新時代ポップスのスタンダードへの光芒──“遅れてきた5人”、踊ってばかりの国が『光の中に』リリース
昨年4月、3年ぶりのフル・アルバム『君のために生きていくね』をリリースした踊ってばかりの国から、早くも新アルバム『光の中に』が届いた。そしてOTOTOYではリリースと同タイミングで先行配信が開始した。自主レーベル〈FIVELATER〉を立ち上げ、バンド自らの力で歩みをはじめた彼ら。完全に5人で作り上げた極上のポップ・アルバムとなった今作を掘り下げるべく、前回同様メンバー5人にインタヴューを行った。新元号のはじまりとともに世に放たれたこの傑作をお聴き逃しなく。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文&構成 : 鈴木雄希
写真 : 作永裕範
自主レーベルからの第1弾リリース、先行配信開始
最終的には松本隆さんの朗読と2マンしたい
──先日の〈SYNCHRONICITY'19〉、みなさんがすごく気持ちよさそうにライヴをしている姿が印象的でした。
下津光史(以下、下津 / Vo&Gt) : この5人の感じも固まってきて、「これが踊ってばかりの国だよ!」って感じができていて。バンドのアンサンブルがしっかりしてくると歌が自由になるから、そういう気持ち良さがあるのかもしれないですね。
──バンドの状態はどうですか?
下津 : すこぶる調子がいいですね。楽しいです。
──どんなことが楽しい?
丸山康太(以下、丸山 / Gt) : ライヴをしているときがいちばん楽しいですね。
坂本タイキ(以下、坂本 / Dr) : ライヴもスタジオも飲んでる時もずっと。
──ここ最近自主イベントをやったり、ライヴに力をいれていた印象があって。
下津 : “踊って”は生産速度が速いので、代謝を早くしてあげないといけない。〈大和言葉〉という自主イベントをやっているんですけど、これまで鎮くん(鎮座DOPENESS)、おとぎ話、jan and naomi、Tempalayと一緒にやって。共通しているのは、日本語で歌っているということ。全バンドがすごい美しいんですよね。Tempalayとかは、(小原)綾斗の言葉選びがすごいなと。
──タイトル通り、“日本語”がキーワードなんだ。
下津 : そう。最終的には松本隆さんの朗読と2マンしたいです。
谷山竜志(以下、谷山 / Ba) : (笑)。しかも朗読なんや。
下津 : でも、そういう美しいバンドと知り合いたくて自主イベントをやっているというのはありますね。そういうのもいままで興味なくて、「自分らが楽しかったらいいわ」みたいな感じだったんですけど、バンド自体が対外的になってきた気がしますね。それはフリーになったことも大きいのかもしれないですけど。
──今作は自主レーベル〈FIVELATER〉からのリリースとなりますが、レーベルを立ち上げたのはなぜ?
谷山 : マネージャーにめちゃめちゃ助けてもらっていたんですけど、そのマネージャーがやめるってなって。おれらも「そのマネージャーがいないなら……」っていう気持ちもあったし、彼もマネージャーをやめたことで俺らが怠慢になってレーベルと揉めることを気にしていたんですよ。だったらおれらも抜けた方が話がわかりやすいなってことになって、事務所を抜けてフリーになった感じですね。
下津 : アシュラくん(マネージャー)は6人目のメンバーみたいな感じだったので。あとはやっぱり自分たちで自由に活動をしたかったというのも大きい。
谷山 : 1回、好きに音楽をやってみたかった。
──相当好きにやっていた気もするけどね(笑)。
下津 : まぁそうなんですけど(笑)。
谷山 : GEZANとかを見ていて羨ましかったってのもあって。
下津 : GEZANは普通にしんどいこともやっているし、やっぱりすごいなって思うっすね。そこは贔屓でもなんでもなくて。いまフリーになってからも、おれらのことを助けてくれる人もいっぱいいて。本当に助けられてばっかりですね。
──この〈FIVELATER〉というレーベル名はどういう意味?
下津 : 居酒屋で飲んでるときに「おれらってめっちゃ時代遅れじゃない?」ってなって、そういう意味で〈FIVELATER〉です(笑)。
谷山 : 遅れてる5人(笑)。
各方面の天才と各方面のクズたちが集まっている
──なるほどね(笑)。今回、このメンバーになって2作目のアルバムになりますが、どんな曲が収録されているんでしょうか。
下津 : 前作(『君のために生きていくね』)は、前メンバーだった林(宏敏)くんがつくったものもいくつか残っていたんですが、今回は、「トルコブルー」以外はこの5人で最初からアレンジをした曲になっています。
──テーマがあって、それに沿って曲を作っていった感じ?
下津 : 徒然なるままに書いていった中で、5人に投げた時に、自然とフレーズが出てきたり、リズムが付いてきたり、全員が食いつける曲を入れていった感じですね。
──なるほど。もともとどれくらい曲の候補はあったんですか?
下津 : 今回は最初から13曲を決めてスタジオに入りましたね。でもまだ溢れている曲があって(笑)。
谷山 : いますぐ出せる曲がいくつかあるんですよね。3年間のブランクのせいで曲がめちゃくちゃいっぱいあった状態だったから。
──ボツになる曲もある?
下津 : ありますね、そういう曲は僕のソロに回します。アコギと詞とコードで曲をつくるので、俺のなかの引き出しにも限界があって。アコギと歌だけだったら成立しているんだけど、バンドでやってみたときに合わへんことがあって。そうなると、似合わない服を着せても曲がかわいそうだな、と。
谷山 : まぁ一度バンドでやってみないとわからないしね。
──下津くんから曲が上がってきたときに、どういうアレンジにしようみたいなことは考えているんですか?
丸山 : 自分が聴きたい音楽にしたいと思って。スタジオとかリハーサルの様子をボイスメモで録音しているんです。そのときに出てきたフレーズですごいと思ったもの、弾いていて楽しいもの、そしてあとで聴いたときにも楽しいギターを意識していて。曲にハマるかハマらないかの重要度はそこまで高くないというか。
──下津くんから届いた楽曲に、自分のギターを当てていって、そのなかでいちばんいいものを選出していくということですよね。
丸山 : はい。それは個人的な快楽が周りに伝わればいいなっていうところから。客観的に見て曲と調和していることも大事だけど、まず自分が満足していていい音を出せているという自覚がないと不安だから。
──同じギターの大久保さんはいかがでしょうか?
大久保仁(以下、大久保 / Gt) : 持ってきた楽曲の第一印象の雰囲気が壊れないようにしつつ、そのなかで自分の感情をうまく出せるギターを弾くようにしてます。
──坂本さんのドラムは?
坂本 : 歌い回しとかギターの感じとかから、しもっちゃん(下津)の欲しているノリを探して。あとは“なにかっぽく”ならないように実験性を出すように。しもっちゃんのリクエストから自分の中でも新しいビートが生まれることもあるので。
──下津くんはビートの注文もするんですか?
下津 : 曲をつくったときの譜割りが崩れると、その曲ではなくなる不安があるから、その感じがなくならないようにくらいの注文はしますね。でも基本的にはメンバーに投げっぱなしかな。
谷山 : 僕はみんなから来たものに乗っかってるだけだから、なにも考えずにいちばん楽しいことをやってるだけですね(笑)。
──前作をリリースするまでに3年間空いたじゃないですか。この3、4年でいちばん変わったことってなんですか?
下津 : 僕が今年30歳になったんですね。
──そっか、まだ30歳だったのか。
下津 : そうです、もうジジイです(笑)。その3年って結構いろいろあるじゃないですか。っていっても今回「なんにも変わってなかったな、こいつ」ってなったんですけど(笑)。でもたしかに変わっていて。それは全員に言えることなんですよ。
──確実に音の雰囲気も変わってるよね。
下津 : いまのバンド・メンバーになって2年強で、メンバーそれぞれが自分の立ち位置や自分の能力がわかったんじゃないですかね。全員波動拳が打てたら波動拳大会になっちゃうけど、やっぱり昇竜拳があってもいいし、ヨガフレイムがあってもいいし。真ん中で歌っていると、それはギターのやりとりとかでも感じることで。3年経つと、こいつ(谷山)でさえベースうまくなってるんで(笑)。
谷山 : 時間ってすごいなぁ。
下津 : うん、すごい。個人的に、メロディーとコードがしっかりしていて、それだけで成立しているグッド・ソングって、周りのアレンジがグチャグチャでも、それはそれでいいものになるっていう持論があって。だからそこは心がけていますね。
──みんなが自由に勝手にやった良さがある。それは先ほどお聞きした感じを見てもバンド・メンバー全員が思っていることなのかな、と。
下津 : 各方面の天才と各方面のクズたちが集まっているから、誰かができないことは誰かがやるし。そういうパワー・バランスが完璧にできてきた。「しもっちゃんがああなったら、こいつはこう動くだろうな」みたいなことがわかってきたというか。
もう人間と繋がれるのは音楽しかない
──今作はかなりバンド感を意識したサウンドだなと思ったんだけど、「一発録りで進めることが大事」みたいなことはあった?
下津 : クリックはなるべく聴かないようにしてるっすね。いままでは“おんなじタイミングで弾くおんなじ雰囲気”を大事にしたくてダビングも極力ないほうがいいと思っていたんですよ。だけど今回「weekender」とか、ギターを重ねないといけないとなった曲があって。そのときにはじめてダビングをしていいこともあるんだって思った。
──今作に落とし込みたかった音の雰囲気はどんなところですか?
下津 : 周りのバンドがやっていない音がいいというのはやっぱりあって。おしゃれになりきれなくしたというか、いい意味で泥臭くあるのが“踊って”の良さだと思うんですよ。今回はサビをすごく考えて。サビの部分で日本人のいい部分が出て、なおかつAメロ、Bメロで意味が繋がっている、みたいな繊細な曲作りをしていったんです。そのアレンジがスッといった曲がはいっていて。
──たとえば“この曲”とあげるとしたら?
下津 : 「光の中に」は、おれのど真ん中にあるジャンルの曲だから、それをやるのは簡単なんですけど、「heaven」とか「ナイトライダー」、「帰るからね」は、メンバーの力を借りないとできない曲ですね。ちょっとコンセプチュアルな曲なんですけど、上着でおしゃれをするのではなくて、ちゃんと生身でその音を鳴らすことができた。たとえば、シューゲイザーなんだけどそれ以上に、ちゃんと“踊って”らしさがあるものができたみたいな実感はあるっす。
──いまのメンバーじゃないと体現できなかった?
下津 : できなかった。影響が見えそうで見えへんアルバムだなと思います。
──それは僕もめちゃくちゃ感じたんですよ。こういう仕事をしていると、「踊ってばかりの国はこういうバンドだ!」って言わないといけない機会があって。でも今作にはサイケデリック、シューゲイザー、ジャムのセッション感…… みたいなものが全部あって、こういうバンドだよって言いにくいなと。
下津 : 雑多ですよね。
──それはさっき下津くんが言っていた“メロディー”というのが大きいのかもしれない。メロディーは芯が通っているけど、それ以外のジャンルは、バンドの中に山ほどあって、それがおもしろい。自分たちのなかで「今回はこのジャンルの要素を強くした」みたいなときもあるんですか?
下津 : 曲単位ではあるんですけど、アルバムを通してそういうことをしたことがなくて。俺は「ヘビメタ・バンド」とか「シューゲイザー・バンド」みたいな感じで音楽ができなくて。まぁ憧れるんですけどね(笑)。あんまりそこにプライドがなくて、みんなを困らせてしまっているかもしれない。
──確実に要素が広がっている感じがします。
下津 : ルーツが見えにくくなったかもしれない。前はもっとわかりやすかったですもんね。
谷山 : メンバーの入れ替わりが多かったのも大きいかもしれないっすね。前の曲に関しては、前のメンバーがアレンジした要素を残しつつ、いまのメンバーの良いところもまた足していく。しもっちゃんもそれでいろんな方法論を吸収していくからアイデアも増えるという感じなんじゃないですかね。
──野暮な質問になっちゃうけど、今作はどんなアルバムになったと思いますか?
下津 : いやもう、「歴史」ですよ。こういうことがスタンダードになってほしい。やっぱりそう思ってバンドをやってるっすよ。もう人間と繋がれるのは音楽しかないなと思うから、僕は。
谷山 : あはははは!
下津 : そう思えば思うほど、曲がすごい人肌になっていって。人肌の曲を書いた瞬間がいちばん幸せです。
──「人間と繋がれるのは音楽しかない」ってやばいね。みなさんはどうですか?
大久保 : うーん…… 自分たちでレーベルをやることになったタイミングのアルバムなので、覚悟があるアルバムになっていると思います。みんなの気持ちがよりひとつになっているというか。
──坂本さんは?
坂本 : この先いつ聴いても希望になってくれるアルバム…… かな。
下津 : “覚悟”と“希望”ってやばいな(笑)。これマルのプレッシャーやばいぞ(笑)。
丸山 : この録音で、音楽を通じてコミュニケーションをするということをすごく実感しました。ボイスメモで録っているときって、歌詞があんまり聞こえないから、レコーディングのときにはじめて歌詞が入ってくるんです。その歌詞を聞いたときに、レコーディング中なのにくらったんですよね。そのくらっている感じを作品に落とし込めたのがうれしかったですね。今回のアルバムには、そこを整えないでそのまま出せたと言う部分と、綿密に準備をできた部分と、両方ある。それがすごいな、と感動して。やっぱり曲が全部いいから、一家に1枚はって感じですね。
谷山 : 最後にまとめたな(笑)!
下津 : いまのメンバーって、全員BOREDOMSとか村八分みたいなアングラな音楽に触れて大きくなってきた人たちだと思うんですよ。でも“踊って”がやっていることって超ポップじゃないですか。そういうアングラ音楽を通ってきたやつがポップをしたらいちばん強いんじゃないかって思うんですよ。こういうものがスタンダードになって、精神的にも民度的にも俺らみたいな人がもう少しいたら、ロックは死なへんのちゃうかって思うんです。「エレキでセッションをすることがもうコミュニケーションなんやで、LINEだけじゃないんやで」って言いたい。
──なるほど。
下津 : すごくいいもんですからね、ロックンロールは。「ロックンロールって一体なんやねん」って言われたらわかんないですけど。
──最後に。このアルバムの中で下津くんが伝えたかったキーワードみたいなことってある?
下津 : いろいろあるけど人に優しく前向きにやっていこうや! ってこと。音楽の力を借りてな。
谷山 : 「人に優しく」を太字にしておいてもらえるとありがたいです(笑)。
編集 : 鈴木雄希
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【過去の特集ページ】
・『君のために生きていくね』特集 : インタヴュー
https://ototoy.jp/feature/2018041104
・『SONGS』特集 : レヴュー
https://ototoy.jp/feature/2015032662
・『踊ってばかりの国』特集 : インタヴュー
https://ototoy.jp/feature/20140121
・『FLOWER』特集 : レヴュー
https://ototoy.jp/feature/20121022
・『世界が見たい』特集 : 下津光史×有馬和樹(おとぎ話) 対談
https://ototoy.jp/feature/20111104
・小林祐介(THE NOVEMBERS)×下津光史 対談
https://ototoy.jp/feature/20110803
・『SEBULBA』特集 : レヴュー
https://ototoy.jp/feature/2011031601
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LIVE SCHEDULE
STEREO RECORDS presents GEZAN、the hatch、踊ってばかりの国 RELEASE TOUR 2019
出演 : 踊ってばかりの国 / GEZAN / the hatch
2019年5月09日(木)@山口 BAR印度洋
2019年5月10日(金)@福岡 UTERO
2019年5月11日(土)@香川TOONICE
2019年5月12日(日)@広島CLUB QUATTRO
踊ってばかりの国がやって来た!サラダ、サラダ、サラダ!リターンズ
2019年5月30日(木)@千葉LOOK
2019年6月04日(火)@仙台enn 2nd
2019年6月07日(金)@沖縄OUT PUT
2019年6月16日(日)@札幌サウンドクルー
2019年6月20日(木)@十三ファンダンゴ
2019年6月21日(金)@福岡VooDoo Lounge
2019年6月24日(月)@恵比寿LIQUIDROOM
2019年6月29日(土)名古屋得三
2019年7月06日(土)@神戸太陽と虎(ツアーファイナル)
PROFILE
踊ってばかりの国
2008年神戸で結成。翌年より2枚のミニ・アルバムを発表、各地の大型フェスに注目の新人として出演。2011年初のフル・アルバム『SEBULBA』を発表。全国ツアーを行うなど活動の幅をさらに拡大させる。同年11月には2ndアルバム『世界が見たい』をリリース。2012年末、ベースの柴田脱退と共に活動休止。
2013年春、新メンバーの谷山竜志加入し、〈COMIN’KOBE 13〉のステージで活動を再開。2014年1月に新メンバーで録音した、セルフ・タイトルを冠する3rdアルバム『踊ってばかりの国』を発売。同年に限定アナログ盤シングルを2枚発売。2015年春、メンバー主導による最新フル・アルバム『SONGS』を発売。11月、オリジナル・メンバーの佐藤が脱退。同月、新ドラマー・坂本タイキ加入。
2016年、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’16〉(FIELD OF HEAVEN)に出演。同年11月、林が脱退。2017年1月、新メンバー・丸山康太が加入し、活動再開。〈2017年、春のワンマンツアー〉中、5人目のメンバー・大久保仁が加入。2018年4月、3年ぶり5枚目のオリジナル・フル・アルバム『君のために生きていくね』を発表。
【公式HP】
http://odottebakarinokuni.com
【公式ツイッター】
https://twitter.com/odotte_official