SEBASTIAN X、ファースト・フル・アルバム『FUTURES』完成!
待ってました! SEBASTIAN Xのファースト・フル・アルバム『FUTURES』が完成。2枚のミニ・アルバム、配信限定シングル、ツアーやフェス出演を経て、更なる飛躍を遂げた彼ら。エンジニアにクラムボンなどとの仕事で知られる星野誠氏を迎え、初の合宿レコーディングを行ったという今作は、「音楽の力 / 歌の力 / 言葉の力 / 言葉や音にならない感情を伝える」というコンセプトの通り、真っ直ぐな言葉が力強く響く作品になりました。今の彼らの、どこまでも広がっていく勢いと煌めきは止まりません!
SEBASTIAN X / FUTURES
1. ROSE GARDEN,BABY BLUE / 2. スピカ / 3. 光のたてがみ(Album ver.) / 4. 日向の国のユカ / 5. FORTUNE RIVER / 6. Sleeping Poor Anthem / 7. 恐竜と踊ろう / 8. おまじない / 9. TYPHOON / 10. 愛の跡地 / 11. F.U.T.U.R.E. / 12. ロングロングジャーニー
永原真夏(SEBASTIAN X) × ヌケメ対談
もしかすると彼女達は今、長かった青春に別れを告げようとしているのかもしれない。満を持しての完成となったSEBASTIAN X初のフル・アルバム『FUTURES』は、自分達を取り巻く時代と真っ向から対峙した野心作だ。これまでの彼女達が、あえて時代性と離れたところでファンタジーを歌っていたことを考えると、いま、このバンドは転機を迎えていると捉えても間違いではないだろう。「ROSE GARDEN,BABY BLUE」を筆頭に、今作で永原真夏が描く人物はおしなべて、自らの信念を貫くことと引き換えに社会からはぐれてしまった者達ばかりだ。そんな中で彼女は豊かさとは一体何なのかを何度も問いかけながら、これから迎えるべき未来を歌う。まさかこのバンドが今こういうテーマに取りかかるとは予想もしていなかっただけに、尚更胸にくる。歌詞、演奏、歌唱、楽曲のバリエーションと完成度、その全てにおいて前2作をはるかに凌ぐ、現時点でぶっちぎりの最高傑作だと言っていいと思う。
さて、今回はその新作の発売を記念して、SEBASTIAN Xの永原真夏に対談企画をオファーしてみた。相手は、作家の辺口芳典による散文のカットアップを刺繍した黒地のキャップ、通称「ヌケメ帽」が現在話題を集めている気鋭のデザイナー、ヌケメ。同世代だというこの二人に、お互いの制作にまつわる話を聞きながら、彼らの作品が持つ現代性、そして独自の言語感覚に迫った。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
対談写真 : ハタエアヤミ
言葉ってすごく生理的なものだと思うんですよ(永原)
――まなっちゃんもヌケメ帽からヌケメさんのことを知ったんですか。
永原真夏(以下永原) : そうですね。「光」(永原がバイトしている古着屋)に常時20~30点は置いてあるんですけど、それからライヴ・ハウスでも被っている人を見かけるようになって「なんだなんだ、これは? 」みたいな感じで(笑)。共通の友人もいたんですけど。あと、ツタンカーメンがプリントされている服がありましたよね?
ヌケメ : ありますね。
永原 : それもうちの店に置いてあって、「あれはいつか買いたい」ってうちのキーボードとよくしゃべってたんです(笑)。
ヌケメ : 上が大仏で下がツタンカーメンのやつのことですよね?
――なんか話を聞いててもどんな服なのかまったくイメージ出来ないんですけど(笑)。二人は今日が初対面なんですか。
永原 : 少し前に挨拶して、今日は2回目ですね。この前ヌケメさんと話していてわかったんですけど、私達は歩んできた道が逆みたいで。ヌケメさんは昔バンドをやっていたんですよね。
ヌケメ : はい。(パートは)ベースで。最近また友達と「ヌケメバンド」っていうのを始めたんですけど。
永原 : そこからヌケメさんは服飾の方に行かれたんですけど、私も学生の頃はバンドをやりながらも服飾の仕事にずっと興味があって。どっちにしようか悩んで音楽を選んだっていう感じなんです。
――その別れ目で音楽にいく決め手になったのはなんだったんだろう。
永原 : まあ、いいメンバーに出会ったってことですかね(笑)。
ヌケメ : その時は今の前身バンド?
永原 : 今の前身の前身の前身でやってたコピー・バンドです(笑)。その頃から今のメンバーは一緒で。ひとりメンバーが変わる度に名前を変えてたんだけど、最初から変わってないメンバーで結成したのがSEBASTIAN Xです。
――ヌケメさんはヌケメ帽で広く知られていますが、それ以外にも様々なデザインを手がけていらっしゃるんですよね。
ヌケメ : 帽子を作ろうという話になったのは学校を卒業して東京に越してきてからで、2008年の年末に初めて帽子を展示したんです。最初は売り物じゃなかったんですけど、ほしいという人がいたので売り出してみたら、意外とたくさん手にとってもらえて。
永原 : 帽子を柄とか色で選ぶことはあっても、文字で選ぶって斬新ですよね(笑)。私は普段から詞を書いているからわかるんですけど、言葉ってすごく生理的なものだと思うんですよ。その感覚で帽子を選んだことは今までなかったから、すごく新しいと思ったんです。
ヌケメ : (笑)。英語だとあるじゃないですか。
永原 : でも、日本語だとわけが違いますよ。
――英語のプリントだと日常にすっと馴染むのに、それが日本語になると途端にこれだけのインパクトを持つのは、確かに不思議な感じがしますね。
ヌケメ : 辺口さん(辺口芳典。文筆家・写真家で、ヌケメに文章と写真の作品を提供)と、洋服をメディアみたいにできるんじゃないかという話になって。オランダかどこかで自分のおでこを広告媒体にして貸し出すサービスがあったんですよ。そこで、帽子の上で辺口さんの作品を発表できたら面白いんじゃないかという話になって。さきほどおっしゃっていたように、英語がプリントされたものはあるんですけど、日本語のものがないというのは僕も気になっていて。例えば英語で「CAT」とか「LOVE」とか書いてあるTシャツを英語圏の人達が見る時はこういう気持ちなんじゃないかなと思って作ったんです。
永原 : それは気になりますね。逆に、外人さんが漢字で刺青入れてたりするのも気になる。「志」みたいな(笑)。
――SEBASTIAN Xっていうバンド名も、意味より語感を重視してつけたものなんでしょ? 海外の人達のネーミングも、そういう感覚的なところから付けられたものが多いような気もするけど。
ヌケメ : そうですね。ゾンビーズとか、意味で捉えたら酷いバンド名ですよね(笑)。
永原 : (笑)。日本語の場合は漢字とひらがなとカタカナがありますからね。
ヌケメ : あと、日本語英語もあるじゃないですか。(「びしょ ファンシー 濡れ」と刺繍されたヌケメ帽を指して)この「ファンシー」とかも、元の意味とはまた違った使われ方ですよね。たぶん。
年代とか作った人の意図とかから離れて放流されていく感じがいい(ヌケメ)
――ちょっと話が戻るけど、さっきまなっちゃんは「言葉は生理的なもの」と言ってたけど、例えばまなっちゃんにとって受け付けない言葉ってどういうものなんですか。
永原 : そうだなぁ。詞を書いていて、漢字とひらがなの比率がきれいにならないと気持ち悪いんですよね。
――そこは語感とかではなくて、文字としてプリントされた時の話なんだね。
永原 : そうそう。文字がドーンと並んだ時の気持ちよさがあるんですよね。曲目を決める時も「漢字が増えちゃったからカナカナ入れよう」とか、「英語が少ないな」とか、自分の中のバランスがあって。それが崩れるといやなんです。
ヌケメ : ヤンキーが当て字で全部漢字にするのと同じ感覚ですか?
永原 : ああ、「夜露死苦」とかブログでよく使います(笑)。確かにああいうのめっちゃ好きですねぇ。外人さんが日本語を使う面白さもそうかな。
ヌケメ : あれはかわいいですよね。それこそ「カワイイ」とかも使うし。「ヘンタイ」も国際的に通じるし。表現するのにしっくりくる英語がないんでしょうね。
永原 : そこになんか愛嬌があると思うんですよね。キッチュな感じもする。例えばサンリオの昔のキャラとかって、もはやただかわいいだけじゃなくて、キッチュな領域になっているような気がするんですけど、その感覚と近いかも。
ヌケメ : ダサさとかも込みなのかも。
――そのキッチュな感覚とかはヌケメさんが創作にあたる時にも意識されるんでしょうか。
ヌケメ : それはまた別ですね。
――じゃあ、ヌケメさんが作品を披露する時は、受け手のどんな感覚を刺激したいと思うのでしょう。
ヌケメ : ヌケメ帽に関して言えば、これは機械的に作っていて。なるべくデザインの要素を入れないようにして、ただ黒い帽子に言葉が載っているだけにしようということだけに気を使いました。大きさとか、文字と文字の間隔とか、細かいことはもちろんやりますけど。あまり自分が手をかけすぎず、ただ完成度を上げていこうとしています。
――あえて無機質にしていると。
ヌケメ : そうですね。帽子に関しては辺口さんの作品に依っているところが大きいので。ただ、他の洋服になるとまた別ですね。
永原 : (写真がプリントされたニッカポッカのデザインを見て)これなんか見ると、かなりヤンキー美学を感じるんですけど。
ヌケメ : ニッカポッカって元々オランダの服なんですよ。学ランもオランダなんです。でも日本っぽいんですよね。だから外人さんが見ても面白いんじゃないかなと思って。簡易宿泊街とかに行くと、急にそこらじゅうにあれを着た人が歩いている感じが面白いし。
――たとえば好きな野球チームの野球帽をかぶると、それはひとつの意思表示にもなりますよね。その言葉をチョイスするにあたっては、あまりヌケメさんは介入しないようにしているということですか。
ヌケメ : これは辺口さんから頂いた長い散文を文節ごとにカットアップして、僕が好きな言葉を勝手に配置していくような感じで作りました。でもその切り取られたものをランダムに並べても、また別の散文になるんですよね。つまり辺口さんの散文自体が並べ替えても成立してしまえるものだったので。よく「これはメッセージなんですか」と言われるんですけど、僕はただ辺口さんの作品を人の頭の上に配置している感覚なんです。例えばもし被っている人が「暴かれたい」という気持ちで「暴かれたい」と書かれた帽子をかぶっていたら、それはメッセージになるかもしれないですけど、それはもう詩の意味から切り離されたものなので、僕はそれを見て楽しむだけというか。
――まなっちゃんはそれを被りたいと思ったわけだよね。その時はどういう意識が働いたんだろう。「愛・鈍・脳」が気に入ってたみたいだけど。
永原 : かっこいいなって素直に思ったんですよ。さっきのヤンキーが「この漢字の並びかっこいい! 」っていう感覚と同じだと思う。直島に『愛・ラブ・湯』(大竹伸朗がてがけた入浴できる美術施設)があるじゃないですか。あそこの番台のおじいちゃんおばあちゃんが、大竹さんがデザインしたアーティスティックなフォントで「愛・ラブ・湯」ってプリントされたTシャツを着ているんですよ(笑)。あの感じと、この帽子は近いなと思って。だから私としては、実家に帰ったらお母さんがこの帽子を被っててほしいんですよね。「ちょっと借りたわよ」みたいな感じで(笑)。
ヌケメ : 日差しがきつい時にちょうどいいみたいな(笑)。でもそれは理想かも。
永原 : このキャップが流れながれて、市場のおじちゃんとかが被ってたらステキですよね。
ヌケメ : 実際、放っておくといつかそうなるんじゃないかと思います。古着屋に出回ってる70年代のディオールの服みたいになったらいいなと思ってて。年代とか作った人の意図とかから離れて放流されていく感じがいいなと思って。
――作られた当時の時代性から離れてほしいと。
ヌケメ : そうですね。ただのモノっていう感じになってほしい。今は僕が作ったことになっているけど、最終的には誰が作ったかわからないものになってほしい。それにこの帽子も、誰が被るかによって意味がまったく違うものになるので。
――お話を聴いていると、人がこの帽子で着飾るというよりは、この帽子が人を乗り換えていくと言った方が近い気がしました。
ヌケメ : そうですね。そういう感覚は割とあります。前は手売りだったから誰がどの帽子を買ったか覚えてたんですけど、お店に置いた時点で、誰がいつどこで買ったかわからなくなったんですよね。で、その放流されている感じが面白くなってきて。
――その流れで話すと、今回のSEBASTIAN Xのアルバムってかなり時代性を意識しているように聴こえたんですけど、どうですか。
永原 : しましたねぇ(笑)。年齢とかも関係あるのかもしれない。大きな出来事もあったし、私の日常の範囲でもいろんな変化があったから。時代を感じやすかったんでしょうね。
――SEBASTIAN Xには彼女の書いた詞に感情移入するリスナーが非常に多いと思うんですが、ヌケメさんはどうお聴きになられましたか。
ヌケメ : ああ、それはすごくわかりました。心情的なものを重ねられるバンドなんだろうなって。音源と一緒に紙資料を頂いたんですけど、そこに「とにかく勢いと突き抜け感がすごい! 」って書いてあって(笑)。
永原 : (笑)。やだー!
ヌケメ : (笑)。そのコメントも気持ちが乗っかっててよかったし、確かにその通りだなぁと。いろんな音楽の要素が入っているなと思って聴いてたんですけど、実際に本人と話してみたらハードコアをやっていたと聞いて。この人達はただポップスが好きでこれをやってるんじゃなくて、いろんな音楽を聴いて最終的にポップスに辿り着いたんだなと。
――ハードコアのコミュニティから離れることになったきっかけはなにかあったのかな。
永原 : その界隈にどっぷりはまればはまるほど、ガチすぎて怖い人達が出てくるんですよ。ライヴに行くとリンゴを投げつけられたりとか(笑)。そういうちょっとヤバイなってところに何度か遭遇した時にビビって逃げました(笑)。それに「ここなのかな? 」と思いながらやっていたところもあったし。やっぱりポップなものがやりたいなっていう気持ちが出てきて。
――でもそれって今の音楽全体に言えるのかも。ファンとバンドの付き合い方が密接すぎて外からは入り込めない空気を感じることはけっこうあるんだけど。SEBASTIAN Xの場合はどうかな。
永原 : 私は親密になっていけるならなりたいです。せっかくなら仲良くしようよって思う。高校生のお客さんが来ていたら「あなたたちっていま何を考えて生きてるの? 」って聞きたくなるし(笑)。回りから見た自分のイメージとかはあまり気にしてないです。自分がどう思われているかっていう情報の収集はしないようにしているから。みんなからどう思われているかはなんとなくわかるけど、それを自分から調べないようにしている。知ると面倒なことになることはわかってるから。ライヴ・ハウスに直接来てくれている人達は、ステージで動いている私を見て思っていることだからいいんですけど、それとは別のあんまりリアリティのない意見は受け入れたくないし。
――ネット上に自分達の動画がアップされたりするようになると、知らないところで自分のイメージが出来上がってくるよね。
永原 : うん。
ヌケメ : 実際に出来てると思うし、きっと実像とずれがあるんじゃないですか?
永原 : でも、ずれがあろうとなかろうと、多くの人に何かしらの形で伝わるならと思ってます。だって、ヌケメさんに知らない青年がいきなり「おれ、ヌケメさんのファンで、あの帽子にホント感動して、あのー! 」って声かけてきたら、間違ってても、きっとありがとうとは思うじゃないですか(笑)。
ヌケメ : (笑)。どういう意味で良いと言ってくれてるのかがわからないから、そこはドキドキしますけど。
――基本的にヌケメさんが顔出しをNGにしているのも、そこを意識してのことですか。
ヌケメ : それは、さっきの帽子を無機質にしたいという話とリンクしてます。人前に出るのが嫌なわけではないんです。ただこういうインタビューや対談が載る時に文章と顔をセットにはしたくないというか。身体を使ってなにかをやる時はそれが作品になるから、動画とかが残ってもいいんですけど。画像検索した時に顔が出るのは嫌で。検索した時に違う顔が60個くらい出てくるならいいんですけど(笑)。すぐ正解に辿り着いてほしくないんです。ずっと間違っててほしい。一種の嫌がらせですね(笑)。
永原 : ヌケメさんって人を介せばすぐに会える人だったんですけど、作っているものだけを見ているとまったく想像がつかないから。「意外と陽気なのかな。でもやっぱり恐い人かも」って思ってました(笑)。
ヌケメ : けっこう恐い人だと思われているみたいですね。
――無機質なイメージがあれば、それは恐いですよね。
ヌケメ : 帽子もTシャツも辺口さんの作品の質感が強く出ていますからね。僕も辺口さんは恐い人だと思ってましたから。それは無機質さというよりはストイックな感じの。強さっていうか。写真もぜんぶ「写ルンです」で撮っていて、そこにすごくハードコアな感じがしたりとか。実際はまったく恐い人じゃないんですけど。辺口さんは文章も紙とボールペン一本で延々と書いているんです。そういうコンビニで買えるようなものだけを使って作品を作っているのがすごいなと思って。
――作品をつくる際は、材料にしても自分の日常から離れないようにしないとリアリティが失われるということですね。
ヌケメ : まあ、そうですね。Tシャツとかもただ写真をプリントしているだけなんですけど、これも家で作ってるので。
永原 : 木が茂っているところに「HOTEL」っていうネオンが光っている写真がプリントされたやつ、あれいいですよね。
ヌケメ : 松の木が写ってるやつですよね。あれも辺口さんの写真なんですけど、前後の文脈がない状態でいきなりそういう絵が出てくると面白いですよね。
永原 : ああ、確かにぶった切ってる気持ちよさがありますね。「~~から、ホテルのネオンがあって」じゃなくて、ただ唐突に松の木とネオンがどんと出てくるっていう。
ヌケメ : 200ページくらいある小説の途中で一言だけ抜き出すような感じですね。僕がいま着ているのもそんな感じですね(お釜と虎がでかでかとプリントされているTシャツ)。
――帽子と他の洋服ではまた違ったアングルがあるんですね。
ヌケメ : さらに言うと、辺口さんの作品を載せることを前提にして作ったものとそうでないものでは全然違います。11月にまた洋服の展示をやるんですけど、それは別の作家さんと一緒に作っているので、まったく別のものになると思います。
ファンタジーはタダですからね(永原)
――そうやって様々なアプローチで制作に取りかかっていくと、ともすればすごくとりとめがない作品にもなり得ると思うのですが、制作にあたってなにか起点になっている考えがあるのでしょうか。
ヌケメ : この前、真夏さんが「中学の同級生が聴いてもいいと思えるようなものが作りたい」と言ってて、それはわかる気がしたんです。色んな人に伝わるものって何なんだろうって気持ちは僕もあって。服飾の専門学生なんて服好きのやつらばっかりだから、学生の頃、回りの友達はみんなブランドものをたくさん買ってたんですよ。もちろん僕も。一方で、音楽や絵をやっている友達もいて、その友達はハイブランドの洋服なんて着ていないんだけど、すごくオシャレなんです。むしろハイブランドを着るような人達に嫌な感じを持っていたりして。そこの断絶が気になりました。ファッションが好きでファッションに関わっている人と、感覚的にオシャレをしている人を繋げられないかなとは思ってて。
永原 : ハイブランドを着ている人って、見て笑っちゃいけないんですよね。「これ、表と裏の色違うじゃん! 」みたいなことを言ったら怒られそうで(笑)。ヌケメさんの洋服は、笑ってもいいから。笑ってもいい領域のオシャレって楽しいですよね。洋服の褒め方は「かわいい」だけじゃないと思うし。
ヌケメ : 「なんだこれ。テキトーに作ってんなー。ボロボロじゃねーか。買うわ! 」みたいなノリとかね(笑)。
永原 : 私も洋服が好きでいろんなものを買いますけど、かといって仕立てがよくて一番美しいものが着たいわけではなかったから。
ヌケメ : ハイファイだけじゃなくて、ローファイでもいいとかそういうことですよね。
――服装が自分の日常とずれると違和感が生まれるよね。まなっちゃんが言う突っ込みづらい人ってそういうことなのかな。
永原 : ああ、絶対それは突っ込めないですよね(笑)。それが20万以上する服だったりしたら、絶対に言えない(笑)。
ヌケメ : 自分とずれるというのは、確かにありますよね。「よく考えると、俺こんな服買えるほど稼いでないし」とか。自分自身のイメージが実体とずれていくと、なんか変な感じになってきますよね。
――それは作り手に対しても言えることですよね。
ヌケメ : 僕は、布地はほとんど新宿のオカダヤで買ってますけど(笑)。
――つくりたいもののイメージが、自分の身の丈と釣り合わなくなることはありませんか。「これをつくるには予算が20万必要だけど、そんな金どこにもない」みたいな。
ヌケメ : うーん。それはあんまりないですね。ほとんど空想みたいに現実に即してないことを考えることはよくありますけど。「ロボットになりたい」とか。でも作品をつくる場合は、「現実性がある! 」「実現できる! 」ってことがわかった瞬間に気持ちがアガるんですよね。できないことには興味がないです。
――まなっちゃんはどう? SEBASTIAN Xはそれこそファンタジーを歌ってきたわけじゃないですか。
永原 : でもファンタジーはタダですからね。それが身の丈と合わなくなったこともないな。自分の部屋で出来た世界がこんなに大きくなるのかって、びっくりさせられることの方が多いから。
――ロボットになりたいとおっしゃってましたけど、他になにかよく妄想することはありますか。
ヌケメ : あぁ、インターネットに住みたいですね。サーバー上に存在したい。
――えー!
永原 : (笑)。テキトーに言ってませんか?
ヌケメ : (笑)。いやいや。電脳化したいです。
――まなっちゃんはどう思う?
永原 : 絶対いやですよ(笑)。私は草を踏み、野を駆けて生きていきたいですから。
ヌケメ : ツイッターのbotってあるじゃないですか。あの感じが割と好きで。もちろんなれないのは知ってて言ってるんですよ(笑)。だから面白いんです。僕だって人間味にあふれる人間ですよ(笑)。
――うん。ロボットになりたいって、すごく人間味あふれる考え方だと思う(笑)。
永原 : 小学生とかしか言わないですよね(笑)。「ガンダムになりたい」とか。
ヌケメ : 小学生そんなこと言います? だってガンダムは「乗りたい」なんじゃ…?
――俺、小さい時はガンダムになりきって友達と遊んでたから、それはよくわかるんだけど。でも、「ネットになりたい」はまた別ですよね。
ヌケメ : プログラム化されて、自分をもっと客観視したいんです。自分が自動生成されていったりしたら、楽しそうだし…。たぶん、自分への興味が高いんでしょうね。
永原 : 私は自分に興味がありそうでないなぁ。そこはあまり考えたことないかも。
ヌケメ : なんか真逆の二人みたいな流れになってる! 同世代だし共通点だってあるのに(笑)。
SEBASTIAN X Archives
LIVE SCHEDULE
2011年9月27日(火)@渋谷CLUB QUATTRO
2011年9月30日(金)@仙台PARK SQUARE
2011年10月7日(金)@横浜Club Lizard
2011年10月13日(木)@岡山ペパーランド
2011年10月14日(金)@広島Cave-be
2011年10月15日(土)@大阪・心斎橋数十ヶ所「MINAMI WHEEL 2011」
2011年10月21日(金)@四日市 CLUB CHAOS
2011年10月22日(土)@京都KBSホール「ボロフェスタ11」
2011年10月29日(土)@大分・別府CANDY HOUSE
2011年10月30日(日)@福岡PEACE
2011年11月3日(木、祝)@水戸SONIC
2011年11月18日(金)@名古屋UPSET
2011年11月20日(日)@大阪ファンダンゴ
2011年11月25日(金)@仙台PARK SQUARE
2011年12月8日(木)@渋谷CLUB QUATTRO(ワンマン/Tour Final!)
PROFILE
SEBASTIAN X
2008年2月結成の男女4人組。2008年6月初ライヴを行なう。その後ハイペースなライブ活動を展開。2008年8月に完全自主制作盤『LIFE VS LIFE』リリース。その後、2009年11月6日に初の全国流通盤となる『ワンダフル・ワールド』をリリース、さらに2010年8月に2nd Mini Album『僕らのファンタジー』をリリース。10年から年に一度、完全生音ライブを開催。11年1月には初の配信限定シングル『光のたてがみ』をリリース。新世代的な独特の切り口と文学性が魅力の永原真夏(Vo.)の歌詞と、ギターレスとは思えないどこか懐かしいけど新しい楽曲の世界観が話題に。なんだか凄いことになってるインパクト大のパフォーマンスも相俟って、一際目立ちまくっている存在になっているとともに、ライヴ・ハウス・シーンで活動する他のバンドたちとは一線を画す挑戦的な活動方針/姿勢も大きく評価されている。
ヌケメ
1986年生まれ。08年より辺口芳典氏の作品提供を受け、「ヌケメ」という独自のブランドを設立。それを機に自身もヌケメを名乗るようになる。服を根本的なメディアとし、手触りのあるコミュニケーションツールと考える。日本語を刺繍した帽子、プリントブリーフ、布団、フォーマルなパジャマ等を制作。馬喰町の多目的スペースCULTIVATEの設立から企画にも関わるなど、ファッションを軸に置きつつも幅広いフィールドで活動を行っている。2011年11月にCULTIVATEにて洋服を用いた展示を開催予定。
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