木村直大(TELEKOV)×小林七生(CONTAKE) インタビュー
例えば70年代以降に隆盛を極めたロックを揶揄して使われるようになった「産業ロック」なんて言葉が象徴するように、ポップスにはその時々で最も大衆からの支持を勝ち取った音楽と、そこへの明確なカウンターとして生まれた音楽がひしめき合うことで成立してきた背景がある。しかし、ビジネスとしての停滞とリスナーの細分化によって、旧来のメインストリームという価値観は徐々にその役割を終えつつあるように見える。それはアンダーグラウンドにとっての仮想敵が失われることも意味するわけで、かつてのようなカウンターカルチャーはもうこの先には起こり得ないのかもしれない。今の音楽をつまらないと言う人は、もしかするとこのメジャーとアンダーグラウンドの対立という、冷静に見ると短絡的だが、事実としてこれまでの音楽産業を動かしてきた構図が成立しなくなったことを嘆いているのではないだろうか。
そこで現在のアンダーグラウンドを形成している音楽とはなにかを考えていくと、例えばインターネット上のツールを活用して個人で配信するアーティストや、いくつかのローカル・シーン等が筆者の頭には浮かぶ。もちろんすべてがそうではないのだが、これらのアーティストには商業的な目標から解き放たれているが故の自由な姿勢が感じられる。つまり彼らにとって重要なのはあくまでも個人としての音楽的な野心であり、そこに戦う相手は必要なくなるのだ。
前置きが長くなったが、ここで今回ほぼ同時に音源をリリースすることになったふたつのバンドを紹介したい。まずひとつめがTELEKOVという、ZEレコード辺りからの影響を感じさせる鋭利なギターと冷たいビート、そして乾いた音響が鮮烈な印象を与える4人組。そしてもうひとつが、オルガンとドラムの二人という編成で、ノーウェイヴともプログレともつかないミニマル・ミュージックを約20分間に亘って叩き出すCONTAKE。この二組には現行のメインストリームだけでなく、前述したようなアンダーグラウンド・シーンに対しても一定の距離と反発が共通して感じられる。しかもこの両バンド、面白いことにリーダー同士が幼馴染らしく、なにかしらの音楽的感性を共有してきているようなのだ。これはもしかすると新たなシーンが胎動しつつあるのかもしれない。そこで今回はTELEKOVから木村直大、そしてCONTAKEから小林七生をお呼びし、彼らに共通するバックボーンを伺いつつ、筆者の邪推をぶつけてみることにした。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
>>TELEKOV「welcome mood」のフリー・ダウンロードはこちら
(ダウンロード期間 : 10/15〜10/20)
(左)TELEKOV / anything but a yuppie
1. welcome mood / 2. sheep brain / 3. i wanna hate ya / 4. i don't like any more
(右) CONTAKE / 1
1. 1
「場」としてのシーン、CD棚に漂う「気風」のようなシーン
――ふたりは幼馴染だと伺っているんですけど、TELEKOVとCONTAKEの音源を聴いた限りだと、音楽的な共通項はそれほど見当たりません。お互いに音楽に関する情報共有みたいなことはあまりしてこなかったんですか。それとも各々で掘り下げて自分達の音楽性を開拓していった感じなのでしょうか。
小林七生(以下小林) : 聴いているものは別として、やっている音楽性に関しては、自分で掘り下げたと言った方が近いです。私が音楽をやることに興味を持ったのは20歳くらいの時なんですけど、バンド自体には興味がなく、楽器に対する憧れとかもまったくなかったから、最初は宅録から始めました。
――なぜバンドに興味が持てなかったんですか。
小林 : バンド文化みたいなものに触れてこなかったからでしょうか。好きな音楽がなかったわけではないけど、自分がやることには繋がらなくて、「こういう音楽がやりたい」ってところから始めたわけじゃない。最初はただテレコで環境音とかを録ってピンポン録音するのが面白かっただけで、面白い遊びを見つけたという感じでした。
――とにかく退屈だったと。
小林 : はい。
木村直大(以下木村) : 小林さんは、いわゆる「やりたくない事ははっきりしてるけど、やりたいこともない。」みたいな感じだったと記憶しています。
――一方の木村くんはリスナー気質が強いミュージシャンだと感じているんですが。
木村 : 僕は完全にそうですね。でも10代の頃はグランジとかオルタナの有名なものしか聴いていませんでした。世代で考えると典型的な感じです。そこから大学で詳しい人に教えてもらったり、その後何年かは(スティーヴ・)アルビニの存在が大きくて、とにかくアルビニ関連をとても良く聴いていました。その辺りの何がよかったって、とりあえずダサいことをやっていないのがよかったです。単純にかっこいい音だけを出し続ければ、当然かっこよくなるわけです。演奏って、聴くこととは別のスポーツ的な快楽とか、自分の作ったフレーズへの自意識過剰な思い入れとか持ってしまいがちだけど、自分達の音を客観的に聴くことで、そういったダサさへの落とし穴に落ちない様に心掛けています。それはとても難しいことですけどね。
――木村くんはその「ダサい」っていう表現をよく使いますね。
木村 : まあ、その感覚が人とずれているようですが。好きなバンドがかぶる人はけっこういますけど、そのバンドのどの部分がかっこいいか、逆に好きじゃないバンドはどの部分がダサいのかっていう話になると合う人はそう多くない。学生の頃だと、小林さんの他にも仲のいい幼馴染が何人かいて、彼らとはそういう感覚を共有していたと思います。だから、音に対する価値観が同じだったのは基本的にはその地元の4、5人でした。お互いが影響し合っている面もあるから、当然かもしれませんが。
――どちらのバンドもいわゆるシンガー・ソングライターの作風ではないですよね。
木村 : さっき話した価値観という面では、元々感傷的な音が好きじゃないということが大きいです。自己没入的な泣きのギターとか、好きではなかった。去年TELEKOVを再始動した時は、全パートがバラバラみたいなアヴァンギャルドなことがやりたいと思って一回そっちに寄ったんだけど、今はフォーマットはわりと標準で、シンプルに一音一音が意識的に聴取されるようなことだけを目標にしてて、方法論を小難しくしようとは考えていないです。
小林 : 私の場合は作る時に他の音楽のこととかはあまり考えていなかったです。なにかを否定しているつもりもなければ、なにかを意識しているわけでもない。あるとすると、漂う空気みたいなものだから、その空気ってどういうものなのかを考える中で、いろんな選択をしているってだけです。CONTAKEはプログレっぽいと言われるのですけど、やりたいことを形にしようとしたら時間が延びていっただけで、プログレをやろうと思っていたわけでもないのです。ねじ伏せられれば、それがプログレだろうがシンガー・ソングライターだろうが別に何でもいいのです。
――曲を作るにあたっての目的は予め定まっていて、それを目指すと必然的に長尺になるということですね。
小林 : はい。その目的自体はすごく曖昧なものなんだけど。でもそこが結構大事だと思っていて、「こういう曲を作りたいからこうやってる」といった具体的な説明ができるものへの方が少し疑問があります。説明はできないんだけど、やりたいことは確かにあって、それに対して如何に打ち込めるかが重要だと思うのです。
――さっきの感傷的なものが苦手っていう話にしても、両者とも日本よりも海外の音楽にシンパシーを感じる部分が強いように感じたんですけど、どうでしょうか。
木村 : 僕は、若い時は意識的ににそうでした。ある時からは日本のかっこいいバンドとかも知ったから、今はあまり関係ないですけど。
小林 : 音楽をちゃんと聴く様になったのは作り始めてからなんですけど、それからは色んな音楽を聴きました。国内外年代問わず、フリー・ジャズ、アシッド・フォーク、ハードコアとかもグッチャグッチャに。その道のマニアからしてみたら邪道かもしれませんが、とにかくあらゆる音楽の自分の中での共通点みたいな所を感じていました。そこらへんで木村くんとは話が一致していた気がします。
木村 : はい、そうですね。お互い音源を貸し合ったりしていたし、僕らからすれば古いスカとかハードコア・パンクとか初期ハウスとかを同じ感覚で聴いていた気がします。現代音楽もジャーマン・プログレもヒップホップも昭和歌謡も全部ヤーマンって感じですね。
――今、都内ではTELEKOVやCONTAKEがいる場所とはまったく別のところで様々なシーンが形成されています。そういうシーンって、それぞれが掘り下げた音楽を自分達でアップデートさせていくうちに、何かしら近いテイストを共有できる人達が少しずつ集まって出来上がっていくものだと思うんだけど、お二人はそういう周辺のシーンをどう見ているんでしょう。
木村 : アップデートなのかオマージュなのかはよくわからないけど、確かにそういうもので成り立ってる事もある気がします。そうやって昔起こったことが再び盛り上がることで、見覚えのある新しいシーンが出来たことになるというか。国内に限った話でもないと思いますし、よく考えたらそもそも都内のバンドをあまり知らないので何とも言えないです。ただそういう印象は少なからずあります。CONTAKEだってTELEKOVだって昔の音楽のアップデートと捉えることは勿論可能ですけどね。
――どのバンドも特定のシーンに属しているわけではないけど、確かに音楽をやっていく上でシンパシーを感じられる人が他にいないと寂しいというのはあるんじゃないかな。特に人気があるわけでもないのに、バンドとしても孤立したままだと音楽を続けるのが辛くなってくる人もいると思う。
小林 : シンパシーを感じられる人がいるのは大切だけど、孤立してると音楽が続けられなくなるというのは、私には当てはまらないことです。音楽を突き詰める作業自体は個別の行為であるのが自然な事だと思います。私達は中々入り込める場所がないけれど、それは別の問題です。ただ、自分達が演奏できる場所がないのは困ってしまいますから、こうやって音源を作って社会と触れ合おうとしているところです。一つ思うのは、シンパシーを感じられる部分が少ないとあまり興味を持たれないということです。でも作る側も聴く側も「これはなんなんだろう」と考えることって、すごく重要なことだと思います。わからないことに興味を持って向かっていくことって、大変だけどすごく面白い。
――木村君は自分達でイベントをオーガナイズしてもいますね。そこには自分達のシーンを作りたいみたいな気持ちもあるのかなと思っていたんですけど。
木村 : それはあります。でも僕はイベントに呼ぶ人達とジャンルとしてのシーンを作りたいと思っているわけではないです。例えば自分の家のCD棚で好きなやつが並んでいる列って、ジャンルで見たらバラバラだけど、自分にとっては一貫性がある並びだったりするじゃないですか。そういう自然なイベントを作りたいと思っています。自然というのはつまり3バンドが出るとしたら、その3つを通してイベント自体にある種の人格が感じられるということだと思います。色んな趣味の人がいるけど、多分3つのジャンルでそれぞれ好きな音源を挙げてもらったら、大体どんな人なのかわかりますよね。あくまで大体ですけどね。だからブッキングもそういう視点で選ぼうと思っています。CONTAKEとはこれまで2回くらい一緒にイベントをやっていますが、僕達とCONTAKEも一般的な意味での音楽性は違います。そもそも同じテイストの音楽が3つも4つも、ましてや5つも連続で見せられたら体力的につらいじゃないですか。飽きるし。かと言ってジャンルレスならいいかと言われたら、そうも思わない。フジロックとか別に人格感じないですよね。あれはただのライブラリであって、ミックス・テープではない。イベントの目的が違うから当然ですけど。小林さんが言ったみたいに個別に突き詰めた人達の作業報告会的なもの、そしてそれぞれの研究テーマを通して一つの人格が立ち上がってくる。そういった姿が面白いんじゃないかと思います。イベントの人格は、決して僕の人格とイコールにならない時もあるけど、色々な人格を演出してこそ面白くもあると思います。役者が色んな役を演じるみたいなことかもしれません。それに上手な役者ってやる役で印象が全然違うけど、それでいてその役者の個性って絶対ありますよね。むしろ演じた役の集合体の中にこそ、その人の演技の本質が見えてくるというか。だから僕が試みるシーンというのは、ジャンルと言うより「場」としてのシーン、まあそれはシーンという言葉の持つ本来的な意味ということかもしれませんが、話を戻すと結局CD棚に漂う「気風」のようなシーンなのです。
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PROFILE
TELEKOV
2002年頃、東京にて結成。
宅録期、活動休止期を経て2010年3月に本格活動を再開。
CONTAKEとの共同企画《 I WAS A CESAREAN. 》や単独企画《 ANYTHING BUT A YUPPIE 》を行いつつ、試みと実践の道すがら。ヤーマン。
とりあえずの情報はこちらから
http://d.hatena.ne.jp/telekov/
CONTAKE
メンバー・チェンジ、改名を経て2010年より活動開始したmetとhatによる、ドラム・オルガンデュオ。ドラム・オルガンを基盤にピアニカやオシレーター、リズム・マシン、声、言葉など様々な楽器を配置し、シーンやジャンルに囚われない独自の音楽性の中、CONTAKE的体験を純粋に追求している。三部作を想定したファースト・ライブ・セット『1』を2011年11月CDリリース予定。現在東京を拠点に活動中。
CONTAKE official web