2月4日に発売されたhalosの新作『ivy,ivy,ivy』からフリー・ダウンロードが開始!
もちろん音楽ありきなのだけど、その音楽に捧げる姿勢やバンドに対する哲学などにおいても、僕は草階亮一という人に多大な敬意を抱いている。ただひたすらに美しい音楽。その一点だけを目指し、地元秋田に拠点を置きながら活動を続ける彼の姿に、僕は音楽家としてのひとつの理想像を見ているのだ。
そんな草階率いるhalosの通算4作目となる新作『ivy,ivy,ivy』が届いた。ここまでの彼らのキャリアがすべて結実した、まさに傑作と呼ぶに相応しい最高の仕上がりだ。いわゆるメッセージだとか意味だとか、そういったまどろっこしいものはもちろん一切ない。震えるほどに美しいサウンドが最初から最後まで流れてくる。それだけだ。そんな音楽が作れるバンドなんて、彼らの他にどれだけいるのだろう。
インタビュー & 文 : 渡辺 裕也
『ivy,ivy.ivy』から「蛾の歌」のフリー・ダウンロードはこちらから
halos / ivy,ivy,ivy
2007年には東北最大のロック・フェスティバルARABAKI ROCK FEST.のメイン・ステージを務め、漫画家みずしな孝之氏原作の『けものとチャット』OVAへの楽曲提供、現在は秋田内陸縦貫鉄道のCMソングとして起用されるなど、多岐に渡る活動で知られる彼ら。毎回1発録りのスタイルにこだわり、楽曲そのものはシンプルに、しかし音楽的アレンジやサウンド面では妥協をみせず音を作り込んできたhalosの楽曲達に新たな物語が加わった新作をどうぞ!
halosの過去作もお見逃し無く!!
いまの形態で活動するのがなかなか大変になってきた時期だった
——今回のリリースにあたって<"T"rust over 30 Recordings>と提携することになった経緯を教えてください。
草階亮一(以下、K) : 11月末に東京でエリーニョと2マン・ライヴをやった時にレーベルの人が来ていたんだ。そこでこれからリリースする予定なんだと話したら「うちから出す? 」って言われてさ。そこでまず俺の エゴをぶつけてみたら、意外にもすべてを受け入れてくれてね。血の通った付き合いであることを前提にきちんとやりたいと言ってくれたんだよね。
——レーベル名がそのまま方針になっている感じがしますよね。
K : そうだね。最初に細かいことをクリアしたら、そのあとは夢を語れる人だったから、手を組みやすかった。
——最近は内陸線のテレビCMにhalosの楽曲が使用されていたり、地元秋田での知名度がかなり大きくなっているようですね。
K : 最近になって少しは「ポップでキャッチーなアルバムなので聴いてください! 」とか笑顔で言えるようになったからかな(笑)。でもやっていることは何も変わってないよ。販売促進のために俺が思いつく発想なんて、本当にチープなもんだからさ(笑)。そうやって少しずつ認知してもらえるのは嬉しいことだよね。
——新作の話にいきましょう。個人的には過去になくダイレクトで攻撃的な作品だと感じました。
K : 「前作は大人っぽい感じでしたけど、今回は非常にポップですね」っていろんな人から何度も言われてるんだけど、俺からすると逆なんだよね。今回の方がシックだと思ってるから、ちょっと不思議だったんだよ。普段から音楽に携わっている人はさすがにわかってるね(笑)。
——同時にとてもエモーショナルな作品だと思いました。
K : 諸越俊怜(Dr)にむかついてたからかな(笑)。制作作業が滞った時期がけっこうあってね。前作を出してから11月にレコーディングに入るまでの1年半の間に出来ていたのは、「旅の路面」だけなんだ(笑)。いろいろと邪念も多かった。地方に住みながらいまの形態で活動するのがなかなか大変になってきた時期だったんだ。
——佐藤和也さんが新ベーシストに加わって最初の作品なんですよね。
K : とにかく彼はサウンドがよくてね。シンプルなフレーズで音像をはっきりと前に出せる人がほしかったんだ。でも彼はまだ若いから、当然経験もないし、レコーディングは時期尚早かなと思ってたんだけど、最近になって少しずつ垢抜けてきたんだよね(笑)。あいつは相当伸びているよ。
——以前、草階さんは「変わらないものって素敵だと思う」と話していましたよね。僕はそれを聞いて「草階さんは変化を促すものではなく、受け入れるものと捉えているんだな」と解釈していたんですが、間違いではないですか?
K : うん。今回も意識的に変わろうとしたところはまったくないよ。例えば音楽を評価する行為は誰もがやるよね。自分の身近な人間が世の中にある音楽の中からひとつを選んでお金を払おうとしている時に、「あなたの好みにはこれが合うんじゃないか」みたいな情報を伝えたりさ。でも、最近みんながツイッターとかで「これは時代を揺るがす問題作! 」とか「これはクソだ! 」とか言いまくっているのを見ていたら、誰かから正確なアナウンスをもらってその音楽を聴くことって、すごく奇跡的なことに思えてきてさ。halosはそこを裏切りたくないんだ。「真っ赤だな」なんて、本当になんでもない曲なんだけどさ。
思っていたところに限りなく近づけた
——あの曲はまさに異色ですよね。
K : あれはいれるかどうか悩んだ。だってあれ、「2時間前にちゃちゃっと作りました」って言われてもおかしくない曲でしょ?
——いやいや(笑)。シンプル極まりない曲ですよね。「halosはついにこの領域に行き着いたのか」と思いましたよ。
K : それがいやだったんだよ(笑)。小難しくやりたい時だって俺にはあるからさ。それにこんなにシンプルな曲だと、なにか補足しなきゃいけなくなったらいやだなと思ったんだよね。でも、ストレートな思いがちゃんと伝わってくれたら、それに越したことはないよね。あれは本当にただ「真っ赤だな」っていうだけの歌だから。
——話が少し戻りますが、「旅の路面」だけは早い段階で出来ていたとおっしゃってましたよね。なぜそのあと制作が止まってしまったんでしょうか?
K : あの曲だと和也が入った意味がないような気がしたんだよね。いまの4人だから作れる曲がほしかった。そこで「西の空」のプロト・タイプが出来たんだけど、それもなんか気に入らなくてね。そのあとに「ピアノが鳴る」が出来て、とりあえずその3曲でアルバムのイメージは沸いたんだけど、どうも気に入らなくて。というのは、その時点で4人共揃ったリハーサルが一度も出来ていなかったんだ。でもレコーディングの日付は決まっていたから、やらないわけにはいかなかった。そのタイミングを逃すと、エンジニアも含めたメンバー全員の予定を合わせられる次の機会はその1年後になっちゃうような状況だったんだ。でも曲がない(笑)。そんな状態でようやく4人でリハーサルをしたんだ。そうしたらどんどん出来ていくんだよね。どうも気に入らなかったさっきの3曲も、いまとなってはもう大好きなんだよ(笑)。
——いわゆるスランプだったんですか?
K : スランプはないよ。音楽を作ることに関しては、技術的にも知識的にも、もちろん経験も右肩上がりだし、努力もしている。ちょっと夢のない話をすると「黒い路面」(1st収録)みたいな曲は、今ならすぐ作れるんだよ。だけどそういう問題じゃないんだ。スランプはないんだけど、自分がよしとするものとの葛藤はあったね。
——その草階さんがよしとするポイントをもう少し詳しく教えてください。
K : ザックリ言えば、音楽的に充実しているもの。だけどコードをたくさん使うような細かいものはあまり好きじゃない。これまでやってきたものとあまりにも違い過ぎるものもやりたくない。halosらしくて、なお且ついまの俺の中にある標準をクリアしている曲。あとは歌詞だね。俺は自分の歌詞が世界一だと思っているんだ。俺よりいい歌詞が書けるやつはいないと思う。ギターがうまい人。作曲のセンスがある人。リズム感が並外れている人。声が綺麗な人。どの分野でも上には上がいることはわかってるんだ。そこで唯一俺が台頭出来るのが歌詞なんだよね。とにかくそこだけは許してほしい(笑)。
——(笑)。いつからそう思うようになったんですか?
K : 「黒い路面」を書いた時だね。
——僕がhalosの歌詞に対して思っていたのは、描かれる風景と心情がシンクロしないということなんです。言葉と演奏によって、ただ風景だけが描写されていく。仮に心情が表れたとしても、それは風景とはまったく別のものとして描かれている。
K : だって、これだけ人間がいて、たくさんのミュージシャンがいるのに、みんなが自分のことを歌っていたら、うるさいだけだよね(笑)。レディオヘッドでもイーグルスでもシン・リジーでもキンクスでも、なんでもいいんだけど、いま挙げた人達の音楽から、俺は個人の思いみたいなものを感じないんだよね。もしかするとそういうものもあるのかもしれないけど、俺の印象にはそれほど残っていないんだ。
——改めて、前身バンドを解散させて、草階亮一ではなくhalosとして活動を始めたのはなぜだったのか教えてもらえますか?
K : 宮崎(piano)くんと一緒にやりたかったというのがまず大きかった。そして「そこに諸越を加えたらどうなるだろう」というイメージがすぐに浮かんで、実際に3人でやってみたら、やっぱりすごくよくてさ。そこで「黒い路面」という曲が出来て、すごくいい曲だと思って、当時マネージメントをしてくれていた人に聴かせてみたら、目の前で泣きだしたんだよね(笑)。ちょうどバンドもうまくいかなくなってきたところだったし、これは自然な流れだなと思ってさ。
——これまでの作品にはそれぞれ1曲ずつ、作品のムードを象徴する楽曲が収められてきたように感じています。1作目だったら「黒い路面」。2作目なら「フライパンの凹み」、3作目なら「青い鳥」。でも、今回のアルバムを1曲に集約して語るのは難しいですね。
K : 盛りだくさんだよね(笑)。今回は曲順を決めるのにすごく時間がかかったんだ。最初と最後だけはすぐに決まったんだけど、その間がなかなか決められなくて。どれも個性が強くてさ。でも、今回は先行発売の時点で既に前作よりも売れているんだよね。手売りとライヴと通販だけでね。それってちゃんとお客さんがついてきてくれてる証だよね。ここまでの活動が秋田でちゃんと実を結んでる。これを都会にも持ち込めたらいいんだけどね(笑)。
——本当に僕もそれを望んでいます。では最後に。草階さん自身はこれまでの4作の中で今回のアルバムをどう位置付けているのでしょうか?
K : 最高傑作が出来たと思っている。もちろんこれまでの作品でもステップを踏んできた手応えはあるんだけど、今回はメンバーがみんな感動したんだよね。すべての作業が終わった時の雰囲気が本当にすごかったんだ。メンバーに対して「ありがとう」という気持ちが素直に沸いたよ。思っていたところに限りなく近づけたアルバムだと思う。
物語を感じさせる音
Lamp / 東京ユウトピア通信
待望のニュー・アルバムとなる今作『東京ユウトピア通信』は、EP「八月の詩情」と同時に平行して制作され、丁寧に1年半という時間を掛けて作り上げられた作品。そのサウンドは新生Lampとも言うべき、より強固なリズム・アレンジが施され、これまでのLampサウンドを更に昇華させた独自の音楽を作り出している。冬という季節の冷たさと暖かさや誰もが一度は通り過ぎたことがある懐かしい感覚、どこかの街のある場所での男女の心象風景などこれまで同様に物事の瞬間を切り取った美しい歌詞を、新しいサウンドの乗せて編み上げた8曲の最高傑作。
高畠俊太郎 / tranfer in flowing lights
活動15周年を迎えた昨年、ベスト&トリビュート「'09←'94」(2枚組)をリリースし、バンド時代を知らなかった層やトリビュート参加アーティストのファンをも魅了した高畠俊太郎。ソロ名義では2作目となる待望のオリジナル・アルバムが遂に完成した。
ウミネコサウンズ / 夕焼け
くるりが主催するNOISE McCARTNEY RECORDSより04年3月にソロ・アルバムをリリースしたこともある古里おさむが新たに始動したソロ・ユニット「ウミネコサウンズ」の1st mini album。今作で古里のバックを務めるのは、ドラムに佐藤"コテイスイ"康一(髭 HiGE)、ベースに須藤俊明(GOMES THE HITMAN,ex. MELT-BANANA)、ギターに田辺玄(WATER WATER CAMEL)という豪華ミュージシャンたち。
LIVE information
「halosと、やっぱり有明け」 halos『ivy,ivy,ivy』発売記念ツーマン・ライブ
2/17(木) @新宿JAM
2/19(土) @仙台PARK SQUARE
2/28(月) @仙台enn
PROFILE
halos=光のもやみ、ノイズ。日本語では「暈」(うん)円形の光や後光などを指す。
草階亮一(vocal & guitar)、諸越俊玲(drums & Percussions)、宮崎悠(acoustic/electric piano & organ)、佐藤和也(bass)