
Chisato Ohori / toanowa
日本が世界に誇るエレクトロニカ・レーベル、PROGRESSIVE FOrMが放つコンピレーション作『Forma. 3.10』に参加したChisato Ohori、待望の1stアルバムが登場した。神々しく美しい音の波がそっと舞い降り、深く心地よい空間へと導く。 幾度聴いても薄れない新鮮な響き。ピアノとアコースティック・ギターによる美しい旋律を中心とした楽曲群。それらはカセットMTRを通ることでより深く淡い質感を纏い、アーティスト独自の世界観へと昇華される。本作は極上のアンビエント作品。流れと曲間も重要なファクターゆえ、アルバムを通してゆっくりと聴いてほしい作品だ。
【TRACK LIST】
1. caitokali / 2. fog / 3. huakure ~ lua / 4. huakure ~ rah / 5. huakure ~ luz / 6. sepia / 7. asemiph / 8. omolu / 9. efe / 10. akuruhi / 11. sonohikariha / 12. suna / 13. sa / 14. abibi
DNAに刻み込まれた記憶
誰にでも記憶がある。小さい頃から様々なものを見聞きしてきた記憶。しかし、人間は忘れていく生き物だ。記憶は時間が経つにつれ曖昧にぼやけていき、やがて抽象的な感覚としてだけ残る。あの匂いや、あの光の感じ。この記憶の中の遠くにあって消えない感覚は、どこの人間にでも共通するものじゃないだろうか。具体的な物によって思い出される懐かしさではなく、頭の中の観念としての「懐かしさ」。今回はじめてのアルバム『toanowa』を、半野喜弘らを輩出したPROGRESSIVE FOrMからリリースするChisato Ohoriの音楽は、そんなことを思わせてくれる。
では『toanowa』はどんな音なのだろうか。まず、第1にその繊細な音の使い方に耳がいく。リスナーを幽玄な世界に導く音響空間やエレクトロニクスは、アンビエントの名門レーベルk12あたりを思い浮かべる。しかし、きれいなだけではなく、少しのほこりっぽさがある。録音にテープ・レコーダーやカセットMTRを使っている効果だろう。そして、その中で響くピアノやアコースティック・ギターの旋律は、近年のポスト・クラシカルの流れも感じさせる。これらの要素が絡まりあった音が「懐かしさ」を呼び起こしてくれる。不思議な音だ。
Chisato Ohoriは中南米やアジアを旅し、民族音楽を含め様々な音楽家と交流、セッションを重ねてきたという。その中で「懐かしさ」を音像として描くことを身に着けたのではないだろうか。どこの土地の音楽にも共通して潜んでいる「懐かしさ」。しかし、これはただのノスタルジーなどではない。世界中とコミュニケーションを取れる環境があり、アナログからデジタルまで音楽制作の選択肢がある現代だからこそ作れる音楽だ。ぜひ、この「懐かし」くも現代的なサウンドに浸かってみて欲しい。(text by 滝沢 時朗)
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INFORMATION
今年8月に発売されたレーベル・コンピレーション第3弾『Forma. 3.10』のリリース・イベント『New Sounds of Tokyo Vol.7 -Forma. 3.10 release event-』がリキッド・ロフトにて開催。細野晴臣主催daisyworld discsとPROGRESSIVE FOrMより3枚のアルバムをリリースしているeater、1stアルバム「Scale of Rime」でエレクトロニカ/ブレイクビーツ/テクノを高レベルで融合させたハイブリッドなサウンドを表現したsooner、イギリスのBoltfishより先日発売されたアルバム「Glued on Thin Memories」が非常に高い評価を受けているsabi、様々なレーベルへの楽曲提供と平行し電子音楽party"ORASP"を主宰するTaishin Inoue、クラシックとテクノをベースに楽器やフィールド・レコーディングを取り入れた楽曲を制作するSeiji Takahashiの5組がライブを、またaus主催flauや術ノ穴での評価の高いアルバムで知られるGeaskia!とAmetsubがDJで参加。
『New Sounds of Tokyo Vol.7 -Forma. 3.10 release event-』
2010/10/22 (金)@LIQUID LOFT
Open/Start 23:30
Live : eater、sooner、sabi、Taishin Inoue & Seiji Takahashi
DJ : Geskia!、Ametsub
W/Flyer & Print-Out 2000円 Door 2500円
Chisato Ohori PROFILE
ピアノ、ギター、ベースの演奏を基本としながら多種多様の響きを持つものを使い、オーガニックなアプローチから、時にそれらの音をコンピューターを使ったプロセッシングで、いろいろな表情、情景を描き、旅や日常の生活をするなかで出逢う感覚を紡ぎ一つの音のまとまりとして表現している。これまでにベーシストとして多くの即興演奏のライヴを行い、ジャンルに関わらず様々な表現者とセッション、バンドで演奏する。その後、楽器とともに主にアジアや中南米等を旅する傍ら、各地の音楽家に師事、世界中からやってくる演奏者とセッションを重ねる中、無国籍の言語的な音のコミュニケーション、そして、おそらくDNAが持つ人間の本質的なリズムや同時に映像性等の数多の表現手法との共通性のある音楽を模索する。想念としての行動といった発想をもとに、イメージを聴覚可能な振動化した音楽という行動手段で、一つ一つの形として軌跡を残している。