YAJICO GIRL、ギターロックに収まらないサウンドの進化──自身の時代性を反映した意欲作『インドア』

左から武志綜真(Ba)、榎本陸(Gt)、四方颯人(Vo)、吉見和起(Gt)、古谷駿(Dr)
高校の軽音楽部内で結成され、大学在学時には〈未確認フェス2016〉のグランプリ受賞をはじめ、数々のオーディションで賞を獲得するなど、活躍を見せる5人組、YAJICO GIRL。そんな彼らにとって2年ぶりのとなる新アルバム『インドア』がリリースされた。前作「沈百景」がギターサウンド中心の疾走感溢れるものだったのに対し、今作では作詞作曲を担当する四方(Vo)が影響を受けたという、R&Bの要素を取り入れた"ギターロック・バンド"という枠に収まらないサウンドを手にいれた。サウンド面のみならず、四方の心境的変化が写し出された歌詞など、全体として前作とは大きく毛色の異なるものとなったこの作品。今回のインタビューではそんな『インドア』が生まれるまでの経緯を5人に語ってもらった。
大きな変化を遂げる意欲作!
INTERVIEW : YAJICO GIRL
いよいよこういうバンドが登場した──大げさに言えばそんな感覚を抱かせるYAJICO GIRLの2年ぶりのアルバム『インドア』。いわゆる四つ打ちのギターロックに象徴される邦ロックと2010年代半ば以降のR&Bやエレクトロの影響を受けたインディー・ミュージックは混じり合うことはないと思っていた。もちろん、YAJICO GIRLはそもそもそのどちらかに完全に属する音楽性ではなかったものの、ギターロック・バンドとして音楽性を更新して前進するユニークなバンドなんだろう、と。
しかしだ。新作『インドア』では生ドラムは鳴っていないし、ギターより鍵盤が耳をひく。そして音数はかなりそぎ落とされた。インディR&Bや現行のUSヒップホップからのリファレンスも大いに感じられる。ギターロック・バンドとしては相当振り切った、具体的なサウンド・プロダクションに変化のある作品なのだ。
2010年代後半を生きる20代前半のリスナーとして、そしてミュージシャンとして、これはごく真っ当な変化ではある。表現者として素直な発露とも言えるだろう。しかし正直、どうやって実現したのか? なにか大きなヴィジョンがあったのか? 謎も興味も尽きないアルバムなのである。同時に、「やってくれたぜYAJICO GIRL!」と快哉をあげたくなる新作に至った経緯とは──。
インタヴュー&文 : 石角友香
写真 : 宇佐美亮
このタイミングで全部出し切らないと
──『インドア』では、いわゆるギター・バンドという域を脱した感がありますが、そのきっかけはなんだったんですか?
四方颯人(Vo) : 前作の『沈百景』を作ってるあたりから、なんとなく自分が好きで聴いてる音楽と、自分がやってる音楽とのギャップが大きくなっていってて。次はちょっと変えたいなっていうのはあって。それで、そういう感じのデモをひとりで作りはじめたのがきっかけです。
──別のインタヴューで拝見したんですが、四方さんがディアンジェロやフランク・オーシャンなど現行のブラックミュージックばかり聴いた上でどういう曲ができるか? という実験期間を設けたそうで。
四方 : ああ、そうですね。それもやってましたね。
──そもそもインディペンデントな志向のブラックミュージックのアーティストに惹かれはじめた理由はありますか?
四方 : 理由…… なんだろ? でもフランク・オーシャンの『Blonde』を聴いて価値観が変わったというか、考え方が変わって。そこからですかね。

──『Blonde』というアルバムのどういったところにそんな衝撃を受けたんでしょう?
四方 : うーん、まだ…… 語れないような気もします。でも、チャンス・ザ・ラッパーとかも2016年に(『Coloring Book』を)出してて。ブラックミュージックに触れる機会が多くなって…… それからですかね、意識が変わってきたのは。その決定打が『Blonde』やったような気がします。
──わかります。美しいアルバムだし、ひとりで作ってる感じがして。
四方 : うん。内省的なものにはもともと惹かれるフシがあって。まだなんかよくわからないけど、圧倒的だってことはわかる、みたいな。
──その感覚はバンドの中でどれくらい共有されてたんですか?
四方 : 僕がもともと好きで聴いていただけで、メンバーにそれを共有するってことはそこまでしてなかったと思います。
──じゃあ今作を作るうえでバンドに自分がやりたいことをどうやって提示したんですか? ひたすら曲を作るというやり方?
四方 : ひたすら自分がやりたいような曲を作ってメンバーに聴かせて。で、最初、なんか「これ意味わかんない」みたいな(笑)。まぁ誤差はあれど、いままでやってきた音楽との差が結構あったので、ついて行けてない感じがあって。そこから「こういうのも聴いてほしい」って話をしはじめました。
──民主主義的にやるって考え方と、四方さんの中に絶対的なヴィジョンに旗振ることって、なかなかバンドだと両立しづらいんじゃないですか?
四方 : ずっと民主的にやってきたんですけど、今作のアルバム制作は「お願いやから俺が思うようにやらせてほしい」っていうのを結構、何回も言ってました。
武志綜真(Ba) : 「今回のアルバムだけはやらせてもらって、『インドア』以降はもっと開けた作品性にする」って話を聞いてからは、「じゃあ今回は四方の好きなものを作ってもらおう」という風には思ってました。

──今回だけはというのは四方さんのアーティスト生命というか自分の表現ヒストリーの中で絶対やらなきゃいけないことだった?
四方 : 僕個人としてはこのタイミングで、全部出し切らないと音楽を作ることがおもしろくなくなっちゃうなというのがあって。だからここで一旦アウトプットし切りたいというのが大きかったですね。
──メンバーが協力してくれるって優しいですね(笑)。
古谷駿(Dr) : あんまり聴かないジャンルの曲ではあるけど、いい曲やなと思ったから。自分の演奏するとこあるかな? って心配はありましたけど(笑)、僕は反対とかはあんま思わなかった。
吉見和起(Gt) : どのみち、曲を作るのは四方やから、なんかその、嫌なわけじゃないですけど従わざるを得ないというか。
榎本陸(Gt) : そんなん思ってたん(笑)?
吉見 : というか、「それは嫌や、いままで通りがいい」って言って、いままで通りの曲を嫌々作ってもらっても、たぶんいいものができないというか、いいものを出せない。だったら作曲をする人の言うことを聞く。
武志 : 四方が好きなものを好きになれるような努力をした2年間でもあります。
自分と向き合ってるうちに出てくる言葉を
──四方さんが作詞作曲をするからっていう以外の部分で、自分でも腑に落ちたところはありますか?
吉見 : 『沈百景』を出してから新しいデモが来たときに、それのリファレンスとしてフランク・オーシャンを出されて。そのときは、正直な話、なにがいいのかなと思ってたんです。でもアレンジしていく上で自分もインプットが必要だからフランク・オーシャンにつながるものを聴いてくなかで、徐々に「ああ、いいんかな」ってなっていって、いまは普通に好きになりました。ま、2年間の話で言うなら、やっぱりはじめは四方に合わすために、というスタートだったんですけど、いまは聴くものもいろいろ広がったし、結果オーライ。いろんなものに手出してみて、自分が作る音楽の世界が広がった。そういう意味では良かったです。
──たとえばどれぐらいまで広がりました?
吉見 : ちょうど2017年、『沈百景』を出したぐらいだったらシティポップ聴いていたんです。でもそこからちょっとR&Bをいろいろ聴いてみようと。あくまでギターを弾いてる者なので、ギタリストから探って、アイザイア・シャーキー(ディアンジェロなどのギタリスト)というR&B / ソウルのギタリストの作品を聴いたんです。いままではロックっぽいギターばっかり弾いてたんですけど、アイザイア・シャーキーをきっかけにちゃんとR&Bのギター弾いてみようという広がり方をしていって。あとはアーティストにとどまらず、SNSでギターのインプットをいろいろ拾ったり、そういうのが多くなって、多方面に広がって行った感じですかね。
──たしかに音作りがぜんぜん違いますね。四方さんはこのタイミングで「自分の作りたいものを作らないと前に進めない」と思ったものというのは、音楽的なことだけじゃなくて、そこで伝えたいメッセージも含まれていたんですか?
四方 : いや、こういうメッセージを伝えたいとかは正直あんまりなくて。自分と向き合ってるうちに出てくる言葉がいろいろあって、それを書いていった感じですね。
──なるほど。打ち込みも多用してるけど、バンドで消化してる作品だと思うんですよ。インディR&Bでよく出てくる感じのSEをギターで弾いるのもそうだし。これを5人でやるときに四方さんはアレンジまで考えてもっていったんですか?
四方 : 曲によるんですけど、結構アレンジまで考えますね。
──シンセサウンドやSEが印象的な1曲目の「NIGHTS」は?
四方 : 「NIGHTS」はオルガンとドラムとヴォーカルと、声の飛び道具みたいなやつくらいかな、最初は。
吉見 : 「NIGHTS」は「これならまだバンドでできそう」ってなったやつかもしれないです。
四方 : 「NIGHTS」までに何曲もボツになって。
──たしかに「ニケ」なんかは相当ミニマルですもんね。でもそういう音像に四方さんはなにを感じたんでしょうね。
四方 : うーん…… なんだろ。
──単純に音数の多い少ないもあるし、ビートの種類も違うじゃないですか。でもそういう具体的なことだけじゃなかったんだろうなと思ったんですよ。それまでコードが鳴ってたりする曲を作ってた人が、バンドでぜんぜん違うプロダクションで作りたくなるのは好き嫌いだけではない感じが。
四方 : ああ。でも自分的には好き嫌いかな(笑)。でも、もともとループっぽいのが好きで、逆にいままではそれを作る術がないから、自分らで弾き語ってバンドでアレンジしてっていう作り方やったんですけど。パソコンとかもある程度充実してきて、自分で作れるようになってからはそっちメインになっていきましたね。
──もともとそういう音像が好きだったんですか?
四方 : アンビエントな感じとかはもともとたぶん好きで。
──でもあくまでもギターロック・バンドではあるじゃないですか。アウトプットするときに、いきなりたとえばyahyelみたいな編成になるわけじゃないし、そこがおもしろいなと思ったんです。実際、レコーディングではこれまでと違う楽器の編成なんですか?
古谷 : 今回生ドラムは使ってなくて。電子ドラムで入力したり、他は打ち込みで作ったりというのはいままでなかったのでぜんぜん違いました。生ドラムを叩けるなら叩きたかったけど、デモが打ち込みの感じだったので、そのまんまの方がいいのかなと思って。

──また曲の話に戻すと、タイトルのように「インドアなんだな」ってことについて歌われてるのが「ニケ」な気がしたんです。この〈誰かに見せるために出かけてるような気がする〉って歌詞は、「そこまで行きたいと思わない」ってことにつながるのかな? と思ったんですが。
四方 : 行ってる人はSNSにあげるために行ってんじゃね? 的な感じはあるかも。
──ああたしかに。特にこの楽曲は音数も少ないし、ヴォーカルにエフェクトかかってるし、突き放した感じにも聴こえます。この曲はどこからできたんでしょうか?
四方 : ギターのコードからかな。もともとはちょっと違うメロディが乗ってたんですけど、展開、構成を考えて、ある程度歌ができたなってところで、この曲はロック枠でいいんじゃない? と。
武志 : 後半はセッションでスッとできましたね。
──「2019」はすごくR&Bに近い曲ですね。
四方 : そうですね。トラップっぽいビートを使いたくて。
──加えて、今回、「熱が醒めるまで」、「CLASH MIND」、「2019」など鍵盤が特徴的だと感じました。
四方 : 鍵盤は彼が(榎本)弾いてます。
榎本 : ぜんぜん弾けないです(笑)。
カウンターっていうイメージはずっと持ってる
──そうですか(笑)? フランク・オーシャンからもしひとつクッションがあるとしたら、日本だと小袋成彬さんという存在があると思うんですけど、YAJICO GIRLはバンドでやってるからびっくりしたところがあって。
四方 : うれしいです。
──じゃあ『分離派の夏』は衝撃でしたか?
榎本 : 車の中でうんざりするほどかけてましたね(笑)。
吉見 : 小袋成彬も四方から、「聴いてみて」って。それで「わ、やっばー」と思って、2018年はずっとあれを聴いてましたね。
榎本 : リファレンスの9割、小袋成彬(笑)。
──書いていいんでしょうか(笑)。
吉見 : 気がついたらハマってましたね。ひとつは「分離派の夏」も後ろの音が少ない分かなり歌が聴きやすいっていうのと、もうひとつは歌詞をどうとでも受け取ることができるところがすごいなと思って。たぶん、小袋さんはいろいろ思って書いたんでしょうけど、自分の思ってること照らし合わせても聴けるし。そういうのもあって、何回聴いてもいつ聴いても──たとえばリリース直後に聴いたときと、大学の卒業前に聴いたときとで、また違ういろんな解釈ができる。情報量が多くないのと、歌詞がわかりやすすぎないのが逆に心地いいというか。言語化するとそうなるんですけど、それが全てかというとそうでもない。

──たしかに。人の人生としてかなりエモーショナルな内容ですし。この『インドア』も青春真っ只中から距離が出てきた感じがあります。実際、四方さんは書いてみて気づいたことはありますか?
四方 : 書いてみて気づいたこと…… うん、たくさんあるような気はします。前までは結構ひねくれたやつやったと思うんですけど(笑)、結構曲を書いて、今作を作ってるうちにそういうのが全部整えられていって、完成したときは晴れやかな気持ちになりました。
──自分の中にあるものを言葉で明確に言ってるというより、作品化できたからですか?
四方 : うーん、ちょっとモヤモヤしてたものがあったので。だからこそ自分のいう通りにやらせてほしいって言ったのもあるんですけど、いろんな人たちに接してもらって作品が完成して、なんかまともな人間になれた(笑)。
──四方さんの中にバンド・シーンに対する地殻変動を起こしたいみたいな気持ちは?
四方 : それはある、のかな。カウンターっていうイメージはずっと持ってる。

──このアルバムの曲は現状ライヴではどうやって置き換えてるんですか? 生ドラムにしたり?
四方 : はい。ラッパーとかがライヴにドラマーを入れてるじゃないですか? そういうイメージです、自分的には。
吉見 : まぁ、アルバム通しやったらいいんですけど、ライヴになったときに、重たいと いうか、内省的要素が強いんですよね。でも『インドア』以降のズシっとしてる音像もやっていきたい。
──ちなみに本日リリース日ですが(インタヴューは8月7日に実施)意外な反応はありましたか?
榎本 : ツイッター見てるけど、全部褒めてくれてるからうれしいなと(笑)。
吉見 : 「前の方が良かった」って思われるんじゃないかっていう怖さが正直あったんですけど、そういう反応はぜんぜんないなと思います。
榎本 : ビビらず攻めれるね。既存のファンは諦める気持ちでいたんですけど(笑)。
武志 : ぜんぜんついてきてくれてるようなのでうれしいです。
編集 : 鈴木雄希
『インドア』のご購入はこちらから
LIVE SCHEDULE
ヤジヤジしようぜ! vol.3 ワンマン編~やじこの番です~
2019年9月20日(金)@心斎橋Pangea
出演 : YAJICO GIRL(ワンマン)
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://www.yajicogirl.com/news/3
PROFILE
YAJICO GIRL

5人編成で自身の活動スタンスを「Indoor Newtown Collective」と表現する。
結成してまもない2016年、大学在籍中に日本最大級音楽フェスティバル〈SUMMER SONIC〉の登竜門〈出れんの!? サマソニ!?〉を通過。その後〈eo Music Try〉や〈十代白書〉など地元関西コンテストでの受賞を重ね、同年全国38局ネットのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」が企画する10代アーティスト限定ロック・フェス〈未確認フェスティバル〉、そしてロック・プロダクション〈MASH A&R〉が手がけるオーディション〈MASH FIGHT〉でグランプリをW受賞。
翌2017年、タワーレコード内のインディーズ・レーベルから初の流通作品『沈百景』をリリース。その後も音源制作、MusicVideoの撮影から編集、その他全てのクリエイティヴをセルフ・プロデュースし、2019年夏、自分たちの音楽の同時代性に向かい合った作品群としてアルバム『インドア』を発表。
【公式HP】
http://www.yajicogirl.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/YAJICOGIRL