MIX CDをリリースすれば飛ぶように売れるし、週末の面白いパーティーで名前を見ないことはない大人気のDJ。idea of a jokeの谷口や森川、KIRIHITOの竹久等が所属するスーパー・バンド、younGSoundsのメンバー。そして今やロック・パーティでは、1晩に2、3回かかるのが当たり前になった七尾旅人との共作楽曲「Rollin' Rollin' 」では、切なげなラップを聴かせてくれる。やけのはらは、名前の後ろに( )をつけて、自分の所属をかかげない。レギュラーDJのHEY MR.MELODYや、younGSoundsなど、かかげる名前はいっぱいあるのに。その事を尋ねると「自分は自分だから」との返答が返ってきた。才能に溢れた彼だからこその、孤独で重みのある一言。その強さ、そしてその深さを、今回のインタビューで十分に感じて欲しい。ちなみに、キミドリのラッパーでありDJ OF DJ クボタタケシだって、後ろに( )を付けることはない。
インタビュー&文 : JJ(Limited Express(has gone?))
Rollin' Rollin' まわりつづけるよ
ー今作「Rollin' Rollin'」は、どういうきっかけで?
やけのはら(以下Y) : ROSE RECORDSのコンピ『Perfect!』が出た時期に、旅人君(七尾旅人)と対談する機会があったり、同学年でお互い今年30歳だったのもあって仲良くなったんです。で、ROSE RECORDSのリリース・パーティで、DJをした時に旅人君が参加してくれて。その場面を見ていたPUBLIC/IMAGEの人から声をかけてもらって、エイベックスのコンピレーション・アルバム『PUBLIC/IMAGE.SOUNDS』に参加することになったんです。そのコンピがきっかけで生まれたのが「Rollin' Rollin'」。お互いにとても気に入っていたし、PVも作りたかったので、レーベルが同じというのもあったし、お互いのソロ作の前に、今度はシングルで出そうと思ったんです。
ーリミキサー人は、どのようにして選んだの?
Y : 基本的には2人で相談して決めました。旅人君は自分の曲をリミックスしてもらう機会が今までになかったので、せっかくだから沢山の人にやって欲しいって言ってて。2人とも川辺ヒロシさんは知り合いだったし、Cherryboy FunctionやSKYFISHは僕はもともと知り合いで旅人君も興味を持っていたので、今回のようなラインナップにしました。実は、折角なら同学年の人にお願いしようという話が出ていて、某人気プロデューサーにオファーしたんですが、返事来なかったです(笑)。
ー「Rollin' Rollin'」の制作過程を教えてください。
Y : まず、旅人君が大まかなデモ曲を作ってきてくれました。僕は、全然出来ていない曲の断片をサンプラーに詰め込んで持っていったんです。で、最初に旅人君のデモを聴かせてもらったら、「ローリン、ローリン」のメロディーがめちゃくちゃ良かったし、曲としてちゃんと出来ていたんです。あ〜先に発表しなくて良かったって(笑)。それから僕の歌詞の部分をその場で書いて。で、持っていったリズム・マシンをならしながら、旅人君がギターを弾いて、ドリアン君がエレピを弾いて、あーだこーだと決めていったんです。最終のまとめは、ドリアン君にお任せしました。
ー初めて聴いた時に、もの凄いキャッチーな曲だなと思いました。
Y : ありがとうございます。でも、別にシングルっぽい曲を作ろうと思っていたわけでもないんです。いつもDJしたりyounGSoundsでバンド界隈で活動してても、旅人君のように歌う人との共演は少ないので、歌のうまい人がきっちりメロディーを作って歌うとこんなにポップになるんだってとても新鮮でした。
やけのはらって何者?
ーDJを始めたのと曲づくりを始めたのってどちらが先なの?
Y : 曲作りの方が全然先ですよ。それこそ15歳くらいから。ずっと打ちこみやラップで曲をつくって、バンドもやったりして。サンプリングばっかりしていたわけでもないので、トラック・メイカーって言い方はなんか違和感がありますね。世代的にはクラブ世代なので、DJ感覚はずっと持っていたんだと思いますけど、DJをやりだしたのは20歳を過ぎてからです。
ーバンドの時は何をやっていたの?
Y : ボーカルです。ラップみたいな感じですけど。ROMZのタカラダ君(タカラダミチノブ)が地元の同級生でギター担当で、高校生の時に一緒にやっていました。
ーどんな音楽を?
Y : えーと、上手く一言で言えないんですけど、みんなが聴いたことのない音楽を作ろうと思っていたのですが、若くて力もなかったので、結局よくわからない音楽でしたね(笑) 。下北沢の屋根裏とかに出たりしましたよ。高校生の同級生でSPECIAL OTHERSというバンドの人たちがいて、一緒にイベント企画したりしてました。最初がバンドだったので、DJを始めた後にyounGSoundsを始めることも自分の中では自然だったんですよ。UG MANとかも好きだったし、周りにバンドやってる友達もいたので、DJ以外のことをやることに抵抗はまったくなかったですね。
ーDJ、バンド、コンポーザー・・・ やけ君って何者なの(笑)。
Y : 凄い質問ですね(笑)。音の感覚は、クラブ系の人と思いますよ。でも、面白ければ何でもやりたい。今はひき語りとかやりたいと思っています。DJは踊らせるし、バンドはうるさいし、さらに又違うアウト・プットがあれば面白いかなって。まあ思い付きですけど。
ーギター弾けるの?
Y : いや、全然。これからです。でもいろいろやっていると飽きないので、全部をフレッシュにとらえることが出来て良いというのはあります。音楽の聴き方も結構そうで、性格的にはまるとどっぷりいく方なんですけど、例えばレゲエ好きになっても挨拶が「ヤーマン!」になってドレッドになるみたいなことはないんです。平行してバンドものも聴くし、クラブものも聴き続けていますから、ファッションとかライフ・スタイルとか、そのジャンルの全てに染まるみたいな事にはあんまりならなくて。
ーバンドをやっていた高校生の頃は、どんな音楽を聴いていたの?
Y : ヒップホップやテクノが多かったかな。でも雑多に聴いてましたね。バンドものならボアダムスやSOBとか、God Is My Co-Pilotとかジャンクものも好きだったし。フォーク・インプロージョンが参加しているKIDSのサントラが凄い好きでした。中学生だった93〜94年くらいから、熱心に音楽を聴くようになりましたね。
ーバンド・イベントやDJイベント等様々なタイプのイベントを渡り歩くのは、やけ君の大きな特徴だよね?
Y : でも、それぞれ発想が全然違うんですよ。バンド・イベントの合間とかだと空気清浄係というか、バンドとバンドの雰囲気を繋ぐ役目。ただ、バンド・イベント中にステージでライブ枠でDJしてくださいっていうのは、きついのでさすがに断りますけどね。だって、セッティングして「はい、どうぞ」ってわけにはいかないでしょ。バンド、DJ、バンドと続いていくBOROFESTAやeeteeのようなイベントなら、音も止まず流れもあるので問題はないんですけど。
ー同じDJをするにしても、イベントによって役割を変化させているの?
Y : そうですね。バンドとDJの融合イベントだと、どうしてもDJが地味になるから喋って盛り上げる。DJだけのイベントなら、喋んないで踊らせます。でも、どっちでも楽しいですよ。
ーDJカルチャーとバンド・カルチャーって交わるものなのでしょうか?
Y : うーん…、根本的に無理して交わる必要があるとは、さほど思っていないですね。バンド・イベントはバンド・イベントで楽しいし、クラブ・イベントはクラブ・イベントで楽しい。つまり、エネルギーの出かたが違うんです。バンドの方が凝縮されている分強いエネルギーが出たりするし。逆にDJのほうは、長いタームで色々な雰囲気を作れたり。両方楽しんでくれたらそれにこした事はないですけど。
ーなるほど。BOROFESTAやeeteeは、DJイベントの感覚に近いのかも。長いタームで、バンドでもDJでも気に入ったものがあれば踊ってよと。RAW LIFEとかは、どうでした?
Y : ブース毎で、DJブースやバンド・ブースに分かれていましたね。あとRAW LIFEの方が、ダンスよりだったかも。DJメインで、バンドが足されている感じ。でもどのイベントもそれぞれ個性があって、それぞれ面白いですけどね。
やけのはらの生き方
ー話は変わりますが、やけ君ってどうやって生きているの?
Y : えーと…、DJ活動を軸とした音楽的多角経営です。DJ、MIX自主リリース、文筆、あと何かあったかな…、音源のリミックス、企業やテレビのジングル作成とかかなぁ。MIX CD等を自主で出すのが、お金的には一番大きいかも。自主リリースで物販を売ると、間がゼロなのでそのまま入ってくるんです。だから僕程物販を熱心にするDJもいないと思いますよ。
ークラブで物販って売りにくいよね?
Y : 思いっきりクラブのところでは、さすがにしないですけどね。でもバンドが出るようなイベントとか、大きめのイベントだと、お客さんが結構物販に興味持ってくれるから、一晩で数万になったりするんですよ。ジングル系は額はいいですけど、コンスタントに入ってくる仕事ではないので、やっぱり主軸はDJのギャラと物販かなぁ。
ーいろいろなことをすると言う意味では、音楽を創るスタンスとさほど変わりませんね。
Y : 今は嫌なことを求められることもないし、裏方みたいな作業も嫌いじゃないんですしね。もちろん自分で作ったものを自分で売るのにも抵抗はないです。抵抗しててもお金にならなかったら仕方がないでしょ。背に腹は代えられませんよ。
ーイルリメやECDもちゃんと自分で物販をしますよね。
Y : そうですよね。今更スタッフとか入れてもどうしてよいか分からないし。younGSoundsをやって思ったのは、バンドの方が人数多いしお金は大変だなって。正直、毎週バンドが入っちゃうと金銭的には困ります(笑)。
ーちゃんと現実と隣り合わせで音楽活動をしていますね。
Y : 音楽で固定給をもらえるっていう立場になったことはないですし、音楽をしながら生きるためにも、なんとかお金を効率よく生み出せる方法が必要なだけですよ。
ーステージでもステージを降りても、普段通りというか、余計なかっこをつけてないね。
Y : 性格じゃないですか。恥ずかしがり屋なので、例えば昔のロックンロール的なかっこの付け方は出来ないですね。マネージメント的なことも自分でやってますからね。忙しくてやって欲しいと思うことはあっても、それをやることを嫌と思ったことはないです。間に人が入るよりかはラクだし、めんどくさくないですから。
アルバムが楽しみ!
ーやけさん程振り幅の広いミュージシャンを知りません。
Y : それはそうかもしれません。自分でも自分みたいな活動をしている人って知らないですね。DJの人がバンドしててもクラブ・ミュージックぽい音楽だったりしますし。ってそういうのがダメとか自分が良いってわけでもなく、自分でもこれで良いのかなって思ったりもしますけど。バンドの僕を見た人で、ダンス・ミュージックのDJをしていることを知らない人もいたりするし、僕のことをDJと思っている人は、今作を聴いてやけのはらってラップするんだって思う人もいるだろうし。
ー共通しているのは、どのパフォーマンスでも人を楽しますよね。
Y : 義務感かもしれないですね(笑)。悪い意味じゃないですよ。だってお金もらってやっているんですから、どんなベクトルだとしても最終的に楽しんでもらわないと。僕は、「俺が俺が」と自己表現をしようってタイプじゃあんまりないので、イベントの空気を作るとか、お客さんを楽しますほうがあっているんです。無理に伝えたいことはないですからねぇ。
ー最後に、次回のアルバムはどんな風になりそうですか?
Y : 音は、僕の好みを反映したヒップホップだったりテクノ的なもの。ほとんど全曲ラップがのっていて、若者の生活を反映したものというか、若者のうたですね。でもスロー・ペースというか歌詞を書こうというモードにあまりならないというか、年に2曲ぐらいしか形にならないんですよ。半年ぐらい考えていた思いとかが1曲にまとまっちゃったりするんです。だから、足掛け5年くらいかかってますよ。
ーいつ頃完成しそう?
Y : 一応、年内ということで(笑)。シングルが一段落ついたので、アルバム制作に取りかかろうかと。でもイベントへの出演はあんまり減らすつもりはなくて。一度減らしてみたりしたんですけど、週末まで家にいたら、煮詰まってしまうし、結局あんまり上手くいかなくて。ここ数年で、平日にリミックス等の制作をして、週末はDJ等をするってサイクルがちゃんと出来ましたからね。
フロアでまわりつづける一枚
Rollin' Rollin' / 七尾旅人×やけのはら
新しいポップ・ミュージックを世間に叩き付け続けるシンガー・ソングライター七尾旅人と、DJ として名前を見ないことが無い程多数のパーティーに出演し、楽曲参加や番組の楽曲制作も手掛けるHIPHOP アーティスト、やけのはら。話題の二人のコラボレーション・ナンバーは、うたとグルーヴィーなラップが凄まじくキャッチーな、アーバン・ヒップホップ・ソウル。一瞬にしてフロアを沸かせてしまう、今世紀最大のアンセムです。
SCHEDULE
やけのはら
- 10月3日(土)@江ノ島OPPA-LA
- 10月4日(日)@中目黒solfa
- 10月9日(金)@横浜MOVE
- 10月11日(日)@渋谷womb
- 10月16日(金)@京都club METRO
- 10月17日(土)@難波ROCKETS+SAOMAI
- 10月20日(火)@新代田FEVER ※younGSounds
- 11月14日(土)@柏ALIVE
PROFILE
やけのはら
2003 年エレクトロ・ヒップホップ・ユニット、アルファベッツでアルバム『なれのはてな』リリース。その後、イルリメ、STRUGGLE FOR PRIDE、サイプレス上野とロベルト吉野、BUSHMINDや『ピューと吹く!ジャガー』ドラマCD等、50作を超える作品に参加。DJとしても、『RAW LIFE』、『SENSE OF WONDER』や『ボロフェスタ』などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティーに出演。近年では、バンド"younGSounds”にサンプラー〜ボーカルで参加。また、MIX CDも多数発表している。
- やけのはら web : http://yakenohara.blog73.fc2.com/