ちょっとした短編小説集みたいなイメージ
──『アウトドア』はフィジカルな側面含め、ソウルフルなものを渇望してる印象があったんですけど、今回は歌が聴こえやすい印象がありました。
四方 : そのへんは別に歌が聴こえやすいようにという意識はなく。わりとメンバーでも「自分が弾いてるっていうのを出さないと!」ってこだわりがいい意味でなくなってきてるのはあるかもしれません。それは(音源での)曲とライヴのアレンジは全然別でもいいよねみたいな感じがメンバーでもあるので、「ここはシンベやとライヴで再現できへんから」とか、そういう作り方はだんだん薄れていってる感じはします。
──このEPにたまたまそういう内容が集まったのか、子どもから学生時代の経験や思い出について書かれたものが多いですね。
四方 : そうですね。音楽性がかなりバラバラになったぶん、ある程度、歌詞のテーマは一緒にしたいなと思って。地元に帰って書いたんですね、今回の歌詞は。だからそういうノスタルジックな学生時代の思い出とか経験を意識して書きました。
──なるほど、だから“Retrospective”なんですね。その時期に獲得したものを肯定してる印象があって。なぜこういう歌詞が多いのかなと思ってたんです。
四方 : ああ(笑)。なんか25って中途半端な感じがしてて。まだそんなに大人にはなりきれてないと思うけども学生じゃないし、社会人として頑張っていかなあかんけどっていう、こう絶妙な感じ。だからこそこういうノスタルジックな、完全に過去のこととして書くわけじゃなく、ちょっと前の過去ぐらいのバイブスで思い出について書けるのはこの歳でしかないので。ちょうどいい機会かなと思ってそういうテーマにしました。
──不安なことも未だ多いし、状況は去年より悪い部分もあるけれど?
四方 : だから、こういう作品が作りたい!っていうのが『インドア』『アウトドア』のときは明確だったのに対して、今回はちょっと休憩ったらあれやけど、長編小説じゃなくて、ちょっとした短編小説集みたいなイメージやったんで、ま、いろんな書き方をしてみようと。で、テーマは1つとして短編集を書いてみるオムニバス形式っていう空気感ですね。だから和気あいあいと、「これ、入れてみようぜ」とかもありつつ作った気がします。
──いわゆるギター・ロックからは遠く離れたと思うんですが、そういうこともいちいち言われる時期でもなくなったのかなと。
四方 : ようやく(笑)。けどまぁ、ゴリゴリ、ギター・ロックみたいなやつも別に1曲ぐらいあってもいいかなとは柔軟に思えるようになってきてるかもしれないですね。『インドア』作ってたときに比べると。
──R&Bやヒップホップの人が最近、ロック要素を入れるのは……。
四方 : うん、ラウドな感じですよね。逆にいまギター・ロックのシーンはチャンスかなとも思いますけどね。そういう流れはいま来てる感じしますよね。
──そういう流れのなかでも新鮮に思えるものって?
四方 : 全然、マシンガン・ケリーとか新鮮ですよ。90年代とかパンクも一応通ってはいるけど、軽いのいまっぽくないですか?(笑) いい軽さだと思います。
──四方さんは次にバンドでやることや必然を見つけてきますね。
四方 : そうかもしれない。自己批判的なものもあるけど(笑)。
──自己批判的なもの?
四方 : そう。自分のなかにある衝動をぶつけるというより、いまこういうのが来てるとか、そういうのもちろん聴くし、「あ、こういうのちょっと新しそう」とか、そういう気持ちでアイディアとかを出すタイプなんで、それ、いいんかな?って(笑)。それずっとやり続けてていいんかな?みたいな気持ちもありつつですけど。
──それは常にせめぎ合って、でもやっぱり新しいことやってみたい?
四方 : うん。ま、でもそういう作り方しかできないなっていうのは思いますけど。
──最初に表現したい感情ありきで人生の背景から作る人と……。
四方 : 分かれますよね。なんか苦しい過去があって、音楽でしか表現できないみたいなタイプではなくて、コンプレックスはありつつも、なので。だからこそできるおもしろさがあるなと思って、開き直ってます(笑)。
──(笑)。“チルドレン“はドーン!と大きな曲だなと。ここ2~3年試行錯誤してたけど、そういうこと知らない人にも届く曲かなと。
四方: 結構シンプルにJ-POPを意識しましたね。ちゃんと歌い上げてるやつを作ろうっていう感じで、でも下品になりすぎず、ある程度のエレガントさを保ったままというバランスを意識しました。
───ちょっと痛みもありますね。コロナっていう未曾有の体験をしてるときから、その先に進もうとしてる"雑談"みたいな曲もありつつ、実は実家に帰ったときにまとめて書いたというのもおもしろいです。
四方 : いや? 『アウトドア』にもそういう曲もあったと思いますし、こんなこと言ったら元も子もないかもしれないけど、「こういうのを作るぞ!」みたいなのじゃないアイディアを出す場所がなかった、そういうのがまとまったEPな気がします。だから「こうしたかった!」みたいな強い思いも、まぁアルバム作るときと比べるといい意味でなくて。だからこそこれだけなんか多様な曲が作れたと思うし、わりとフットワーク軽くてこだわりがないときのほうが飛躍はできるから、そういうのが詰まったEPな気はします。
──リファレンスが一様ではなくてミックスされてきたんだなと思いました。
四方 : そうなのかもしれない。
──それこそ“どことなく君は誰かに似ている“ってタイトルを見たとき、ドキッとしたんですよね(笑)。「こういう曲がリファレンスじゃないですか?」って我々言いがちじゃないですか。で、そういうことを言わないでって意味なのかなと思って(笑)。
四方 : ああ(笑)。そういうね、皮肉っぽいところもある曲ではあります。
──そしてEPが出るまでにまだ世の中に出てないのが“VIDEO BOY”。この曲がいちばんおもしろいことを仕掛けてますね。
四方 : そうかな……好きな曲ですけどね。全部好きですけど。けど、キャッチーやし。どうですかね、難しいな。
──ジャクソン5のニュアンスもありますよね。
四方 : うん。それはリファレンスにありました。「I want you back」って言ってますからね(笑)。これがいちばん制作でちょけたり楽しかったりしました。「ちょけた曲がいちばんキャッチーなんじゃね?」って。作曲からTejeさんに入ってもらった曲で。だからデモを自分が作って「これを作りましょう」じゃなくて、1からはじめて作った曲ですね。スタジオにメンバー何人かとTejeさんとで集まって、「作ろか」って。
──その場で何人かの脳を持ち寄る。
四方 : みんなが自分のイメージが固まってない分、いい意味でこだわりがないから、「これもええんちゃうん」「これでもいいんちゃう?」みたいな、そのゆとりはあると思います。「I want you back!」って言おうぜ、とか。なんか嫌やったりするじゃないですか(笑)。自分で完全に1人で作って、テーマもしっかり定まっててってなると、「いや、入れたくない」ってなるようなポイントもいくつかあると思うんですけど。楽しくいい曲が作れたなって、いい思い出ですね。
──トラップとソウルのあいだぐらいの揺れ感というか。ビートもおもしろいし。
四方 : そうですね。ちょうどいい塩梅というか(笑)。
──ラッパーがビート流してフリースタイルで、で、手直ししていってという制作の場面とかを見ると、すごいラフな作り方だなと思うんですけど、バンドで近いことをやったのかもしれないですね。
四方 : その時々なんでしょうけど、さっき言った軽さって意味では今回のEPはいい意味で軽かったような気がします。それは制作プロセスの段階である程度、そういうシステムでやったというか。作り込んでやろうというよりは、アレンジャーをがっつり入れて、即興ぽい感じで「いろいろチャレンジしてみようぜ」みたいな(笑)。
──この“VIDEO BOY”はゼロイチだった?
四方 : ゼロイチでしたね。そのときにめっちゃメロディ・ラインいろいろやって、良さそうなとこピックアップしてくっつけて、「できたー!」みたいな。