2013/8/7~8/13の注目2作品をレビュー!!
今週もたくさんの新譜が入荷しました! 全部は聴いていられない! そんなあなたのために、このコーナーでは、OTOTOY編集部がオススメする今週の推薦盤を2~3枚ピックアップし、ライターによるレビューとともにご紹介いたします。 音源を試聴しながらレビューを読んで、ゆったりとした時間をおたのしみください。あなたとすてきな音楽の出会いがありますよう。
DJまほうつかい『All those moments will be lost in time EP』
DJまほうつかい / All those moments will be lost in time EP
【配信形式】
WAV、mp3
【価格】
WAV 単曲 250円 / まとめ購入 800円
mp3 単曲 200円 / まとめ購入 600円
※【特典ブックレットについて】初出の際に特典としてついておりましたPDFブックレットは、レーベルの意向により、配信を停止させていただきました。誠に申し訳ございません。WAV音源の配信は、OTOTOY限定となっておりますので、ぜひお買い求めください。
マンガ家の西島大介による音楽プロジェクト・DJまほうつかい。「エイフェックス・ツイン=Yoshiki(X Japan)」というキャッチフレーズで半端ない気合とともに送り出された前作『Metaltoronica』から打って変わって今作は穏やかなピアノ・ソロ曲。前作は西島のマンガ『I Care Because You Do』のサントラという側面を持っていたが、今作は震災、原発、地方を寓話的に描いたマンガ『すべてがちょっとずつ優しい世界』とリンクする。特に『すべちょ』に登場するピアノ弾きの音楽家が繰り返し言う「この村の静けさが好きなんだ」というセリフはこの楽曲のモチーフのようだ。福島第一原発事故以降、放射能や幽霊などの「見えないもの」をマンガで描くようになった西島が、DJまほうつかいではピアノを弾くことによって生まれる静けさ=「聞こえないもの」を音楽で表しているようだ。そして、タイトル「All those moments will be lost in time EP」は放射能と酸性雨の雨が降り続ける未来を描くSF映画「ブレードランナー」のセリフ。訳すると「そういう思い出もやがて消える」という震災や原発を考える上でも意味深なもの。さまざまな角度から東日本大震災以降の彼のコンセプトを感じることができる作品だ。(text by 滝沢時朗)
V.A『POPGROUP PRESENTS KAIKOO PLANET III』
V.A / POPGROUP PRESENTS KAIKOO PLANET III
【配信形式】
WAV、mp3
【価格】
WAV 単曲 250円 / まとめ購入 2,300円
mp3 単曲 200円 / まとめ購入 2,100円
都市型音楽フェスKAIKOOの、3枚目となるコンピレーションアルバム。
DJ BAKU主催、都市型音楽フェスKAIKOO。その3作目となるコンピレーション・アルバムが到着。本作もKAIKOOらしい、インディ・ロックやダブ、ベース・ミュージック、ヒップホップと多彩なジャンルのメンツが混在している。まずはヒップホップ勢では、UMB2012の王者のR指定とDJ松永のユニット、Creepy Nutsの「シラフで酔狂 」や、TAKUMA THE GREAT、RUEED、チプルソ、YURIKA、SNEEEZE、LB の若手MCら6人によるスリリングなマイク・リレーが展開されている、Otowaプロデュース・トラック「make some noise」などを収録。また、その他のジャンルではOTOTOY読者にもなじみ深いヤセイ・コレクティブやNINGEN OKのといったインディ・ロック系のアーティスト。JaQwa、XLIIとDJ SARASAのユニットXXX$$$、fazerockとharaのHYPERJUICE、DJ HARAKIRI、ESMEといったフロア直送のベース・ミュージック勢や、Tam Tamやあら恋といった和製ダブ・バンドがサブ・ベースを唸らせている。もちろん、主催、DJ BAKUが、MEGA-Gによる煙たいラップとともに重く攻撃的なトラックですごみをきかせる。このコンピでも、あのKAIKOOの、様々なジャンルがクロスオーヴァーするフロアの一端が伺い知ることができるだろう。(text by 羽山豪)
Joan of Arc『Testimonium Songs』
Joan of Arc / Testimonium Songs'
【配信形式】
WAV、mp3
【価格】
WAV 単曲 200円 / まとめ購入 1,500円
mp3 単曲 150円 / まとめ購入 1,500円
本年1月、OWENにつづき、キンセラ・ファミリーツアーでの来日も記憶に新しいティム・キンセラ率いる、シカゴのアヴァン・ロックの重鎮ジョーン・オブ・アーク。アメリカはPolyvinylからのリリースとしては、約2年ぶりとなる彼らの最も新しい作品が発表された。バンドもそのパフォーマンスの一部として参加した、シカゴの前衛劇団Every House Has a Door(マシュー・グーリッシュ&リン・ヒクソン)による舞台『testimonium』用に書き下ろされた曲群を、スタジオにてリアレンジした作品集である。2 年以上に渡るリハーサル期間を経て緻密に構成されたという楽曲群は、ジョーン・オブ・アーク本来のどこか肩の力の抜けたバンド・アンサンブルの魅力に加え、ジムオルークが在籍していたことでも知られるガスター・デル・ソルを想起させるアヴァンギャルドさと荘厳さが楽曲の底に静かに流れている。というのも、このアルバムの2ndギタリストにはガスター・デル・ソルや、レッドクレイオラのデイヴィッド・ダクラスが迎えられたのだ。そして、このアルバムのラストを飾る6曲目のアカペラで構成されたjust dirtyは、どこまでもラフでいて、優しく乾いた肌触りの良さとは裏腹に綿密に計算された間と、人の声の美しさが聞く程に光る。それが楽曲のみならず、アルバムを全体を絶妙なバランスで支えているように感じた。2年以上暖められたこの作品群の厚みに、小さな風穴を明けてくれる重要な存在なのだ。
まるでアントニオ・ガウディの建築物のように自由で、構造のがっしりとした今作、その最後にはゆったりと吹き渡る風を感じてほしい。(text by 釘田沙來)