今年のフジロックを大解剖! 渡辺裕也×滝沢時朗 対談
さあ、今年もフジロックフェスティバルの開催が迫ってきました! ずらりと揃ったラインナップを眺めているだけで、もう今から胸が高鳴ってしょうがない! とはいえ毎年この時期を楽しみにしている方も、今年ばかりはやはり例年とは違った心持ちでしょうか。未曾有の災害が起きた2011年。日本のどの音楽フェスよりも自然豊かで過酷な環境下で催されるフジロックが我々にオファーしてきたものはなんだったのかを、今年は改めて実感することになるのかもしれません。そんな思いを抱えつつ、今年もフジロック常連の滝沢時朗くんを相手に、3日間のラインナップを徹底分析してみました。果たして見えてきたのは国境なき世界のインディー音楽の縮図だった!? というわけでしばし二人の妄想にお付き合いくださいませ。
文 : 渡辺裕也
FUJIROCK FESTIVAL会場写真 : 宇宙大使☆スター
FUJIROCK FESTIVAL'11
開催日 : 7月29日(金) 30日(土) 31日(日)
開催時間 : 開場 9:00 / 開演 11:00 / 終演予定 23:00
開催地 : 新潟県湯沢町苗場スキー場
出演者 : COLDPLAY、THE CHEMICAL BROTHERS、THE FACES、ARCTIC MONKEYS、東京スカパラダイスオーケストラ、YELLOW MAGIC ORCHESTRA、KAISER CHIEFS、clammbon、BATTLES、MOGWAI、ATARI TEENAGE RIOT、くるり、THE KILLS…and more!
チケット :
・3日通し券 ¥39,800
・1日券 ¥16,800 各日共限定10,000枚
・キャンプサイト券 ¥3,000(1名 / 開催期間中有効)
・駐車券 ¥3,000(1日1台 / 2名より受付)
主催 : SMASH Corporation
企画・制作 : SMASH / HOT STUFF PROMOTION / DOOBIE,Inc.
総合問い合わせ/オフィシャルサイト :
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経済が発展していくとBPMが上がっていく(滝沢)
渡辺裕也(以下、渡辺) : ラインナップが発表になる度にみんなで今年のフジはどうだこうだって盛り上がるのは毎年のことだけど、今年は特にHanggaiとTINARIWENの出演が決まった時に、なぜかtwitter上で友人とすごく沸いたんだよね。で、Hanggaiはモンゴル系中国人、TINARIWENはアフリカのサハラ砂漠のトゥアレグ族っていう遊牧民族で、どちらも土着性の強いバンドなんだけど、「じゃあ今年の注目はワールド・ミュージック系?」みたいに言われると、まったくそういう認識ではなくてさ。例えばHanggaiは出自がパンクなんだよ。それがモンゴルの伝統音楽と出会って音楽性を発展させたバンドなんだよね。つまり欧米のインディー音楽の在り方と同じでさ。TINARIWENもそうだし、マリのAMADOU & MARIAMは、アフリカではもちろんだけど、ヨーロッパでもかなり名の知れた存在で、音楽性も一言では説明できないようなかなり折衷性の高い感じなんだ。だからその辺りと、COLDPLAYとかINCUBUS、Arctic Monkeysみたいな欧米のトップ・バンドを分けて考えるつもりはなくて。
滝沢時朗 : いまナベちゃんが挙げた人達とか、あとはCONGOTRONICS vs ROCKERSなんかがまさにそうだと思うんだけど、彼らはロックを知った上で自分達の国の音楽を演奏しているんだよね。で、ビートが比較的ゆるやかで、長時間聴いていても心地よいものが多い。いわゆる民族音楽って、労働する時とかお祭りや儀式のために演奏される音楽だから、人がその場にいて心地よくなれるように出来ているんだよね。仕事をして、祭なんかを繰り返してっていう共同体の生活がずっと続くだろうという時間感覚があるから、そういうテンポのゆるい繰り返しの音楽になるんだよね。経済が発展していくとBPMが上がっていくからさ。
渡辺 : え、そうなの?
滝沢 : 昔のロックンロールとか聞くと遅く感じるでしょ?
渡辺 : そう言われると確かにそうだね。60年代のストーンズとか、改めて聴くとめちゃくちゃ遅くてびっくりするもんな。
滝沢 : クラブ・ミュージックで言うと、90年代にドラムンベースとかトランスが登場して速さの極致まで行ったんだよね。で、いまはその揺り返しで、ダブステップとか、Frying Lotusがやっているみたいな、テンポの速さとはまた別の、ちょっと隙間とかずれで聴かせる音楽に来ていると思うんだ。そこでHanggaiとかTINARIWEN辺りがいまの時代とハマった感じはする。CONGOTRONICSなんかはすごく速い曲もあるけど、あれは00年代に流行ったミニマル・テクノとかの流れで聞けるよね。
渡辺 : 彼らは今回DEERHOOFと共演するんだよね。
滝沢 : 他にもフアナ・モリーナっていうアルゼンチンの人気女性シンガー・ソングライターも参加するんだけど、この人はクラブ・ミュージック好きにも受けがいいんだよ。(CONGOTRONICSは)そういうところも心得てやってるんだよね。
渡辺 : 欧米の音楽に対する嗅覚が鋭いんだね。
滝沢 : 住んでいるところは違えど、音楽家として符合する部分があるんだろうね。
渡辺 : そう考えるとBIG AUDIO DYNAMITEの出演ってものすごく象徴的なんじゃないかな。ミック・ジョーンズのやってきたことはまさにそういうことじゃない? ザ・クラッシュっていうバンドの中で音楽的な情報量をどんどん高めていって、BIG AUDIO DYNAMITEではシンセ・ギターまで使い出したっていう(笑)、いわゆるパンク的な音楽の発展を実践してきた人だし、今の時代ともジャストなのかなと思った。
滝沢 : パンクって元々は既成のロックンロールの概念を壊すっていう性格があるでしょ。つまり自分達が基にしているロックンロールを疑いたくなる。そこでイギリス人の場合は、昔イギリスの植民地で、移民してきているジャマイカ人のレゲエにまず興味がいったんだよね。そういう形で外の音楽をどんどん吸収していく。パンクって政治とも繋がっていて、自分の主張をストレートに出すんだという意味でも元気を与えた音楽だから、それが他の国にも飛び火したんだよね。例えばMANU CHAO LA VENTURAはStiff Little Fingersを見て衝撃を受けた人達だったり、Asian Dub FoundationはPOP GROUPからの影響が強かったりね。AMADOU & MARIAMがデーモン・アルバーンと絡んだりするのも、デーモンが元々ダブとかが好きで、パンクからの影響が強い人だからっていうのもあると思うんだ。African Head Chargeは元々ジャマイカの人達だけど、イギリスにきてパンクからの流れでエイドリアン・シャーウッドに取り上げられた人だし、Lee “Scratch” Perryもまさにその辺りでリスペクトされている人だよね。
渡辺 : なるほど。今の話だとさ、ダブとかレゲエっていうのは、パンクが勃興した地域と近い関係にあったていうのも大きかったわけだよね。でも、今の時代って、こと音楽に関しては物理的な距離はもはや問題にはならないじゃない? だから、かつてミック・ジョーンズがクラッシュやBig Audio Dynamiteで実践したような音楽の成り立ち方がどこの国でも起こり得るし、どんな配合もあり得るんだろうなと思ったんだけど。
滝沢 : ネットとかによる音楽の混ざり方っていうのは、例えばミニマル・テクノの世界ではすごく影響力があるチリ人のRicardo Villalobosとかがそうで、クラブ・ミュージックの中では早く混ざっていく傾向があるよね。
渡辺 : そういえば去年の深夜はダブステップ祭だったよね。そこに加えてオリジネイターとしてMassive Attackがヘッドライナーに出てきた。
滝沢 : 初期のAsian Dub Foundationとかは、バングラ・ビートとかドラムンベースとインドの音楽を混ぜた人達だから、この人達がいなかったらもしかすると今のダブステップ的な流れは弱かったのかもしれないよね。そういう意味では彼らもオリジネイターだと思う。
今年のフジの裏テーマはパンクってことになりそうだね(渡辺)
渡辺 : さっきのビートの話でいくと、YMOもいまはジャストなのかな。
滝沢 : YMOに「東風(TONG POO)」っていう曲があるでしょ? あれはいわゆるアジアっぽいメロディをわざと演出しているのね。しかも人力じゃない形で。日本の音楽は経済が発展していく中でHanggaiやTINARIWENの人達が持っているような生活の中で出てくるものじゃなくて、どんどん商業音楽化していったんだよ。そこで歌舞伎とか能みたいなものが日本人にとってのリアルな音楽かと言われると、そうでもないでしょ。だから日本独自のものがあるのかないのかっていうところで引き裂かれているところがあって、フェイクで日本らしさを出していたんだよね。
渡辺 : わ! すごいなそれ。
滝沢 : さっきBPMと経済の話をしたけど、経済が発展すると効率化していくうちに地域性がなくなってくるんだよね。商店街がコンビニやスーパーに代わっていくように。それは決して悪いだけのことではないんだけど、日本は戦後から復興するために極端な形で推し進めちゃったから、日本の独自性というか日本らしさっていうのがそうそう見つからなくなる。そんな中で昔の日本を大切にしようみたいな人達もいて、海外からするとそこがエキゾチックだと受け取られたりもする。YMOはそこを皮肉ってわざとああいうメロディを演奏していたんだよね。そういう姿勢っていうのは、向井秀徳とレオ今井のKIMONOSにも言えるよね。アルファベットで「着物」っていう日本的なものを英語表記にするっていうのは、引き裂かれた感じがあると思う。
渡辺 : うん。KIMONOSっていうのはすごく批評性がある名前だと思うし、それこそZAZEN BOYSからしてそうだよね。で、俺が面白いと思うのは、そこで向井さんとかがやっている音楽がすごく乾いたものだったりするってことで。いわゆる日本的なウェットな抒情性とは対極のものなんだよね。YMOもカラッカラじゃん。あ、それこそ日本らしさっていう話でいうと、外せないのはくるりだ。
滝沢 : 去年出したアルバムがまさにそういうテーマだったね。
渡辺 : 日本のこれからのフォークロアに挑んだ作品だよね。
滝沢 : YMO的な皮肉とか乾いた感じを今やっているのがKIMONOSだとすれば、くるりの場合はソウル・フラワー・ユニオンだよね。彼らも元はパンクが出自で、アイリッシュとか沖縄音楽とか、土着性のある音楽を混ぜ合わせていきながら自分達のサウンドを作っていった人達だね。
渡辺 : ソウル・フラワー・ユニオンって、それこそ沖縄だったり、チンドンだったり、参照点を海外じゃなくて近隣から見つけていったじゃない? くるりも「温泉」っていう曲なんかを聴くと、それと近いものがあるよね。
滝沢 : TINARIWENやHanggaiはロックとかブルースを取り込みながら元々自分達が持っている音楽を保とうとしているけど、日本人にとっていまそういう音楽自体がないよね。で、ソウル・フラワーは別形態のソウル・フラワー・モノノケ・サミットで、人をたくさん集めてゆるくて居心地のよい音楽をやっているでしょ。あれはかつてのいろんな民族音楽を蘇生させようとしてるんだと思うんだ。
渡辺 : 素晴らしい! で、日本の若い世代のバンドを見ていくと、例えば毛皮のマリーズはものすごくオーセンティックなロックンロールに徹しているよね。ロックンロール本来の姿を引き継ぐことに役割意識とプライドを持っているバンド。だから、自分達の音楽が新しいものかどうかっていうことに比重を置いてない。その腹の括り方もすごく現代的だと俺は思うな。
滝沢 : 彼らは名前からしてアングラだよね。で、日本のアングラっていうと、寺山修司とかあそこら辺が出てきた時の話をすると、その頃はまさに日本っぽい土着性とこれから高度経済成長で発展していこうっていう時の端境期で、日本っぽいどろどろしたものをちゃんと取り上げようっていう動きがあったんだ。そういう当時の空気を、マリーズみたいな日本のロックンロール・バンドが今になって起こそうとしているのかもしれないね。
渡辺 : OKAMOTO’Sもそうか。自分達の音楽的な足場をかつてのGSとかに見つけてきて、現代にアップデートさせていくっていう方法論って、Thee Michelle Gun Elephantとかが体現していたロックンロールとはまた違うと思うし、だからこそチバユウスケはバンドを変えながら、いまThe Birthdayに行き着いたのかもしれないね。
滝沢 : マリーズやOKAMOTO’Sがロックンロールを基礎から作り直そうとしているのと同時に、上の世代のくるりやKIMONOSがパンクを元に日本的なものを探っているっていうのを比べると、すごく面白いね。あと、引き裂かれた感じという流れで、マーク・リーボウと偽キューバ人たちっていうのがいるんだけど。
渡辺 : お。俺すごく楽しみなんだよね。マーク・リーボウ。
滝沢 : 彼はアート・リンゼイも在籍したラウンジ・リザーズっていうバンドで活動していた人で、このバンドはフェイク・ジャズっていうのを掲げていたんだ。ジャズっていうのは元々黒人の音楽でもあるわけで、そこでも引き裂かれた感じがあったんだよね。
渡辺 : マーク・リーボウはトム・ウェイツとの仕事でも知られているんだけど、その彼がギターで演奏するキューバ音楽っていうのが、いわゆるラテンの陽気な感じとは全く違っててさ。
滝沢 : ものすごくドライだね。
渡辺 : そうそう。あと、タッキーと俺の共通項だと、CAKEとWILCOっていう並びは楽しみだよね。
滝沢 : この人たちも、ロックンロールとか商業音楽として広まったものの発祥の地であるけど、そこにはそこのルーツ・ミュージックがあって、そういうのを今に残したいっていうことでやってる部分が…
渡辺 : そこはもっとスムーズな流れなんじゃないの? 残したいっていうよりはアメリカで音楽やってる人として当然あるものとしてさ。日本人だからそういう伺った見方をしてしまうんだろうけど(笑)。親のレコード棚にある音楽を聞く感覚っていうのが、アメリカとかイギリスはもちろん、ルーツ・ミュージックがはっきりとしている国ならもっと普通にあるんじゃないかなって、さっきまでの話でも思ったよ。Hanggaiなんか、だからこそ違和感なく音楽をハイブリットさせていけるんじゃないのかな。あ、あと今年のメンツを見ていると、シューゲイザーが目立つよね。Ringo DeathStarrとか。
滝沢 : あと、Pains of Being Pure at HeartとWashed Outかな。
渡辺 : Washed Outはグローファイとかチルウェイブっていう、発祥地がまったく特定できない音楽で、まさにいまのトレンドだよね。それとシューゲイザー・リバイバルが同時に起こっているのを見ると、なんかすごく世の中がエスケーピズムに走ってるというか、殺伐とした印象を受けるんだけど(笑)。
滝沢 : パワーポップとかシューゲイザーって、民族音楽がベースにしているような生活感覚がかなりなくなってしまった世界の音楽だよね。経済が発達する中で中産階級が出てきて、生活にはそれほど苦労しなくなって、もっと内面が中心的な関心事になった白人の音楽だよね。そういう意味では、引き裂かれてる日本人としては入りやすいのかもね。
渡辺 : そうだね。実際にいまの日本は本当にシャレにならない状況で、バキッとしたものより、そういう甘味な音楽に惹かれる人も多いのかもね。でも俺はバキッとAtari Teenage Riotを浴びたいんすよ。12年ぶりに新譜も出たしね。
滝沢 : ADFとATRは蘇る青春みたいな感じだ(笑)
渡辺 : あと、The Music。彼らは恐らく今年が最後のフジのステージになるんだよね。彼らは出演せずにお客さんとしてフジロックに来てたこともあるらしくてさ。
滝沢 : 根っからのパーティー・ピープルなんだね。The Musicも僕らの年齢的に言うと直撃だね。あと、他に日本勢でいくとLittle Creaturesは世代的にパンクの人たちだよね。バンド名からしてそうだけど、アフリカ音楽に向かってからのTalking Headsを参考にしたような感じだよ。世代は違うけど、あらかじめ決められた恋人たちへがやってるのも、ジャマイカのダブじゃなくて、パンクの入ってるUKダブの感触があるよね。後はGOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTIONとか。アボリジニのディジュリドゥっていう楽器を使うんだけど、それを日本人がやるっていうのも複雑な感じがあるね。
渡辺 : 今年の深夜枠はどう?
滝沢 : やっぱりFour Tetが一番人気かな。
渡辺 : SBTRKTは楽しみだよ!
滝沢 : そういえばCongotronicsって、ベルギーのクラムド・ディスクっていうレーベルから出て火がついた人たちなんだけど、そこの主催者がAksak Maboulっていう70年代末のパンクも含めた実験的な音楽をやっていた人で。そういう人がクラブ・ミュージックの流れにも適うような民族音楽を紹介しているっていうところにもパンクの流れがあるね。
渡辺 : eastern youthの新譜も超パンクだったしな。
滝沢 : 斉藤和義もさ、Richard Hell & The Voidoidsのギタリストで、後にLou Reedのバンドでも弾いてるRobert Quineと一緒にやったりしてるから、パンク好きだと思うよ。
渡辺 : なんか、今年のフジの裏テーマはパンクってことになりそうだね! ふたりでモヒカンにして鋲ジャンでも着ていくか!
FUJIROCK FESTIVAL'11 出演者の楽曲を紹介!