ANIMA×益子樹(ROVO) INTERVIEW
Voの小島ケイタニーラブ、Gtの石川ユウイチ、Baのオギノ祥弌、Dr,Choの倉田ミロからなる4人組ロック・バンドANIMA。彼らの音楽はセンチメンタルであったり、とぼけていたり、突っ走っていたりと様々な面を持っている。そんな彼らが、ROVOのメンバーでもある益子樹をプロデューサーに迎え、フル・アルバム『シャガール』をリリースした。このバンドとプロデューサーの組み合わせがどんな形でどんな作品を生み出したのか。ANIMAと益子樹の5人全員で語ってもらった。
インタビュー&文 : 滝沢時朗
ANIMAの新作『シャガール』がHQD Ver.でも配信開始!!
01. バレーボール / 02. サウスポー / 03. ハイウェイノイズ 04. 夏祭り / 05. おしり物語 / 06. 彼の名前はジャン・ポール
07. Blue Banana / 08. SKIP / 09. 渚のロングトーン
HEADZ初の本格派ロック・バンドANIMA。サイケデリックなサウンドとせつないメロディーをキー・ワードに彼らの楽曲の魅力が十二分に発揮されたセカンド・フル・アルバムが益子樹(ROVO / ASLN)の全面プロデュースによって完成。ストーン・ローゼズ、モリッシー、シューゲイザー、初期レディオヘッド、フィッシュマンズ、かせきさいだぁを繋ぐ、奇跡のロック・アルバムの登場!!
“陶酔感”を主軸にしたアルバムを作りたい
――前回のミニ・アルバム『月も見えない五つの窓で』でレコーディング・エンジニアをされていた益子さんが、今作『シャガール』でプロデュースをすることになった経緯を教えてください。
益子樹(以下M) : 前回のミニ・アルバムの時にレコーディング・エンジニアとしてはじめて知り合いました。うちのスタジオでレコーディングをして、ミニ・アルバムができて、色んな曲があるバンドなんだと思いましたね。その後、去年の3月26日の代々木Zher The ZOOでANIMAのイベントを見に行って、そのときのANIMAのライブがすごくよかったんですよ。音の向こう側に情景が見えるような音だと思いました。この感じだったら、前回エンジニアとして関わった以上に深く関わることで、面白い作品を一緒に作れるかもしれないと考えて、アルバム一緒に作らない? っていう話をしたんですね。
小島ケイタニーラブ(以下K) : そのライブで「バレーボール」という曲をANIMAの新曲として披露したんですけど、益子さんが特にその曲に反応してくれて。
――「バレーボール」はANIMAのサイケデリックな面がよく出ている曲ですよね。
K : そうですね、「バレーボール」が『シャガール』の世界観を引っ張っていますね。
M : そうだね。そういうサイケデリックなものと、ある意味すごく日本的っていっていいのかわからないけど、どこかせつない感じが同時にあって、それがすごく面白いなと。
――ANIMAのみなさんはその時には次のアルバムについてある程度構想があったんですか?
K : 考えてはいたんですけど、なかなか進んでなかったんです。自分たちの中でもイメージがまとまってないところがあって。そういう時に「バレーボール」が生まれて、益子さんとアルバムを作ることになって、イメージがグッと広がりました。
――それでは、益子さんとアルバムを作ろうという話になった時に、まず「バレーボール」の持っている日本的なサイケデリックさをアルバムのコンセプトにしよう、というように話されたんですか?
M : そうですね。サイケな感じだったりとか小島くんから出た“陶酔感”っていうキーワードを主軸にしたアルバムを作りたい。前のミニ・アルバムでANIMAには色んな側面があるってわかってるけど、今回このアルバムを作るにあたって、全部ショウ・ケース的に入れるんじゃなくて、ある側面にスポットを当てたアルバムにしてもいいんじゃないの? っていう話をしたんですね。それで、最初はそういうコンセプチュアルなアルバムにしたら面白いものができるんじゃないかって話をしたんですけども、段々色々な曲が増えてきたよね。それはそれで全然ありだなと思いますけど。
――では、コンセプトはありつつANIMAの曲作りは自由にやられていたんですか?
K : “陶酔感”にとらわれていた時期もありました。ANIMAらしさの一つに、ふざけたような部分ってあると思うんですけど、その頃はそういうのがなくなってしまってたんですね。「バレーボール」は何も考えないで自由にやった結果、“陶酔”になった曲なんです。だから、同じように、やりたい放題やって、できた曲たちの中から“陶酔感”があるものをピック・アップしていったほうがいいアルバムになるんじゃないかって、話をしました。
オギノ祥弌(以下O) : もともとANIMAは曲を作るジャム・セッションのときとかに、なにか自分たちでテーマを決めてやっていたことはないんです。それを急にテーマで括るっていうのも変な話というか、今までバンドで機能させていたものを一回止めてしまってるような感じがしました。だから、テーマを意識してサイケな曲を作ったというよりも、自分たちがサイケに感じるものとかを自分たちなりに見据えた上で、いつも通りセッションで作ったというところのほうが大きいと思います。
K : きっと外から見たサイケなイメージは、サウンドの雰囲気もあったりすると思うんですけど、そういう意味で石川くんは結構苦労したんじゃないかなと。実際、悩んだりした? サイケとANIMAっぽさの間でとか。
石川ユウイチ(以下I) : そんなに悩んではないし、そんなに自分のギターがサイケデリックだとも思ってない。それに、ANIMAもサイケデリック・バンドではないし。リハだったりジャム・セッションをしている中で、ANIMAが出せるダイナミズムがうまくできたものが新曲につながってたりすることが多くて、「バレーボール」もそういう延長線上でできた曲のひとつだから、サイケデリックだけではないし。
思いつきでも悪ノリでも本気だったらなんでもいいんです
――確かにそういったコンセプトがあると同時に「Blue Banana」にもよく出ているANIMAの独自のユーモアもありますよね。こうした面のアイディアはどうやって出てくるんですか?
O : 話し合ったことは一切ないです。いつの間にか出来上がっていたというか。
K : 「Blue Banana」は1年ぐらい前に作った曲なんです。最初はなんというか、もっと、モテそうな曲を作りたい願望があって、ちょっとおしゃれなギター・リフと憂いのあるラップみたいなイメージで作ってたんです。下ネタとかモテなそうな要素を排除したんですけど、やってる内に、やっぱりなんかつまんないな、と思って。アルバムに向けて曲を完成させていく段階で、後半の歌詞の「ちんこ立ってまーす」みたいな部分が入って最終的にすごくANIMAっぽい曲になったなと思うんですよね。難産だったけど、悩んでよかったなって思う曲です。
――「彼の名前はジャン・ポール」は不思議な曲ですが、どのように作ったんですか?
K : アコギのリフからセッションで広げていって作ったんですけど…相当やばい曲になったと思う。曲中のアイディアなどはレコーディングの本番で生まれたものもあって、本当にマジックが起きたなって感じです。
――「やったね!」っていう合いの手や最後に倉田ミロさん(以下、KM)が「ジャン・ポールさんのパンおいしい」って言いながら色っぽい声を出していくところなどですか?
K : そうですね。特に色っぽいところ。ミロが色っぽく盛り上がって「ウッフーン。アッハーン。」みたいなこと言ってるときのレコーディングは、スタジオにミロと益子さんと僕しかいなくて、ミロがそういう台詞を言ってるのを、男二人がヘッドホンでじっと聞いているっていう状況になって(笑)。
M : どこでOKすればいいのかよくわからないんだよね。何を基準にすれば。
I : 益子さんのポイントなのか、小島くんのポイントなのか(笑)。
M : まあ、それぞれピークが違うからね(笑)。
K : なんとも言えない体験だったなあ。でもサクッと録れてよかった。
M : たぶん、ワンテイクでOKになったと思います。
K : 録り終わったときのミロが、満足気に「やりました!」みたいな顔をしてたのがおかしかったですね(笑)。
O : 違う現場のオファーが来るんじゃない?
KM : そうかな(笑)。
K : プリプロの段階では、ここの部分で、よく通販とかである“利用者の声”みたいなのを入れようとしていて、利用者役の何人かが次々に、「ジャン・ポールさんのパンのおかげでダイエットが成功しました。今では手放せません!」みたいなのをいっぱい入れようと思ってたんです。で、実際入れてみて、録ったのをみんなで聴いて、「あんまり“陶酔感”ないよね」って(笑)。
――悪酔いする感じですよね(笑)。
K : うん、悪酔いみたいな感じになっちゃったんで、これはいかん、ということで、急遽アッハーン、ウッフーン路線にシフトチェンジした感じです。どっちも悪ノリなのは変わらないんだけど、結果的にはなんとも形容できない曲になってよかったなと思います。
O : でも、根本は大体悪ノリですよ。
M : まあ、根本はそうだよね。
KM : (笑)。
――「おしり物語」ははじめから今の形だったんですか?
K : 歌詞ははじめから“おしり”でしたね。第一段階の歌詞をメンバーに見せたときに「この曲は"おしり"で行くから! 」って宣言して。
O : 「おしり物語」も元はセッションからできた曲なんですけど、そのセッションの時点で、すでに“おしり”って小島くんが叫んでたけどね。「この歌詞で行くから! 」って周りに言う前に。
I : 「こう行くから! 」っていうよりも、自分でその単語がはまるとそれを歌い通すんです(笑)。
O : 別に誰もそれをつっこまないし。
I : 気に入ってるフレーズなんだなって。
K : いやはや… ところで、曲中の「隼チャンス! 」というところで聞こえる「シュンッ! シュンッ! 」っていってる音って何の音だと思いますか?
――なんでしょう…。わからないです。
K : 縄跳びの音なんですよ。最初、ミロが縄跳びを持ってきて、「この音はどうだろう? 」って言って縄を回してみたんだけど、なかなかいい音が出なかったんです。そこで益子さんが「おもりを付けた方がいいんじゃないか? 」って言って、縄におもりを付けて益子さんが回したら、すごいいい音がして(笑)。
KM : 益子さん振り回すのがすごくうまいんですよ。
K : そんな感じでしばらく縄跳び会議してましたね。本気で縄跳びについてずっと話し合いました(笑)。
O : でも、そういうふざけた勢いがバンドの勢いにはなってると思うんで、悪ノリっていう言葉で言ってますけど、字面通りに単純に“悪い”って捉えると、このバンドは機能しないんですね。そうやって出てくるものは大事にしたほうがいいと思ってます。
K : こういう色んな味付け的な部分はミロのアイディアに寄るところがでかいですね。最後の「渚のロングトーン」でフルート吹いてるのもミロなんですよ。
KM : そのフルートのフレーズを決めるときに、歌詞の主人公の渚ちゃんが吹奏楽部をやりたくないので、いかにやる気のない感じを出すかで話し合いました。
――益子さんはANIMAのそういう面はどう思われてますか?
M : 基本的に自分のパートのことに関して自分で責任を持つっていうスタイルのバンドがすごく好きなんですよ。その人が今はまっていることを大事にしたいし、それを楽しんでやってるっていうことを活かせるのはすごくいいバンドだと思います。ANIMAもそういうバンドですよね。僕がやってるROVOもそうです。あと、大事なのは、音とか歌詞とか演奏する人が目的じゃなくて、その向こう側に情景が見えるような音楽。だから、陶酔感やサイケっていうキーワードも、いわゆる“サイケ”っていう言葉から連想する音とは全然一致してなくてよくて、単純に音楽がひとつの装置になって別の世界にシフトするようなもの、そういう曲が集まったアルバムだったらいいなと思っていました。そこにたどり着くなら、思いつきでも悪ノリでも本気だったらなんでもいいんです。