Laura day romanceがたどり着いた新局面──対照的なふたつの新作から鳴る輝きと情緒
リリースから若干の時間が経ったいま、Laura day romanceのメンバーそれぞれはふたつの対照的な新作をどのように捉えているのか。彼女たちには約1年前にOTOTOYで初インタヴューを行ったが、そのときは前作『farewell your town』に触れつつも、バンドの根幹をお伝えするような内容をお届けした。そして今回は4月、5月と2ヶ月連続でリリースされたシングル「fever」「東京の夜」についてがっつり迫ったインタヴューを決行。そのためLaura day romanceの音楽性がより伝わる記事となっている。ロンドンのアビーロードスタジオでマスタリングしたという豪華なふたつの新作を通して、彼女たちの誠実な姿勢が伝わってもらえれば幸いだ。
INTERVIEW : Laura day romance
2020年に発表したファースト・フル・アルバム『farewell your town』が、インディ・ロック/ギター・ポップのファンを騒然とさせたLaura day romance。架空の街を舞台としたコンセプト・アルバムとして仕立てられた同作は、その精緻なソングライティングと楽曲構成に成熟したセンスを感じさせる、驚異的なデビュー作だった。そんなローラが、このたび2ヶ月連続でシングル「fever」「東京の夜」をリリース。デビュー作以上にバンドの初期衝動を感じさせるこの2曲は、彼らがここにきて新局面に入ったことを確かに伝えている。早速この新曲について、ローラの4人に話を聞いてきた。
インタヴュー・文:渡辺裕也
写真:西村満
自分がいちばん好きな曲になるかもしれない
──今回の2曲は、どちらもサウンドとリリックの両面で前作『farewell your town』とは異なるヴィジョンを打ち出していると感じました。クレジットによると、作詞作曲ともに鈴木さんが手掛けているようですね。
鈴木迅(gt./cho.) : そうですね。リリースまでのスピード感も大事にしたかったので、今回は歌詞も自分で書きました。かっちゃん(井上花月)と一緒に書いた歌詞と比べると、わりとサクッと仕上げた感じなんですけど、どちらの曲もけっこう引っ掛かりのある歌詞になったんじゃないかなと。特にあの自粛期間以降は自分たちもそうだし、他のアーティストの作品に触れていても、なんとなくエネルギーが内側に渦巻くような音楽が多いように感じていたので、自分たちとしてはそこから一歩抜け出したかったというか、もっと開かれた楽曲をだしたいなと思って。それで作ったのが「fever」なんです。
──まさに「fever」は疾走感抜群なギター・ポップですね。
鈴木 : 元々「fever」は「東京の夜」のB面として出すつもりだったんですけど、メンバーやスタッフからの評判が思いの外よくて。それで話し合った結果、単体のシングルとして出すことになったんです。
井上花月(vo./tamb.) : 「fever」のデモを受け取った時点で、もしかするとこれは自分がいちばん好きな曲になるかもしれないと思いました。こういう爽やかで突き抜ける感じって、今までの私たちにはなかったし、「東京の夜」より先にこっちを出したのも正解だったなって。私自身も普段いろんな音楽を聴きながら、自分たちも現実を忘れられるくらいに楽しい曲を出したいなと感じていたので、「fever」みたいな曲をこの時期に作れたのはすごく大きかったです。
川島健太朗(vo. / gt.) : 確か迅が持ってきたデモの段階だと、「fever」はもう少ししっとりした感じだったよね? それを井上が歌いやすいようにキーをひとつ上げて、テンポもちょっと上げてみたら、そこで一気にスコーンと抜けていった感じがして、これはいいぞと。
礒本雄太(dr.) : 『farewell your town』はコンセプトに則りながら丁寧に作ったんですけど、それはまた違うところに向かえそうな手応えが「fever」にはありましたね。
──「fever」の歌詞には、映画『時計仕掛けのオレンジ』とSUPERCAR“cream soda”のオマージュも込められていますね。
鈴木 : そこに関しては、家でこもる生活が長かった分、映画や音楽に触れる時間がたくさんあったことも影響してて。自分としてはオマージュというより、その一歩先を描いてみたかったんです。
──アンサーみたいな?
鈴木 : うん、そんな感じですね。
──ノイジーなギター・サウンドも当時のSUPERCARを彷彿させますが、このサウンドはどのようなイメージから生まれたのでしょうか?
川島 : いままでになく抜け感のある曲なので、ギターもパンチ力のあるサウンドにしたかったし、イントロでどれだけ耳を引きつけられるかどうかが大事だと思ってました。クリーンな音と歪んだ音が混ざった時のバランス感を意識しつつ、アコギとエレキでストロークの仕方を変えてみたり、細かいところでいろいろこだわってますね。
鈴木 : 確かに音作りに関してはいろいろこだわりましたね。ただ、聴いた印象としてはラフな手触りというか、「パッと弾いたらこうなった」みたいな感じにしたかったし、実際に「fever」はそういう音になってるんじゃないかな。
礒本 : 抜けの良い曲にしようと心がけつつ、あまりロックになりすぎないように、みたいなことも個人的にはちょっと意識してました。いままでのローラにはなかった曲だけど、去年に出したアルバムとの連続性も大事にしたかったというか。
──「fever」は井上さんの歌唱もカラッとしてますよね。
井上 : そうですね。この曲のヴォーカル録りはすごく楽しかったし、その前に録ったデモを聴き返すと、自分のワクワク感がすごく出てて(笑)。当初はサビの「涙の流し方を間違えないで」という歌詞をちょっと変えてもらおうかな、とも思ってたんですけど、そこも最終的には納得できましたし。
──何故そこが気になったんですか?
井上 : 私自身はめっちゃ泣くタイプの人間なので、これを私が歌うのはどうなんだろうと思ったんです(笑)。でも、この歌詞に関しては比喩的な意味合いも強いし、何よりも言葉を音に乗せた時の感覚がすごくいいから、実際に歌ってみるとすごく楽しくて。前向きな気持ちで歌えたし、その感じが伝わるヴォーカルになったんじゃないかなと思ってます。
──一方で「東京の夜」のヴォーカルは、いつになくエモーショナルに聴こえました。
井上 :「fever」はなるべく淡々と歌うように心がけたんですけど、逆に「東京の夜」は自分がこの曲の主人公になったつもりで歌いました。自分が共感できるように少しだけ歌詞を書き換えてもらったおかげで、それこそ自分が書いたかのように歌えましたね。というか、もしかすると私は以前からこんなふうに歌ってみたかったのかもしれない。
──これまでは歌声がエモーショナルになるのを抑えていたということですか?
井上 : そうですね。ローラで歌う時は「キャラを崩さないようにしなきゃ」みたいな意識がどこかにあったと思う。でも、私自身はエモーショナルな歌い方に抵抗があるわけでもなかったし、むしろそういう音楽を最近よく聴いてたのもあって、この曲のおかげで歌い方のレンジを広げられたのはすごく嬉しくて。