cyclo. / id
世界のエレクトロニック・ミュージック~現代アート・シーンをリードする池田亮司とCarsten Nicolaiの最強ユニットcyclo.(サイクロ)が、前作から10年ぶり(!)に新作をリリース。「サウンドの可視化」にフォーカスを当てたビジュアル・アートと音楽の新たなハイブリッドを創造/探求する、まったく新しいかたちのサウンド・デザイン。
ファイル形式 : wav(16bit/44.1kHz)
価格 : 1500円
構造と感覚
池田亮司とCarsten Nicolaiによるユニットcyclo.が10年ぶり2枚目のアルバム『id』をリリースする。両者とも90年代から活動をはじめた実験的な電子音楽家であると同時に、様々なインスタレーションを手がける美術家でもあり、その音楽作品とインスタレーションは常に密接に結びついている。cyclo.はその中でも「サウンドの可視化」をコンセプトとしたプロジェクトだが、池田が現在取り組んでいるdataシリーズの最新作として去年発表されていた『Dataphonics』は、CDとCDに収録されている楽曲データを変換・可視化した本とセットであったため、その流れでもう一度cyclo.として作品を制作したとも思える。
今回のcyclo.はリサージュ・メーターというステレオ信号を図形としてモニターできる装置をカスタマイズして使い、図形としてもサウンドとしても成立する作品を作り上げた。今回音源としてリリースされる『id』はこうして作られた波形データのサウンド面の表出であるが、作品は図形とサウンドの両面を持った波形データそのものであるため、人間が聞き取れない音も作品の一部として含まれている。そのため、圧縮フォーマットの音源はなく、今回はwav音源のみの販売なのである。
では、そのサウンドはどうだろうか。ファーストと同じく、踊れるようなビートを刻む部分もあれば、グリッチ・ノイズによって快感を得られる部分もあるかもしれない。だが、音の質感そのものはダンス・ミュージックやエレクトロニカが持っているフェティッシュなものではなく、中立的でサウンドの構造そのものを意識させるようになっている。そこに直接的な感情伝達や娯楽性はない。あるのは、なぜ音がその順序や配列で鳴ることで何かを感じるのか、という問いかけだ。それは単体では特に何の意味もないはずの図形を見て、なぜ何かを感じるのかということと同じでもある。『id』はこうした特質を図形とサウンド両方において持つことで、人間がどんな視覚的刺激になにを感じるのか、または人間がどんな聴覚的刺激になにを感じるのか、ということを浮かび上がらせ、そして、その両面に共通する構造をも浮かび上がらせようとする。それはしばしば神秘化されがちな音楽や美術のブラック・ボックスに、テクノロジーをもって迫ろうとする試みだ。
現代の音楽は移り変わりが速く、具体的かつ即効性のある娯楽性やメッセージ性が求められる。本作はその真逆の位置にある表現かもしれないが、『id』にはそうした音楽ではないからこそ得られる普遍的な問いかけが宿っているのだ。数学者たちが時代の流れに関係なく理論を積み重ねることで世界の謎を少しづつ紐解いてくように、cyclo.は未知の扉を開けようとしている。(text by 滝沢時朗)
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PROFILE
ドイツと日本を代表するビジュアル/サウンド・アーティスト、カールステン・ニコライと池田亮司のユニットcyclo.。サウンドの可視化に焦点を当て、ビジュアル・アートと音楽の新たなハイブリッドを探求しているプロジェクト。1999年に結成され、2001年にドイツraster-notonレーベルより1stアルバム『.』(ドット)をリリース。2011年4月、同レーベルより10年振りとなる2ndアルバム『id』をリリース。2011年後半には、cyclo.が創造した基本波形のビジュアライゼーションを膨大にコレクション/体系化した書籍が出版される予定。