6人の音楽家と越境する、Gotchの2ndソロ・アルバムをハイレゾ配信&ビルボードライブ東京公演レポート
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、後藤正文ことGotchが約2年ぶりとなるソロ・アルバム『Good New Times』をリリースする。同作はプロデューサー / エンジニアにUSインディ・ロック・シーンからデス・キャブ・フォー・キューティーの元メンバー、クリス・ウォラ、そして前作『Can’t Be Forever Young』リリース・ツアーのバンド・メンバーでもある6人のミュージシャンが参加。強力なバンド・サウンドで仕上げた全11曲。なかには参加メンバーである井上陽介(Turntable Films、Subtle Control)が作詞作曲を手掛けた「Paper Moon」、ナダ・サーフのマシュー・カウスとの共作「Life Is Too Long」も収録されている。
さて、今作をCD、LPの発売に先駆けて配信スタート。24bit/96kHzのハイレゾ配信も始まった。それに伴い、6月8日・9日に六本木・ビルボードライブ東京にて開催されたワンマン公演のレポートを公開。公演前に行ったGotchへのインタヴューと交えて、『Good New Times』の内容と現在のGotchのモードを伺う。
Gotch / Good New Times
【Track List】
01. Lady In A Movie
02. Paper Moon
03. Good New Times
04. The Sun Is Not Down
05. Independence Dance
06. Tokyo Bay
07. Port Island
08. The Mediator
09. Baby, Don’t Cry
10. Life Is Too Long
11. Star Dust
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
※ハイレゾとは?
[右]16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 250円(税込) / アルバム 1,800円(税込)
Gotch / Good New TimesGotch / Good New Times
LIVE REPORT | 2016年6月9日 Gotch「Good New Times」at Billboard Live
2016年6月9日、ビルボードライブ東京。21時半にGotch & The Good New Timesのメンバーがお揃いの柄シャツを着てステージにならび、ライヴが始まる。
メンバーは、以下。
Gotch - Vocals, Guitar
Yosuke Inoue(以下、井上)(Turntable Films/Subtle Control) - Guitar, Lap steel Guitar, Banjo, Synthesizer, Noise
Ryo Sato(以下、佐藤) - Guitar
Takuma Togawa(以下、戸川)(TYN5G) - Bass
Ryosuke Shimomura(以下、下村)(the chef cooks me) - Piano, Organ, Synthesizers, Melodica, Glockenspiel, Backing Vocals
YeYe - Backing Vocals
mabanua - Drums, Percussion
各メンバーがアンビエント・ノイズをならし始め、mabanuaが重いビートを叩き始める。1曲目は最新作の2ndアルバム『Good New Times』から「Paper Moon」。後半のノイジーなパートでは、バンドの音像がさっそく炸裂する。このノイジーな部分こそ、Gotchの2ndアルバムでの挑戦である。
このライヴの前に、15分程、彼にインタヴューをすることができた。「バンドは成長していると思う?」と訊くと、以下のような答えが返ってきた。(以下、太字はGotchの発言)
ほんと、メンバーは頼もしいですよ。自分も乗せられるっていうかね。相乗効果みたいなのがあって、一つのアイデアを誰かが出したときにそれに飛びつくスピードも早いんです。2ndアルバムも、バンドで録ろうっていうのは決めていました。そのバンドには、アルバム名と同じ「Good New Times」って名前をつけましたけど、このメンバーでアルバムを1枚録ったらおもしろいものができる確信はあったんです。
まさにGotchが確信を持ったように、このバンドにはあきらかなバンド感があった。2曲目の「Humanoid Girl」は、下村と井上のアンサンブルがとにかく美しいし、ビルボードの音響も見事で、しっかりと各楽器が分離して聴こえる。そのバンド感は、3曲目「Can't Be Forever Young」、そして4曲目には2ndアルバムのリード曲「Lady In A Movie」が演奏され、一気に加速する「Lady In A Movie」は全編英詞なのだが、ビルボードの音響もあってか、歌詞が非常に明確に聴こえてくる。英詞について、Gotchに訊いてみた。
2ndアルバムに英詞の曲が多いのは、海外の人にも聴いてもらいたいなって気持ちもあったし、あんまり日本と海外ってわけずに作りたかったんです。来日中のパティ・スミスが「全然日本語話せなくてごめんなさい。でも、音楽自体がユニバーサルな言語なんだ」ってMCで言っていて。自分も自分で作っている時は、邦楽洋楽って線さえいらないんじゃないかなって思っている。何かを世の中に発表する時点では、アフリカであろうが南米の人であろうが、聴いて「良い」ってなってくれたら嬉しいわけで、だから特に誰に向けてとかそういうところで創らなくてもいいのかなって。
そんなGotchの英詞への思いは、プロデューサー / エンジニアである元デス・キャブ・フォー・キューティーのギタリスト、クリス・ウォラ(以下、クリス)との制作でも、大きな影響を与えたようで、
レコーディングでは、クリスに3週間滞在してもらって、都内のスタジオで楽器の録音全部と、英詞の曲だけ歌い切っちゃいました。なぜ彼と一緒に英詞の曲を録りたかったかっていうと、発音がちゃんとアメリカ英語として成り立っているかをジャッジしてもらいたくて。アメリカの人が聴いても変じゃないようにアドヴァイスしてほしいとリクエストしました。だから、実は何度も歌ったテイクとかありますよ。
と答えている。その理由を尋ねると、以下のような答えが返ってきた。
外国人が日本の曲を歌っておもしろい、みたいなやつじゃ嫌だったんですよ。ちゃんと世界中の人が聴いている音楽ライブラリの一部にエントリーできるようなものでありたかった。更に言うと、英語で詞が書けるのかっていう実験でもあったんです。
ビルボードに戻ろう。Gotchはギターを置きピンヴォーカルとなり、「Independence Dance」が始まる。mabanuaの重いビートと井上、佐藤のギター・ソロの上でGotchは気持ち良さそうに奇妙な踊りを踊る。次曲は、Gotchのファルセットヴォイスから始まる1stアルバム収録の「Aspirin」。そして「Blackbird Sings at Night」へと続く。7曲を終えたところでメンバー紹介。その紹介の仕方は、ゆっくり時間をかけ、「頑固者」「メンヘラ」「江戸っ子」など愛のこもったGotchなりのメンバーの特徴をあげていく。このバンドの非常に象徴的な佇まいである。
MC後、Gotchが2ndアルバムの中で1番好きな曲だと言う「The Sun Is Not Down」から2ndアルバムのラストを飾る「Star Dust」へ。星の中を漂うように、ゆったりと「ちょっと豪華なご飯でも今夜どうかな?」と誘う。そして井上のバンジョーが炸裂する「Tokyo Bay」へ。Turntable Filmsでは、ソングライター&ギタリストだけではなくメイン・ボーカルも担当する井上に関して、Gotchは大きな信頼を置いているようだ。
彼は、このバンドのバンマスです。アルバムのアレンジも、自分だけじゃなくてギターの井上君だったり、キーボードのシモリョー(下村)がいろんなものを塗り足してくれました。そういうふたりのおかげもあって、いろいろと散らかっていたけれど、ギターやシンセのノイズだったりでアルバムに統一感が出たなと思っています。
11曲目は7inchにもなっている「Wonderland」。ヴォーカル/コーラスワークが非常に豊かな曲で、Turntable Filmsの井上、the chef cooks meの下村、YeYe、そしてGotchとヴォーカルが4人存在するこのバンドは色彩がとても豊かであることを再認識出来た。
そして、アルバムのタイトル・ソングでもあり、バンド名でもある「Good New Times」。この曲では、Gotchは「ボーダーラインはどこだろう 飛び越えてしまえよ」と歌う。全国に散らばるメンバー、4人ものヴォーカル、英詞、日本語詞、アメリカ人のプロデューサー、奇妙な踊りをするGotch... このバンド程ボーダーラインを飛び越えているバンドはそうそういない。しかもメンバー皆が、そのボーダーラインを飛び越えることを楽しんでいるようでさえある。MCでGotchは、「年をとってわかってきたことは、メンバーの悪い所を見つけるのではなく、みんなの良さを褒め合ったほうがよっぽど楽しいってこと。そして楽しみ方なんて自由だから、みんな自由に楽しんでください」と煽り、前回の東京のライヴでもラストを飾った「Baby, Don't Cry」(『Live in Tokyo』より)で、「一度きりの命さ だからこそ ほら 笑ってよ ベイビー」と歌い本編は終了する。
Gotchにとって、2014年5月16日の代官山UNITを皮切りにスタートした全10公演の全国ツアー「Can't Be Forever Young」、そしてそのファイナルである渋谷 CLUB QUATTROの2DAYS公演からのベストテイクをセレクトしたライブ盤『Live in Tokyo』をリリースしたことは本当に大きかったようで、実は今回のメンバーはその時と変わっていない。
『Good New Times』をバンドで録ろうって思ったのは、ライブ盤が良かったっていうのがあって。ああいうオーガニックな雰囲気の音楽が最近好きなんです。もちろんウィルコとか、もう少し古いものになるとしたらザ・バンドとか... そんな大好きなサウンドを、いかに自分たちなりに今っぽくやるかっていうイメージが出来てきたんですよね。
アンコールでステージに改めて登場したメンバー達は、ひたすらに思い思いのノイズを奏でる。そしてまさかのレディオヘッド「The National Anthem」のカヴァー。ステージの後ろのカーテンは開かれ、六本木の夜景が広がる。バンドの強度で押すロック・アレンジでリズム隊のパワーは一気に爆発し、ギター3本のノイズが六本木の夜空を埋め尽くした。
もう一度メンバーを丁寧に紹介したGotchは、最後の曲「A Girl in Love」で「ハロー世界!」と本当に楽しそうに歌った。ビルボード公演の最終日の最後のセット、緊張感が解き放たれたバンドも楽しそうだ。ボーダーラインをものともしないこのバンドの行く末は、世界一お金がかかっているかもしれない六本木の夜景よりも全然眩しい。「ハロー世界!」と笑いながら、彼らは世界に通用するバンド・アンサンブルを披露し、ノイズをかきならし続けるだろう。それは、筆者、そして来場者がボーダーラインを越える勇気を持つことができるライヴであったと言い切って間違いないだろう。
文 : 飯田仁一郎
写真 : 山川哲矢
過去作
Gotch / Can't Be Forever Young(24bit/48kHz)
後藤本人が、ヴォーカル・ギターを始め、ハーモニカ、シンセサイザー、グロッケンシュピール・ターンテーブル、パーカッション、プログラミングと、多岐に渡るインストルメンツを手がけ、ミックスはトータスの中心人物ジョン・マッケンタイア(ヨ・ラ・テンゴ、パステルズ他)、マスタリングをL.Aのスティーブン・マーカソンが担当。サポート・ミュージシャンには、ストレイテナーのホリエアツシを始め、the chef cooks meの下村亮介やTurntable Filmsの井上陽介、8ottoのTORAなどのミュージシャンが参加。
2015年の全国ツアー「Can't Be Forever Youngツアー」のファイナルである渋谷CLUB QUATTROの2DAYS公演からのベストテイクをセレクトしたライヴ盤。『Can't Be Forever Young』の全曲に加え、ニール・ヤングやウィルコのカバー曲などを含む全16曲。バンド編成での音楽性豊かなアレンジとサウンドが曲に新たな魅力を与え、ライヴの臨場感も丸ごと収録。OTOTOYではザ・サイン・マガジン・ドットコムとの取り組み"THE SIGN BOOK"として田中宗一郎によるライナーノーツがPDFにて付属。
2014年3月11日から後藤自身のサウンドクラウドにて1週間限定で発表された「Route 6」。弾語りライヴや全国ツアーで演奏されてきた楽曲のスタジオ録音バージョンをリリース。カップリングにはソロ・アルバム未収録曲「Baby, Don't Cry」のライヴ・バージョンを収録。(『Live In Tokyo』とは別バージョン)
LIVE INFORMATION
Gotch & The Good New Times 全国ツアー Tour 2016 「Good New Times」
2016年9月6日(火)@渋谷CLUB QUATTRO
2016年9月8日(木)@梅田CLUB QUATTRO
2016年9月13日(火)@仙台Rensa
2016年9月16日(金)@福岡DRUM LOGOS
2016年9月17日(土)@広島CLUB QUATTRO
2016年9月20日(火)@金沢EIGHT HALL
2016年9月21日(水)@名古屋CLUB QUATTRO
2016年9月23日(金)@札幌PENNY LANE24
2016年9月27日(火)@大阪BIG CAT
2016年9月29日(木)@渋谷TSUTAYA O-EAST
PROFILE
Gotch
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後藤正文。1976年静岡県生まれ。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのヴォーカル&ギター。新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。インディーズ・レーベル〈only in dreams〉主宰。
>>Gotch Official HP
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