優河 × 谷口雄(魔法バンド)× 笹倉慎介 ──バンド・サウンドでの表現と追加公演への展望を語らう

2022年3月に、4年ぶりの新作アルバム『言葉のにない夜に』をリリースした、シンガー・ソング・ライターの優河。TBSドラマ『妻、小学生になる。』主題歌、“灯火”がまたたく間に話題となり、昨今さらに注目を集めている。同月、ちくさ座(名古屋)を皮切りに全国5箇所を回るリリースツアーを決行。アルバムを共に制作した、魔法バンドとともに透明感のある柔軟なサウンドで各地を魅了してきた。そして、6月28日・29日に東京・キネマ倶楽部にてリリースツアーの追加公演を開催。引き続き、魔法バンドとともにパフォーマンスをするほか、今回は新作のヴォーカル・ディレクションとレコーディング・エンジニアを務めたシンガー・ソング・ライターの笹倉慎介がコーラスとして参加するという豪華な内容となっている。期待感たっぷりの本公演について、優河と笹倉慎介、魔法バンドのメンバー、谷口雄(Key)の3名に語ってもらった。またOTOTOYでは、リリースツアーより3曲を収録したライヴ音源『Live from Wordless Night Tour 2022』を独占配信中! 優河と魔法バンドが成す、音の臨場感をご堪能ください。
優河のライヴ音源、独占配信中!
優河の新作『言葉のない夜に』もご一緒にどうぞ
INTERVIEW : 優河 × 谷口雄(魔法バンド)× 笹倉慎介

唯一無二の歌声”とも評されてきた優河だが、約4年ぶりの最新アルバム『言葉のない夜に』を聴いて驚かされたのが、まさにその歌声の変化だった。一声で人を惹きつける個性を持つ彼女の歌声だが、今作では鳴り響く楽器の音色と渾然一体となって融合し、まるで水や空気のように、ただそこにはじめから存在するかのように聴こえてくるのだ。楽曲のアレンジの進化については、前作以来、彼女の音楽的な協力者として伴走してきた「魔法バンド(岡田拓郎、谷口雄、千葉広樹、神谷洵平の4名)」の力によるところも大きかったことだろう。だがそれ以上に、彼女自身の“歌”と“声”への認識の変化こそがバンドメンバーをも突き動かし、理想的な化学反応を引き起こしたとも言えるのではないかと、このインタビューを通じて気付かされた。
今回は、優河本人に加え、ヴォーカル・ディレクションとレコーディング・エンジニアとして参加しているシンガー・ソング・ライターの笹倉慎介、魔法バンドの谷口雄(Key)を交え、彼女の歌や声の変化について主観的・客観的に振り返ってもらった。また、これまで以上に信頼関係を深めたという魔法バンドとの関係から、6月28日、29日に行われる東京・キネマ倶楽部でのツアーの追加公演の展望についてまでも語ってもらっている。進化し続けるほどに「居心地が良くなっている」という優河 with 魔法バンドのいまを、ぜひ味わってみてほしい。
インタヴュー・文 : 井草七海
写真 : 廣田達也
アルバム自体がドキュメンタリーのようなものになった
──今作『言葉のない夜に』でまず驚いたのがサウンド面の劇的な変化でした。細やかにアンビエンスの効いたレイヤーを重ね、ゆらぎやダイナミクスを強調したサウンド・メイクに、ブレイク・ミルズやビッグ・シーフなど現代の欧米のインディー・フォーク~ポップスに通じるセンスも感じます。今作は魔法バンドのメンバーと膝を突き合わせて時間をかけてじっくりと制作したということですが、まずどういった経緯で制作がはじまったのでしょうか?
優河 : 前作を作った後に自分自身の心が一度ぺしゃんこになってしまって、なかなか新しい曲を書くことができない状態になってしまっていたんです。そこでバンドのみんなに助けを求めて声をかけてみたところ、「とりあえず一緒に曲作ろう!」と提案してくれたのがはじまりでした。だからはじめは、アルバムを作るという想定ではなかったんですよね。
谷口:素材を集めて、できそうな曲からとっていった感じだよね。
優河 : そう。でも、去年の間じゅう継続的にみんなと会っていたので、その時間を無駄にしちゃいけないなという想いもあり、できた曲をアルバムという形にしようということになりました。だから、アルバム自体がドキュメンタリーのようなものになったと思います。終盤に行くにつれて、私も自分で曲を書けるようになっていましたし。
──おふたりと笹倉さんはOLD DAYS TAILORで過去に一緒に活動されていますよね。OLD DAYS TAILORは笹倉さんが以前運営されていた入間の「guzuri recording house」でレコーディングされていましたが、今作は笹倉さんの新しいスタジオ「土の上を歩く」で主に制作されています。
優河 : 「土の上を歩く」はちょうどできたばかりで、行く度に機材が変わっていたり配置が変わっていたりもしていて、私たちが録音している間もどんどんスタジオも変化しているという感じでした。だから「ここからみんなでなにかを作って、より良くしていこう」というムードに満ちていましたね。
──そんな優河さんや魔法バンドを、笹倉さんはどう見ていましたか?
笹倉 : 優河ちゃんはさっき自分で「ぺちゃんこになっていた」と言っていたけれど、その時にメンバーを集めて1年くらいかけて曲を作ってきたことは、結果的にすごく良かったんじゃないかなと思いますね。魔法バンドのみんなって音楽観がすごく開けているし、いま世界でどういう音楽が鳴っているかについても敏感で。僕も優河ちゃんのヴォーカル・ディレクションをしたけれど、バンドのメンバーと一緒にいることで優河ちゃん自身も外からの影響を素直に受け入れられるタームに入れたんじゃないかなと。僕のスタジオについても、これまではずっと古い機材を使っていたけど、「土の上を歩く」では世界のスタジオでいま使われているハイスペックな機材やスピーカーを取り入れてちゃんといまの音にフォーカスできるようにしているんです。魔法バンドの持っている「いまこの世界のなかで自分たちがどういう表現をしようか」という意識に合わせて、自分自身もエンジニアとしてなるべくそれに寄り添った作業ができたらと思っていました。
優河 : いまおっしゃってくれたように、今作は笹倉さんにヴォーカル・ディレクションをしてもらっているんですね。シンガーソングライターってどうしても自分のやりやすいようにやってしまうし、それは個性にもなりうるところではあると思うんです。でも、やっぱり日本の音楽と世界でいま聴かれている音楽の違いってヴォーカルにもあるのかなとも思っていて。だから日本語で歌いながらどう水準を上げるかということにチャレンジしたくて、誰かしらの客観的な視点を取り入れたいというのは、今回特に強く思っていた部分でした。
