1. 推定ルビ
2. 食パン
3. ぼくの舟
4. ヨナヨナ
5. スープの話
6. 一足す一
7. ネコはどうせかわいいんだ
8. 信号は今、青にかわって
目の前に猫が佇んでいるとしよう。思い浮かべる場所はどこでもいいし、どんな猫でもかまわない。その光景を見て、あなたはどんな言葉を口にするだろう。恐らくこうつぶやくに違いない。「かわいい」。
猫=かわいい。これはもはや真理に近い。そこで今回紹介する作品なのだが、タイトルは『ネコはどうせかわいいんだ』という。ニヒルなようでいて、どこか嫉妬や羨望も感じさせるこの投げやりな言い方は、同時に「猫はかわいいに決まっている」という確信が込められているようにも聞こえる。
このアルバムの作り手である半澤則吉は現在27歳。高校時代に弾き語りを始め、ベーシストとしていくつかのバンドを渡り歩き、今は個人で創作活動を続けている。その活動は音楽だけに留まらず、小説や脚本等といった、文筆家としての作品も彼は多く残している。この並外れたクリエイティヴィティの持ち主は、これまでも『モザイク』というタイトルのデモ音源(現在廃盤)をリリースしてはいるが、ライヴ等の表立った活動をほとんどしてこなかったのもあり、少なくともソロ・アーティストとしての存在を知られる機会はこれまでなかった。ベーシストとしてのキャリアを知る人でも、今回の作品で初めて歌声を耳にする方がほとんどだろう。
アルバムは壮大なストリングス・シンセと共に幕を開ける。その後で激しく刻まれるギターとパーカッション。所々でビートルズ・マナーも垣間見せつつ、作品の全体像からは、例えばミスター・チルドレン、川本真琴、椎名林檎といった面々が浮かんでくる(あるいは小林武史、岡村靖幸、亀田誠治と言ってもいい)。つまり90年代のJポップにおいてラディカルだった部分が、現在にアップデートされた形で次々と現れてくるのだ。
しかしアルバムを聴き進めていくうちに、時折ジョークも挟みながら歌われるほとんどが、実はひとりの男の回想や葛藤であることに気がつく。思い出そうとすると曖昧だけど、なんだか楽しかった昔の記憶。それに比べてどうも味気ない現状。いっそすべて投げ出してしまおうと言いながら、酒を飲み、次の日を考えて眠りにつく日々。
半澤はそこで無理に突破口を示すのではなく、やはり少し投げやりな調子でこう言い放つのだ。
「あぁネコはどうせかわいいんだ/それでいいや」
曖昧で中途半端なことばかりだけど、猫がかわいいことだけはいつの時代も揺るがない。その事実は聴き手にわずかな安堵感を与える。しかし半澤はそれ以外の何かを示したりはしない。だからこそ、この作品に漂うノスタルジアはこんなにも強く胸を打つのだ。
いつの間にか「自分はもう子供ではないんだ」と自覚するようになっていた。でも、果たして本当にそうなのかな。例えば、いつか人生に終わりがやってくることを知って布団の中で震えている子供と、次の日を恐れながら日曜の夜を過ごしている大人との間に、それほどの大差はないような気もする。少年そのもののような半澤の声を聴きながら、思わずそんなことを考えてみた。でも、そんなのどっちでもいいや。ネコはどうせかわいいんだから、それでいい。(text by 渡辺裕也)
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PROFILE
1983年、福島県二本松市で洗濯屋営む父、美樹夫、母、順子の間に生まれる。高校入学後、音楽活動を開始。ストリート・ミュージシャンとしてお巡りさんに怒られながらも福島市内で活動。ライヴ・ハウスへの出演もこの頃より始まる。2003年、上京を機にベースを弾き始めバンド活動開始。どう見てもファミコンのコントローラーにしか見えないフェンダー・プレシジョン・ベースを握りしめ都内のライヴ・ハウスに出演。2006年いくつかのバンドに参加する傍らソロ名義での活動を開始。決してうまくはない歌とギターだけのスリリングなステージを展開。2008年、『モザイク』と言うやはりスリリングなタイトルを冒頭に据えたデモCD『デモ』を発表。100円と言う安価ながら、発売数ヵ月後には無料で配ると言う独特の手法により100枚ばかり完売。その後、リリースの予定皆無も自主レーベルhanzawanoriyoCD設立。ロゴマークだけを完成し悦に入る。2010年、これでは駄目だと一念発起し、猫アレルギーであるにも関わらずファースト・ミニ・アルバムを「ネコはどうせかわいいんだ」と銘打ち発売。現在、会社員。