18年ぶりの白昼夢──sugar plant、新作『headlights』をハイレゾ配信
ショウヤマチナツとオガワシンイチによるデュオ、シュガー・プラント。なんと18年ぶりに新作『headlights』を発表する。1993年に結成され、結成当初からいちはやくUSインディー・シーンと結びつくなど世界規模で活躍してきたユニットだ。最新作でも、ある意味でその真骨頂とも言えるサウンドを展開している。サイケデリックに広がっていく音像のなかで、ショウヤマチナツの歌声が心地よく鳴り響く。そんな彼らのスタイルを踏襲しながらも、これまでポストロックや、レイヴ・カルチャー由来のチルアウトな感覚を取り込み、独自の音響感覚を取り込んでいったように、やはり現在のチルアウトな音楽の感覚を迎え入れ、アップデートされたシュガー・プラントのサウンドを展開していると言えるだろう。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信するとともにインタヴューを掲載する。
18年ぶりの傑作をハイレゾ配信
sugar plant / headlights (24bit/48kHz)
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【配信価格】
単曲 400円(税込) / アルバム 3,000円(税込)
【収録曲】
01. days
02. headlights
03. north marine drive
04. I pray for you
05. dragon
06. I can't live alone
07. sea we swim
08. the son bird
INTERVIEW : sugar plant
シュガー・プラントがじつに18年ぶりとなるニュー・アルバム『headlights』を発表した。当時のUSインディに触発されてバンドを結成し、実際に北米でのツアーとレコーディングを重ねてきた彼ら。そのあまりに濃密な1990年代を経て、バンドは長きにわたって沈黙を守ることになったが、どうやらこの音沙汰なかった時期にもシュガー・プラントの音楽性は水面下でアップデートされていたようだ。それこそこの甘美なアンビエンスがいざなう恍惚としたムードは、近年のドリーム・ポップにも例えられるだろうし、ボサノヴァやジャズの意匠をまとったソングライティングは現行の北米インディとも見事に共振。端的にいって、この『headlights』という作品に懐古的なものは一切ない。2018年のインディ・ミュージックにおける最良の1枚をここに上梓したシュガー・プラントのふたりに、話を訊いた。
インタヴュー : 渡辺裕也
作り方を忘れちゃってたのかな
──久しぶりのニュー・アルバムとなりました。まずはこの18年間をすこしだけ振り返ってみたいのですが。
オガワ : 作りたいという気持ちは常にあったんですよ。ただ、いま思うと2000年頃はバンドをやっていくのがけっこう大変だったというか。それこそ30歳も過ぎたし、ちゃんとしなきゃ、じゃないですけど。でも、実際にそうしなきゃダメだったんだと思います。
──ちゃんとしなきゃ、というのは?
オガワ : まあ、生きてくってことですよね。それこそ20代の頃は本当にずっと遊んでいたし、好きなことしかやってなかったので、これからはちゃんと仕事をやりつつ音楽も作ろうよと。そう思っていたら、つい腰が重くなってしまって(笑)。それこそ2003年頃にはデモテープを作って、割とそれもいい感じだったんだけど、当時はレーベルとのタイミングが合わなかったりして、なかなか出せなかったんですよね。
──2008年には復活ライヴを開催されていましたね。
オガワ : 別に解散していたわけじゃないし、僕としては止まっているつもりもなかったんです。とはいえ、あのときはまわりがお膳立てしてくれたのもあって、字面としては再始動としたほうがいいんじゃないか、みたいな感じで話が進んでいって。
チナツ :その流れでアルバムも作るつもりだったんだよね? でも、結局そのときもできなくて。
オガワ : 作り方を忘れちゃってたのかな(笑)。というか、スタジオに入るということをしばらくやってなかったんですよね。あのときにレコーディング・スタジオに入ってれば、案外もっと早くできてたんじゃないかなって、今でもちょっと思ってるんだけど。
──これだけ間隔が空くと、きっとレコーディングのシステムや技術的な部分にも様々な変化があったのでは?
オガワ : たしかに今までのアルバムは全部アナログのマルチで作ったんですけど、2000年以降はそうもいかないだろうと思っていました。とはいえ、家には打ち込みでつくれる環境もあったし、プロトゥールズ的な流れも追えてはいたので。
──エンジニアの田中章義さんとのやりとりはいかがでしたか? それこそ田中さんは現在のインディ音楽シーンを支えているエンジニアのひとりですよね。
チナツ : すごく話の通じる人でした。でも、やっぱり感覚が若くて。
オガワ : まさに打てば響くというか。それこそ昔のエンジニアは卓の前で構えていたけど、今のエンジニアは画面のなかですごいテクニックを駆使するじゃないですか。あれはやっぱり新しい世代にしかできないことだし、ものすごく進化しているんだなと思いました。才能のある若者でしたね。だから、やっぱり今回はスタジオを押さえたってことが何よりも重要だったんじゃないかな。なんかもう、それだけだったような気がします。
チナツ : 私はその前年に自分のセカンド・ソロ(cinnabom『under the sun』)をつくっていて、それもファースト・ソロからだいたい10年ぶりのリリースだったんです。それこそ当初はシュガー・プラントの新作を先につくって、そのあとにソロをやろうと思ってたんだけど…。そういう流れもあって、私はホップ・ステップ・ジャンプでシュガー・プラントの新作に向かえたから、そこはオガワくんとちょっと違うのかもしれない。
オガワ : そうだね。とはいえ、僕も新作のことは毎日考えていたんですよ。「こういうの、作りてえなぁ」って。だから、感覚的にはそこまでブランクがある感じはしてないし、自分のなかではずっと地続きなつもりなんですよね。
──たしかに今回のアルバムには懐古的なムードがまったく感じられなくて。むしろ、近年のメロウなドリーム・ポップとかアンビエントなR&Bとも共振しているような、まさにこの時代のサウンドだと思いました。
オガワ : やっぱり「そのときの感じ」みたいなものは必ず入れたくなりますよね。そんなにたくさん新譜を聴いてたわけでもないけど、家ではずっといろんな音楽を流してるし、今の自分が聴いていて気持ちいい音楽に、作品も自然と合致していくんだなって。それは毎回つくるたびに思うことだし、やっぱり作る以上は今つくる意味があるものにしたいんですよね。
サウンドの向こう側にあるレイヴ・カルチャー
──なるほど。では、たとえば『after after hours』や『trance mellow』をリリースした96年頃は如何でしたか? あのとろけるようなサウンドは当時のどんなムードを反映したことによって生まれたのでしょう。
オガワ : その頃はトランス・パーティに毎週行ってたんだよね?
チナツ : レイヴ・カルチャーにハマッたんだよね(笑)。
オガワ : そう。でも、当時はまだレイヴとも呼ばれてなくて、今かかってる音楽が何なのか、誰もわからなかったんです(笑)。でも、そこに行くと毎週おなじやつらが300人くらい集まってるっていう、とにかく強烈な場所で。それこそ90年代のライブハウスって、ちょっと殺気立っていたというか、みんな誰とも話さないような感じだったんですけど、そのパーティではみんな握手して仲良くなるっていう(笑)。
チナツ : いまでいうパリピの原型だよね(笑)。
オガワ : で、そのパーティが終わったあとは誰かの家に流れて、そこでまた音楽を聴くっていう。
──それはトランスとはまた別モノ?
オガワ : 別ですね。それこそ自分たちが好きな音楽の中から、その時の感覚に合うやつを探していこうと。そうしていくとまたいろんな発見があって、自分のなかにある音楽がもういちど再構築されていったんです。で、この感じをバンドでやれないかなと。それで作ったのが『after after hours』。そもそもこのタイトルも「アフター・アワーズのあと」ってことですからね。
──なるほど! そういうことか。
オガワ : 実際、よく行ってたんですよ。朝6時の始発で向かって、昼に終わるようなパーティーに(笑)。要はそのアフター・アワーズから帰ってきてから聴くようなイメージですね。
──トロトロだ(笑)。
オガワ : うん、まさにそういう感じのものを作ろうと思ってました。そうなってくると、もはや「これはロックか否か」なんてことも考えなくなって。それこそ『trance mellow』では20分間のアンビエントなんかもやってたし、そういうのもバンドの表現としてアリだよなと。とはいえ、まわりでそういうことが流行ってたわけではなくて。当時のレヴューでも「おーい、どこにいくんだ?」みたいなことが書かれていましたね(笑)。
──ははは(笑)。同時に、シュガー・プラントの諸作には通底するトーンがあるような気もしているのですが。
オガワ : 確かに自分たちの好きなトーンは最初から決まってるんですよ。それこそバンドを結成した頃の僕らはヴェルヴェッド・アンダーグラウンドが好きで。そのなかでもいちばん大好きだったのが3枚目の『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』。あれがバイブルだったんです。で、そこからヴェルヴェット・チルドレンと呼ばれる人たち、たとえばギャラクシー500とか、ヨ・ラ・テンゴ、ロウなんかをよく聴いてたんです。要は、静寂で刺していくような音楽がやりたかったんですよね。で、それがのちにスロウコアと呼ばれるものだったというか。
──なるほど。
オガワ : シュガー・プラントをずっと聴いてくれてる人は、もしかするとそういうところに一貫性を感じてくれてるんじゃないかな。で、その一貫したものがこのバンドのいいところなんだと仮定すれば、新作でそれをやるのはすごく自然なことかなって。勿論ここにはいま好きなものが反映されてるんですけどね。今回は具体的にそれを説明するのがちょっと難しいな。
チナツ : だから、今回は18年分のマイブームがすべて入ってるような感じだよね(笑)。たくさんの色が混ざりすぎて、全部グレーになっちゃったような感じというか。
オガワ : 確かに今回のアルバムは一言でいえないパターンのやつだよね(笑)。つんのめったビートにして今っぽくしたとか、そうやって時代に寄せていくやり方もあるんだろうけど、そういうことは全然やってないし、むしろこれまでの作品でもそういうことは一切やってなくて。結局は「自分たちがいまやるならこれ」ってことしかないし、それがいまのシーンにハマるのかどうかは、まったくわからないんです。でも、きっと友達は気に入ってくれるんじゃないかなって(笑)。
チナツ : うん。世界中にそういう人が散らばってる感じはするよね。それに90年代の頃から、私たちはシーンみたいなものに加わっていたわけでもなかったし。
オガワ : そうだね。当時もそこはあまり期待してなかったし、それこそ「自分たちのやりたいことは海外の方が伝わるのかな」と思ってたから。
変わりゆくシーンのなか、変わらないもの
──その頃と比べて、日本の音楽シーンの状況になにか変化は感じていますか。
オガワ : すごく良くなってると思います。というのも、僕らは1990年代にアメリカ・ツアーに行ったとき「なるほど、バンドってこういうふうにやるんだ!」と思ったんですよね。要は、どの街にもライヴできる場所が必ずあって、そういう場所をバン一台で回っていけば、何かしらのギャラは出してもらえるし、さらにそこでTシャツやCDも売れば、何とか回していけるなと。
──当時の日本ではそれが難しかった?
オガワ : ええ。それこそ東名阪を車でまわってもぜんぶ赤字とか、そういう感じでしたから。でも、今はそういうことが日本でも出来るようになってきてますよね。どんな地方にもわかってくれる人がいて、その人が経営してるちっちゃいカフェとかで普通に演奏できて、地元の人たちがそれを楽しんでくれる。それで食えるのかどうかはともかく、そういうのって1990年代にはなかったんですよ。それこそ30歳を過ぎても売れないバンドをやってるなんてこと、当時は当たり前じゃなかったから。
──でも、今は自分たちのペースで活動を続けているバンドがたくさんいますよね。それこそシュガー・プラントもこうして新作を発表したわけですし。
オガワ : ホントそうですよね。20年前に遊んでたやつらがまだやってたりするし、それこそ僕らの先輩にもいい音楽を作り続けている人がたくさんいる。というか、いまやそれが普通だし、皆それが好きだから続けてるんですよね。それって素晴らしいことだと思う。なんていうか、成熟したなって思います。
sugar plant / headlights (24bit/48kHz)のご購入はこちらから
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 400円(税込) / アルバム 3,000円(税込)
【配信ページ】
https://ototoy.jp/_/default/p/104650
LIVE INFORMATION
"headlights" Release Party 決定!
2018年6月17(日)
@下北沢THREE
OPEN 17:30 START 18:00
前売り : 2,500yen / 当日 : 3,000yen +Drink Charge
LIVE : sugar plant, CAT BOYS, group
DJs : YODA, and more
■チケットご予約は下記、アーティスト公式ホームページのライヴ・インフォメーションより
http://sugarplant.com/
PROFILE
Sugar plant
オガワシンイチ
ショウヤマチナツ
1993年に結成、インディー・バンドとして活動を開始。1995年に1stアルバム『hiding place』を日米同時リリースし、以後すべての音源は海外でもリリースされている。同年には初のアメリカ・ツアーを行い、翌1996年にはアメリカでレコーディングした曲を含むミニ・アルバム『cage of the sun』をリリースし、同年アメリカでレコーディングと二度目のツアーを行う。そこでレコーディングされた『After After Hours』ではクラブ・カルチャーからの影響を反映した斬新なサウンドでインディー・ファンだけでなくポストロックや音響派など幅広いシーンから支持され、アメリカのカレッジ・チャートで大きな評判となる。次作『trance mellow』ではよりディープなスタイルを追求しクラブ・シーンでも評判となり、この頃から野外レイヴやクラブ・イベントでのライヴが増える。1998年リリースの『happy』は前作の『trance mellow』との2枚組でアメリカ発売となり、3度目のUSツアーを行う。2000年エンジニアにDry & Heavy、Little Tempoの内田直之をむかえたアルバム『dryfruit』をリリース、2002年にはドイツ盤も発売された。 2002年には松本大洋原作の映画『ピンポン』のサントラに「rise」が収録され話題となる。 以後、マイペースにライブ活動を継続し2018年ついに18年ぶりのアルバム『headlights』が発売となる。
Galaxie500やYo La TengoなどのUSインディーに大きな影響受けたロック・バンドとして活動を開始、当初からはっきりと海外志向があり実際すべての音源が海外リリースとなっている。3度にわたるアメリカ・ツアーではSilver ApplesやLow、Yo La Tengoなどとの共演も経験し当時まだ人気のあったカレッジ・チャートでは大きな評判となった。
90年代中旬、日本のクラブ・シーンの黎明期をメンバーがその中心で体験したことによりバンドのサウンドもより広がりを見せ、ポスト・ロックや音響派の先駆けとしても評価は高い。
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