PoPoyans INTERVIEW
なんせ4年ぶりの新作なのだ。きっとここに至るまでには様々な紆余曲折があったのだろうと、この『ZOO』という作品を聴きながら想像を巡らせていたところだった。ところが、この日の取材に現れたふたりの姿を目の当たりにした途端に、筆者は用意していた質問のほとんどが野暮なものに思えてしまった。いや、ふたりじゃないな。彼女達はもうひとり、とても幼くて可愛い女の子を連れてやってきたのだ。
なんてことのない日常にいるだけなのに、嬉しくて思わず涙が溢れ出てしまう。PoPoyansの新作『ZOO』はそんな瞬間をいくつも切り取ったような作品だ。そして作品の全編に漂うこの満ちた空気がどこから宿ったものなのかは、生まれて1歳半になるというnonの娘を交互に抱えながら話すふたりの表情を見れば一目瞭然だった。軽快なカントリーから身の締まるような室内楽まで、楽曲の幅は前作よりもはるかに広がった。鈴木惣一朗のプロデュースがそれをよりモダンなサウンドに仕立てている。苦難の季節を経たnonとcheruは、PoPoyansというふたりで作った憩いの場で、これまで以上にのびのびと歌っている。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
PoPoyans / ZOO
待望のセカンド・フル・アルバム。妖精の唄声と評された前作『祝日』発表から4年、世界を優しく見つめる眼差しはそのままに、今作ではより自由に開放的で深みのある、色鮮やかな作品に仕上がりました。前作に引き続き、プロデュースを手掛けたのは彼女たちの音楽を深く理解している鈴木惣一朗。揺らぐ感情を紡ぎながらも 一歩前へと踏み出して行く意思を持った唄の世界。生き生きとしたひかりのうた、全12曲。
【収録曲】
1. Daisy / 2. tink pank / 3. Little Little Little Pixie / 4. 仔馬のギャロップ / 5. 星になりたい / 6. 深い深い眠り / 7. 抱きしめたい / 8. 湖 / 9. When the owl sleeps / 10. からっぽの箱舟 / 11. ZOO / 12. さよなららん
PoPoyansの音楽はふたりのやりとりの中でしか生まれない
――前作を出してからの4年間で、おふたりを取り巻く状況も少なからず変わったようですね。
non : 『祝日』を録音していた当時、私たちはまだ学生で、リリースが卒業とほぼ同じくらいだったんです。自分たちがまだ社会に出る前の、音楽への夢と希望ばかりが溢れていた時に作ったのがあのアルバムでした。未熟だったけど、根拠のない確信と自信に満ちていましたね(笑)。自分たちの作るものが、本当にすごくいいと思ってた。
――もう少し『祝日』のことを振り返っていただきたいんですが、おふたりは当時、どういう構想をもってあのアルバムの制作に臨んでいたのでしょう。
non : 『祝日』の前に自主アルバムを2枚作っているんです。それはお互いが学生時代に住んでいた部屋で録ったもので、部屋の外を走る車や電車の音が入っていたりして。ふたりが顔を寄せ合って作っていたものだったんですね。だから、ふたりの関係性をなによりも大切にして作ったのが、あの『祝日』だったんです。リズムも入れずに、歌と最低限の音数にして。プロデューサーをはじめとして、作品に携わってくれた方々がみんなが、cheruさんと私という存在に添って協力してくれました。
――そのおふたりの関係性になにか変化はありましたか。
non : そこは特にないですね。私の妊娠をきっかけに、むしろ前より居心地がよくなったくらいで。
cheru : わたし、出産に立ち会ったんですよ(笑)。
――え、それはすごい。
non : (笑)。ちょっとしたハプニングからcheruさんにも立ち会ってもらうことになって。すごく楽しい出産になりました(笑)。妊娠は、自分たちの活動を考え直すひとつのきっかけにもなったんです。『祝日』を出してから、いろんな人が私たちに関わってくれるようになったことで、自分たちはなにかを求められているんだと感じるようになって。私たちもそれに応えなければと思ったんですよね。そうしているうちにわからないことだらけになってしまって。そこで妊娠を機に自分たちの姿を省みたんです。それでようやくまた自分たちが心からそうありたいと思える姿に向かっていけるようになって。だからこの『ZOO』ができたんだと思います。新しくできた自分たちのレーベルにしてもそうですね。
――ここまでの何年かは、いまのおふたりに合わせた環境づくりのために設けた時期でもあったんですね。
non : やっとこの2年くらいでそれが出来始めた感じですね。
cheru : わたしの発想が枯渇してしまった時期もあって。やりたいことがあまり浮かばなくなってしまったんです。それがnonちゃんの妊娠がわかったことをきっかけに、少し休もうということになって。その期間がよかったんです。お休みって大切だなと思いました(笑)。
――その枯渇していた時期に感じていた苦しみというのは、あくまでも新しいアイデアが生まれないことからくるものだったのですか。それとも別の要因からきたもの?
cheru : 向かう先がだんだんぶれてきていたのかもしれないです。最初は自分たちが作りたいものを、ただやりたいようにやっていたのに、それがどこに向かっているのかがわからなくなって。それからしばらくは苦しい時期が続きましたね。それに、もともと私は内向的というか、控えめな方で、あまり外に出ていかないタイプなんですよ(笑)。でも、nonちゃんはそんなわたしにいつもきっかけをくれるんですよね。「やろうよ!」って、私を強く押してくれるというか。
non : でも、私も行き詰ってました(笑)。『祝日』を出してから、もう怒涛のように日々が流れていって、ふたりともわからなくなっちゃったんですよね。私たちはふたりの関係のなかから生まれてくるものをずっと大切にしてきたし、その時もそうだと思っていたけど、毎日のように一緒にいて膝を突き合わせるようにしていると、それがよくわからなくなってきて。それで妊娠をひとつのきっかけにお休みすることにして。ただ、私は気持ちとしては元気だったんです。でもPoPoyansの音楽はふたりのやりとりの中でしか生まれないから。cheruさんがしっかりと構えていてくれていないと私はなにもできない。その土壌があってこその私なんです。その土壌が枯れてしまった状態では、やっぱりなにもできなかった。でも、必ず復活すると思ってたし、その土壌に水を与え続けることだけは私でもできたから。
――背中を押し続けたということですね。
non : わたし、背中を押すことだけは得意なんです(笑)。cheruさんが「私はいいよ」と言ってる時は、私から「行こうよ」って声をかけるんですけど、cheruさんがいないと、私はひとりで前に進めないんですよね(笑)。
――この作品に収められた楽曲は、どれも表現が喜びに向かっていくような印象がありました。でもこれはそうした苦しい時期を経たものだったんですね。
cheru : そうですね。私たちが曲を書くときは、むしろ悲しみから出発するところがあるかもしれないです。ただ、悲しみを悲しみとして表すというよりは、悲しみがあるところから、一歩前にでていくような感覚というか。そういうコンセプトで作ったところはあります。特に今回のアルバムは、前進していくようなものにしたかった。
――制作期間はどれくらいかかったんですか。
cheru : 短かったんですよ。録音自体は1ヶ月以内でぎゅっと録っちゃいました。
――あ、そうだったんですか!きっとアレンジにゆっくりと時間をかけて臨んだのだろうと思っていたのですが。
cheru : 前作と比べたら、トラック数の増え方はものすごいですからね(笑)。『祝日』とは録り方もまったく違うし。楽曲自体はどれも何年も前からあるものもあったので、それを作品に収めるにあたって、もう今回はいろんなことをたくさんやってみたいと思ったんです(笑)。今回も一緒に作ってくれた鈴木惣一朗さんも含めて、いまの私たちが持っているイメージを全て持ち寄って作っていきました。
――なにか参考した音楽もあったのでしょうか。
cheru : それはたくさんありましたね。いつも、惣さんとの「いま聴いている音楽はなんだ」っていう会話から始まっていくんです。そこからアレンジを考えてみたり。
non : それこそブルックリンのものがたくさん挙がったよね。スフィアン・スティーヴンスとか。
――なるほど。ここ最近の先進的な音楽をおふたりは楽しんでいるんですね。
cheru : すごく楽しいですね。ジェイムス・ブレイクとかも聴いてたな。本当にすごいと思う。
大人になってから見る夢の方が、こんなにも楽しくて幸せ
――では、この『ZOO』というタイトルはどういうところから名付けられたのでしょう。
non : もう一昨年だっけ? 青山のCAYでイヴェントをやったときに、今回のジャケットをデザインしてくださった八木良介さんに会場の美術をお願いしたことがあって。いろんなものをステージ上にたくさん作り込んだんです。八木さんとはいつもテーマを決めた舞台作りをしていて、「次のテーマは動物でどうだ? 」となって名前と掛けて「PoPoyanZOO」 っていいじゃないと話になって。ちょうどその頃はすごく悶々としていた時期で、なんとか絞り出して活動している感じだったんですけど、そんな時にまわりからぽろっと聞こえてきた、その「PoPoyanZOO」いう言葉が、なんかすごく耳に残って。妊娠でおやすみ期間に入っている間も、その「PoPoyanZOO」という言葉が最後の光みたいに残っていたんです。いつか「いつかPoPoyanZOOがやりたいな」という気持ちがどこかにずっとあった。それを形にできたのがこのアルバムなんです。ただ、さすがにタイトルをそれにするのはどうかと思って、『ZOO』にしたんですけど(笑)。
cheru : なんというか、枯れた大地の上で、崩れた木の破片や塵のようなものがだんだんと集まっていって、それが動物の形になって再生していくようなイメージをその言葉から感じたんですよね。そのイメージをふたりで共有していたんです。
――それは自分たちの境遇と照らし合わせていた部分もあったのでしょうか。
cheru : そんなつもりはなかったんですけど、なんかしっくりしちゃったんですよね(笑)。
non : 私たちがそういうダジャレみたいなものが好きっていうのもあって(笑)。そういう微妙なネーミング自体はよくやるもんね。
cheru : そもそもPoPoyansだって、ねぇ(笑)。
non : そうだね(笑)。でも、私たちの制作に関わってくれる人からそういう発想を生んでもらえたことがすごく嬉しかったんです。ライヴにしてもそうで。私たちのライヴの規模ってそんなに大きなものではないし、スタッフだってそんなにたくさんいるわけじゃないんですけど、そんななかで自分たちから生まれたイメージをみんなの手作りで形にしていけることがすごく大切なんです。いつも面白い演出がしたいと思ってる。
――PoPoyansの表現は、そういう遊び心から生まれていくということですね。
それがまた刺激になることで、自分たちの創作活動は循環していってるんだと思います。
――タイトル・トラックについても聞かせてください。この曲でうたわれている描写は、ファンタジーというよりはもっと日常に根ざしたものですよね。
non : あの曲はアルバムの中で一番最後にできたものなんです。収められた曲のほとんどはずっと作りためてきたものなんですけど、あの曲だけはこのアルバムのために用意したもので。ちょっとだけ違う方向性の曲がほしかったんです。そこで悶々と考えていくうちに、“塀の上に猫”という言葉がふと浮かんで。そこから風景描写がどんどん生まれていったんです。それは自分たちが住んでいる街並みとすごく近いものだったんですよね。今までの曲はもっとイメージに寄ったものが多かったので、自分たちのなかですごく新しいものができたような気がしました。自分たちのまわりにあるなんでもない日常的な風景が、いかにありがたくて、愛おしくて、泣けてくるくらい嬉しいものなのかっていうことを強く思ったんです。そのきっかけは、やっぱり震災と原発のことが大きかったと思います。自分たちはこの世界をこういう風に見ていたいんだという思いからできた曲なんだと思う。
――こうして子育てでお忙しい時期に活動を再開させるのはいろいろと苦労もあるだろうと思ったのですが、むしろ今のおふたりはものすごく希望に満ちているんですね。それがすごくよく伝わってきました。
cheru : 私も子供を持つ気持ちがわかったし、なにより彼女にすごい変化があったんです。これは私にしてもそうなんですけど、nonちゃんは風が吹いたら揺れてしまうような人で、心配になることの方が多かった。それがいまは精神的にすごくどっしりしたというか、すごく芯が太くなったんですよね。守らなければいけないものを抱えることの大きさをすごく感じました。今も、こうして子供が泣き出しちゃったり(笑)、不自由なことは前よりもずっと増えたんですけど、前よりずっと楽しいんですよね。笑うことがすごく多くなった。
non : たしかにすごく大変なんですけど、いまがすごく幸せで。私、子供の頃ってなんにでもなれる気がしてたんです。しかもそれって、自分でちゃんと描けば本当に叶ってしまうこともあって。実際に私たちがそうだったんですよね。具体的な夢がいくつもあって、それを描いていったら、それがどんどん叶っていった。今思うと、苦しんでいた時期は具体的な夢や希望がなくなってたんですよね。いまはまたそれが溢れている状況で、それがすごく幸せなんです。大人になってから見る夢の方が、こんなにも楽しくて幸せなんだっていうことを日々感じているし、今は自分たちの夢が叶う気しかしていないんです。
PoPoyans ZOO Release Tour
2012年6月2日(土)@松江 清光院下ギャラリー
2012年6月3日(日)@鳥取 わらべ館
2012年6月10日(日)@愛媛 禅興寺
2012年6月16日(土)@福岡 eel
2012年6月17日(日)@北九州 cream
2012年6月23日(土)@神戸 旧グッゲンハイム邸
2012年6月24日(日)@高松 umie
2012年7月1日(日)@名古屋 K.D ハポン
2012年7月7日(土)@岡山 禁酒会館
2012年7月8日(日)@高知 蛸蔵
2012年7月16日(月・祝日)@東京 CAY
RECOMMEND
WATER WATER CAMEL / さよならキャメルハウス
全国の植物園からお寺まで、小学校から洋裁学校まで、長年に渡る柔軟なライブ活動、文化活動によって独自のネットワークを持つスリー・ピース・バンド。音楽とは特に敗北者の為にあります。弱い立場にいる人間にとって、素晴らしい音楽がいったいどれほどの救いになってきたことでしょう。敗北と再生という、今時代に最も必要とされているテーマのひとつを強烈に意識した作品です。今哀しみの淵にいる人々を静かに支えることの出来る意義あるアルバムです。
V.A. / おひるねおんがく Lullaby for Siesta
『りんごの子守唄』、『雪と花の子守唄』など、子守唄(=眠りのための音楽)というキーワードのもと、数々の人気シリーズを手掛けてきた鈴木惣一朗(ワールドスタンダード)監修/選曲の、シアワセなおひるねのための小品集。晴れた午後。縁側に干してあるふかふかの布団にくるまって、おひさまの匂いに包まれた「うたた寝」の至福。おひるねの記憶を蘇らせ、聴き進むうちに、いつのまにやらうつらうつらしてくる、穏やかな時間が流れています。
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四半世紀を超えるキャリアの中で、数多くのミュージシャンが在籍し、今なお新たな音楽と才能を輩出し続ける鈴木惣一朗率いる音楽集団WORLD STANDARD。鈴木惣一朗が立ち上げたレーベルstellaの第3弾作品となる本作は、2011年3月11日を挟んで制作された7つの日本語歌と、7つのインストゥルメンタル音楽を収録。メンバーのリヴィング・ルームで、身を寄せ合うように奏でられた14の音の響き。それらを伝えるためにこだわり抜かれたスルーテイク・レコーディングと、アコースティックな楽器編成によるサウンドで、音の深い部分まで潜り込んでいってみましょう。
PoPoyans PROFILE
cheru・nonからなるフリー・フォーク・デュオ。クラシック・ギター、 グロッケン・シュピール、ベル等の音色と共にイノセントな二人の唄ごえが重なる。二枚の自主アルバムを発表後、鈴木惣一朗をプロデューサーに迎えたフル・アルバム『祝日』を発表。幻想的なイメージを具現化した映像、演出をもちいたLIVEを企画 開催。また、全国の旧駅舎、ギャラリー、古民家、カフェなど独自の場 所との出会い、繋がりを大切にしたLIVE活動を行う。その傍ら、映画、CM などに楽曲を多数提供している。制作スタイルは音楽に留まらず、映像作品やプロダクト(草木染め作品 etc.)の制作など、二人のやりとりから始まる全ての表現を PoPoyansとし、奔放に活動中。