豊田道倫にしか見えない、「マジでいい眺め」
孤高のシンガー・ソングライター豊田道倫が、大きな話題となった前作『m t v』から1年足らず、早くも新作『FUCKIN' GREAT VIEW』をリリースした。OTOTOYでは、このアルバムを24bit/96kHzの高音質で配信開始。さらに、豊田へのメール・インタヴューを通して、本人も意識していなかった作品のテーマを炙り出すことに成功した。アルバムに名づけられた「FUCKIN' GREAT VIEW」を訳せば、「マジでいい眺め」といったところか。数々のシンガーに影響を与えながら、フォーク・ソングの最前線を切り拓いてきた彼にだからこそ見える景色があるのだ。このアルバムを通して、その景色の一片だけでも共有していただきたい。
『FUCKIN' GREAT VIEW』のハイレゾ配信はOTOTOYだけ!!
豊田道倫 / FUCKIN' GREAT VIEW
【配信形態 / 価格】
HQD(24bit/96kHzのWAV) まとめ購入(10曲) : 1,800円 (単曲購入は各200円)
MP3 まとめ購入(10曲) : 1,500円 (単曲購入は各150円)
【Track List】
01. ひとり
02. 夜のコーヒー
03. オレンジ・ナイト
04. 26歳
05. G
06. 玄米木苺フレークシェイク
07. ずっとビーチのはしっこで
08. ふたり
09. Heavenly Drive
10. 街の暮らし
INTERVIEW : 豊田道倫
2013年のアルバム『m t v』は、近年の集大成のようでありつつ、豊田道倫の新たな可能性を示したアルバムだった。その『m t v』を引っさげてのライヴ・ツアーが行われ、そのバンド・メンバーによって新たなアルバム『FUCKIN' GREAT VIEW』が早くも届けられた。参加メンバーの全員が以前から豊田とライヴもレコーディングも共にしたことがあるだけに、今作も充実した内容になっている。筆者は以前、『m t v』を「買って、食べて、寝てという単純な繰り返しの中になにかを見つけていこうとする」ようなアルバムだと書いたが、『FUCKIN' GREAT VIEW』では同じ街で同じように生活し続けていくこともいつかは終わるという視点が歌詞やサウンドに入り込んでいる。しかし、それと同時に、終わりを迎えるとき、日常のヴェールに覆われていて今まで見えなかったものが見える、という感覚も今作にはある。そして、アルバムに先駆けてPVが公開されている「Heavenly Drive」を見てもらうとわかりやすいが、その感覚をバンドの演奏が見事に捉えているのだ。そんな『FUCKIN' GREAT VIEW』はどのような考えのもとに作られたのか、メール・インタヴューで聞いた。
インタヴュー&文 : 滝沢時朗
今回は切ないアルバムかもしれません
――『m t v』のツアーは豊田さんにとってどんなものになりましたか?
東京、名古屋、大阪でやりましたが、エキサイティングでした。名古屋は冷牟田くんが来れなくて、久下さん、宇波くんとのトリオでしたが、これはこれで面白くて。でも、やっぱり大阪のベアーズが満員となり、盛り上がったのはとても嬉しかったです。また2月16日もベアーズでやるので、楽しみにしています。
――m t v BANDでアルバムを作ろうと思ったきっかけはなんでしょうか?
元はとりあえずライヴの録音データはしっかり押さえて、ライヴ盤でもと考えてましたが、やはりやるなら新録でやりたいなという気持ちが湧き出て、曲は春から夏に掛けて一気に書きました。
――豊田さんはm t v BANDのメンバーに対して、それぞれどのようなプレイヤーだと思っていますか?
みんな天才肌でいて、自分の音楽を持っている。世界が4つ合わさったような、また新しい世界が生まれるようです。久下惠生さんは破天荒なプレイが印象的ですが、まず、とにかくドラムの音が綺麗でたまりません。宇波拓くんは、マルチ・プレイヤーでエンジニアリングにも長けていますが、根は熱いロッカーだと思います。フレットレスの5弦ベース、弾いてくれてます。冷牟田敬は、自分のバンド、Paradiseや昆虫キッズでも活躍してますが、彼もどうしようもないくらいロッカーで。でも、殺伐とはせず、 常にキラキラしているトーンを鳴らしてくれました。
――雑誌「ユリイカ」のルー・リード特集の中で「ヴェルヴェットの『Another View』のようなものを作りたかった。未完成でダメだけど、時折、奇跡のような木漏れ日のような光がほんの一瞬差し込んでくるレコードを」と書かれていましたが、今回、どうしてそういったアルバムを作ろうと思いましたか?
何となくです。予算と時間を掛けずに、バンドが集まってさっと作るアルバムに憧れがあったので。
――関連して、豊田さんの作品では常に未完成であることが重要なように思うのですが、いかがでしょうか?
目指すのは、常に完成形です。
――ルー・リードはニューヨークやそこでの生活といった都市を主なテーマにしていましたが、豊田さんも東京や大阪といった都市を扱うことが多いと思います。ルー・リードに共感を覚えるところはありますか?
何曲か好きなものはありますが、ルー・リードに共感を覚えるのは、常に革新的なサウンドを企んでいるところです。
――「ひとり」「夜のコーヒー」「ふたり」では人や場所と別れること、「G」「Heavenly Drive」では人がやむを得ない理由で街を出ていくことが描かれ、最後の「街の暮らし」は人が出ていく一方で街にとどまり続けることが描かれていると受け取りました。街の中で何かと別れることがこのアルバムのテーマのひとつなのでしょうか?
指摘して頂き、そうなのかあと、感慨深い気持ちになってます。そうかもしれません。制作中は、1曲1曲違うものにしよう、ということしか考えてなかったので。いつも仕上げてからテーマが見えてきます。今回は切ないアルバムかもしれません。
――バンド編成でありつつ、「26歳」のようないわゆるバンド・サウンドではないアレンジの曲もあり、とても面白いと感じました。こうしたアレンジのアイディアはどのように出していますか?
割とその場で、です。ライヴの数は最近減ってきてますが、その分家で音楽を聴く時間が増えたので、アイディアの蓄積はまた溜まってきたのかもしれません。
――今作では「Heavenly Drive」のように同じフレーズを何度も歌うシンプルな構成の曲が多いですが、これはバンドの音をより聴かせるためでしょうか?
弾き語りよりは、バンドで演奏する時に映えるようにとは考えていました。
――「ずっとビーチのはしっこで」「Heavenly Drive」「街の暮らし」の演奏は、ざっくりした気持ちのいいバンド・サウンドでニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホースを思い出しました。『FUCKIN' GREAT VIEW』の肝になっている音だと思うのですが、このようなサウンドを作るのに工夫や苦労などありましたか?
いいえ。ただ、楽しんでやっただけです。
――豊田さんの歌詞にはよくコーヒーやお茶が出てきますが、今回は「玄米木苺フレークシェイク」が出てきて新鮮でした。モスバーガーのメニューですが、気に入っているんでしょうか。
いえ、特に。20何年か前、一緒に夜の街を歩いた女の子が食べていました。なぜか、それをずっと覚えていて。
――豊田さんは過去にも昆虫キッズ、ザーメンズとバンドを従えてアルバムを作られていますが、ソロではなくバンドとアルバムを作るときはどういった意図があるのでしょうか?
その時の流れで、意図は特にないです。楽しんで作れるのが、バンドか、ソロか。その時やれる環境で決めます。
――「Heavenly Drive」のPVや『m t v』ツアーのライヴ映像をカンパニー松尾監督、『m t v』収録曲のPVを岩渕弘樹監督が作られています。どちらもドキュメンタリーを手掛けている方ですが、豊田さんの生活を中心にした歌詞と、ドキュメンタリーというジャンルに近いものがあるから相性がいいのかと思っています。いかがでしょうか?
ドキュメンタリーが本物かどうか実は疑わしくて、ファンタジーが完全な作り物かどうかもわからないものだと思ってます。ドキュメンタリーの手法の方が、自分が好きなファンタジーな一瞬が生まれる時がある。松尾さんや岩淵くんの作品が心に引っ掛かるし、自分の音楽に合うのはその部分かもしれません。
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ソロ名義としては約3年ぶりとなった豊田道倫の2013年作。前野健太、昆虫キッズ、スカート、大森靖子ほか、彼のファンからスタートした後輩たちが活躍するなか、真打ちとしての実力を思う存分見せつけた傑作。
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LIVE INFORMATION
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2014年1月30日(木) @渋谷 La.mama
開場 / 開演 : 19:00 / 19:30
前売 / 当日 : 2,800円 / 3,000円 (1ドリンク別)
出演 : びん博士 / 加藤亜依 / 豊田道倫
詳細 : http://lamama.net/ (La.mama)
〈『FUCKIN' GREAT VIEW』発売記念コンサート〉
2014年2月16日(日) @難波 ベアーズ
開場 / 開演 : 17:30 / 18:00
前売 / 当日 : 2,500円 / 3,000円
出演 : 豊田道倫 & m t v BAND (豊田道倫、久下惠生、宇波拓、冷牟田敬)
詳細 : http://namba-bears.main.jp/ (難波ベアーズ)
PROFILE
豊田道倫
1970年生まれ。大阪出身。1995年、『ROCK'N'ROLL 1500』でデビュー。その後、メジャー、インディーで通算20枚のアルバムを発表。弾き語り、バンド、セッションなど編成にこだわらず、強い歌をうたい続ける。大阪は西成にある立ち飲み屋でのライヴなどで注目を集めた。