INDOPEPSYCHICSのベスト盤がHQD音源でリリース!
INDOPEPSYCHICSを知っているだろうか。名前だけでなにやらあちらの世界に飛んでいそうな感じがあるが、キャリアのはじめからヒップ・ホップの第一線に居続けるDJ Kensei、BUDDHA BRANDから安室奈美恵までを手がけるエンジニアのD.O.I、そして、名門エレクトロニカ・レーベルPROGRESSIVE FOrMのオーナーnikの三人によるプロダクション・チームだ。そのサウンドは、ヒップ・ホップをベースにダブやテクノ、エレクトロニカの音響実験を最大限取り入れ、ここではないどこかを感じさせる鮮烈なものだった。現在は活動していないが、今年のPROGRESSIVE FOrMの10周年を機に未発表曲2曲を追加したベスト盤『INFINITE IN ALL DIRECTIONS』がリリースされる。今回はnikにINDOPEPSYCHICSのことからレーベルのことまで語ってもらったので、ぜひチェックして欲しい。
インタビュー & 文 : 滝沢時朗
Daddy Kevがリマスタリングした24bit/44.1kHzのWAV音源で配信!
INDOPEPSYCHICS / INFINITE IN ALL DIRECTIONS
【Track List】
1. OR403 / 2. J_o_j(未発表曲) / 3. Escape / 4. Rand~ / 5. OPS ReEdit(未発表曲) / 6. Gemini IV/V Space Nova! / 7. 5_24 / 8. Knocking / 9. Praise Due (INDOPEPSYCHICS Remix) / 10. Phasor~ / 11. The Absolution (INDOPEPSYCHICS Remix)
※アルバム購入者には、デジタル・ブックレットが同梱されます。
Comments
2002年に発表された2枚のアルバム『MECKISH』及び『LEIWAND』の収録曲に、未発表トラックを加えてDJ Kenseiがベスト・セレクトした今作。INDOPEPSYCHICSのヒップ・ホップ的な勘は相変わらず鋭く、前を向いて突っ走っていった時代の音源の価値を再発見するタイミングを逃さない。これは、10年前を知るリスナーにも、新たなリスナーにも、等しく新鮮でこの上なく刺激的なアルバムである。ー原 雅明
この国で生まれたビートとベースラインの濃密なるコスモロジーは、いとも簡単に10年の時を超えてしまった。FLYING LOTUSのマスタリングなども手がける、LAのLOW END THEORY主宰のDaddy Kev。はるか10年前に生み出されたINDOPEPSYCHICSのビートが、彼の魔法のようなリマスタリングで、その表情を少しばかり変えた。そう、表情をほんの少し変えただけだ。それなのに、そのサウンドは、いま現在進行形のビート・サウンド=ポスト・ダブステップ以降のベース・ミュージックにも、いとも簡単に接続してしまっているかのようですらある。いや、もちろん、次々と生まれては、そのサウンドだけを残して消えてしまうカテゴリーに当てはめることがいかにバカバカしいかを、身をもって証明しているサウンドでもある。ー河村祐介
nik INTERVIEW
——『INFINITE IN ALL DIRECTIONS』を作ることになった経緯を教えていただけますでしょうか?
nik(以下、N) : 本作に関してはわりと急に決まってぱっと動き出したっていうところがあるんですよ。今年がレーベル10周年ということで6月に恵比寿のLIQUIDROOMでイベントをさせていただきました。その時にKenseiくんにひさしぶりに声をかけたところがまずは発端ですね。11月27日に大阪でも同じイベントをやることになって、Kenseiくんとその話をする中で9月上旬ぐらいに彼から「知り合いのレコード・ショップで取り扱いたいんだけど、INDOPEPSYCHICSの在庫ある? 」っていうことを聞かれたんですよ。前に2002年に出した『MECKISH』と『LEIWAND』っていうふたつのアルバムを出しているんですが、実は流通を含めてうちで管理しているわけではないので、じゃあ折角の機会なので作ろうということになりました。
——選曲やマスタリングなどはどうやって決めていったんですか?
N : まず、選曲はKenseiくんに10曲選んでもらって、僕がKit Clayton(※1)と共作した「Phasor~」という曲を入れたかったので、それを加えて全11曲になりました。次にマスタリングやアート・ワークの候補ですね。マスタリングにはPole(※2)ことStefan Betkeの名前が挙がったんですが、Kenseiくんが原雅明さんとつながりがあって、その伝手から原雅明さん経由でDaddy Kev(※3)にやってもらえることになりました。アート・ワークは『LEWAND』のジャケットをやってもらったオーストリア人でウィーンに住んでるコンスタンチンっていうアート・ディレクターがいて、彼にやってもらおうかということで10年ぶりぐらいに連絡をしました。二つ返事でやるよって言ってもらえて、彼の知り合いで若手の売れてるフォトグラファーに写真を提供してもらえることになりました。
——収録されている楽曲のアルバムがリリースされてから約10年経ちましたが、ご自身で今聞いてどう思われますか?
N : 10年経っても色あせてないなっていう感覚ですね。やっぱり、今と比べて音の作り方だとか多少違うところはあるんですけど、根本的に持ってる音の強さや美しさ、それからポップ感は全然健在だなと感じます。
——当時はひたすら気持ちのいい音を突き詰めようという感覚でやっていたんですか?
N : おそらくそうでしたね。スペーシーであったりフューチャーな感覚の音像を無意識に求めながらやっていました。それから、みんなブラック・ミュージックが好きなので、まずはヒップ・ホップがベースになっています。ビートはもう当然きちっと構築していました。それから、当時はドラムンベースが流行っていて、Maniac Love(※4)とかにもよく遊びに行っていましたね。そこにPoleみたいな音響的な音楽も含めて色んなものを聞いていたので、そういった様々な要素を自分たちなりに実験と構築を繰り返したサウンドです。
——INDOPEPSYCHICSは3人でどのように楽曲制作を行っていたんですか?
N : 分かりやすく分担するとDJ、エンジニア/マニュピレーターがいて、僕はレコードとかサンプリング元を提供する役割です。ただ、3人ともレコードがすごく好きだったので、曲を作るときもとりあえずレコード屋に行こうみたいな話になってましたね。それで、色々と仕入れてからD.O.Iさんの家に戻ってきて、じゃあ、ちょっとレコード聞きながら作ろうかと。
——その場でラフな形で楽曲を作るんですか?
N : 3人の中で僕はどっちかっていうとレコード担当ではあったので、僕のほうでこういうネタやビートがあるよとある程度の提案ができるようにはいつもしていました。それに加えてKenseiくんやD.O.Iさんもレコードを買っていて、これは使えそうとかそういうことをみんなで話し合うんですね。それを基にワン・ループを作っていくっていうようなところから始めていました。
——基本的にサンプリングありきなんですね。
N : 僕らは確か95年からはじめているんですけど、90年代中〜後期にヒップ・ホップやブレイクビーツ全般をやっていたときはほぼ100%に近い感じでそうですね。シンセの音源とかはそんなには使ってないです。
——サンプリングのネタ元はいつのどういう音楽が多かったですか?
N : 基本的に60年代中期から80年代頭のそれこそジャズやボサノバものだとか、ソウル、ロックです。ロックの場合は基本的にビートをよくとっていた記憶があります。それから、ムーグを使ったサウンドが見直されていたので、そういうものからも使っていました。それ以外にも色々とあって、ありとあらゆる音源を使っていましたね。
——そんなINDOPEPSYCHICSの当時の音がDaddy Kevのリマスタリングでどうなったと思いますか?
N : 例えばFlying Lotusのアルバムだとかに通じるようなシャープさが出たという感じがしますね。足りなかったものをちゃんと補強してくれて、出すぎてるものは引いていただいて、その上でフレッシュさがすごく出ていてすばらしいです。D.O.IさんはDaddy Kevを信頼してお任せで、Kenseiくんからは昔の音なので今っぽくしてくれとリクエストしたんですが、Daddy Kevがこっちの意図を無意識に考慮してくれたんだと思います。
——INDOPEPSYCHICSは現在からPROGRESSIVE FOrMを振り返ると異色に見える部分もあると思うのですが、レーベルにとってどういうものだったと思いますか?
N : 確かに普段のPROGRESSIVE FOrMに関しては、エレクトロニカをベースに進めているので、その中でINDOPEPSYCHICSは少し毛色が違うかもしれません。特に初期の音源を集めた『MECKISH』はブレイクビーツやヒップ・ホップ中心ですけど、今回の『INFINITE IN ALL DIRECTIONS』はバランスよく入れてあるので、従来のPROGRESSIVE FOrMの流れでも自然と聞いていただける内容にはなってると思います。ただ、レーベルのポリシーとしてはグルーヴがあることが第一条件です。今のエレクトロニカは、ソウルやジャズといったブラック・ミュージックには結びつきずらいかもしれませんが、まずグルーヴがあって、その上でエレクトロニックで斬新な音が組み合わさってるというものをPROGRESSIVE FOrMからは出してきました。例えばAOKI Takamasaにしても技術的にはいろいろなことをやっているけど、根本的に彼はリズム感がすごくしっかりしているし、Ametsubだったら元々テクノから影響を受けているところが大きくてすごくリズムを重視しています。そういう観点で考えると『INFINITE IN ALL DIRECTIONS』は内容的にはINDOPEPSYCHICSのベスト盤ではあるんですけど、2011年でも自然かつ斬新に聞けると思います。
——確かにそういう聞き方をするとFlying Lotusを中心としたLAのシーンとつながる感覚がINDOPEPSYCHICSにはありますね。
N : そうですね。Flying Lotusの『Cosmogramma』は個人的に2010年のベスト・ファイブに入るアルバムだと思います。ビートはかっこいいし、楽曲としても洗練されていて美しいし、すばらしいですね。なので、Daddy Kevにリマスタリングしてもらうことができてよかったなと思います。
——INDOPEPSYCHICSはアナログの12インチで何枚かリリースしてから、CDでまとめるという方式を取っていました。音源をリリースする際にどのメディアを選ぶのかということに意識的だったかと思のですが、今回データで配信することになにか意図などありますか?
N : 今の時流なので、レーベルとしてはある種当たり前な作業ですね。特に海外流通に関しては、CDもやっているんですけどかなり厳しい時代ですから。データのほうが海外の人は手に入れやすいんですね。そう言えば、最初にDaddy Kevから24bit/44.1kHzでプリマスターを送ってくれっていう指定があって、その後マスタリングの確認用音源がMP3で返ってきたときは少し驚きました(笑)。聞き比べるとレベルはちゃんと保っているし、しっかりしてましたけど、人づてに聞いたところによると、彼なりに理由があるみたいでした。最近はみんなMP3で聞くことが多いから、彼自身は普段からクライアントにMP3で確認用の音源を送っているのかもしれませんね。同時に、アメリカと日本の環境の違いのようなものも感じました。
——今後はPROGRESSIVE ForMではどういった活動をする予定ですか?
N : 実は2011年は今までで一番レーベルの活動をやった年なんですよ。イベントはこれまでも大なり小なり定期的にはやっているんですけど、うちとしては年に6枚アルバムのリリースをしたのは今年が初めてなんです。今まで2003年の年4枚が一番多かったんです。僕もレーベルだけをやっているわけではなくて、2000年代の中期から後期ぐらいは他の仕事も兼ねながらやっていて、レーベルをやっているのかいないのかわからないような時期もあったんですけど(笑)、今年については今までで一番活発に動けました。少なくともリリースに関してはこの年6枚っていうペースを来年も続けていこうと思っています。今はその来年のアイテムを色んな作り手さんと話してるところです。
——INDOPEPSYCHICSを出すことによって、PROGRESSIVE FOrMでまたヒップ・ホップよりのものを出そうと考えたりされますか?
N : リリースものに関しては縁だと思っているので、そういう縁があれば出す可能性はあると思います。けど、ヒップ・ホップ的なところにこっちから積極的に当たっていく可能性については何とも言えないです(笑)。
——今回のリリースのお話も縁の要素が強いですね。
N : そうですね。KenseiくんもD.O.Iさんも変わらず一線でやっているし、僕はレーベルを継続してやってきたので、10周年の6月のイベントの時に、Kenseiくんが続けてきたから一緒にやれるんだよねみたいなことを言っていたので、まさにそういうところかなと思います。
>>>D.O.Iへのインタビューもこちらからチェック
※1 : ミニマル・ダブの分野で活躍したアメリカ人アーティスト。
※2 : ミニマル・ダブの代表的なアーティストの一人。1999年から2010年までドイツの名門レーベル〜scapeを運営していたが、現在はセルフ・レーベルPoleを運営している。
※3 : LAのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックのパーティーLow End Theoryの主催者。また、Alpha Pup Recordsの設立者のひとりとしても有名。DJ、プロデューサーと活動は多岐に渡り、マスタリング・エンジニアとして近年ではFlying Lotus『Cosmogramma』を手がけた。
※4 : 1993年からテクノ・シーンを支えていた東京・青山のクラブ。2005年閉店。
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LIVE INFORMATION
WWW 1st Anniversary「PROGRESSIVE FOrM showcase 2011
2011年11月17日(Thu)@渋谷WWW
ADV / DOOR : 3,000(税込) / 3,500(ドリンク代別)
open / start : 18:30 / 19:00
Live : evala / RADIQ (半野喜弘) / MimiCof / agraph
DJ : DJ Kensei -Indopepsychics Set- / Ametsub / Fugenn & The White Elephants / lycoriscoris / TAISHIN
VJ : Yousuke Fuyama / Katsumaki
PROFILE
INDOPEPSYCHICS
東京のアンダーグラウンド・シーンで活躍するDJ Kensei、nik、D.O.IによるプロジェクトINDOPEPSYCHICS。1995年結成、90年代中〜後期にキングギドラをはじめ多くのヒップ・ホップのプロデュース/リミックスを手掛る。その後90年代末よりブレイク・ビーツ/エレクトロニカに傾倒、様々なインストゥルメンタル楽曲を世に送り出し、2002年にその活動を閉じる。タイトに刻まれるリズムの上を縦横無尽にエレクトロニック・サウンドが這いまわり、脳内に巻きついてくるかのような唯一無二の実験音響を提示、日本のエレクトロニック・インストゥルメンタル・シーンを牽引する。また最新のコンピュータ・テクノロジーを駆使してオリジナルのアブストラクト・サウンドを追求する姿勢はいたって強固である。リリースとしては、90年代末〜00年代初頭にリミックスしたヒップ・ホップやオリジナルのブレイク・ビーツ作品を中心としてまとめた『MECKISH』、2000〜2001年にプロデュースしたエレクトロニカやダブを中心としたオリジナル作品をまとめた『LEIWAND』という2枚のアルバムを2002年に発表、また4枚の12インチを世に残した。