11/23 チャン・ギハと顔たち@渋谷 WWW
来日公演が決まってからずっと楽しみにしていたのに、さあこれから観に行くぞーというところで、例の砲撃の報道に目がとまる。まったく。水を差された気分というか、まさかこんな複雑な思いを抱えながら彼らのライヴに向かうことになるとは思わなかった。だって彼らのあまりに鮮烈なデビュー作のタイトルは『何事もなく暮らす』なんだから。
ブラック・ミュージックを下地にしたKポップが日本でも広く伝わる中で、このバンドの登場はかなり唐突な気もした。しかし多分これは突然変異でもなんでもなく、むしろこのバンドは韓国のフォーク・ミュージック史に連なる真の正統派と捉えるべきなのかもしれない。同時にそれが国内インディーでは異例のヒットとなったのはリリックの力によるものだろうとも思う。
しかし、そうした韓国の状況はいったん置いて、単純にこのバンドの出すサウンドと向き合ってみた時、その異様さにすっかり目が離せなくなった。レゲエやパンク、はたまた様式メタル? といった具合に、様々なサウンドが次々と現れてはたち消えていく。ポップスの歴史の中から参照点を見つけていくバンドが韓国のアンダーグラウンドにいても別におかしな話ではないけど、それを自国のルーツ音楽と配合しながらユーモアを加えていく手法は世界中探しても完全に彼ら独自のもの。まったくスタイリッシュではないし、むしろ相当ださいんだけど、とにかく一度耳にしただけでこの奇天烈なバンドの正体を知りたくてしょうがなくなった。
そして今回の来日公演。すごすぎた。もし対バンがトクマルシューゴとZAZEN BOYSじゃなかったら、凹んでいたかも。パフォーマンス、MC(ほぼすべて日本語)歌に込められたエモーション、そのすべてからこのバンドの不可思議なセンスが溢れ出ていたし、プロフェッショナルな音楽家としての人並みではない意識の高さを感じた。代表曲「サグリョ コピ(安物のコーヒー)」で、途中のブレイクから歌詞を日本語に訳して歌い始めた時は、もちろんパフォーマンスとしても相当沸いたんだけど、それ以上に、初めてギハの綴る言葉をあの奇怪なサウンドと共に感じてみて、こりゃハングル勉強しようと思った。そしてなぜ彼らがキャリアのスタートとなる作品のタイトルに「何事もなく暮らす」と名付けたのか、その真意を本気で知りたくなってきた。どんなにコミカルな動きを見せても、MCで沸かせている時も、一切笑うことのないギハの目。なによりもそこにやられた。(text by 渡辺裕也)
contrarede & WWW present ZAZEN BOYS / チャン・ギハと顔たち / トクマルシューゴ
開催日 : 2010年11月23日(火・祝)
会場 : 渋谷 WWW
出演 : ZAZEN BOYS / チャン・ギハと顔たち / トクマルシューゴ