2012/01/25 00:00

配信、LP、映像の3形態でよみがえる空気公団の空間

昨年2月にバンドの新境地を思わせるアルバム『春愁秋思』をリリースした空気公団。そしてこの度、昨年2月から6月にかけて行われたリリース・ツアーの演奏を収めた作品『LIVE春愁秋思library』がリリースされる。しかも、発表形態を配信、LP、DVDと3つに分け、収録内容もDVDは東京公演を中心に全会場、配信は千葉公演、LPは仙台公演と全て異なっている。それだけでなく、公式サイトでLIVE春愁秋思library特集と題したメンバー自身が音を流しながらその時のライヴを振り返る企画や、Ustreamでのライヴ配信など、『LIVE春愁秋思』はとても多角的に展開されている。そこにはライヴの演奏をアルバムとしてリリースすること、ライヴの音でありつつアルバムとしてもいい音とはなにかということ、そして、それをよりよく共有するにはどうしたらいいか、ということに関する空気公団ならではの視点が強く表れている。空気公団の三人へのインタビューからもそんな『LIVE春愁秋思library』について知ってほしい。

インタビュー&文 : 滝沢時朗

多角的に展開されてゆく『LIVE春愁秋思library』


空気公団 配信限定ライヴ・アルバム 『LIVE春愁秋思』~2011.5.21~ at 西千葉 cafeSTAND(カメラマイク音声/ノイズあり)

『LIVE春愁秋思』ツアー・ファイナルとなる東京公演を終えたメンバーが全公演のカメラの音を聴き、どこかいい意味でひっかかったという千葉公演を音源化。他公演の模様は『LIVE 春愁秋思LP』『LIVE春愁秋思DVD』に収録。

【TRACK LIST】
1. まとめを読まないままにして / 2. 春が来ました / 3. 僕ら待ち人 / 4. 日々 / 5. 雨音が聞こえる / 6. 音階小夜曲 / 7. ビニール傘 / 8. 出発 / 9. なんとなく今日の為に / 10. 春愁秋思
LIVE春愁秋思の模様を映像で配信中
ツアー・ファイナル、2011年6月18日に東京西麻布スーパーデラックスで行われた最終公演から2曲をセレクト。

左)
『日々』
右)
『うしろに聴こえる』
昨年2月リリースの6作目のフル・アルバム『春愁秋思』
左)
『春愁秋思』
右)
『芯空』
空気公団のメンバー、窪田渡による『春愁秋思』のインストゥルメンタル版

空気公団 interview

――空気公団のライヴは特徴的な場所でやられることが多いですが、どうやって場所を選んでいるんですか?

窪田渡(以下、窪田) : お話をもらってライヴをするというのもあるんですけど、空気公団の音楽を聞くのに面白い場所はないかなと色々場所を探していました。どうせやるなら面白い場所でと思って選びました。

――ライヴでやる曲は場所のことも考えて決めるんですか?

戸川由幸(以下、戸川) : 選曲については、自分たちが新鮮な感じでやれるようにしたいので、会場ごとにちょっとずつ変えているという理由のほうが大きいですね。
窪田 : 実際にそういう面白い場所で演奏してみたら、相乗効果でいい雰囲気になったこともいっぱいありました。

――会場ごとに編成を変えているのはなぜですか?

山崎ゆかり(以下、山崎) : でも、会場ごとに編成を変えないことが普通になっているのはなぜなんでしょうね? 私はその土地、その会場、そのお客さんごとに色んな聞かれ方をされて楽しめるほうがいいなって思っただけです。
戸川 : ドラムがいる編成といない編成でアレンジの方向がかなり違うので、僕らがその両方をやりたいというところもあります。
窪田 : アレンジをすごく変えてやっているんです。今回こういう形で音源化はしてますけど、やるときはその時のライヴに来ないと聞けないものを、ということは意識していますね。

――アレンジはどうやって決めるんですか?

窪田 : 大人数編成の場合は原曲のままで演奏できるので、あまり意識的にアレンジはせず。ただ、三人の場合だと楽器の編成が少ない関係で、工夫しないと物足りないアレンジになってしまいます。一番意識したのは、フル・バンドの編成であっても、三人であっても、聞く人の印象にあまり差がなく、同じぐらいの世界が見れるような音にすることでした。そうするにはどうしたらいいかということを念頭に置いて、色々と音の厚さや逆に抜きどころなどを三人で音を出しながら決めていきました。元々『春愁秋思』が一発録りで作ったものなので、そのフィーリングをライヴのリハーサルまで持って行って、同じフィーリングになるようにライヴ用のアレンジに組み直したという感じです。

――東京公演だけ最初からDVDに入れようという予定だったんですか?

山崎 : 最初は東京の最終公演だけを収めたライヴDVDとライヴ盤のCDにしようと思っていました。でも、色んな会場を終えていくと、その会場ごとに今がいいという瞬間がある。お客さんがわーっと盛り上がるようなライヴではないから、みんなじっとしているんだけど、なんかもやもや出てきているものと私たちが出しているものがぴたっと重なる瞬間があるのです。その瞬間を残せないのはもったいないと思えてきました。しかも、それが全会場にあった。これはどうにかして入れられないかというところから、3アイテムでリリースすることにつながっていきました。

山崎ゆかり

――内容が異なるライヴ盤が3つ出ることはありますが、DVDならDVD、配信なら配信、LPならLPと発表形態によって内容を分けるというやり方はなかなかないですよね。そういった形にしたのはなぜですか?

山崎 : ライヴの雰囲気が特に濃かった会場が2つあって、それが千葉と仙台です。その千葉と仙台はDVDにも収録しますけど、この2つは一個ずつの単体の作品として出したいと思いました。それで、どういう風にするのがいいだろうかと考えた時に思いついたのが、配信とLPで出すという方法でした。CDは最初から選択肢になかった。元々がDVDを作るという頭だったし、東京以外の会場は録音環境が整っていなかった。残っているのはカメラの音だけで、その音をCDに入れるというのはなんとなく抵抗がありました。

――はっきりと誰かの咳の音が入ってる曲なども収録されていて、ドキュメンタリー的な感じがありますね。

窪田 : 明確にドキュメンタリー的なライヴ盤を出そうと思ってやったわけではないんですけど、やっぱり、その会場の雰囲気を収めたいという気持ちはすごく強かったです。
戸川 : その時の演奏がお客さんの雰囲気も含めてよかったんですよね。だから、曲に咳の音が入っているがために世の中に聞かせる価値がなくなるのかと言ったら、そうではない。もちろん、それを分かった上で聞いていただきたいとお断りはちゃんと入れてますけどね。ノイズも含めて楽しんでもらう気持ちで聞いてもらえればというのが本心です。

戸川由幸

――資料に「千葉と仙台の公演は特に思い入れの強さが演奏から出ている」とあります。安直かもしれませんが、やはり、日程や場所から東日本大震災のことかなと思ってしまいます。いかがでしょうか?

窪田 : ないと言ったらそれは嘘になってしまいますね。
山崎 : 私たちにもそういう気持ちはあったし、そこに来てるお客さんにもそういう気持ちがあったのかもしれない。ライヴはぱっと出てきて演奏して、という感じがありましたが、あの時は演奏して壁みたいなものをみんなで押しているというイメージがありました。
窪田 : それはわかる。両方とも延期になって日程を組み直した公演なんですけど、今までそういうことはあまりなかったわけです。覚えてるのはその延期が決まった時に悲しいというか残念というか、どうしようかなっていう色々と入り混じった気持ちになったことです。そういうことがあったので、やっと演奏ができるんだと思ってライヴに臨みました。演奏できてうれしいって言葉ともまた違っていて、あまり正確には言えないですけど、そういう状態で演奏したことは今までありませんでした。そのへんが二つの公演で音に出ていたんだなと聞いてみて思いました。
山崎 : あと、「自分たちに出来ることはこういうことしかない」という感じが出ていますね。

『春愁秋思』は、アルバムだけでは8割しか完成してないんです

――今回の『LIVE春愁秋思library』をリリースするにあたって空気公団のサイトでLIVE春愁秋思library特集として会場ごとのライヴ音源を流しながら、写真や動画付きで空気公団がその時のことを振り返ってしゃべるという企画をやられていますね。この企画はどうやってはじまったんですか?

窪田 : 自分たちの中でこういう思いや気持ちで演奏したということを、みなさんに言葉でも伝えたいというところが大きいですね。
山崎 : 全部合わせてライヴ・シリーズなんですよ。『LIVE春愁秋思library』のトレイラーを作ってもらって、そのナレーションをi Phoneで録音して、単純に自分でやってて面白いですしね。
戸川 : 昔、サイトのコーナーのひとつでラジオっぽいことをやっていました。それもまたやってほしいというようなリクエストが結構あったので、じゃあ、しゃべろうかというところで音声にしました。

――Ustreamでのライヴはやられてみていかがでしたか?

戸川 : よかったと思います。家の中でくつろぎながら見てもらえるというのも、理想と言えば理想ですから。あと、Ustreamってメッセージが横に出ますよね。その感想を見て、また別の人がコメントをするっていうのも面白いなと思いましたね。演奏中には見れてはいないですけど。

――コメントの中には台湾や韓国のファンのものも2、3個ありましたね。

戸川 : 海外の人が見るっていうパターンもあるのはいいことですね。
窪田 : あの時は普段のライヴと同じようにお客さんの前で演奏する気持ちでやっていたんですけど、後々考えてみると見てる方っていうのは、一人でパソコンを見てるわけですよね。だから、空気公団と大勢のお客さんというわけではなくて、空気公団とひとりという関係が個々にできてるという状況なんだなと。もしかしたら、それは空気公団の音楽の聞かせ方にいい環境なのかもしれないなと思います。

――単純にツアーをしてそのライヴ盤を出すっていうことではなくて、音源のリリースの仕方やサイトの色々な企画込みで『LIVE春愁秋思library』というプロジェクトのようですごく面白いですね。

窪田 : ありがとうございます。自分の個人的な気持ちで言うと、『春愁秋思』というのはアルバムのリリースだけだと8割ぐらいまでしか完成してないんですね。色んなところでライヴをやって、演奏して、それでやっと完成したような気分でいるんです。そう言っていただけると、自分としてもそうだなと思いますね。

――窪田さんが作られた空気公団の楽曲のインスト・アルバム『芯空』についても伺いたいんですが、これはどやって作られたんですか?

窪田 : そもそものきっかけとして、ライヴ会場のお客さんを入れる時のBGMを空気公団にしたいという話がありました。ただ、そのまま流してしまうと本番で演奏する曲とかぶらないようになど意識しなければいけないので、もうそれ用にインストにしたらどうかなと。そうすれば、会場に入った時から空気公団という雰囲気になるんじゃないかということで自分が打ち込みで作っていきました。ライヴのリハーサルをやる合間を縫って作って、ミックスもしてもらって、会場で流したら、ライヴに来てくれたお客さんからこのインストの曲はなんですか? と質問がちらほらあって、面白いから音源を出したらいいんじゃないかという話になりました。それで、リリースするなら曲を組み立直そうと思い、サックス、トロンボーン、チューバとチャンチキトルネエドの人たちに吹いてもらい仕上げたという感じです。

窪田渡

――最初はリリースの予定はなかったんですね。

窪田 : 一切なかったですね。自由に聞いてくださいって音楽ももちろんいいんですけど、すごく目的を持った音楽を作りたかったんですよ。

――山崎さんと戸川さんは『芯空』を聞かれていかがでしたか?

山崎 : 私は窪田さんが空気公団に入った時から、インストをやったらいいと思っていました。ひとつのバンドで歌ものとそうではないものが本格的に進められていたら楽しいよなって。だから、突然にできたものを聞いた感覚というよりは、自分の中では計画にあったというところですね。
戸川 : 僕は窪田さんのこういうテイストのデモを、本当に一番最初に聞いたときにすごくいいなと思っていました。空気公団をこういうバンドにしようかなって話にも出たぐらいです。だからいつか作品にして欲しいなと思ってたし、いいタイミングで出せたという感じです。個人的にはシリーズ化もして欲しいし、あとはこれに歌がのるようなパターンの曲もいいですね。

――東京公演の最初に生演奏でインストをやっていましたよね。

窪田 : 最終公演だったというのもあって、音源でも演奏してもらっていたチャンチキトルネエドに登場してもらいました。
戸川 : 今はあれよりもさらに発展したものになってます。ドラムも入りますし。

――『春愁秋思』は作品からツアー、今回の『LIVE春愁秋思library』まで空気公団を多面的に見せてくれていますが、『芯空』もそうした中の一つとしてとても気づかされるところがありますね。

戸川 : だから、是非ライヴに来て欲しいんですよ。絶対に後悔させないですから。

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LIVE SCHEDULE

『芯空のコンサート』
2012年1月29日(土) @横浜日ノ出町 Chat-Noir
開場 18:00 / 開演 19:00
出演 : 窪田渡(空気公団/Keyboards)、鈴木広志 (チャンチキトルネエド/sax)、木村仁哉 (チャンチキトルネエド/tuba)、今込治 (チャンチキトルネエド/trombone)、相川瞳 (チャンチキトルネエド/drums&percussion)

PROFILE

1997年結成。現在は山崎、戸川、窪田の3人で活動中。ささやかな日常語、アレンジを細やかにおりこんだ演奏、それらを重ねあわせた音源製作を中心に据えながらも、映像を大胆に取り入れたライヴや、様々な芸術家とのコラボレーションを軸にした展覧会等、枠にとらわれないアート志向の活動を独自の方法論で続けている。

>>空気公団 official website

この記事の筆者

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