これも、あれも、全部YAJICO GIRL──新作EPから聞こえる数々の好奇心

YAJICO GIRLはいま、自分たちの興味がある方向へと縦横無尽に走り続けている。その足跡が後々繋がったり、全く繋がらなかったり。そういう不確かな発見と予測不能なおもしろさを確実に更新しているバンドだ。今回は、R&Bやソウルを軸に、様々なジャンルを横断した新作『Retrospective EP』について、四方颯人(Vo)にきいた。本作は2022年1月19日にリリースされるが、ほとんどの収録曲はすでに先行配信中。今回は、ジャクソン5をリファレンスにしたという、唯一の未公開曲"VIDEO BOY"についても、ひと足はやくきいている。好奇心の音が鳴る方向へと走り続けた末に生まれた全5曲について、語ってもらった。
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INTERVIEW : YAJICO GIRL

ギター・ロック・バンドのサウンドにこだわらず、現行のインディーR&Bやヒップホップの影響をバンドなりに消化した『インドア』(2019年)ののち、大阪から上京。『インドア』での音楽性をフィジカルにも落とし込み、開かれた楽曲が集まった『アウトドア』(2021年)。本作収録の"FIVE"がSpotifyの公式プレイリスト"New Music Wednesday"のカバーに選出されたり、“Tokyo Super Hits!“で数週間リストインするなど、確実に新しいリスナーを獲得し、YAJICO GIRLの第2章は内実を伴ってきた印象だ。この連作に続く形で今回リリースする『Retrospective EP』では“FIVE”のアレンジ、ミックスを担当したTeje(MUSIC FOR MUSIC)のアダプトもより深くなり、創作形態も自由に。『アウトドア』から続くゴスペルやダンス・ミュージック、ハイパー・ポップなどのクロスオーバー感もどことなくリラックスした佇まい。新たな日常に向かういまの気分とリンクするこのEPへの経緯をヴォーカルの四方颯人に訊く。
インタヴュー・文 : 石角友香
カメラマン : 西村満
任せることでのおもしろさをちょっとずつ自分でもわかってきて
──今回の『Retrospective EP』に至る前段として『インドア』(2019年)と『アウトドア』(2021年)という連作がYAJICO GIRLにとってどういうアプローチだったのか、まず訊かせてください。
四方颯人(以下、四方): 『インドア』はそれまでのギター・ロックのテイストをガラッと変えたいなと自分がひとりで思って。で、ひとりで行動に移してっていうものだったんで、自分で頑張って作った、自分のパーセンテージが高いアルバムで。実際、ガラッと音楽性も変わったなと思います。『インドア』を作り終えた後に、次は『アウトドア』ってアルバムを作ろうかって話はその時点で出てて。『インドア』は結構、俺のわがままで作ったアルバムやったから、それを踏まえた上でメンバーから出てくるアウトプットもちゃんと取り入れて、もっとバンドとしての作品として開かれたものを作ろうというテーマで『アウトドア』の楽曲は制作していきましたね。
──この連作は活動にどんな効果があったと思いますか?
四方 : ここからなにやっても大丈夫だよねじゃないけど、それまでがギター・ロックも含めて、わりとサウンドが決められていたところから、ある程度どんな表現をしてもYAJICO GIRLっていうような、土台をこの2枚で作れたような気はしますけど。
──EPに先行してストリーミングでどんどん配信していて。
四方 : ライヴもあんまりできないですし。とりあえず曲作って配信で出していくっていうのを頑張ってましたね。サブスクが主流になってからはメジャーな人とかもすっごいペース早いなと思いますもん。やっぱり、配信でずっと出てないと難しい時代やから頑張ってはいます(笑)。
──今作収録の“雑談”も、もう8月にデジタルリリースして。『アウトドア』に入れる気もなくもなかったそうですね。
四方 : ああ、そうですね。一応、“雑談”のサビのメロディとコードと歌詞は『アウトドア』のタイミングでもあったんですけど、フィーチャリングとかしてもいいのかなって話がそのときには出てて。で、一旦、「まぁ保留でいいか」ってなってたんですけど、次の制作の段階で、やっぱひとりで歌ったほうがいいかもなと思い直して今回入れたって感じです。
──“雑談”が『アウトドア』制作中に片鱗があったというのは納得で。『アウトドア』のラストが「Better」でゴスペル調のコーラスと〈まだ音は続いてる〉という終わり方をしていたので、今回1曲目が「雑談」なのは腑に落ちるというか。
四方 : ああ、確かに。地続き感はあるかもしれない。
──今回、『アウトドア』までと音像が違うなと思ったんですがそこは意識しましたか?
四方 : 『インドア』『アウトドア』である程度、自分たちの表現の幅みたいなのはできたなと思ってて、その上でもうちょっとチャレンジしてみたかったというか、「もうそういう表現はやりたくない」みたいなラインがいままでメンバーのなかであって。でもそのラインを広げたかったというか、ここまでやってみても逆にもしかしたら殻が破れるんじゃないかとか。自分たちの表現の限度、「これ以上行き過ぎたらよくないよね」みたいなのを確かめるためにもいろんな音楽性でチャレンジしていきたいなっていうのは、音像って点では今回ありました。
──アレンジャーさんの意見も訊いて?
四方:そうですね。任せることでのおもしろさをちょっとずつ自分でもわかってきて。やっぱり自分がやればやるほど自分の思った通りのものにはなるけど、どうしても縮こまるというか、飛躍できなかったりはするので。そういう意味でもうちょい人に任せてみて、「あ、こんな景色があったんだ」とか、「こんなとこにもYAJICO GIRLって行けるんだ」っていうことを今回試したかったのかもしれないですね。
──なるほど。より聴こえ方が明快になったと思うんですよ。20代が日本語でやるソウルやR&Bの影響がある音楽から、さらにそれをポップに聴かせる意志を感じたんです。
四方 : ありがとうございます(笑)。

──でも四方さんとしては自分の想像を超えるものを人の脳も駆使して?
四方 : 結果、みんなのアイディアの集まったのがひとつの意志として現れてるのかなって、いま訊いてて思いました。
──2021年の記録のようにも思えておもしろいです。で、“VIDEO BOY”以外はもう配信されていて。リリースの順番はどう考えていったんですか?
四方:デジタルリリースは“Life Goes On”から始まったんですよ。
──この曲を最初に出した意図は?
四方 : 5曲はいっぺんに作って、それを順番に出して行こうって話があって、“Life Goes On”がいちばんいままでのスタイルとも似てるなっていうのと、例えば“チルドレン“は冬に出したいよねとか。夏頃にちょっとパキッとした“雑談“を出したいよねとか、ってなったときにこれがいいんじゃない? って話になりました。
──“Life Goes On”の落ちサビも日本人がやるゴスペルのニュアンスがあるし、前作から続く感じで納得です。この曲のアレンジやメンバーそれぞれのアイディアというところでは?
四方 : この曲は比較的、結局「俺が」ってなっちゃうんですけど。元のビートとシンセの感じとゴスペル感とアンビエンスみたいのをひっくるめて、YAJICO GIRLの『インドア』以降、トライしてきたものの最終形態じゃないけど、1個ここで出来上がったなって感じはしました。この曲は確かに他の楽曲に比べるとなにか新しいことにチャレンジしてみた要素は少ないかもしれない。いままでで積み重なってきたものをここで押し込んだって形ですかね。
