメンバー全員へのインタビューを行い、どのようなプロセスを経て本作ができたのかに迫った。
インタヴュー・文 : 西澤裕郎
この数年の歩みがまとまっている
──だいじろーさんは今作に対して、「JYOCHO史上いちばんの直接的で直感的な作品」とコメントを寄せています。どういう意味合いで表現された言葉なんでしょう?
だいじろー(Gt/Cho):いままでの作品がマクロな視点で書いてきたのに対して、今作は“私たちひとりひとり“というミクロに焦点を当てているという点で直接的なんです。それとともにサウンド面においてもわりとストレートに表現したところがかなりある作品になっています。
──『しあわせになるから、なろうよ』というアルバムタイトルは、“悲しみのゴール”の曲に出てくるフレーズですが、どういうイメージでつけたタイトルなんでしょう。
だいじろー : もともとアルバムのコンセプトをふわっとイメージしながら制作していたんです。JYOCHOをはじめたときから、遠いところから近いところに来るイメージがあって・ミクロの私たちみたいなところに向かってくることをコンセプトには作っていました。今作が完成したときにそれをいちばん象徴していると思ったのが“悲しみのゴール”だったので、そこからアルバム名にした感じではありますね。
──「ミクロの私たち」というのは、ひとりひとりに向けてダイレクトに楽曲を投げかけているというイメージなんでしょうか?
だいじろー : ひとりひとりに投げかけているというより、自分というものに対して瞑想してほしいというか。自分と向き合うきっかけになればいいなという表現をしているんです。音楽活動を続けてきたり、年齢をとるごとに、自分と向き合うことや自分を深めていくことが楽だなと思うようになってきて。他の人と比べることも重要だと思うんですけど、まず自分が出発点というか、それがいちばん答えに近いんじゃないかなと思っていて。その考えが、それを聴き手に感じさせる歌詞だったり、サウンド面をストレートにしたのに繋がっているかなと思います。
──そうした観念的な話はメンバー間でも話されたりしているんですか?
sindee : 全貌は明かしてくれないですね(笑)。ただ、僕らの楽曲に対する受け取り方もかなり尊重してくれるので、キーワードを話してくれるくらいのほうが逆にメンバー全員で作り上げている感が大きくなるというか。実際、インタビューとかを読んで「あ、だいじろーこう思ってたんや」って知ったりするポイントもあります。
猫田ねたこ(Vo/Key)(以下、猫田) : たしかにそうですね。
sindee : 逆にそれはそれでおもしろいんじゃないかなとも思っています。基本的に大枠で考えていることだったり目指しているところは同じなので。そういう部分を大事に話をしている感じですね。
──だいじろーさんはメンバーにテクニカル的な負荷をかけるぐらいの難しいフレーズを入れて楽曲制作をしていると聞いたことがあるんですけど、難しすぎて弾くのが大変だとか、歌うのが大変だということはあるんですか?
猫田 : 毎回ですよ、毎回(笑)。
だいじろー : 負荷かかるようなフレーズとか、楽器の特性上パッセージが難しいものはあると思うんですけど、なんとかやろうとする人たちが集まっているというか(笑)。結果的に、イメージと違うものになったことはいままで実は少ない気がします。
sindee(Ba) : 僕はだいじろーのおかげで新しい奏法がふたつぐらい身につきました(笑)。
猫田 : だいじろーさんの曲をこれまで歌っていて感じるのは、本当の無茶振りはしていないなってことです。これぐらいできるようになったな、じゃあ次はこれぐらいいけるかな、って課題を渡されている感じがします。着実にどんどん難しくなっている感がある。
はやしゆうき(Fl)(以下、はやし) : 私は逆に、静かな曲の方が難しく感じることがあって。みんなが動かないフレーズの方が何周か回って難しいなと感じるときが最近になって特に増えてきています。でも、それって、みんなが長い時間一緒にいたからこそ発見できたことなのかなと思います。
──だいじろーさんは今作の楽曲制作に関して、どういう部分を意識されましたか?
だいじろー : 大まかには同じなんですけど、受け手にとってストレートなものにしたくて。ポップという言い方とはちょっと違うんですけど、いままでのJYOCHOにないような、サウンド面でもフレーズ面でも修飾的なものを少し削いでいきたかった。それで逆にちょっと時間がかかりました。
──いままでにない部分でいくと、“碧に成れたら”ではサウンドが左右にパンしたり、かなり立体的な音作りになっていますよね。演奏のテクニカルさというより、ポストプロダクションですごく実験的なことをしている。
だいじろー : DTMやエレクトロの要素も僕はすごい好きなので、そういったニュアンスを入れたいと思った楽曲だったんです。これまでJYOCHOでは基本的にライヴでできないことはやらないようにしていたんですけど、今回はライヴのことをあまり考えないでやっちゃった感はあって。作品として表現したかったことを一旦ライヴを意識せずにやってみました。
──こういう音作りってあまりJYOCHOで感じたことがなかったので新鮮でした。
だいじろー : もともとこういうエッセンスはすごく好きですし、僕の手札のなかにもあったんです。いつ出そうかなとタイミングを伺っていました。実は最初にショートバージョンを作っていて、そのときに納得いくサビが作れたんです。その過程で1サビはめちゃめちゃ地味なサビにして、その後に最高なサビを持ってきたいって思ったんですね。それが間奏からのサビの流れに繋がっているかなとは思います。キックとベースのベッベッベッベっていうところから手拍子を持ってきて、サビが乗ってくるのは自分的にも新しいなと思ったので。その後にすごく壮大なサビが来るっていうのが、自分のなかでハマったというか、そういうアレンジにしました。
──この曲はフルートも印象的です。はやしさんは演奏していてどんなことを感じましたか?
はやし : デモをもらったとき、いつもと違う雰囲気の曲だなと思いました。今回のアルバムは個人的にそう感じた楽曲が何曲かあったんですけど、この曲は歌が入ったあとに私が演奏を録っていて。基本的に私は歌の前に録るんです。だいじろーが最初から考えていたのか、ひらめいたのかはちょっと分からないんですけど、私のレコーディングの後に手拍子が追加されていて、最初のイメージよりもさらに良い意味で全然違う方向のイメージになりましたね。おもしろい仕上がりになって、早く聴いていただきたいなという気持ちと反応が楽しみです。
──猫田さんは、歌入れはどうでしたか?
猫田 : たぶんJYOCHO過去1で暗い猫田だったかも(笑)。部屋も暗くして、気持ちをちゃんと作って、大人っぽいというか暗いというか。暗いって言ったら違う? だいじろーさん。
だいじろー : いや、全然いいと思います。
猫田:声のキーも低めなのかな。いつものJYOCHOだけど、新しい面を見せられるように、低い声がどう綺麗に出るかバッチリ練習してから挑みました。はちちゃん(はやし)と繰り返しになっちゃいますけど楽しみにしていてほしいですね。
──sindeeさんはどうでしょう。
sindee : 先程おっしゃっていただいていたパンの感じとかも結構話し合いました。
──これって、どういう効果を狙っての音作りなんですか?
sindee : おもしろいよねっていう感じで(笑)。
一同:(笑)。
だいじろー : 基本的には楽器の立ち位置で決めているので、どの音をいちばん聴かせたいかとか、おもしろいアレンジか方向性もあります。
sindee : 音が少ない楽曲なので、立体感を出すためにとか、ちょっとした違和感を作った感じというのかな。今回に関しては、マスタリングとかミックスの際、だいじろーに3日間家に泊めてもらって一緒にやっていて。自分もコンポーサー的に活動してきた経験があるので、自分の好きな音楽とか経験値も合算できればいいなと考えていたんです。今回の作品に関しては集大成じゃないですけど、この数年の歩みがまとまっているというか。僕らバラバラに住んでいるんですけど、(コロナ禍で)会えなくなって、楽曲に対してとか未来に対しての話を結構してきた期間を経て、自分でもこういうJYOCHOがいいんじゃないかと溢れてきたタイミングだったので、それをかなりこんつめてやった面もあります。