長く多彩なキャリアと新作から読み解く、アーティスト西村中毒の真髄とは
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渚のベートーベンズのメイン・コンポーザー、ラッキーオールドサンらのサポート・ドラマー、宅録音楽家など多くの肩書を持つ京都のアーティスト・西村中毒が歩んできた道のりと、4月28日にリリースされた西村中毒バンドのデビュー作ができるまで、そしてその過程で形成されたアーティスト像についてインタヴューしました。
彼らが所属する〈NEWFOLK〉のクロス・レヴューと、主宰者・須藤朋寿への20の質問のページはこちら!
INTERVIEW : 西村中毒
西村中毒という名前にピンとこなくても、例えばラッキーオールドサンのライヴで、主に関西公演においてドラムを叩いているノッポの男のことを覚えている人もいるだろうか。あるいは、全員が作詞作曲を手がけメイン・ヴォーカルを取る京都のバンド、渚のベートーベンズのメンバーとして自ら歌う姿を見たことがある人もいるかもしれない。京都の秘宝とも思えるそんな西村中毒が、西村中毒バンドでいよいよ正式デビューを飾った。デビュー・アルバムは『ハローイッツミー』。タイトルから想像できるかつてのトッド・ラングレンさながらのポップ・フリークスの登場を告げる素晴らしいアルバムだ。
尤も、西村のキャリアは10年ほどにのぼる。イギリスなど海外ツアーも行ってきたビートバンド、メイフラワーズをキャリアの出発点に、ジャップ・カサイなど地元京都のシーンで様々なバンドに関わりながら、時には弾き語りで、時にはバンドでライヴを重ねてきた。自作の曲をサウンドクラウドにアップしたりデモ音源を自主制作で発売したりもしてきたが、ここにきてようやく機が熟したと言ってもいいのだろう。『ハローイッツミー』には、京都に、いや、日本にこういうソング・ライターがいるのだということを世に知らしめるにふさわしい、ロマンティック&メランコリックなポップ・ソングが並んでいる。西村のレパートリーで、渚のベートーベンズとして発表した「雨はひとひら」という曲にノックアウトされてからというもの、この人の持つ、さりげない奥行きとヒューマニズムを持った曲を、一つ一つ大切な宝物が詰まった箱を開けるように味わってきた。この『ハローイッツミー』というアルバムに対しても、そういう気持ちは全く変わらない。ただ、もっと多くの人とその感覚を共有できることがとにかく嬉しい。
そう、西村中毒の曲は、人知れずこっそり夜中に味わいたいと思わせる一方で、もっと誰か一緒に楽しもうよ! と叫びたくなるような曲でもある。ウェルメイドだけど、そこにイヤなプライドは一切ない。このインタビューを読んでくれたあなたと、そんな気持ちを分かち合えたら幸いだ。
インタヴュー&文 : 岡村詩野
創作意欲が鬱積していた
ー西村さんのことを知っていたつもりだったので、今日はとことん伺いたいと思います。
西村中毒(以下西村):(笑)NGなしなんでなんでも聞いてください。
ー生まれは?
西村:1989年京都市生まれです。以来、ずっと京都です。他の場所に住んだことなくて。ずっとこの辺……西院(さいいん/京都市右京区)なんです。西院小学校、西院中学……と、もうずっと西院(笑)。
ーじゃあ、西村さんも普段出入りしている馴染みのライブハウス〈ネガポジ〉が丸太町から西院に移転したりもして、ますます西院から離れなくなりましたね。
西村:そうなんですよ。
ー楽器の遍歴をおしえてください。
西村:15、6歳の時にアコースティック・ギターとエレキ・ギターを、16、7歳くらいからドラムをやり始めました。そこからしばらくはずっとドラムをやっていた感じです。ギターを弾き始めたのは、当時、BUMP OF CHICKENが好きだったことがきっかけです。ギターのコード譜みたいなのを買って弾いたりしていました。その頃はSlipknotみたいなハードな音楽も好きになって、メロコアとかもよく聴いていました。ドラムに関しては高校の軽音楽部に入っていて、そこで仲の良い友達たちとバンドをやろうということになった時、ドラマーがいなかったので僕が回ったって感じです。ドラマーあるあるです(笑)。ただ、やってみたらとても楽しくて。そこからドラムを中心にやるようになりました。
ー曲を作り始めたのもその頃ですか?
西村:いや、もう少しあとで、大学の時です。パソコンのフリー・ソフトを使って作り始めました。ポップス寄りのものを聴くようになったことがきっかけだったと思います。20歳になってからのことなんですけど、XTCの『オレンジズ・アンド・レモンズ』(1989年)に出会って。もちろん、もとからThe Beatlesとかも好きでずっと聴いていたし、ポップな音楽も自然と聴いてはいたんですけど、こういう音楽を自分でも作りたいなと思った、自覚的にそういう気持ちになったのはXTCとの出会いが大きかったですね。もちろん後追いですけど。
ー時期的に言えば2010年代に入った頃ですよね。どういういきさつでXTCに夢中になったのでしょうか。
西村:当時参加していたバンドのメンバーに教えてもらったんです。当時、僕はメイフラワーズというバンドのドラマーをやっていて。リーダーの里山(理)さんがそういうポップスが大好きな人なので、いろいろ教えてもらいました。
ーメイフラワーズ自体は京都を拠点に長く活動しているビート・バンドで、海外ミュージシャンの来日公演のフロントアクトをつとめたり、イギリスなどの海外ツアーもやっているくらいのキャリアがありますが、そこにいきなり西村さんが加入することになったのはどういう流れがあったからなんですか?
西村:これ、結構おもしろい話なんですけど、僕が大学を中退して、音楽をもっとちゃんとやっていこうって思っていた頃、ひとりでスタジオに入ってドラムの個人練習をしていた時にいきなり里山さんたちがブースに入ってきて。「今、ドラムを探してるんだけど」って(笑)。「一緒にやってくれないか」と。
ースカウトされたと。
西村:驚きますよね。僕はメイフラワーズを知っていましたし、その時点で10年くらい活動していて実績もあるバンドで。僕自身、どういう方向でやっていこうかなってまだ決めかねていたところもあったので、そうやって誘ってくれたのは嬉しかったですね。結局、2010年に参加して、2012年の末くらいまで在籍していました。海外ツアーも行きました。海外ツアーも行って、ロンドンとリバプールでライヴやりましたよ。
ーいきなりグローバルに活動!
西村:やっぱり楽しかったですよ。音楽の根付き方が日本とは違って、パブとかでいろんなバンドが演奏しているし、カラオケで20歳くらいの女の子がビートルズを歌ったりしていて……ああ、違うなあって思いましたね。日本で20歳の女の子がそういう昔の音楽を歌うって、なかなか想像できないじゃないですか。価値観の違いというか、衝撃がありましたね。ちゃんと曲を作り始めたのもメイフラワーズに加入してからでした。リーダーの里山さんが「曲作ってみなよ」って言ってくれて。それをきっかけに書いて、世に出たのがメイフラワーズ「You Only Said」(『Plymouth Rock』2012年)という曲です。僕はまだそこでは歌っていないんですけど、僕が最初に参加して発表されたアルバムに曲を提供させてもらえて……しかもアビーロード・スタジオでマスタリングされた作品っていう。
ーいきなり国際派!
西村:嬉しいですよね。そういうわけで、メイフラワーズでの活動、里山さんはじめメンバーからの影響はすごく大きかったんです。2年間、メイフラワーズのドラマーとして活動していたんですけど、自分で曲をもっと作って自分で発信していきたいと思うようになってきて……やりたいと思うことが見えてきたんですね。創作意欲が鬱積していたんで(笑)。メイフラワーズでそれをやるのは少し違うな、というのもあったし、100%自分がやりたいようにやってみたいと。なので、そこから宅録をちゃんとやってみることにしたんです。
ーただ、その頃、江添恵介さんらと渚のベートーベンズを結成していますよね。メンバーが曲を書いて自分で歌う、というコンセプトのバンドをやるということは、結構ガッツリと関わることでもあり、自身のソング・ライティングをより磨いていくことにもなるわけですが。
西村:そうですね。江添さんとは20歳くらいの頃に既に会ってるんです。僕は当時ジャップ・カサイというバンドもやっていて、江添さんがやっているファテリア・バンドと対バンをしたんです。ヤバいバンドがいるな、とは思っていました。その後、僕はメイフラワーズをやめて宅録を始めてはいたんですけど、弾き語りでもライヴをやりたいと思い始めてもいたので、〈ネガポジ〉にデモを持っていって聴いてもらったんです。まあ、正確に言うと、〈ネガポジ〉主催の花見に参加して、親しくなったんですけど(笑)。で、ちょうどその頃、江添さんはベートーベンズの構想を練っているところだったみたいで。各パートが曲を書き、ヴォーカルもとる、というコンセプトですね。江添さんは〈ネガポジ〉でPAもやっているので、毎日そこに出演しているバンドをチェックしながら、誰かいいメンバー候補いないかな……と探していて、そこにちょうどドラマーとして僕が抜擢される、という流れなんです。2013年末くらいの頃ですね。弾き語りではギターしか弾いていないんですけど、前に対バンをしたジャップ・カサイでドラムを叩いていたのと、デモ音源でも自分でドラムを叩いていたので。それで、曲も書けるし、ドラムも叩けるし……って感じで気に入ってくれたみたいです。
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