2011年のBabiのファースト・アルバム『6色の鬣とリズミカル』は、トイ・ポップやエレクトロニカなど多様な音楽性に包まれて女の子の揺れ動く心情が歌われたアルバムだった。その新鮮な感覚はインディー・ロックなどの熱心なリスナーに響いたが、それから2年を経て、セカンド・アルバムの『Botanical』がリリースされる。今作では管楽器、木管楽器、弦楽器などの生楽器が多用され、恋や創作についての歌はより複雑かつ伸びやかに展開するアレンジを施されている。それは室内楽を思わせるところもあるが、難しくなったわけではない。これはポップスなのだ。普段から私たちが聞いているポップスは、身近にありながら聞いているときに少し違うものの感じ方や見え方を提供してくれることがある。『Botanical』のアレンジはポップスのそうした面を広げるように機能しているのだ。それは何気なく見ていた道端の草花をよく見ると、実は驚くような仕組みを持っていることがわかるような、センス・オブ・ワンダーとも言えるような感覚に満ちている。
OTOTOYでは、そんな『Botanical』をHQD(24bit/48kHz)で高音質配信し、インタヴューを掲載。同時にアルバムの冒頭を飾る「時計草」のフリー・ダウンロードを1週間限定で行う。楽曲を聴き、インタヴューで彼女の考えに触れて、『Botanical』の世界を楽しんでほしい。
>>「時計草」のフリー・ダウンロードはこちらから<<
インタビュー&文 : 滝沢時朗
高音質配信&配信限定オリジナル・ブックレット付き!!
Babi / Botanical
【配信価格】
(左)HQD 単曲 180円 / まとめ購入 1,800円
(右)mp3 単曲 150円 / まとめ購入 1,500円
【Track List】
01. 時計草 / 02. passepied / 03. プレパラート / 04. 昆虫採集 / 05. 魔法劇場 / 06. ファンシー魔女 / 07. レッスン / 08. アルルカンと踊り子 / 09. アトリエ / 10. owl
※まとめ購入の方には、配信限定で用意された『Botanical』イメージ画像と、CDと同様の歌詞カードが入った、オリジナル・ブックレットがついてきます。
INTERVIEW : Babi
私の音楽も植物的な生命感のある曲にしてみたいなって思った
——『Botanical』は前作からより洗練されて、音が凝縮されたアルバムになっていると思います。アルバム全体のイメージが最初にあって、そこから作りはじめたのでしょうか?
Babi : 最初は植物的なイメージからはじまってアルバムを作り出しました。朝に植物たちが目覚めて、夜がきて静かに終わり、そしてまた朝がはじまるような、ループするような構成にしています。
——曲はアルバム用に書き下ろしたんですか?
Babi : 今回は新しく作った曲と、5年ぐらいのなかで気に入っているものを編曲し直して入れている曲があります。新しい曲は植物とか昆虫をテーマにした曲が多く、前からある曲は自分の心情により潜ったような曲などもピックアップしています。
——植物的なイメージでアルバムを作ろうと思ったのはなぜですか?
Babi : もともと祖母がお花の先生をやっていて、母親も植物がすごく好きなんです。でも、私はふたりほど好きというわけではなくて、実家にはいろいろとおもしろい植物も植えてあるんですけど、私はずっとなんとなく遠目で見ているだけでした。それが、あるとき急に植物に目覚める瞬間がやってきて、植物を近くで見るといろんなかたちや色が想像を越えていて「なんて、愛らしいんだろう」と、独創性に感動してしまいました。それから、すごく植物にのめり込みはじめて、私の音楽も植物的な生命感のある曲にしてみたいなって思ったのがきっかけです。
——もともと身近にあったもののすごさにふと気づいて、そこからイメージが湧いてきたんですね。
Babi : 母が植物の声が聞こえるってい言うんですけど、私はずっと、なんとなく疑うような気持ちで「なんか言ってる…」と、不思議な感覚で、子供を観るような眼で観ていたんです。でも、私もいまは植物が元気だと色んな声が聞こえてくる気はするんですね。ちょっと変な人みたいですけど、母はこういうことを言ってたのかなと。
——作曲はイメージが湧いてからするんですか?
Babi : そうです。植物が水をぼんっぼんって吸ったり、蔦がくるくるくるって巻くようなイメージとか。でも、これをやってくぞって最初から固めているわけではないです。私は普段の生活のなかで散策的な感じでいろんなところをうろうろしたりしていて、視覚的なものを取込んだり、お店で流れている音が入ってきたり、頭のなかで独り言が流れていったり、突っ込んだりしているようで(笑)。そのなかで発見があったものとかを持ち帰って、作りながら今日の出来事を記すような感じだったり、体感したことを曲にすることが多かったりします。
——ちなみにどういうところをブラブラするんですか?
Babi : やっぱり、花屋さんにはすごく行きます。自分で花を育てていて、順調にいくのもあれば、相性が悪い子もいて、どう育てたらいいか訊きにいったり。あと、近所の花を植えている花壇を見て回って、博物館や虫も探したりもします。あんまりいいことじゃないですけど、セミを持ち帰って家で羽化させたりしたこともありました。あと、植物がなにかに変装しているように見える姿を探すのも好きですね。
——変装ですか?
Babi : そうですね。ちょっと見てもらえますか?
『Botanical』Trailerを見せてもらう
Babi : こんな感じで妖精みたいに見えたりとか。
——なるほど。よくわかりますね(笑)。
Babi : CMです(笑)。こういう見え方がするのがおもしろいなと思って。
前半の4曲が植物的な感じなんですけど、中間からちょっと想像のなかに入っていきます。
——前回のインタヴューでは実体験を歌詞にすることが多いと伺ったんですが、今回もそうですか?
Babi : 前は自分の心のなかの話が多かったんですけど、今回は人と対面している内容の歌詞もあります。2曲目の「passepied」は、歩いてきて花瓶を置いたところからお花と会話をしてはじまるようなイメージです。この曲は、もともとはストレートなバラードの曲にしていたんですけど、なにか自分がワクワクする感じがないなぁというのと、今回アーティスト写真を撮ってもらっている女性の方がいるんですけど、彼女は言葉選びもおもしろくて、その子の文章の言葉に潜ってどんどん展開するような感じに影響されました。それで、編曲を中間部からばっさり変えて、いまの形になっています。彼女は1番好きな曲はこれって言ってくれて、すごくうれしいです。3曲目の「プレパラート」は、震災後にどんな曲を作っていいのかわからなくなった時期に作った曲です。なにもないところで音を探すような感覚で作っていたので、ちょっと寒がっているような感じの曲になっています。そことつながって、「レッスン」もスランプに陥って迷っていて苦しいところを踊り狂って解放させようっていうどうにかその状況から抜けたい願いのような想いで作った曲です。作りまくっていればどうにか抜けられるかもしれない、と懇願するような、でもとても不安な気持ちで音楽に接していた時期に書きました。
Babi : この曲は知り合いのカップルに頼まれて作った曲なんです。彼女がホームページを作ってくれたので、それと物々交換みたいなかたちで。彼の方が昆虫採集マニアで、彼の実話を元にした部分と自分の経験したことを混ぜた歌詞になっています。この曲は自分だけじゃなくて、ちょっと人の思い出に入り込んでいる曲ですね。
——その彼は本当に歌詞の通りの人なんですか?
Babi : 私も最初は、彼は手ぬぐいを巻いていて、摘んだコスモスを持ちながら息を切らせてローラースケートで急いで来るって話を聞いてすごく驚きました(笑)。その彼女は「なんか変わっているんだよう…」って言うんですけど、いや、そこは伸ばすべき素晴らしいところだっていう応援ソングです。「彼はステキだ!」っていう(笑)。
——サビの「妄想彼氏を越えた彼氏」っていうフレーズが好きなんですが、そんなにインパクトがあったら確かに越えていそうですね。
Babi : そうなんですよね。歌詞を書いていた時期が彼氏はどういう人がいいかって妄想をしていた時期だったんですけど、彼女の話を聞いたら想定の範囲を越えていたので(笑)。
——6曲目の「ファンシー魔女」からは比較的沈んだ曲調になっていきますね。
Babi : 『Botanical』は前半の4曲が植物的な感じなんですけど、中間からちょっと想像のなかに入っていきます。
——7曲目の「レッスン」では歌詞がほぼドイツ語ですが、なぜですか?
Babi : すごく仲がいい子がドイツ語をしゃべって遊んでくれていて、響きがすごく好き! って思いまして(笑)。それで、その子のドイツ語の先生とかドイツ人の方に協力してもらいながら歌詞を作りました。でも、やっぱり、バレエというとロシアのイメージの方が強くて、この曲ではロシアのバレエ学校のなかでドイツ人留学生がちょっと悩むっていう設定にしています。留学してスランプになるところを日本語の歌詞で解説して(笑)。小さいころにバレエをやっていたので、踊りというものが音楽をやっているときと似てる感覚があるんですよね。だから、よく踊りって言葉やイメージが出てきてしまいます。
——9曲目の「atleier」はBabiさんが音楽を作るときの心境を歌っているようにとれますね。
Babi : そうですね。多分、このなかで1番古い曲です。自分のなかにある暗めな部分も出た曲だったので、表に出さないほうがいいなって思ってた曲だったんですけど。暗い映像のなかから自分の手で描いていかなくては… いきたい… と、きれいに広がって行くような希望があって欲しいなというイメージを込めました。そこはヴィオラやチェロの方にも伝えて演奏してもらいました。
ライヴで生楽器を聞くと、どんどんやりたいことが湧いてきて。
——『Botanical』は生楽器中心ですが、編曲について以前と変わったことはありますか?
Babi : ライヴをあまりやらずにきていたんですけど、前回からお世話になっている美島豊明さんにがんばれってお尻を叩いてもらって、ライヴをやるようになったんです。『Botanical』でも演奏してもらっている大石俊太郎さん(サックス)と、カメラ=万年筆の佐藤優介くん(ベース)に参加してもらって。それで、ライヴで生楽器を聞くと、どんどんやりたいことが湧いてきて。それと、演奏者のことを考えるようになりました。前は打ち込みだったので、奏法を想像できないところがありましたけど、今回はちゃんと呼吸のタイミングとかを考えています。「時計草」はちょっとひとりだと息苦しそうな感じかもしれないんですけど各楽器奏者ふたりずつのような人数多い設定で(笑)。
——レコーディングではBabiさんがスコアを書いて演奏者の方に渡すという形でしたか?
Babi : そうですね。ベース以外はスコアを書きました。優介くんは自分の想像範囲を越えてきてすごく楽しかったのでお任せしました。デモはあったんですけど、それもちょっと変えて演奏して欲しいってお願いしました。
——他の演奏者の方にこういうイメージで演奏してくださいですとか、スコアを渡す以外に曲について話したりしましたか?
Babi : 私は結構感覚的な喋り方をしてしまうので、人によって伝わり方に差があるんですよね。歌って説明することも多いし、楽譜に細かく記号を書き込んでいるというわけでもないですから。大石さんは長く手伝ってくださっているので、若干通訳みたいなかたちで私の言いたいことを伝えてもらいながらレコーディングを進めました。
——演奏者の方にも色々と個性があると思いますが、どうでしたか?
Babi : それぞれにいろんな個性があると思うのですが、映像を浮かべながら演奏するような方、感情に潜って行く方や、より楽譜に忠実に演奏する方などいろいろな個性に出会ったような気がします。あと、前はあんまりわからなかったんですけど、映像を浮かべる感覚的な方の演奏を聞いたときに、こっちにも映像が見えてきて。男の人の奏者さん(管楽器など)でも、女の人が歌っている映像が見える演奏をする方もいました。おもしろかったです。
——演奏に参加してる方は全員Babiさんと同年代ですが、元々Babiさんが交流のある方々なんですか?
Babi : 私は打ち込みばっかりやっていたので、友達も打ち込みが中心の知り合いばっかりなんですけど、大石さんが色んな方を紹介してくれました。
——佐藤優介さんは大学と学科が一緒なんですよね。普段から仲はいいんですか?
Babi : いいですね。カメラ=万年筆の2人とはよく遊ぶし、音楽の話もいっぱいします。佐藤望くんがごはんを作るのうまいので、みんなでむしゃむしゃ食べるっていう会があって、すごく楽しいです。
——音楽に関してどういう話をするんですか?
Babi : 2人とは自分がワクワクするような音楽を作りたいよねっていうところですごく気が合うんです。最初に優介くんと知り合ったときに好きな曲を入れたCDを交換してたんですけど、そこでワクワクする気持ちに似た部分があって。それは、望くんの即興とか聴いていてもそうですね。2人と話すときは、前のインタビューでも話した牧村憲一さんと同じ感覚になれます。
今回は曲に自分の主観的な見え方とつながったところが多くて、開けている気がします。
Babi : すごく大きいです。CM制作会社の社長さんは前のアルバムを聞いて好きになってくださった方で、打ち合わせで「Babiに頼んだ意味を考えてね」って言ってくれるんですよ。作り直しになったり、短い時間のなかで何パターンも作ったりで、苦しいときもありますけど、楽しいです。
——作り直しになったときって、他の音楽を聞いて参考にしたりするんですか?
Babi : クライアントさんにこういう感じって言われたら聞きます。でも、聞きすぎるとそっちに寄りすぎてしまうので、ふわっと流しながらですね。曲によってはしっかり耳で勉強したのもあると思います。
——どういった音楽の勉強をしたんですか?
Babi : なにに影響を受けたかって言われると、多分、聞いてしまったものすべてに影響を受けてしまっているので、自分でもちょっとわからないんです。アレンジも感覚でやっていくので。
——『Botanical』は外から得たひらめきであるとか、奏者の方々の参加であるとか、自分以外の要素が大きい役割を持っていますね。
Babi : 話してみるとそう思います。前回は自分ではどうしようもできない外的な要因で出てきた曲が多かったので、自分でもちょっとどこに行くのかわからない感じがありました。でも、今回は曲に自分の主観的な見え方とつながったところが多くて、開けている気がします。
——Babiさんのブログを見ると映画や絵画ですとか、最近だと宮崎駿の「風立ちぬ」を見たり、市川春子の「宝石の国」を読んだりと音楽以外の表現にも触れていますよね。『Botanical』を聞いたときに宮崎駿のアニメの飛行機が風を受けて生き物みたいに飛ぶ感じとか、「となりのトトロ」の森の感じを思い出したりもしました。
Babi、ファースト・アルバム『6色の鬣とリズミカル』
まるでオモチャ箱を開いたかのような音が聞く者の想像力を刺激し、そのサウンド・デザインの裏にはしっかりとした音楽理論と感性が織り交ぜられている。ドリーミーな印象を受ける楽曲群だが、実はオモチャ箱の奥に潜む影と現実世界を表現したびっくり箱のような作品! エレクトロニカ、トイ・ポップが好きな方にはお薦めの作品です。
LIVE INFORMATION
Babi『Botanical』リリース記念パーティ
「アルルカンとパラードへ」
2013年12月1日(日)@サラヴァ東京
開場 18:00 / 開演 19:00
出演 Babi、caméra-stylo
PROFILE
Babi
2歳からピアノを学び、トイレソング、空腹ソングなどを作りはじめ、5歳から6年間本格的に作曲を学ぶ。
高校時代、MTRを使用した多重録音に少しはまる。
音大に進学し、さらに多重録音にはまり、家にこもって自宅録音する創作スタイルがはじまる。
2011年 音楽の他、ものづくりを中心としたいろいろなモノを制作発表できる場として、レーベル「ウッフフクク」をはじめる。1stアルバム『6色の鬣とリズミカル』をリリース。
2012年 映像・展示作品の音楽やCM音楽を手がけながら製作を続ける。
2013年9月 2ndアルバム『Botanical』をウッフフククとnobleによるレーベル・コラボレーションでリリース。
>>Babi Official HP
>>noble Official HP