Shing02 × Chimp Beams、4年振りのフル・アルバム『ASDR』をリリース
Shing02 × Chimp Beams / ASDR
『歪曲』から4年。孤高のMC・Shing02と、NYを拠点に活動するChimp Beamsによるコラボレーションが再び! 生音主体のオーガニックなトラックに、NYでの生活や現地音楽家との交流、体験を綴った全編英語詩のラップが溶け込む快作。
【価格】
mp3 単曲150円 / アルバム1500円
wav 単曲200円 / アルバム2200円
ラップをする上での制約が少ない
バイリンガル・ラッパーの代表格Shing02。その彼がShing02 × Chimp Beamsの名義で2008年の『歪曲』以来のフル・アルバム『ASDR』をリリースする。今回コラボレーションしているChimp Beamsはブルックリンに拠点を置く日本人3人組のバンドで、ジャズやダブをベースにトリップ・ホップやイルビエントを思わせるサウンドを作り出す。Shing02は2011年の彼らのアルバム『Slowly』で本作にも収録されている「Aquarium」に客演し、Chimp BeamsのYusuke YamamotoはShing02&HUNGERとして発表されたGill Scott Heronのトリビュート・ソングにして東日本大震災を経たメディア批判の楽曲である「革命はテレビには映らない」に参加しているという仲だ。
『ASDR』は、演奏はChimp Beamsが行い、Shing02がそこに全編英語のリリックでラップをするという形をとっている。Chimp Beamsのサウンドは先ほど書いたようなヒップ・ホップを通過したダブやジャズを基調に様々なビートを繰り出し、2曲目「Revelle」ではダブ・ステップ調のアレンジ、7曲目「Masala」ではインドの民族楽器であるタブラやシタールを取り入れたりと変化に富んでいる。Shing02もそれに呼応するように、「Revelle」ではグライムのようなフロウになり、3曲目「Sunbaked」や続く4曲目「Mixed Signals」ではメロディアスなヴァースを披露、フォーキーな9曲目「Sunday AM」ではフィメール・ラッパーとの掛け合いをするなど、彼のラップの色々な面を聞くことができる。
Shing02は、その初期から社会問題や日本とはなにかというような問いを含んだコンシャスなリリックに定評がある。時には直接的に、そして、時にはいわゆる詩的な表現や物語の形式でそうした問題を投げかけ、ポエトリー・リーディングに近いスタイルを取ることもある。最近では先に挙げた「革命はテレビには映らない」、i-dep feat. Shing02として2012年3月19日にPVがアップされた「fuku」などがあるだろう。しかし、資料から引用すると『ASDR』のリリックは「NYでの生活、旅行途中に現地の音楽家との交流での体験を綴った」内容だという。そして、直接的にシリアスなテーマではないということは、全ての言葉が聞き取れなければわからないような内容ではなく、ラップをする上での制約が少ないということを意味している。そのことが今作でのShing02のラップの多様さにつながっている面があるのかもしれない。
セッションを重ねて作られたというこのアルバムは、Chimp BeamsのサウンドによってShing02のラップの音としての気持ちよさが無理なく引き出されている。Shing02はリリシストとして注目されることも多く、独自な視点を持ったリリックは確かに大きな特徴になっている。今作でもその点が揺らいでいるということはないが、このコラボレーションでサウンドに身を任せたラッパーとしての彼を楽しんでみてはどうだろうか。(text by 滝沢時朗)
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PROFILE
Shing02
最先端のテクノロジーと解放的な文化が共存するカリフォルニアを拠点に活動するMC、プロデューサー。これまでに「絵夢詩ノススメ」「緑黄色人種」「400」「歪曲」を発表し、発案したfaderboardを取り入れたKosmic Renaissanceなど、国内外のコラボレーションをこなす。アルバムを発表する毎に初期のサンプリング ・スタイルから脱却し、ライヴ・ミュージシャンとの競演を重ねながら、現代音楽としてのヒップ・ホップを体現する。2012年上半期はミックスCD『FTTB3』と、英語アルバム『ASDR』をプルックリンを拠点とするバンド、Chimp Beamsとリリース。
Chimp Beams
Chimp Beamsは "ダークなダンス・ミュージック"をコンセプトに、ニューヨークはブルックリンに在住する3人の日本人によって、2001年に結成されたエレクトロニック・ジャズ・ダブ・トリオである。Dub/Jazz/Techno/Rare Groove/Soul/Funk/Ethnic Musicなどを独自の解釈によりスモーキーに吐き出す彼らは、ブレイクビーツ上にバイブラフォン、ギター、ピアニカ、エコーを多用しサイケかつチル・アウトな音色を表現、ライヴ、音源共に繊細なアレンジを施すと同時に、時折アグレッシブな生演奏とインプロヴィゼーションが交差するユニークなライヴ・バンドである。Jah Shaka、Massive Attack、Basic Channelに強く影響を受けたと語る彼らは、数多くの楽器をサンプラーと共に鳴らしかつ極めてダークに表現することで、独創的なサウンド・スタイルを確立することに成功。日本人でありながら日本人には決して表現することの出来ない唯一無比な世界観を作り上げている。現在ニューヨークを拠点にKnitting Factory、Bowery Ballroom等ライヴ・ハウスからクラブでのパーティーまで幅広く精力的に活動中。