これが世界基準のグルーヴ! ボストン在住の日本人クリエイター、monologが届ける新世代ジャズ、ハイレゾで!
90年代ヒップホップ、ファンク&ソウル、ヒップホップ&ソウルをテーマに3作を制作。いずれもディープでドープなサウンドを構築し、各所で高評価を得る日本人クリエイター、monolog。"たった一人ですべての楽器を操り音楽を構築する”スタイルで、ボストンを拠点に活動するYUKI KANESAKAのソロ・プロジェクトである。2015年、彼が着手するテーマはジャズ。バークリー音楽大学出身の彼が、いよいよ本流となるテーマに挑んだ! 作り上げた『ONE DAY』を、OTOTOYでは24bit/44.1kHzのハイレゾ音源で配信。生演奏によって生み出された芳醇なグルーヴが、気持ちよく腰に響き陶酔に導いてくれるだろう。ライター、渡辺裕也のロング・インタヴューとともにお届けする。
monolog / ONE DAY
【Track List】
01. Pillow Talk / 02. A Crack In the Clouds / 03. It Don't Mean a Thing / 04. Orange Dusk / 05. Wake you up / 06. Daily Basis / 07. Faces of High Noon / 08. Chameleon / 09. Cozy After Noon / 10. Bugged out Night / 11. Sun goes down
【配信形態】
[左]
24bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC)
[右]
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / mp3
【価格】
[左]
単曲 300円(税込) / アルバム 2,300円(税込)
[右]
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) : 単曲 250円(税込) / アルバム 1,800円(税込)
AAC / mp3 : 単曲 200円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
INTERVIEW : monolog
たとえば裏拍を意識したファンキーな16ビート。あるいはジャズのブルーノート・スケールでもなんでもいいが、そうしたサウンドを耳にしたとき、我々は一口にそれを「黒っぽい」などと表現することがある。しかし、白人がオーセンティックなソウル・ミュージックを演奏し、その一方ではインダストリアルな音を取り入れたヒップホップが普通に聴こえてくるようなアメリカのシーンからも明らかなように、(ことポップ・ミュージックのサウンドにおいては)いまや黒人と白人を明確に隔てるものはないに等しいだろう。そして、無論それはヒスパニックや黄色人種にも同様のことが言えると思う。
バークリー音楽院を卒業後、そのままボストンを活動拠点としている日本人クリエイター、YUKI KANESAKA。彼がソロ・プロジェクト=monologとして発信しているジャズ・サウンドもまた、その黒いグルーヴを色濃く感じさせる、非常にメロウでエレガントなものだ。そしてこのたび完成となった新作『ONE DAY』からは、たとえばロバート・グラスパーに代表される新世代ジャズのようなリズムの揺れ、あるいはヒップホップ的なアプローチもうかがえる。KANESAKA本人にそう伝えると、彼はこれまでに経験してきたセッションをいくつか例に挙げつつ、こう話してくれた。「でも、そうでしょうね。それこそ今のジャズをつくっている人たちがセッション・ワークをやっていたころのサウンドに、僕はリアルタイムで触れてきたので。そのあたりのオーセンティシズムに関しては、それなりに水準の高いものが体のなかに入ってると思う」。いやいや。それなりどころか、まさにこれは世界基準のグルーヴでしょう。ちなみにこれまでの作品と同様、今回の『ONE DAY』もほぼすべての楽器パートをKANESAKA自身が演奏しているようだが、そのうち数少ないゲスト・ミュージシャンとしてトランペットを吹いているのは、最近ディアンジェロのライヴにも参加していたダレン・バレットだそうだ。
今回はそのmonologことYUKI KANESAKAにインタヴューをオファーした。プエルトリコを旅行中にほとんどの楽曲を書き上げたという『ONE DAY』の内容についてはもちろん、彼のキャリアやボストンでの活動環境についても、ここではこまかく紐解いていきたいと思う。対話はアメリカの時間で深夜12時を過ぎたころ、Skypeを通して行われた。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
重要なのは、これは生身の人間が演奏してる音楽なんだってこと
——ボストンで生活するようになってから、どれくらい経つんですか。
もうすぐ16年目に入りますね。
——日本で生活していた頃とほぼ変わらない時間を、YUKIさんはボストンで過ごしているんですね。では、そのYUKIさんが普段どんな環境で音楽を作っているのか、ぜひ教えて下さい。それだけ長く生活していると、制作環境もかなり整っているのだろうと思うのですが。
まず、プライヴェート・スタジオがひとつあります。一応、そこには「コムギコ・スタジオ」っていう名前をつけてるんですけど。
——かわいい名前ですね(笑)。
ちょっとアメリカ人が発音しにくい名前ではあるんですけどね(笑)。「形を変えて主食にもおかずにもなるし、ジャンルを飛び越えていろんなところに出現できるもの」ということで、「コムギコ」かなと。で、そのプライヴェート・スタジオのまわりにはもう2軒スタジオが並列されてて、さらにそこから自転車圏内で移動すると、4軒スタジオがあるんです。
——いつもそのスタジオ間を移動しながらお仕事されているんだ?
はい。さらに郊外まで行けば、他にも2〜3軒いいスタジオがあるから、欲しい音はその範囲内でだいたい録れます。特に僕の場合は自分でほぼすべての楽器を演奏するので、まずはいい楽器がそこで手に入るかどうかがとても重要なんですよね。
——そう、monologの作品は基本的にすべてのパートをYUKIさんが演奏されているんですよね。この「ひとりで多重録音する」というところが、monologの活動コンセプトなんですか。
いや、実を言うとmonologで重要なのは「ひとりですべて演奏する」ことじゃなくて、「アンサンブル」なんです。というのも、だいたい2009年ごろからかな。僕の音楽制作はヴァーチャルな環境で行われることがぐっと増えたんですよ。つまり、制作のほとんどがデータのやり取りになった。僕はそれによって音楽家同士の距離がずいぶん遠くなってしまったように感じてて。だって、スタジオでセッションしないわけですから。
——たしかに。一方でmonologの楽曲はYUKIさんがほぼ一人で演奏されているわけですよね?
そうなんですけど、同時にmonologはバンドでもあるんです。しかもそのバンド・メンバーはしかめっ面じゃなくて、みんながニコニコしながら演奏してる。monologの作品はきっとそこがちゃんと伝わるサウンドになってると思う。というのも、誰かと一緒に決め打ちでちゃんと演奏しようとすると、それぞれにパーフェクトな仕事が求められるから、おのずと「みんなでわいわい楽しく」みたいなところから遠くなりがちでしょ? そこで僕がやろうとしたのが、「生演奏の敷居を下げる」ってこと。ぶっちゃけ、僕はいろんな楽器をそこまでうまく弾けるわけじゃないんです。でも、それだってちゃんと音楽として聴こえるはずですから。
——「ちゃんと」どころか、むしろ僕には腕利きの演奏家たちがセッションしているように聴こえましたよ。
ありがとうございます(笑)。でも、これはひとりでやってることを伝えたいわけじゃないんです。重要なのは、これは生身の人間が演奏してる音楽なんだってこと。つまり、人間くさいところですね。僕はこの作品を通して、人間同士が仲良く演奏している雰囲気を出したかったんです。そのメンバーは僕ひとりだけなんだけど、ここには各演奏者はもちろん、作曲家もプロデューサーもちゃんと存在する。ただ、時間に遅れてくるやつだけはいない(笑)。そこはこの作品のメッセージともリンクしてて。
食育ならぬ音育としてベストなものを提供しようとは常に心がけてて
——生身の人間が楽しんで演奏している雰囲気を出すために、YUKIさんがさまざまな役を担っていると。そして『ONE DAY』という作品には明確なメッセージも込められているわけですね。では、そのメッセージがどういうものなのか教えていただけますか。
「1日はもっとエンジョイできるし、美しい瞬間がたくさんある。だからそれを大切に感じようよ」ってことですね。たとえば、今こうして何万キロも離れた場所から僕らはコミュニケーションを取ってる。それってすごく美しいことじゃないですか。僕もいまこの時間、僕の音楽に興味をもってもらえて、すごく輝いてる。だから、こういう瞬間をみんながもっと感じてくれたらいいなと思うんだけど、実際の世の中はもっと殺伐としてますよね。こんなに楽しくて美しいものが世の中にはいっぱいあるのに、それを「美しい」「楽しい」と感じる時間がすごく少ないと思うんですよ。
——その殺伐としたムードとは、日本でもアメリカでも同じように感じるもの?
いや、日本とアメリカではやっぱりクオリティに差がありますよね。ちなみに僕がここでいうクオリティというのは、水準の高低を表しているわけではなくて、テイストの部分を示すものというか… なんていったらいいかな。
——質感?
そうそう、質感! その質感にはいくらかの違いはあれど、そういう雰囲気はどこにいてもそれはやっぱり感じると思う。そこで僕がやりたかったのが、そういう1日の美しい時間を触覚的に音楽のなかに閉じ込めるってことなんです。たとえば、焼き芋屋さんの「いしやーきいもー♪」っていう声を聴くと、それだけで炭の焦げた匂いがしたりするじゃないですか。そういう共感覚みたいなものというか。そういう子供の頃に味わったワクワクするような感覚を、僕はこの音楽というカタチに収めてるんです。
——なるほど。そこでおのずと生演奏であることが重要になってくるわけだ。
まさにそう。というのも、僕は普段の仕事上ではバキバキのビート・メイキングをやってるんですよ。それこそEDMもやるし、もともとはサンプリングで音楽をつくっていた人間なので、いまだにシンセも大好きなんです。だから、僕がリミキサーとしての活動を始めたころから、そういうヴァーチャルな音楽の依頼はすごく多かったし、その後も時代の流れとしてそういう依頼がどんどん増えていったんですよね。
——リミキサーとして働いていくうちに、いわゆるヴァーチャルな環境でつくられた音楽と触れる機会がどんどん増えていったと。
そう。マスター・キーボードにいくつものモジュールをつないで、それらをひとつずつ、キーボードをつかって本物っぽく演奏していく。でも、僕はその本物の生楽器のよさを知っている人間でもあるので、やっぱりメンタル的にそういう作業は疲れるんですよね。で、だんだんとそういうヴァーチャルな音楽から外れたくなったんです。そこで僕は31歳になったとき、自分への誕生日プレゼントとして、スタジオを押さえてレコーディングすることにして。いつもの仕事ならバジェットがあるけど、そのときは自分のポケットから出してから、ここばかりはただ自分が作りたいものだけを作ろうと。そこで早速グランドピアノだけで曲を作ろうと思ったんです。ただ、いかんせん僕は楽譜の読み書きがあまりできないもんで。
はい。もちろん計算と準備はちゃんとしておきますけど、ぶっちゃけノリです(笑)。で、それで早速ピアノで曲を作ってたら、だんだんと「ここ、ドラム叩こうかな」「ベースも弾いた方がいいな」みたいな感じで、いろいろやり始めちゃったんですけど、これがもう楽しくてしょうがなくて。普段ヴァーチャルで音楽をつくってる自分が、なんかバカみたいに思えちゃったんです(笑)
——生演奏で音をつくるおもしろさを改めて感じたわけだ。
そう。一方でもちろんイチ音楽家としてはお客さんに喜んでほしいし、求められるものに応えたいっていうホスピタリティも僕のなかにはあって。そこでなるべく短時間、しかもロー・バジェットで相手が気に入りそうな音楽を紡ぎだそうとすると、おのずとそれはヴァーチャルなものになってきてしまう。さっき話した近隣のスタジオだって、みんながそこで生演奏を録ってるのかというと、実際はどこもレコーディングしているのはヴォーカルばかりなんですよね。つまり、ダンス・ミュージック寄りのプロダクションとなると、どうしてもソフトウェアの音源ばかりになってしまうんです。でも、そこでもともと僕が好きだった音楽を振り返ると、「本当はこれじゃないんだよなぁ」っていう気持ちにはなるので。
——「もともと好きだった音楽」とは、たとえば?
まずはモータウン。あと、ブラジリアンも大好きですね。たとえばジョアン・ドナートとか、アントニオ・カルロス・ジョビンとか、そういう人たち。あとジャズ・ファンクでいうと、70年代のドナルド・バードも好きだし、もちろん『ヘッド・ハンターズ』(ハービー・ハンコック)も。あとはやっぱりトライブ・コールド・クエスト。今ここで挙げた人たちって、その音楽からセッションしているところから見えるじゃないですか。でも、最近はそのセッションが聞こえてこない音楽もすごく多いんですよね。それに、チープなメッセージの音楽も増えてしまった。ちなみに、monologの作品はすべてコンセプト・アルバムなんですよ。この3年間でmonologは5タイトルを出しているんですけど、これはすべてパラレル・ワールドのようになってて、隠された順番通りに聴くと組曲として聴こえるデザインになってるんです。
——そうだったんだ! 今回の新作が『17Living Souls』『14 Beats'N Rhymes」につづく作品だということはわかったんですが、実は3部作ではなくて5部作だったんですね。
そう。さらにいうと、今回の『ONE DAY』は1枚目のアルバム『Re:Live-JAZZ meets HIP HOP CLASSICS-』とつながってるんです。具体的にいうと、『Re:Live…』は「Lots Of Lovin'」という曲で始まるんですけど、『ONE DAY』のラストに納められた「Sun Goes Down」は、〈Back to Lovin'. Lots of Lovin'〉という歌詞で締めくくられていて。 この『ONE DAY』と『Re:Live…』がつながることによって、「いつか俺たちは蘇生する」という意味になってるんです。
——そんなに壮大なコンセプトが組まれてたんだ。しかもその作品のメッセージはサウンドにもつよく結びついているという。
そう。食べ物でも音楽でも、やっぱりオーガニックなものは大切ですよ。添加物ばっかり食べてると胃も疲れてくるのと同じで、エンハンスされた音楽ばかり聴いてると、やっぱり耳は疲れてきますから。そこで自分はひとりの音楽クリエイターとして、食育ならぬ音育としてベストなものを提供しようとは常に心がけてて。
4つ打ちだろうが、ブロークンビーツだろうが、アフロビートだろうが、僕がやってるのはヒップで踊れる音楽
——リスナーが触れる音質の振り幅もひろがってますからね。
その良し悪しは聴く人が聴けばわかるところなんですけどね。たとえば、僕のパパはリマスター音源をすごくチェックしてて。というか、嫁の父もそうだな。僕のまわりにはオーディオ・マニアが多いので、みんなきっとOTOTOYさんも利用してると思うんですけど(笑)。ちなみにパパはテクノが好きなんですよ。で、ママはディスコとかのブラック・ミュージックをよく聴いてた。そういう家庭環境だったから、僕には「音楽を聴きながら体を動かす」っていう感覚が小さい頃からあったんです。そもそも僕は千葉の田んぼのど真ん中でハウスのトラックを作ってるような小学生だったし。
——(笑)。サンプラーを片手に?
そうそう(笑)。そういうところは今も変わってない。
——作り手としての原点にはまずサンプリングがあって、そこから生楽器の演奏にも徐々に手を伸ばしていったわけですね。
はい。そこで、僕がいま作っているジャズと、最近よく耳にするようなジャズとの大きな違いは何かっていうと、それは「踊れるか、踊れないか」ってところなんですよね。というのも、僕はダンスの振り付けをやってたくらい、ダンスが好きなんですよ。
——ダンスの振り付けですか! それもお仕事で?
はい。今でもサイファー(集団のサークル内に入って即興で踊る形)で踊ってます。僕はそういうヒップ・カルチャーから出てきた人間だから、やっぱり常に踊れるビートのことを考えてるんです。でも、日本だとそういう「みんなで踊る」みたいな文化って、それほど認知されてないところもありますよね。
——日常におけるダンスの根付き方は、そちらと日本ではまったく違うだろうと思います。
うん。メロディやコード、あるいは歌詞ってものすごく大切だけど、実はそこにもグルーヴがものすごく繊細に関わってるじゃないですか。踊っていると、そこをないがしろにはできなくなるから。そこが音楽をアカデミックに勉強してきた人と、カルチャーのなかで憶えていった僕みたいなミュージシャンとの違いだと思う。自分で言うのもアレなんですけど、僕がやってるのはヒップで踊れる音楽だと思ってるんです。たとえばそれがR&Bやソウル、あるいはジャズであろうと、僕にとってそれらはすべてダンス・ミュージックなので。4つ打ちだろうが、ブロークンビーツだろうが、アフロビートだろうが、それは自分が踊ってきたビートなんです。
——ストリートで覚えたことがそのまま音楽に反映されてると。
そう。それに、クラブでプレイされているビートでみんなと踊ったり、ダンスのサークルに入ったりしてれば、おのずと友達も増えていくから、僕はそのなかで英語も覚えていったんです。そういうストリートのフィーリングって、音大で勉強してもゲットできないものだから。だから、僕はいつも大きなスピーカーを鳴らして、みんなで踊りながら音楽を作ってるんです。というのも、部屋の外では僕が出してる音でみんなが踊ってるから(笑)。
——部屋から漏れている音で?
そう。黒人も白人もヒスパニックも関係なくみんなが一緒になってリヴィングで踊ってる。そういうカルチャーのなかで生きてきたから、ジャズ・クラブのなかで座って音楽を聴くような感覚とはぜんぜん違うんです。
——なるほど。そこでひとつお伺いしたんですが、YUKIさんは今までブラック・ミュージックに触れてきたなかで、フィジカル面や人種的なところで乗り越えられないような差を感じたことは過去にありましたか。
(きっぱりと)ないですね。たとえば、関西弁の人も東京に引っ越してきたら、標準語を話すようになるじゃないですか。それくらいのもんだと思ってます。つまり、イントネーションの違いが最初はわからなくても、住んでるうちにだんだんとわかってくるし、話せるようになっていく。ボキャブラリーってそうやってゲットするものだし、それはブラック・ミュージックのグルーヴも同じだと思うんですよね。だって、これはコミュニケーションのツールですから。だから、僕はそういうノリやグルーヴについていけないと思った経験もないし、幸せなことに差別されていると感じたこともないので。
——そのノリやグルーヴも地域によってまったく変わりますよね。
そう! たとえば、ノースキャロライナからきてる人と一緒に演奏する時は、「ちょっと南部っぽいフレーヴァーを入れよう」と思ったり、ニューオリンズの人とやるときも、やっぱりニューオリンズっぽいグルーヴを意識したりね。あるいはシカゴのブルースの人と一緒にやるときは、ちょっとシャッフルを入れてみたりとか、そういうことだと思う。そういう土地毎のルールや歴史の違いって、黒人とか白人とか日本人とかで区分けできるものじゃないし、そういうお互いの理解って、コミュニケーションのなかでおのずと培われていくものだと思う。それこそ僕の英語には、ちょっとボストンの訛りがありますから。
——ボストンという街そのものが、もはやYUKIさんの表現とつよく結びついたものだと。
うん。だから、さっき話したようにジャズやファンク〜ソウルをやってる音楽家は、自分と黒人との違いを気にしたりすることもあるのかもしれないけど、僕はとにかくそこにポーンと飛び込んで、まずはみんながしゃべっている言葉を自分でもしゃべってみればいいと思うんです。それこそ、ソウルミュージックって本当によくいったもんですよ。その音楽のグルーヴとイディオムさえちゃんとわかってれば、あとはお互いの魂で会話できるからね。少なくとも僕にとって、そこで人種は関係なかった。
——では最後に。monologの連作に一区切りを入れたいま、ここからはどんなものを見据えてますか。
——音楽家としてクリアすべき次の課題が、より明確になったということ?
そうですね。だから、ここからはmonologをひとつのプラットフォームとしてファンクションできるように、スケールの大小に関わらずいろんな人とコラボレーションしていけたらなと。実際、僕はオーケストラとかビッグ・バンドみたいな、スケールの大きなものと組むことに少し苦手意識があったんですけど、今度はそこを乗り越えて、monologの音楽的なスケールをさらに大きくしていきたいですね。
過去作
『COZY LAYER』と題されたこのアルバムはタイトル通り、暖かみがあり、心地よいサウンドか重なりあった、 monolog自身のクローゼットのようなフィーリングに溢れている。ファンク、ソウル、ブラジリアンなどをベースにしたピアノ・サウンドはいままでのmonologの世界観を更に拡げた作品に仕上がっている。
PROFILE
monolog
14歳から日本国内で鍵盤楽器プレイヤーとしてプロ活動開始。類い稀なる音楽的才能を誇る日本人アーティスト、YUKI KANESAKA。卒業したバークリー音楽大学のお膝元であるボストンに在住し、音楽家、プロデューサー、マルチインストゥルメンタリストという肩書きで活動。monday満ちるやN'Dea Davenortといったアーティストのリミックス・ワークから世界的大企業のCM音楽にいたるまで、数多くの音楽作品を手掛ける。また、演奏家としても評価が高く、De La Soul/Slum Village、Cee-Lo Greenといった有名HIPHOPとのアーティストや、ニューオーリンズのビッグバンドとの競演実績もある。2012年、monolog(モノログ)名義でNEW WORLD RECORDSより、'90s HIP HOPカバー『Re:Live-JAZZ meets HIP HOP CLASSICS-』をリリース。“たった一人ですべての楽器を操り音楽を構築する"というスタイルで話題を呼ぶ。2013年、若手女性ジャズ・シンガー、Ai ICHIKAWAとのコラボ作品monolog+A.I.名義で『April』発売。更に、自身のレーベルmonophonicを発足。FUNK&SOULをコンセプトにした『17Living Souls』発売。ブラック・ミュージックの本場アメリカを主軸に世界をまたにかけて活躍する音楽家。