不穏でミステリアスな新鋭ロック・バンド“Johnnivan”が放つ、洗練されたダンサブルな『Students』
“生楽器とダンス・ミュージックの融合”をテーマに、日本、アメリカ、韓国の多国籍メンバーからなるJohnnivanが、2020年6月3日に『Students』をリリース。彼らにとって初のアルバムとなる今作は、繊細ながらもダイナミックな演奏、ジャンルの垣根を超えるダンサブルで洗練されたサウンドを見事に詰め込んだ作品となった。今作をリリースし、現在インディー・シーンでも大きな注目を集める彼らへのインタヴューをお届け。Johnnivanの音楽のバックグラウンドをはじめ、今作に込めたこだわり、今後の展望などをじっくりと語ってくれた。
正直なドキュメント・アルバム『Students』
INTERVIEW : Johnnivan
これはディスコ・パンクの再来か? Johnnivanのファースト・アルバム『Students』はまさにそんな手応えを感じさせるデビュー作だ。〈DFAレコーズ〉が打ち出したダンサブルなバンド・サウンドを雛型に、ジョイ・ディヴィジョン風の鋭利なビートや、ディーヴォあたりを思わせるエレクトロ・ファンクネスを加えた彼らの音楽性からは、栄華を極めた2000年代インディを再定義し、更新しようという気概が感じ取れる。今回はそんなJohnnivanの5人にインタヴューを敢行。ここ日本のインディ・シーンにおいても明らかに異彩を放っている新鋭の第一声をお届けしたい。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 西村満
やるからにはなにか音楽的に新しいことがやりたいし、常に変化し続けるバンドでありたい
──聞くところによると、Johnnivanはタカツさんがジョナサンさんを誘うところからはじまったんだとか。
ShogoTakatsu(以下、Shogo/Key.) : そうですね。僕が所属していた大学の音楽サークルに、後輩としてジョナサンが入ってきて。そこで見た彼のパフォーマンスに惹かれて、ぜひ彼と一緒にバンドをやりたいなと思ったんです。
──それまでのタカツさんはどのような音楽活動をされてきたんですか?
Shogo : 3歳からクラシック・ピアノを本気でやってました。ただ、クラシック・ピアノってちょっと競技みたいなところがあって、そこにある段階でちょっとしたフラストレーションを感じるようになって。そんなときに父が持っていたマイケル・ジャクソン/シカゴ等のレコードをきっかけに、ポップスも聴くようになったんです。なかでもフェニックスとの出会いは大きくて、自分もこういうバンドがやってみたいなと思うようになりました。
──そこで知り合ったのが、ジョナサンさんだったと。
Shogo : ええ。僕は楽器の演奏力にそこそこ自信があったので、友人の演奏に感動したりすることってあまりなかったんですけど、ジョナサンのパフォーマンスにはそれ以上のものを感じて。彼のカリスマ性を世に知らしめたいなと思ったのが、このバンドを組むきっかけになりました。
──一方のジョナサンさんはいかがでしょう。Johnnivan結成前はどのような音楽に取り組んでいたのですか。
JohnathanSullivan(以下、Johnathan/Vo.) : 高校2年の頃から軽音楽部でずっとカヴァー・バンドをやってました。大学に入ってからはサークル内にネイティヴ・スピーカーがいなかったのもあって、よく洋楽のヴォーカルをやらされてましたね(笑)。
──どんな曲をカヴァーしてきたんですか。
Johnathan : レディオヘッド、ミュートマス。あんまりやりたくなかったやつだと、マルーン5とかドリーム・シアターとか(笑)。あと、幼い頃から母がいろんなライヴにも連れてってくれたのも大きいですね。5歳のときに2002年のフジロックに行ったり。そのほかにもクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジとか、要所で家族と好きなアーティストの単独公演に行ってたのもあって、小さい頃からミュージシャンというか、ロック・スターになりたいみたいな気持ちはざっくりありました。
──ジョナサンさんが憧れていたミュージシャンやロック・スターというのは、たとえば誰を指しているのでしょう?
Johnathan : LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーですね。LCDに関しては作品を聴く前にドキュメンタリーとライヴ映像を観たっていうのもあって、彼の人間性と音楽性を同時にインプットした感じなんです。
──実際、LCDはJohnnivanの音楽性にも直接的な影響を与えていますよね。ステージ上のパフォーマンスにおいてはいかがでしょう? ほかにも影響を受けた存在っていますか。
Johnathan : 特にこの人を参考にしたっていうのはないんですけど、ひとつ言えるのは、ステージに立つときはどうしても自然体ではいられないってことですね。オーディエンスになにかをプレゼンしているときは、なにかしらのレイヤーが必要になるというか。そもそも自分が書いた曲を知らない人に聴かせるというのは傲慢な行為であって、それを自覚するってことが大切なんじゃないかなと思ってます。これは馬鹿げたことなんだってことは自分でもわかってる。そういう態度を大切にしたいなと。
──その意識は5人全員が共有しているもの?
Shogo : そうですね。バンドをやるにあたって、このメンバーを集めた理由は大きくふたつあって。まずひとつは、バンドが音楽的にどういう方向性になっても対応できるメンバーであること。やるからにはなにか音楽的に新しいことがやりたいし、常に変化し続けるバンドでありたいと思ってたので、このメンバーならそういう音楽との向き合い方を理解できるんじゃないかなと。あともうひとつの理由は、彼らは強いメンタリティを持っていたから。この先にはおのずと壁にぶつかる場面もでてくると思うので、そういうときでもポジティヴでいられるような人たちを集めたかったんです。
個人の成長をバンドの成長に繋げていきたい
──なるほど。では、各メンバーがどんなミュージシャンなのか、それぞれのバックグラウンドを教えてください。
JunsooLee(Gt.) : 僕がギターをはじめたのはわりと遅くて、大学の頃からなんです。個人的には主に1990年代のUKロックや、1960年代のブルースみたいな、それこそギターが中心となったような音楽が好きですね。かといって、ブルース・バンドがやりたいとはそんなに思わなくて。どうせバンドをやるからにはなにか新しいことをやりたいという気持ちは、僕にもありました。この組織だからこそできることを探して、そこで自分のプレイスタイルが活かせたらなと思ってますね。
KentoYoshida(以下、Kento/Ba.) : 自分は完全に邦楽あがりで。たとえば東京事変、the band apart、toeとかをよく聴きつつ、ベーシストとしてはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーとか、マーカス・ミラー、ビリー・シーンみたいなテクニカルな人たちへの憧れもありました。ただ、Johnnivanの演奏においては、とにかく無駄な音をなくすってことがなによりも大事で、そこが難しくもおもしろいところで すね。ちょっとでも自己満足的なフレーズを弾くと、ジョナサンにすぐ却下されるので(笑)。
Johnathan : そんなに却下してるかな(笑)。
Kento : 「それは違う」ってことは、いつもはっきり言ってくれるよ。
Shogo : みんなが提示してくれるフレーズに対して、ジョナサンも良し悪しをはっきり伝えるよね。ジョナサンの判断基準をメンバーも徐々に理解しはじめてる感じがする。
Johnathan : ケントさんのいうとおり、「やりすぎない」ということは大切にしてますね。僕らの曲がわりと短めなのはそのせいなのかも。
YusakuNakano(以下、Yusaku/Dr.) : ケントとおなじく、もともとは邦楽ロックばかり聴いてて、なかでもナンバーガール、9ミリ(9mmParabellumBullet)みたいな激しいオルタナ系を好んでたんです。ドラムに関しても大学の頃は「俺、けっこう上手いんじゃないかな?」と思ってたんですけど(笑)、その自信がこのバンドに加わったことですべてぶち壊されたんです。それこそLCD、フェニックス、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーなんかを聴き漁っていくなかで、いろんなリズムや音色を知って、自分は井の中の蛙だったなと。そういうのもあって、このバンドに加入してからは、自分のドラムを見つめ直すよう になりました。ドラマーとしてイチからやり直すような感覚というか。
Johnathan : 音色(おんしょく)については、本当にいろんな音楽をインスピレーションにしてて。それこそドラムのレコーディング中になんとなくキックの音がちがうような感じがしたときは、デヴィッド・ボウイの『ロウ』を聴き返してみて、「この“A New Career in a New Town”のキックの感じがフィットしそうだな」みたいな。そういう感じで、「迷ったら教科書に戻る」っていうことを僕らはよくやってます。
──なるほど、リファレンスに立ち返るわけですね。
Johnathan : ええ。作曲のフェイズでいうと、最初はまず僕が思いついたものを書き出してみて、そのあとに自分がインスピレーションをうけた音楽をもういちど聴き返すんです。その作業は僕だけじゃなくて、メンバー全員にお願いしてて。
Shogo : ジョナサンは新曲の原案と一緒に、いつもプレイリストをみんなに配ってくれるんです。ただ、その曲数がちょっと異常というか(笑)
Johnathan : そのプレイリストを聴いてもらうことによって、デモの理解をより深めて、レコーディングやミックスのヒントにしてもらいたいんですよね。それに共有している曲目自体はそんなにマニアックなものじゃなくて。みんなが知ってるような音楽と改めて向き合ってもらうことによって、引き出しの数を増やしていけたらなって。
Shogo : 実際、前作のEP(『PILOT』)をつくったときと比べると、『Students』は、各曲のアルバムにおける立ち位置や歌詞の内容を深く理解しながら音を重ねることができたんじゃないかな。シンセの弾き方や音色も適材適所で変えられたというか。
Kento : 『Students』ではEPの反省も踏まえて、バンドにおけるベースの立ち位置をもうすこし明確にできた感じがしてます。それこそジョナサンのプレイリストに入ってたトロ・イ・モアやマック・ミラーなんかもかなり参考になりましたね。曲の全体像を邪魔しない程度に存在感のあるベースが弾けたし、最終的には自分の好きな音に寄せられました。
Yusaku : 僕はまず曲のリファレンスをしっかり理解して、そこに近づけることを第一に考えてました。でもそれって簡単ではなくて、個人的に今回の制作はけっこう苦しかったというか、とにかく考え続けた半年間だったなって。僕がフレーズをジョナサンに提案して、そこでぶつかったりしたこともあったし。
Johnathan : ぶつかったというか、投げかけてくれたものを僕がぜんぶ却下してたよね(笑)。
Yusaku : そうそう(笑)。でも、なかには部分的に採用してくれたところもあったので、次はもっと採用される確率を上げていきたいなと(笑)。僕個人の成長をバンドの成長に繋げていきたいんです。
Junsoo : ベースとドラムに比べたら、このバンドはギターの自由度が高い気がしてて。もちろんプレイリストは参照したんですけど、ギターについてはそこをただ目指すわけでもなく、けっこうやりたい放題やらせてもらえました。実際、ギターに関してはそんなにインディ感がないというか、わりとソリッドな音に仕上がったんじゃないかな。LCDとかミツキ、ハイムなんかも参考にしてみたりはしつつ、結果的なアウトプットはそれとはまた違ったものというか、自分の鳴らしたい音がうまくバンドの音にハマってくれた感じがする。
Johnathan : 僕はギターがあまり得意ではないので、デモのギターは鍵盤で演奏してたんです。そういうのもあって、ギターに関してはお任せするところが多いというか、解釈の余地がたくさんあったのかもしれない。特に“All You Ever Do”はそんな感じでしたね。僕のイメージとは違ったんですけど、結果的には自分が想像できないところに連れてってもらえた。
作品をタイムレスなものにしたかった
──リリックについてはいかがですか。内省的な印象をうけたのですが、このアルバムはジョナサンさんのどんな心象を切り取ったものなんでしょうか。
Johnathan : このアルバムに収録されている10曲は、2018〜2019年に僕が考えたことの正直なドキュメントなんです。同時に僕はこの作品をタイムレスなものにしたかったので、時制とか人称の使い方にはすごく悩みましたね。正直、歌詞を書くのはあまり得意じゃないです(笑)。セカンド用の曲もたくさん書いてるんですけど、歌詞だけはちょっと後回しにしてるというか、ライターズ・ブロックになるのが怖くて書けなくなってます(笑)。
──現在の目まぐるしい社会状況の変化は、次作の方向性にも影響をもたらすのでは?
Shogo : そうですね。僕らの気持ちとしてはもうセカンドに向かってるんですけど、この新型コロナウイルスによる自粛期間をひたすらインプットに使えたのはよかったなと思ってて。個人的にはデヴィッド・ボウイのベルリン三部作にキーボーディストとして感銘をうけたところがたくさんあるので、それが次作には活かされるといいなと思ってます。
Johnathan : 僕らの次作がコロナ以降の社会になにかしらのコメンタリーを出すようなことはないと思うんですが、音楽的には不穏さがより前面的にでるというか、もっとヘヴィになるような気がしてます。たとえば、ザ・ナショナルとか、キュアーとか、ナイン・インチ・ネイルズみたいな要素も加わるかもしれない。あるいは最近だとタイラー・ザ・クリエイター、ア・トライヴ・コールド・クエスト、ラン・ザ・ジュエルズなんかもよく聴いてるので、そういう影響もでてくるかも。まあ、とにかくここからが第2ラウンドって感じなので、楽しみにしててください。
編集 : 鈴木雄希、安達瀬莉
『Students』のご購入はこちらから
過去作もチェック!
PROFILE
Johnnivan (ジョニバン)
Johnathan(Vo)とShogo(Keys)を中心に、日本 / 韓国 / アメリカの多国籍メンバーで2017年12月に結成された日本初USインディー・ダンス・ロック・バンド。バンドは2018年1月よりセルフプロデュース・シングルを立て続けにリリースし注目を集め、同年5月より、渋谷 / 下北沢を中心に精力的にライヴ活動を開始。
70s / 80sディスコ〜現行インディーまで取り入れた独自の音楽性からニューウェーブ、ポスト・パンク、アートロックと評される事が多い。2018年夏より突如東京のライヴハウス界隈に現れたJohnnivanは、未だどのシーンにも属することのない異色のバンドとして君臨している。
【公式ツイッター】
https://twitter.com/welovejohnnivan