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いやぁ、これはきましたね。こういうサウンドが存在感を発揮し始めると、ポップスの世界は一気に活気づいてくるのだ。ドイ・サイエンスという名の4人組が現在のシーンにもたらすもの。それはグルーヴの革新である。2本のギターに、ベースとドラムという、ロック・バンドとしては極一般的なフォーマットに、メロディとコーラス・ワークが渾然一体となったポリリズミックな演奏が展開していく。
つまり彼らの楽曲はどれもかなり複雑な構造を持っているということなんだが、それがいわゆるマスロックのように知的興奮を刺激するわけではなく、むしろ脳みそをつるっつるにして、関節がぐにゃんぐにゃんにさせられたような、ちょっとふざけた脱力感に溢れているのが、なんとも最高。なにより耳を通過した時に残るインパクトがとても新鮮なのだ。今回のリリースを機に、この熊本発の奇妙なグルーヴを模倣しようとするバンドが全国で増えていくんじゃないかとちょっと期待しつつ、そう簡単に真似できるもんじゃないというのは、今回の取材に応えてくれた、バンドの中心人物であるキヨタの発言に目を通してもらうとよくわかると思います。いや、これはすごいわ。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
アバンギャルドなシティ・ポップ? Doit Scienceが提示する新たな聴覚体験
Doit Science / Information
九州は熊本にて、10年に渡って活動する4人組。緻密かつ反復的かつ脱力的かつエネルギッシュなアンサンブルで観る者聞く者をかつてない快楽へと誘う。一度体験するとクセになるパフォーマンスと、DIY魂あふれる活動に魅せられ、バンドマンの間で、「九州行くならDoit Science」というドイ中毒患者多数発生中。
【価格】
mp3 単曲150円 / アルバム1200円
WAV 単曲200円 / アルバム1600円
最終的には予想と違う方向にいくことがほとんど
——サウンドもさることながら、バンド名のインパクトがすごいですね。ドイさんって一体どんな方なんですか。本人がいないところで聞くのもあれですけど(笑)。
まあ、言ってしまえば結構ダメなタイプの人間ですね。8年間大学に籍を置いて辞めるみたいな、そういうタイプです(笑)。まあ、僕も5年半で辞めてるんですけど(笑)。熊本に〈カラー・フィールド〉という中古レコード屋さんがあって、うちのメンバーや知り合いはみんなだいたいそこの常連だったんです。ドイちゃんともそこで知り合って。
——その付き合いがバンドの結成にまで発展したのは、お互いの音楽の好みやプレイヤーとしてのセンスも関わっているのでしょうか。
それはまったく関係なくて、まず名前ですね(笑)。ちょっとここはなかなか伝わらないところなんですけど、ドイちゃんの見た目や音楽的な趣味も含めた人となりと、ドイという名前にすごくギャップを感じてしまってですね(笑)。まあ、これは僕のもつドイという名前のイメージにすぎないんですけど。
——キヨタさんがその前に活動されていた“鬼☆弁慶”というバンドもまた、すごい名前ですね。
(笑)。それとはまた別で、割とUSインディっぽいバンドもやってたんですよ。それがちょっと活動しにくくなったタイミングの時に、ちょうどドイちゃんと出会ったので、それをきっかけにして結成したという感じです。
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——もともとはドイチャンズ(Doit Chance)という名前で活動をスタートさせたそうですね。かなりドイさんありきなバンドだというのは強く感じるのですが、音楽的な部分はドイさんがイニシアチヴを持っているわけではないんですね。
それはまったくないですね(笑)。ドイちゃんはほとんどギターが弾けなかったんですよ。最初は、比較的整ったアンサンブル・ロックの歌ものみたいなのがやりたかったんですけど、技術的に難しかったんです。ちょうどポスト・ハードコアとかが流行っていた時期だったので、ブレイド(Braid)とか、〈ポリヴァイナル〉あたりのレーベルから出ていた音楽がすごく好きだったんです。あとはルナ(Luna)とか。複雑な歌ものですね。
——いまのバンド・サウンドに至るまでは紆余曲折があったんですね。
とにかくうまく演奏できるメンバーが誰一人いなかったんですよね。だから最初にやろうとしていた、そういう歌もののロックがなかなかうまく形にできなかった。技術的に無理だったんです。そこから、演奏力があまり関係ないような音楽をなんとか作れないかと考えるようになって。あと、ヤマグチくんがベースをフレットレスにしたこともあって、もはや普通の音楽ができない状況になったんですよね(笑)。いまだにヤマグチくんは8ビートが弾けないんです。
——技術的に無理だったとおっしゃりますけど、実際にドイ・サイエンスの音楽を聞いて、ヘタだと感じる人もそういないと思うのですが。むしろその8ビートを基調としたような音楽を演奏している人に、この音楽は間違いなく演奏できないですよ。どちらかというと、プレイヤーとして少し変わった特性を持つメンバーが集ったバンドだと捉えていました。
(笑)。普通の音楽ができないとなった状況で、逆にそれを生かす方向で考えることに向かったことは、確かに自分たちにとってはいいきっかけだったんだと思います。
——そこで新たなアイデアを出すために、なにか参考になったものがあれば教えていただきたいです。
なんだろう。普通のビートを効かせたものができない分、隙間をなるべく生かせるようなものにしようと考えていたとは思うんですけど。基本的に僕はアメリカの音楽が好きなんですけど、それ以外にも南米モノだったり、いわゆるレコメン系と呼ばれるヨーロッパのプログレとかも好きなので、その辺からの影響もあったかもしれません。
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——僕はキャプテン・ビーフハートなんかも連想しました。たとえば彼はあのサウンドを譜面に起こして演奏していたそうですが、みなさんの場合は、そういった演奏に関するかなり具体的なやりとりがあったりするのでしょうか。
僕らの場合は、ひとつのフレーズ自体はすごく簡単なんですけど、その節回しなんかがすごく難しくなっちゃうんです。だから反復練習をものすごくやるんです。それこそ30秒くらいのものを、身体が覚えるまで1時間くらいずっと繰り返してみるんです。
——それはとても根気のいる練習ですね。つい音を上げてしまいそうですけど。
なので、できるだけ面白いことをやろうとしてます。メンバーそれぞれ仕事なんかもあるので、スタジオに集まる時もけっこう疲れている状態が多いんですよね。だから、できるだけ演奏していて楽しくなるようなものを作るように考えています。
——その反復でも楽しめるようなものとは、具体的にはどういうものなのでしょうか。
僕たちのツボとしては、バカバカしさとかそういうところが大きいのかな。「なんでここにこんなのが入るの!? 」みたいな感じですね。レジデンツ辺りからの影響もあるかもしれないです。あとはなんか無駄な感じがするもの。「なんでこれもう1回やっちゃったの!? 」とか、そういうものがあると演奏していて笑えるんですよね。あと、特にベースなんかでよくあるんですけど、たまたま練習でテキトーに弾いてたフレーズが面白くて、そこに引っ張られていくこともよくあります。最終的には予想と違う方向にいくことがほとんどですね。
完全に身体の感覚でできるようになりたい
——4人の音楽的な好みはかなり重なっているのですか。
最近はあまりそういう話もしなくなりましたねぇ。幸か不幸か、みんなそれなりに大人になって、新鮮な気持ちで聞ける音楽が少なくなってきているんです。要は今までずっと聞いてきたものが自分の中である程度データベース化されちゃってるので、新鮮さをもって聞ける音楽がそんなになくなっちゃってるんですよね。だから、各々が新鮮さを感じるツボみたいなものが、昔だったらUSインディとかで大きく区切られていたんですけど、いまはそれとは違う方向に変わってきているかもしれない。
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——ドイ・サイエンスの音楽を聞いたときにまず鮮烈だったのが、あのパーカッシヴなヴォーカルの使い方でした。あれはなにかヒントになったものがあるのでしょうか。
たぶん南米の音楽なんかだとは思います。そうだな。トン・ゼー(tom ze)っていう人がいるんですけど、それとかはあるかもしれません。でも、どうなんだろう。考えたことなかったかも。でも、あれに関しても、やっぱりバカバカしい感じがするというところがいいんです。
——アルバム1曲目のタイトル(「sweet death」)ですが、これ、腹上死という意味なんだそうですね。初めて知ってびっくりしました。
びっくりですよね(笑)。飲み会のネタ話として「これは曲にするしかないだろう! 」とか言ってたら、本当に作っちゃって(笑)。
——言葉の響きとしてちょっとロマンチックな感じがしますが、これをタイトルに持ってくるというのは、ちょっとしたバンドのステイトメントにもなっているのでしょうか。
それは… どうなんでしょうね(笑)。
——たとえば、演奏していてカタルシスに到達する瞬間があるじゃないですか。それとこの「sweet death」という言葉が意味する感覚には、共通するものがあったりするのかなって。変なことを聞くようで申し訳ないですけど(笑)。
僕らにそういう意識はないんですけど、たしかにそういうことをたまにライヴとかで言われることはあって。歌詞もよく曲解されるんですよね。
——たぶん、このリズム・ワークの、ちょっと禁欲的というか、ねちっこくて行き切らない感じが、そういうイメージを喚起するんだと思います。でもご自身はあまりそういう意識で音楽に接することはないと。
僕はあまりないです。それに、あんまり僕は執着するタイプじゃなくて。たとえば、特定のアーティストを崇めたりすることが僕はないんですよ。分析することはあっても、そこに陶酔したりすることはないんです。
——では、皆さんが活動拠点としている熊本の環境は、みなさんの音楽にどんな影響を与えているのでしょうか。
地方都市ってどこもそうだとは思うんですけど、音楽をやるにあたっては、決していい環境とは言えないですね。ライヴをやる場所もないし、バンドも聞いてくれる人も少ない。となりの福岡に行くと、状況はだいぶ変わってくるんですけどね。
——みなさんは〈アート・ブレイキー(Art Blakey)〉というイヴェントも主催していて、このイヴェントを通していろんな音楽を熊本で紹介する窓口にもなっていますよね。地方でこういうイヴェントを続けていくのは、それなりの苦労もあったと思うのですが。
そうですね。このイヴェントは別に熊本がどうこうではなく、単純に自分の好きなバンドを紹介したいというのと、ツアーをやりたいと思っているアーティストのサポートをしていきたいという気持ちからやっているんですけど。お客さんが集まらない時は本当に多かったです。アーティストを呼ぶにしても、そのアーティストの情報があまり届いてきてないから、集客に関してはどうしても厳しいことが多かった。場所も宣伝するメディアのないような状況で広めていくには、なかなかの時間がかかりましたね。それもここ数年で多少はよくなってきた感じはあって、いろんな人を呼びやすくなってきてはいます。
——アルバムの『Information』というタイトルにすごく含みを感じるのですが、ここにはどんな意味が込められているのですか。
なんというか、いまをすごく表した、象徴的な言葉に思えたんですよね。情報の重要さとくだらなさをすごく感じる時期だったというか。情報って、実際はそんなに価値もないし、参考程度にもならないんじゃないかと思うことがよくあって。「Information is just a needle」という、歌詞もなくてコーラスの掛け合いだけで終わる曲があるんですけど、あれはまさにそういうタイトル通りの感覚からきています。結局情報なんてそんなもんなんじゃないかっていう意識があって。
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——ひとつ前のアルバムが『technology』だったことと関連はあるのでしょうか。
もちろんありますよ。ITですね(笑)。まあ、これもシャレなんです。ただ、シャレにするためにはちゃんと客観的な視点から考えてみる必要もあって。
——俯瞰した視点をもつことが重要だと?
その俯瞰した視点すら怪しまなきゃいけないんです。たとえば、そうですね… ちょっとややこしい話なんですけど、さっきも少し話にでた、"拍"というものがあるじゃないですか。僕はあれがどうも納得いかなくて。あの存在自体が納得いかないんです(笑)。というのは、もともと人間の意識に拍とか目盛りみたいなものなんてないんじゃないかと思うんですよ。なのに、人はそれを音楽が流れた時に感じちゃうんですよね。それが腑に落ちないんです。だから、聞いている人はともかく、演奏している我々としては、その目盛りみたいな感覚をなくしたいと思っていて。だから反復練習を続けているんです。拍子を数えながらやるんじゃなくて、完全に身体の感覚でできるようになりたいんです。
——実際にその感覚が抜けていく実感はあるのですか。
やっぱりずっと反復を続けていくと、できるようになるんですよ。ひたすら続けていくと、考えなくてもできるようになっていくんですよね。
——もはや練習というより修行に近い感じがしますね(笑)。
そんなことはないですよ。楽しいので(笑)。遊んでいる感覚でそんなことをやってるんです。
——たとえばエディットしてベスト・テイクをつないでいくような方法ではだめなのでしょうか。
逆に、エディットしたみたいなものを生演奏でやりたいんですよね。それも人間にしかできないことですから。すんごく難しいんですけど、人ってひたすら繰り返していると、案外できるもんなんですよね(笑)。
LIVE INFORMATION
ぷよぷよ28
2012年4月19日(火)@熊本 Django
w / PODD / the coopeez(京都) / 子豚のペロ
東京BOREDOM in E.K.!!!!!
2012年4月22日(日)@東高円寺二万電圧×東高円寺U.F.O.CLUB×満州王(中華料理店)×Cogee Corner(民家)
OPEN / START : 12:00 / 13:00
adv / door : 2,500yen / 2,800yen(+1D)
Doit Science 2nd Album『Information』 release party
2012年4月23日(日)@代官山 晴れたら空に豆まいて
OPEN / START : 18:30 / 19:00
adv / door : 2,500yen / 2,800yen
予約 : & records(info@andrecords.jp)
RECOMMEND
トータル・タイム65分というバンド史上最長アルバム。生粋のライヴ・アクトであるモールスが4年をかけて熟成し、最早ライヴ・クラシックと化した全12曲を収録。OGRE YOU ASSHOLE『アルファベータ vs. ラムダ』、YOMOYA『Yoi Toy』を手掛けたプロデューサー斉藤耕治&エンジニア多田聖樹の不動のプロダクション・チームとの共同作業による丹念な制作に加え、ブレント・アーノルド(Modest Mouse、Quasi他)、さや(テニスコーツ)やRyo Hamamotoなどのゲスト参加も作品にカラフルさを与えている。
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マッカーサーアコンチ待望の1st full Albumは、ライヴで人気の楽曲をまとめた、まさにベスト・オブ・マッカーサーアコンチ的内容。プロデュースは8otto、モーモールルギャバンや海外アーティストを多く手がけるヨシオカトシカズ。
日本でも確固たる人気と評価を得るOwenの6作目のアルバム。更に磨きをかけた元々のOwenサウンドと、近年の様々な活動が結実した新たなOwenサウンドを感じることが出来る傑作。今作の日本盤ボーナス・トラックにはThe SmithやWilcoのカヴァーも収録。6作目にしてまたも傑作が生まれた。
PROFILE
Doit Science
2002年春、熊本にて、ノイズ/インプロ・ユニット"鬼☆弁慶"が、ナイーヴな駄目青年ドイの更生をもくろみ、無理矢理バンドに巻き込む形で結成される。 よって当初のバンド名は、「Doit Chance/ドイチャンズ」であった。音楽性も、彼のパーソナリティを反映させるべく、Galaxie500~Luna的なナイーヴ・ロックを標榜していた。しかし、あまりの演奏力の無さと、なによりもドイ自身の更生への意思の弱さ、更に、ミック・カーンをフェイヴァリットに挙げるベースの山口が、ベースをフレットレスに改造したため、音楽性の変更と、それに伴いバンド名の変更を余儀なくされる。「ドイ・サイエンス」改名後は、"レッド・クレイオラmeetsレッド・ツェッペリン"的アンサンブルを夢見て、グダグダのテクスチャーと無闇なコーラスの反復練習に励んでいる。2007年11月、自主レーベルmellowsounds worksより1st Album『Technology』を発表。 2010年4月、OWENとTim Kinsella(Joan of Arc)と共演した博多住吉神社能楽殿でのアコースティック・ライヴを収めたCD-Rを発表。 2011年4月、& recordsの東日本大震災ベネフィット・コンピに参加。自主企画"Art Blakey"を主催。アート不毛の地・熊本にて、国内外から有名無名問わず、オブスキュアで刺激的なアーティストを多数招聘。これまでのゲストは、FLUID、elevation、Teppohseen、ヨルズ・インザ・スカイ、Accidents in too large field、Micchel Doneda、山内桂、velocityut、California Dolls、一楽まどか、雅だよ雅、d.v.d、工藤冬里(Maher Shalal Hash Baz)、Fresh!、ドラびでお、勝井祐二、山本精一、RUINS alone、COMBOPIANO、テニスコーツ、電子卓上音楽団、nhhmbase、the guitar plus me、miyauchi yuri、Autumnleaf、worst taste、マクマナマン、Lawrece English、KIRIHITO、PANICSMILE、百景、awamok、Rachael Dadd、Ichi、いんぱらのヘソ、ヒゲの未亡人、cokiyu、倉地久美夫+外山明、アニス&ラカンカ、等々多岐に渡る。