Deerhunterのフロントマンが放つ新作が配信開始!
Atlas Sound / Parallax 現在絶大な人気を誇るUSインディ・ロック・バンド、Deerhunterのフロントマンであり、世代を代表するソングライターとして世界的な注目を集めるカリスマ、Bradford Coxによるプロジェクト、Atlas Sound待望のニュー・アルバムが遂に登場!
【TRACK LIST】
01. The Shakes / 02. Amplifiers / 03. Te Amo / 04. Parallax
05. Modern Aquatic Nightsongs / 06. Mona Lisa / 07. Praying Man / 08. Doldrums
09. My Angel is Broken / 10. Terra Incognita / 11. Flagstaff / 12. Lightworks
13. Quark Part 1* / 14. Quark Part 2*
*は日本盤ボーナス・トラック
『Parallax』でひとつ新しい扉を開いた
現在、最も注目されているアメリカのインディー・ロック・バンドDeerhunterのフロントマンBradford Cox(以下、Bradford)のソロ・プロジェクトAtlas Soundが3枚目のアルバム『Parallax』を発表する。2年前の前作『Logos』があり、昨年の11月にはフリー・ダウンロードで『Bedroom Databank Vol.1』から『Bedroom Databank Vol.4』という4枚ものアルバムを公開しているほど多作で実験好きな彼だが、今作はその実験が結実したアルバムになった。
Atlas Soundはローファイな電子音による音像や、とりとめのないメロディが楽曲の中心となった宅録らしいサウンドが印象的だったが、今作では、どの楽曲にも明確なメロディとリズムがある。とはいえ、全体の音の質感は柔らかく、Atlas Sound独特の浮遊感もあって心地いい。全体としてはとてもポップだ。言い換えれば、『Parallax』のサウンドは「軽い」のだ。そして、この「軽さ」はふたつの要素がAtlas Soundを通して交じり合ったものだ。ひとつ目の要素としてBradfordが今作を語るに当たって名前を出しているMarc Bolan(注1)であり、1970年代に活躍したグラム・ロックの代表格T-Rexのような「軽さ」だ。T-Rexの持っている「軽さ」は「Life's a Gas」という曲の歌詞に端的に表れている。要約すれば、愛することもたいして重要なことではなく、人生はガスみたいに軽い、という内容の歌詞だ。そうした感覚が音にも行き渡ることで「軽い」サウンドになるのだろう。
そして、もうひとつの要素はミニマルだ。Bladfordは『Parallax』を語る上でミニマル・ミュージックに多大な影響を与えた現代音楽家Steve Reich(注2)の名前も挙げている。今作は反復される電子音やフレーズが、大きな音楽的な特徴になっている。いくつかの楽曲では、アンビエントな質感の音が繰り返され、11曲目「Flagstaff」の後半では電子音のみの本格的なミニマル・ミュージックになっている。T-Rexとミニマルというキーワードだと少しつながりにくいかもしれないが、ここで聞けるミニマルも同様に「軽い」ものだ。分かりやすいように、美術におけるポップ・アートを経由してつなげてみよう。
まず、ポップ・アートと言えばアンディ・ウォーホールだが、彼の美術家としての作品はマリリン・モンローや毛沢東、死刑用の電気椅子の写真までを、シルク・スクリーンで色違いに刷り、何枚も並べるという手法で有名だ。彼の作品は他にも同じものを延々と反復することが多い。これは消費社会においてはすべてのものには等価に意味がなく、本質的にはすべて同じものだという表現だと捉える事ができる。同じものの反復はミニマルの基本であり、ここでポップ=「軽い」こととミニマルはつながる。T-Rexとの関連でいけば、彼らやDavid Bowieがくくられているグラム・ロックは、60年代の大量消費社会に生きる人間の、華美さと退廃感を背景にして出てきたものだ。これはポップ・アートと同じ背景を持っていると考えていい。そして、それらをつなぐものを同じミュージシャンで具体例をあげるなら、ゆらゆら帝国が近いだろう。彼らはBladfordと同じくVelvet UndergroundやT-Rexに影響を受け、後期にはミニマルなサウンドに傾倒していく。「貫通(アルバム・ヴァージョン)」の電子音が錯綜する部分は、『Parallax』の日本盤ボーナス・トラックの「Quark Part 1」「Quark Part 2」に似た感触があり、両者が通底しているようにも思える。
では、この「軽さ」にはどういった意味があるのだろう。DeerhunterにしろAtlas Soundにしろ、Bradfordの音楽は、現代社会に虐げられたものの死を描いてきた。『Parallax』もBroadcastの故Trish Keenanに捧げられているそうで、やはり、死に関連した作品ではある。しかし、今作における死はその「軽さ」によって意味合いが複雑になっている。普通に受け止めれば人間の死は重いが、「Life's a Gas」のような視点からは死は軽い。人間にとって人間の死は重いが、世界にとって人間の死は軽いのだ。そして、人間は人間であると同時に、世界の一部でもある。アルバム・タイトルの『Parallax』は直訳すれば、立ち位置によってひとつのものの見え方が異なることを意味する視差という言葉になるが、もし今書いたような意味ならぴったりだろう。Atlas Soundは60年代の音楽を現代のインディー・ロックの手法で再現することで、『Parallax』の稀有なサウンドに辿り着いた。ひとつの到達点だとも言えるこの音を聞き逃す手はないだろう。(text by 滝沢時朗)
※注1 : Marc Bolan(マーク・ボラン、1947年09月30日-1977年09月16日)は、イギリスのミュージシャン、ギタリスト、作曲家。ロック・バンド、T・レックスのヴォーカリスト・ギタリスト。
※注2 : Steve Reich(スティーヴ・ライヒ、1936年10月03日-)は、ミニマル・ミュージックを代表するアメリカの作曲家。
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PROFILE
Atlas Sound
Atlas Soundは絶大な人気を誇るUSロック・バンド、Deerhunterのフロントマン、Bradford Coxのソロ・プロジェクト。2008年にリリースしたデビュー・アルバム『レット・ザ・ブラインド・リード・ゾーズ・フー・キャン・シー・バット・キャノット・フィール』と、翌年にリリースしたセカンド・アルバム『ロゴス』が共に、本家Deerhunterと負けず劣らぬ大絶賛を受けた。2011年1月に行われたアトラス・サウンドとしての来日公演は完売。USインディー界随一の鬼才としてここ日本でも多大な注目とリスペクトを集めている。