TYO GQOMが明かす、拡張するGqomの最前線──南アフリカで目撃したカルチャーとは──【In search of lost night】
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In search of lost night vol.12
第12回 : TYO GQOM Interview
アーティスト、DJ、オーガナイザー、クラブ・スタッフ、レーベル・オーナーへのインタビューや、ある一夜の出来事のレポートなどを更新していく連載【In search of lost night】。
KΣITO、mitokon、K8、DJ MORO、HW BINGOの5人で構成されるDJクルー/コレクティブ〈TYO GQOM〉。昨年は〈Protest Rave〉、〈悦悦〉といった野外でのプレイも経験し、南アフリカ発祥の音楽であるGqom(ゴム)の可能性を提示し続けた。そしてその活躍と比例するように、Gqomという音楽が日本各地で人々を踊らせていることも、現場にいる彼らは肌で感じ取っている。
今回は、パーティー・クルー、BDSとしても活動するGqomプロデューサー、Zutaiにも質問者として参加してもらい、メンバー全員に、昨年の自身たちの活動やレーベル〈USI KUVO〉の近況、さらには昨年末にメンバーのKΣITO、mitokonが訪れた南アフリカのGqomシーンについても訊いた。
南アフリカはもちろん、世界各地で急速に拡張していく音楽、そのフロンティアに迫る。
INTERVIEW : TYO GQOM (KΣITO、mitokon、K8、DJ MORO、HW BINGO)
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南アフリカ・ダーバンのタウンシップで産声を上げたダンス・ミュージック、Gqom(ゴム)。2010年代から発展を遂げてきたこの独自の音楽は、今や世界各地のダンス・ミュージックと融合。ここ日本においても、TYO GQOMをはじめとしたプロデューサー/DJを中心にシーンが形成されてきた。
しかしGqomの中心地である南アフリカは常に先頭をひた走り、変化を繰り返している。WhatsAppでのみ交換される“ダブプレート”、車カルチャーと融合した独自の遊び方など、日本では見られないような発展の仕方は、現地に赴かないとなかなか出会えないもの。そうした最新のGqom、それを取り巻くカルチャーを実際に体感し、理解し、自分たちにできることを模索し続ける彼らの姿勢を、インタビューを通して感じることができた。
TYO GQOMのパーティーに遊びにいくと、フロアの真前で声を上げながら楽しく踊っているのはいつもこの5人。Gqomという音楽を誰よりも愛するメンバーたちと踊る機会は、これからも増えていくに違いない。
インタヴュー&文 : 草鹿立
写真提供 : KΣITO、mitokon
TYO GQOM、昨年の活動を振り返って
────時間は少し経ちましたが、11月のTYO GQOM6周年お疲れ様でした! 周年パーティーも含めて、昨年は皆さんにとってどんな年でしたか?
DJ MORO:去年は本当にクルーでの出演が多かったんですよ。今までにないくらい多くて。
K8:夏のフェスの時期はずっとやってた。〈悦悦〉(2024年9月14日 @ヴィレッヂ白州)もあったし。一昨年の〈INCUBUS CAMP〉(2023年10月14日 @ちどり公園)で、TYO GQOMが野外と相性いいんだってなった印象がありますね。
────印象に残った出演イベントはなんでしょう?
DJ MORO:個人的には、〈clubasia〉の周年(2024年3月23日)です。その日は、通常の時間帯にクルーでやって、朝5時過ぎてから¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U vs TYO GQOMになって(笑)。結構久々な感じで面白かった。
mitokon:どのイベントでも結構盛り上がったし、自由にやれました。池尻の〈SWIPE〉でした収録も楽しかったし、いろんなセットができたのがよかったです。
K8:私も池尻の収録は印象に残ってて。Gqomのバンガーで盛り上げることが多いと思われるかもしれないけど、アマピアノ(同じく南アフリカ発祥のダンス・ミュージック)からはじめて、アフロ・ハウス〜3stepへじっくりいくセットができました。
KΣITO:長い時間やれる機会が去年あったのはよかったよね。
HW BINGO:個人的には〈AMAPINIGHT〉との絡み(2024年8月17日 @CIRCUS TOKYO、2024年10月13日@CIRCUS TOKYO)ですかね。TYO GQOMと〈AMAPINIGHT〉のダンサーが一緒にいるパターンがあまりなかったので。
────〈AMAPINIGHT〉には、GqomのアーティストであるDJ LAGが来日し、話題になっていました。DJ LAGは実際どのくらいの立ち位置のアーティストなんでしょうか?
mitokon:“Gqom King”です。DJ LAGはオーバーグラウンドでも活躍しているし、すごくビッグネームだと思います。
KΣITO:DJ LAGはGqomのアーティストの中でいち早く海外に出てツアーをしていました。〈Hyperdub〉(※1)とか、イギリスを中心としたベース・ミュージック・シーンに注目されて。それに加えて南アフリカ国内での評価も高い。
mitokon:DJ LAGは、アマピアノのアーティストとも関わりが深いですね。あとこの間Instagramで2024年の振り返り動画を上げていたんですけど、「いちばん予想外だったイベントは何?」って質問に対して、「日本でのイベント」って答えていて。「日本は第2の故郷だ」とも言ってました!
K8:すご! こんなにGqomで盛り上がれるんだって純粋に思いました。
────少し時期は遡り、2月には〈Protest Rave〉(2024年2月11日 @新宿駅東南口)に出演を果たしていましたね。自分は足を運べなかったのですが、SNSにアップされた動画を見て、正直、あそこまで参加者のチャントとGqomという音楽がマッチしたことに驚いて。「レベル・ミュージックとしてのGqom」という一面が垣間見れたというか。
K8:不安はなかったけど、「Gqomでいけるかな」とは最初ちょっと思った。
mitokon:でも私はちょっと信じてた! Gqomのパワーは日頃から感じてるから。もちろんどうなるかわからないから、アマピアノでいこうという話も上がってたくらいだけど、結果的にはGqomを流そうって落ち着いたよね。
KΣITO:でも意外とプロテストのチャントを邪魔していない音楽だなと思った。
DJ MORO:音楽的にも相性が良かったし、Gqomという音楽の性格もあっていたんじゃないかな。富裕層の音楽ではないから。
────もちろんGqomに限らずですが、そこがダンス・ミュージックがレベル・ミュージックとして機能する理由の1つですよね。Zutaiは現場にいたんだっけ?
Zutai:はい、感動しました。何度も行ってる新宿駅の東南口で、“Ree's vibe”が流れている中、ずっと周りから「FREE PALESTINE」という声があがってて。言葉では言えないけど、グッときて。
K8:南アフリカの国旗とか、ネルソン・マンデラの写真をもっている方もいました。そこが個人的にはグッときたし、私たちが〈Protest Rave〉に参加する意味というか。
mitokon:南アフリカは、アパルトヘイトを経験している国としてパレスチナ支援をしていますし、当然ながら差別に反対する感情ももっていると思います。だから音楽的にはもちろん、そういう精神面においても、〈Protest Rave〉にマッチしていたのかなって。
KΣITO:Gqomは、人種隔離されていたタウンシップから生まれた音楽。
────皆さんの活動のおかげでもあると思いますが、あらゆるクラブでGqomを聴く機会が以前より増えた気がしていて。そういう感覚って皆さんにもありましたか?
DJ MORO:俺去年めっちゃ感じた。例えばSAMOさんやnasthugさんとか、Gqomをセットに組み込む人が増えたり。しかもプレイの仕方も変わってきた感じもあって。BPMは基本126~130くらいなんですけど、130以上でGqomをかけるプレイヤーが増えた印象があります。音楽的にも結構拡張されてきた感じもあります。いい時代になったなと。
KΣITO:若い世代の子たちが流してくれるようになったと思う。
────Zutaiの楽曲が渋谷の〈HARLEM〉でかかっているという話を人づてに聞きました。
KΣITO:へー、すごい。今の若い人たちってアマピアノ経由でGqomに辿り着いたんですかね。
HW BINGO:多分バイレファンキ(ブラジル発祥のダンス・ミュージック)とかそっち経由だと思う。だから〈HARLEM〉とかで流行ってるのも、「Gqom風Edit」をかけてるのかな。ソロではTYO GQOMでかけられない曲をかけるんですけど、Gqomの布教として、Gqom風Editを流すことはあります。自分はどちらかというとハブになりたいタイプなので。
DJ MORO:そういうハブになる曲がここ数年で増えたのがありがたいなと。今までもめちゃかっこいい曲があるんだけど、曲として圧倒的すぎてどう混ぜるかわからないものとかがあって。でもここ数年、Gqomに影響されて、拡張していこうとするアーティストが世界中で増えた気がしますね。特にSTATE OFFFというオランダのアーティストは、バイレファンキとすごく接近して、それが去年象徴的でした。あと、台北のSonia CalicoやブラジルのJLZあたりも面白いです。いろんな音楽に浸食できるのがいいなと。
HW BINGO:さっきの〈Protest Rave〉の話にも繋がるけど、GqomはVogueとも相性いいから、クィアの人たちにもGqomが受け入れやすいと思う。
K8:たしかに。
(※1)Hyperdub : DJ/プロデューサーのKode9が主宰しているロンドンのレーベル。Scratcha DVAなどと共に、いち早くGqomをイギリス国内に紹介した。