"和楽器でクラシック"が成立する理由――AUN J クラシック・オーケストラ、クラシック楽曲に挑んだ新作をハイレゾ配信
和太鼓、三味線、箏、尺八、篠笛、鳴り物――通常一緒に演奏されることのない和楽器を再編成し独自の音楽性を追求するユニット、AUN J クラシック・オーケストラ。昨年春にリリースされた『八人の響き』をOTOTOYではDSD 2.8Mhz&5.6MHz、そして24bit/96kHz、24bit/48kHzのハイレゾと4形態で配信したところ、その豊かな音の響きと高音質ならではの再現率が評価されロング・ヒットとなりました。そんな彼らから再び24bit/48kHzのハイレゾで新作が到着です!! それがこちら「クラシック meets 和楽器」をテーマにした『Octet』。メンバー自らアレンジしたい曲を選び、8人全員で演奏。そこにはクラシックへの尊敬と、和楽器の可能性が詰まっています。
今回は尺八の石垣秀基と中棹三味線の尾上秀樹に取材を敢行。それぞれ「ラプソディ・イン・ブルー 」と「新世界より」をアレンジした彼らから和楽器でクラシックを演奏することのむずかしさはもちろん、それが何故"AUN J クラシック・オーケストラなら成立し得たのか"を訊くことができました。
AUN J クラシック・オーケストラ / Octet
【配信形態】
【左】WAV / ALAC / FLAC(24bit/48kHz)
【右】mp3
【配信価格】(各税込)
【左】単曲 324円 / アルバム 1944円
【右】単曲 250円 / アルバム 1500円
【Track List】
01. ボレロ / 02. トルコ行進曲 / 03. ラプソディ・イン・ブルー / 04. 悲愴 / 05. 新世界より / 06. カノン
INTERVIEW : 石垣秀基&尾上秀樹
自分のバンドとは違うファミリー感があるというか
――今回はなによりも”クラシック meets 和楽器”というテーマ性だと思うのですが、発案はどなたですか?
石垣秀基(以下、石垣) : 前々からクラシックをやろうという話は上がっていたんです。ユニット名に「クラシック」がついてるのに曲がないのもどうなんだ、と(笑)。ただ、技量としても状況としてもまだむずかしいかなという感じが続いてたのですが、6枚目をつくろうというタイミングで今ならできるんじゃないかと。
尾上秀樹(以下、尾上) : 最終的に決を切ったのはプロデューサーと(井上)良平さんですね。
石垣 : 決定したのは去年のアジア・ツアーのベトナムの夜に(笑)。「カノン」や「ボレロ」をやりはじめていて好評いただいてたのもあるんですが、プロデューサーからヨーロッパ・アメリカにもどんどん回っていきたいという話があって。それなら向こうの方々に馴染んでいる曲をやるのがいいんじゃないか、ということで次はクラシックを出します、と。
――「カノン」と「ボレロ」はアルバムの中でも初期につくられた曲なんですね。
尾上 : AUN J クラシック・オーケストラ以前から、AUNのふたりにはクラシック音楽への想いがあったようで、「カノン」はそのころにつくられた曲で。AUN J クラシック・オーケストラになってからも時々演奏していたなかで、次は「ちょっと石垣くん、「ボレロ」アレンジしてみてよ」ってなったんですね。
石垣 : 「ボレロ」はメロディーがわかりやすく、そのメロディーを繰り返すつくりなので、8人でも表現しやすいだろうと。
――なるほど。クラシックはまだむずかしいかな、という状況ではどこが特にネックだったんでしょうか?
尾上 : クラシックのイメージはそれぞれあると思うんですけど、”壮大なもの”というイメージがやはりありますよね。なぜ壮大になるかというと音の重なりだと思うんですけど、和楽器に低音楽器はそもそもないんですよね。お箏の17弦ががんばって低い音を出してくれてますが、厳密には、いわゆるベースの音ではなくて。
石垣 : 和楽器を8人で演奏するというスタイルが僕らの基本なので、何十人いるオーケストラが演奏する曲を僕らの編成でやるには単純にむずかしいんじゃないか、という部分が一番ですね。
――楽器を増やすことは考えなかったんですか?
石垣 : それをやりはじめるとAUN Jクラシックオーケストラではなくなってしまうんです。和楽器と言われるものはまだまだたくさんあると思うんですけれど、いまの8人は楽器はもちろんなんですけどキャラクターであったり、そういったところも含めてAUN Jクラシックオーケストラかなと思うので。
クラシックを再現するのではなく、自分たちのおいしいところにどう引っ張って来れるかだと気付いて
――なんだか、バンドみたいですね。
尾上 : こういったユニットなので、演奏のためには臨機応変に見られるかもしれないんですけど、実はそうなんです。
石垣 : それは演奏だけじゃなくて編曲においても大事なことで、お互いの楽器に対する理解度が高いから、自分以外の楽器がどうしたら活きるのかがわかるというか。この音階担当してよ、って投げても、その楽器にとってよくないものがずっと与えられていたら、音は出ていても音自体は良くない可能性がすごく高くて。でもこの人だったらこういう弾き方できるよね、とか、もうひと頑張りして、今だったらこれできるでしょ? みたいなのが、楽器にしても、人にしてもあって、そのメンバー内の仲間としての強さ、繋がりの強さが重要なのかなと思うんです。
尾上 : そうですね。出来上がる前は譜面をみた段階で、「嘘でしょ? これを三味線でやらすの?」 って思ったこともいっぱいありますけど(笑)。でももらった譜面を見て、音がある場所でも休みの場所でも、譜面のなかに愛情がある気がして。例えば「ラプソディ・イン・ブルー」で言うと、譜面ではただ16連符になってるだけなんですけど、実際には三味線の弾く、はじく、掬う、っていうのを高速で繰り返すんですね。そこは先に「最大テンポどのくらいまでいける?」って訊かれて、「ちょっと待ってね」って言って確かめる、みたいなことがあるんですけど、それは相手のことを考えるチームワークがあるからこそできることだと思ってて。そういうやりとりができることが自信なんです。
――なるほど。具体的に楽曲のアレンジについても伺っていきたいのですが、それぞれ今回担当された楽曲に対してどんなアプローチでつくったんでしょう。
尾上 : 今回、僕は「新世界より」を編曲したのですが、アレンジにもみんなの個性がすごく出ているなと思って。僕はもともとはバンドが好きなので、「新世界より」はとても旋律がかっこいいから、まるでバンドのような、なんだったらヘヴィメタルのようなアレンジにしようって思って編曲して。
石垣 : 僕は、「ラプソディ・イン・ブルー」の冒頭の有名なソロを尺八で吹きたい! というのが最初にあって、あとは野となれ山となれ、じゃないですけど(笑)。そこから広がってなにかできるだろうとは思ってたいんですがそれが過ちのはじまりで、その後長く苦しむことに…。でも、あるタイミングでクラシックを再現するのではなく、自分たちのおいしいところにどう引っ張って来れるかだと気付いて。どうやって再現できるかを考えたら絶対に劣ったものになってしまうので、元の楽器でやっていたことを、その楽器にはできないような奏法であったり、音の重ね方であったり、音の録り方でつくったほうがいいんだな、と。例えば音の厚みもいっそなくてよくて。持続音のある楽器は、このグループだと尺八と篠笛だけなんです。和音のハ−モニーをきれいに出すためにはふたつは分けなければ、と思い込んでたのですが、決してその必要性はないんだなってどこかでわかって。低音がないという話もありましたけど、太鼓がどーんと鳴った音って、打楽器とはちょっとちがうと思うんですよね。太鼓自体の性質は、打点じゃなくてそのあとの「ドォーーン」というサステインで。そういうところで厚みはカヴァーしていけるかなって。
尾上 : 和太鼓は他の打楽器とは別だよね。「新世界より」でも、太鼓を基本的に入れることで余韻が残るので、その部分が低音部を埋めてくれていて。昔、良平さんが外国の方に説明していた言葉でいいなと思ったのが、ロシアに行ったときに音楽は好きなんだけども生で聴くと耳に音が刺さるから好きじゃないっておばあさんがいて、その人が「和太鼓とっても素敵だったわ、音を聴いても全然嫌じゃなかった」って言ったときに良平さんが「和太鼓は耳じゃなくて胸に響くんです」って返してて、かっこいいなって(笑)。
尾上 : そうです。僕はロジックを使っていて。尺八の代わりにピッコロとフルートをいれたり、太鼓の代わりにはドラムを入れて。
石垣 : またそれが、音がすごく違うというかチープというか、この音が鳴るんだろうなと思ってるのとは違う音が出てて、デモをつくってる時点で心が折れそうになるんですよね、本当にこのアレンジでいいんだろうか!? って(笑)。実際に演奏したときにこの安っぽさが残っちゃったらどうしよう…… みたいな。
尾上 : 作曲ソフトで和楽器の楽曲のデモをつくるときは己との闘いなんで(笑)。頭のなかでは太鼓ドーン! 篠笛ファーン! 尺八ファーン! なのに、ぺろぺろぺろ〜って情けない音が出てくるので「嘘でしょ?」みたいな。
――AUN J以外ではありえない悩みですね(笑)。曲ごとに編曲した方がコンダクターとなって、その人の世界を表現していくって感じなんですね。
石垣 : 意見交換はもちろんありますが、基本的な方向は編曲した人が決めますね。
尾上 : 最初のころは公平さんが色々考えてくれていたので、みんなも(公平さんは)先輩だし、最初から忌憚ない意見を交わせてたかというとそうでもなくて。自分の楽器はわかっても他の楽器はわからないということもあって、ちょっと遠慮があったと思うんですけど、いまは色んなことを白熱して話せる仲になったのでそれで問題がなくなったんですよね。
ただ日本の楽器だから、とかじゃない評価をもらえるところまではきているのかなと、自信になりつつあります
――なるほど。おふたりにインタヴューをするのは初めてなので、おふたりの初期のころについても少し伺いたいのですが、AUN J クラシック・オーケストラとして、伝統芸能に納まらず、ポップ・ミュージック界に打ち出すというアイデアにはどう思いましたか?
尾上 : 普段は同じ舞台に立つことがない人と演奏する――例えば一言で三味線と言っても種類があって、僕は中棹なんですけど中棹の人と津軽三味線の人が一緒の舞台に立つことなんてめったにないので、どうなるんだろうという期待と不安があって。読めなかったというのが正直なところですね。
石垣 : AUN J クラシック・オーケストラはもとはといえば『和楽器でジブリ!!』という1枚目のアルバムをつくるために集まった人たちなんですね。そこから2枚目も作ろうよってなったときに、「はて僕たちはAUN J クラシック・オーケストラと名乗ってやっているけども、いったい何者なんだろう」というのが、『桜 –SAKURA-』の時期ごろにはあって。でも将来性というか、本当に素晴らしいメンバーが集まっていると思っていたし、僕自身はまだ若かったのでそこそこの大人数で演奏したりアルバムをつくることが楽しかったんですけど。その次のアルバム、『道 〜Road〜 J Classic 1』のころには、この8人でAUN J クラシック・オーケストラであろうと、この8人で演奏できるものをお互いにつくっていこうって話になってお互いに言いやすくなりましたね。
尾上 : あらためて振り返ると『桜 –SAKURA-』はまだ自分たちで編曲してるものは少ないですし、『道 〜Road〜 J Classic 1』ではじめてオリジナル曲があるのですが、このときは全員編成じゃなくていいって言われていて、僕もお箏と笛が入ってない曲を作ったりしていて。でも『美しき日本の響き』ではテーマが「なるべく8人で」となり、5枚目の『八人の響き〜 J Classic 2』ではひとり1曲作曲。しかもテーマが「必ず8人全員が演奏してる」ってものになって、ここで一段落したんですよね。そういったステップを踏んでの6枚目なので、自分で言っちゃうのもあれなんですけど良いものができたんじゃないかなと(笑)。
――アルバム制作の上でもどんどんステップアップしているわけですが、演奏活動としては世界にも進出していて。それはやはり初期には想像していませんでしたよね?
尾上 : そうですね。ヨーロッパのある地域では日本の文化がすごく人気があるって話は聞いてましたが、正直ここまでだとは思ってなかったです。
石垣 : 今年ははじめてアメリカに行って、アメリカはエンターテイメントの国だと思うので、おもしろくなかったらちらっと見て終わりだと思うんですよね。それこそありがたいことにボストン、レッドソックスの本拠地のフェンウェイ・パークでアメリカの国家を8人で演奏したりして、そのときの盛り上がりであったりとか、実際に向こうのイベントで自分たちのオリジナル曲を演奏したときのお客さんの反応を見て、ただ日本の楽器だから、とかじゃない評価をもらえるところまではきているのかなと、自信になりつつあります。
尾上 : 実は安心したことに、洋服で演奏したのにちゃんと拍手喝采があったってことで。僕たち、AUN Jクラシックオーケストラに入る前はHIDE+HIDEというふたりのユニットをやっていて、そのころにモンゴルに行って袴で演奏したんですね。すごく盛り上がったんですけど、袴を脱いだら誰も振り返らなくて、みんな袴を見ていたんだなと思って(笑)。でも今回は、ヨーロッパ公演の際にテレビ取材が入ってくれたこともあって、終演後のお客さんのインタヴューを見ることができたんですけど、「音色がよかったわ」「とても感動した」ってコメントをいただけたりして。そのなかで、今回のアルバムは、こちらから向こうの文化への歩み寄りだと思っているんですけど、どういった反応がもらえるのかなと思ってます。
――今回が海外に向けては特に勝負のときなんですね。最後に国内での活動もなにか考えていることがあれば教えてください。
尾上 : これは完全に僕個人の考えなんですけど、いまはAUNさんだけで「桜プロジェクト」として全国の小学校を回って和楽器の演奏と桜の植樹を行うワークショップをやっているんですね。それと同じように全国の小中学校、もちろん保育園でも高校でもいいのですが、学生さんの前でAUN Jクラシックオーケストラとして演奏できたらなと思ってます。やっぱり和楽器がかっこいいと知ってほしいんですよね。高校生がバンドやる? それとも三味線やる? って迷ってほしくて。かっこいい例を見せなければダメだと思うので、三味線でこんなぐるぐるしたりとか、尺八で飛んだり跳ねたりもするんだよってことを見てもらいたいなと(笑)。小さいころに見て、その人の心に強く残ってくれたらなと思うんです。
石垣 : もちろん日本でも様々な活動をしていきたいと思っているんですけど、日本で僕たちを知ってもらうためには、実は日本の活動だけではとてもむずかしいと思っていて。日本には評価されてるものじゃないと、自分たちがどう評価していいかわからない人が多いと思うんですね。なので海外での活動が逆輸入みたいなかたちで日本でも気付いてもらうきっかけになることなのかなと思ってもいて。それで国内で演奏する際には観に来てもらって、良いと思ってもらえれば次は海外に伝わっていくと思うし、国内、海外での活動、と考えるよりもどちらにも訴求力が出るようにしていきたいなと思いますね。
インタヴュー : 飯田仁一郎
過去作
オススメ!!
AUN J クラシック・オーケストラ / 八人の響き
※左から、5.6MHz DSD+mp3、2.8MHz DSD+mp3、24bit/96kHz、24bit/48kHz
AUN J クラシック・オーケストラとして5枚目となるこのアルバムは、メンバー全員が1曲ずつ作曲した計8曲に、サンクス・トラック1曲を加えた9曲編成となっており、納得するまで何度もメンバー全員で話し合いながら、ひとつの形に作り上げた、まさに8人の魂がこもった作品。
PROFILE
AUN J クラシック・オーケストラ
和太鼓 / 三味線 : 井上良平
和太鼓 / 三味線 / 篠笛 : 井上公平
鳴り物 : HIDE
中棹三味線 : 尾上秀樹
尺八 : 石垣秀基
篠笛 : 山田路子
箏 : 市川慎
箏 : 山野安珠美
『和楽器を、もっとわかりやすく、かっこよく、シンプルに!』
それが、AUN J クラシック・オーケストラ。和太鼓、三味線、箏、尺八、篠笛、鳴り物。通常一緒に演奏されることのない和楽器を再編成し独自の音楽性を追求する、2008年に結成された和楽器のみのユニット。各楽器の第一線で活躍する邦楽家8人が集結し、一級の古典技術と新世代の感性を兼ね備えた、聴きやすく誰にでも楽しめる楽曲は、他の和楽器グループにはない独自の世界観を作り上げている。
『音楽には、国境はないが国籍はある』
伝統と確信を高いレベルで両立させたクオリティとパフォーマンス性は、海外においても高い評価を得ており、世界初のフランス、モン=サン・ミッシェル内ライヴ演奏を皮切りに、世界遺産を舞台としたライヴ・ツアーを毎年開催。2013年には「ONE ASIA」をテーマに、アンコールワットにて、ASEAN4カ国の民族楽器アーティストとのジョイント・コンサートを成功させる。国内においても伊勢神宮や薬師寺など日本を代表する名所にて公演多数。日本文化の普遍性や多様性を、国境を越えて発信することで、世界が音楽で繋がるための挑戦を続けている。
>>AUN J クラシック・オーケストラ Official HP