INTERVIEW : Xinlisupreme
Xinlisupremeのデビューには衝撃的なものがあった。日本人でありながら、イギリスの名門インディー・ロック・レーベルであるFatCat Recordsから『Tomorrow Never Comes』という挑発的なタイトルのアルバムで2002年にデビューした。内容もそのタイトルに見合ったインパクトに満ちた作品だった。そのサウンドは、インダストリアル・ロックなどを基調にしたバンド・サウンドによるインストなのだが、その全てがノイズに溢れていた。それも多くのロック・バンドのようにギター・ノイズによって空間を埋めるような音ではない。Xinlisupremeの曲では空間自体をノイズにし、それぞれの楽器もその空間で鳴ることでノイズとして鳴り響くような徹底したサウンド・デザインがなされていた。私たちが暮らしている社会も、その中で作られて聞かれているロック・ミュージックも、実質的にはもう壊れていて、その壊れている姿をサウンドで描こうとしているかのような暴力性と誠実さが、その音からは感じられた。
しかし、Xinlisupremeは同じく2002年に『Murder License』を発表してからあまり楽曲をリリースしなくなる。詳細は後に譲るが、そうした中で2010年に「Seaside Voice Guitar」という曲がWebサイトにアップされた。その曲は溢れ返るノイズの海の中で美しいメロディのラブ・ソングが歌われているという、明らかにXinlisupremeが次の段階に進んだことを告げるサウンドを持っていた。そして、その「Seaside Voice Guitar」を中心にしたアルバム『4 Bombs』が今回リリースされる。それに合わせて、今までの活動やリリースに至った経緯、そのサウンドについてメール・インタビューを行った。彼が何を思い、何を作ったのか、是非確かめて欲しい。
インタビュー&文 : 滝沢時朗
XINLISUPREME / 4 Bombs
1. Seaside Voice Guitar A.D. / 2. Zouave's Blue / 3. I Am A New Christ / 4. Soprano Meditation / 5. Seaside Voice Guitar B.C.
【配信形式】 wav / mp3
【価格】 単曲 150円 / アルバム 700円
一つ一つの叫びはノイズではなく、それぞれの切なる想いなり音楽だと思っています
——2002年の『Murder License』の発売以来、2005年に『Neinfuturer』をフリー・ダウンロードでリリースし、2010年に「Seaside Voice Guitar」を発表、そして、今回はその『Neinfuturer』「Seaside Voice Guitar」の収録曲を再編した10年ぶりの有料のアルバムである『4 Bombs』をリリースされました。10年の間なぜそうした活動をされていたのか、また、なぜVirgin Babylon Recordsからアルバムをリリースすることになったのか教えていただけますでしょうか。
この間の10年間は全て至上の一曲を作るための道のりでした。2005年の『Neinfuturer』は、『Murder License』の次にFatCat Recordsからリリースをする予定だった『Zouave`s Blue』『I Am A New Christ』の2つのシングルEPの収録曲でした。僕にはその時、もしフル・アルバム制作に掛ける全ての時間をたった一つの曲だけに費やしたら、どんな音楽が生まれるのだろう? という考えがありました。しかし、レーベルからはシングルやEPよりも、商業的な理由もあり、フル・アルバムを作って欲しいという要望がありました。本当に迷いましたが、最終的に、至上の一曲を作る環境作りのためにレーベルから離れて、一人で活動する選択を取りました。行き場所がなくなった『Zouave`s Blue』『I Am A New Christ』の2つのシングルEPの曲群は自分のサイトで全部併せて公開しました。それが2005年にxinlisupreme.comで『Neinfuturer』として公開するまでの経緯です。
『Neinfuturer』を公開した後、「Seaside Voice Guitar」を含む4つの新曲を書き、その後最初の一年は4曲を並行して制作していたのですが、その時、最も制作が進んでいた「Seaside Voice Guitar」を至上の一曲の候補として選び、2010年の完成まで全ての制作時間をこの曲一つの為だけに費やしました。完成後はもちろんたった一つの曲だけなので、レーベルを通して商業ベースで出せる筈もなく、自分のサイトで公開しただけでした。それから一年以上経った2011年のある日、World's End Girlfriend(以後、WEG)から一通のメールが届きました。その時は本当に驚きました。WEGとはそれまで全く面識はありませんでしたが、僕と同世代でまたデビュー時期も近かったので、目標であり、また特別な対抗心を持っていた音楽家であり、強く意識をしていた人でした。その彼が「Seaside Voice Guitar」を手放しで絶賛し、気鋭のアーティストが並ぶVirgin Babylonから作品を出さないかと声をかけてくれました。その出来事は一人で10年間活動を続けてきた僕にとって、本当に言葉では言い表せない気持ちになった出来事でした。それから「Seaside Voice Guitar」を半年かけて新たなミックスを施して、「Seaside Voice Guitar A.D.」として新ヴァージョンを作り、以前ネットで公開していた『Zouave`s Blue』『I Am A New Christ』『Soprano Meditation』を加え、『4 Bombs』としてアルバムをリリースする事になりました。
——『4 Bombs』は既に発表されている楽曲を新たにミックス/マスタリングして収録したアルバムですが、どういった基準で選曲をしましたか?
皆に聴いて欲しい曲を選びました。遊びのない、力を込めて作った曲だけを入れました。
——Xinlisupremeのサウンドは、独立して鳴らされている複数の音がからまって曲になっているところを、さらにノイズによって楽曲全体を包み込むことでひとつの音像にしている点にあると感じました。Xinlisupremeにとってノイズはどういった意味を持っていますか?
楽曲によって意味付けが異なるので「Seaside Voice Guitar」に限定して話すと、世界中のあらゆる叫びをもし全て同時に鳴らしたとしたら、それはウルサいと言う意味でノイズとして聴こえると思います。しかし、一つ一つの叫びはノイズではなく、それぞれの切なる想いなり音楽だと思っています。僕にとって、「Seaside Voice Guitar」にとってのノイズとは、そういった現在過去未来の世界中の叫び声を時空を超えて、一つの音楽の中で可能な限り同時に鳴らそうと挑戦する馬鹿げた試みだったと思います。狂ってると思われるでしょうが、しかし僕はそこにこそ希望があると信じて作リ続けていました。
——『4 Bombs』はノイズによって音像を作るという面でも今までより強化されていると感じましたが、同時に全ての曲でとてもメロディが際立つようなサウンド・デザインになっているとも感じました。『4 Bombs』にとってメロディは重要な要素でしょうか?
上記の3問目のご質問とも返答が被ってしまうのですが、メロディを含め全ての切なる気持ちの叫びは、決してかけがえのない必要な音だと僕は思っています。
——「Seaside Voice Guitar」はXinlisupremeとして発表した楽曲にはないほどストレートに歌詞がある歌ものという側面があります。そういった要素をもった楽曲を作ろうと思ったのはなぜですか?
「Seaside Voice Guitar」を作るにあたって、一番最初に決めた事はラヴ・ソングにするということでした。ラヴ・ソング以外あり得ませんでした。あとXinlisupremeのデビューが英国FatCat Recordsからのワールド・ワイドでのリリースだったので、その事情もあり当時は日本語で歌を歌う音楽を作るという当たり前の事に躊躇がありました。しかしレーベルから離れた最初の作品なので、もう海外の目を気にせず、歌の曲を作る事が出来ました。
——『4 Bombs』では最初に比較的歌が聞き取りやすく尺が短い「Seaside Voice Guitar A.D.」、最後に比較的ノイズの音が大きく尺の長い「Seaside Voice Guitar B.C.」を配置しています。なぜ「Seaside Voice Guitar」を2バージョン入れて、このような配置にしたんでしょうか?
曲順に付いては、特に聴いて欲しい曲が「Seaside Voice Guitar A.D.」なので、一番最初にしました。「Seaside Voice Guitar B.C.」を最後に持ってきたのはA.D.から間を空けたかったのと、作品のラストに相応しい音楽という理由です。
——「Seaside Voice Guitar」の最後にはっきり聞き取れる形で歌われる「たとえばもしこの世界が夢ならば」という一節が非常に印象的でした。アルバムの曲順からこの一節は『4 Bombs』全体のテーマになっているのかとも思いましたが、いかがでしょうか?
はい、そうです。「Seaside Voice Guitar」の歌詞を書く時に最初に決めていたのは、海や波をテーマにしたラヴ・ソングでした。しかしそのテーマに沿って詩を書き始めていた時、ふと小学生の頃に見たある夢の出来事を思いだしたんです。僕と知らない女の子が海岸線を望む砂浜で遊んでた夢なんですが、最後に彼女が一言、「夢が覚めても私の事を忘れないで欲しい」と言ったんです。目が覚めて学校に行く準備をした後、空を眺めながら、その約束を守る誓いをしました。だけど僕は大人になって、この夢の出来事は思いだす事もなく忘れてかけていました。だから今度は二度と忘れない様に歌詞にあの夢の出来事や心の風景を刻もうと決めました。『4 Bombs』が表のテーマ / タイトルとすれば、「たとえばもしこの世界が夢ならば」の一節はこのアルバムの裏のテーマ / タイトルです。
——『4 Bombs』では「Seaside Voice Guitar A.D.」「I am A New Christ」「Seaside Voice Guitar B.C.」とキリスト教を思わせるタイトルが並んでいます。アルバムのテーマやそれぞれの楽曲にキリスト教が関係しているのでしょうか?
これもやはり、10年前のXinlisupremeのデビューが主に欧米を中心としたワールド・ワイドでのリリースということもあり、キリスト教をテーマやタイトルにしやすかったというのもあります。今でもその名残でタイトルなどは海外の人に分かる様に英語表記を続けています。しかし随分若い頃ですが、キリスト教に一時は入信をしようとした時もあったりして、僕にとってキリスト教は比較的近い存在だったのもあります。
——Twitterで「WEGはずっと意識していました。これはとても人間臭い話しですが、同世代のアーティストとして彼に対して強いライバル心もあった。それはコーマやデデマウスといった同世代のアーティストに対してもあった。彼等は仲間でもあり同時にライバルや目標でもあった」とつぶやいていましたが、彼らとXinlisupremeの音楽には通じる感覚があると思いますか?
以前からROMZ Record周辺のアーティストに対して親近感を持ってました。上記の人達以外では今は同じVirgin Babylon Recordsに所属しているJoseph NothingやRyoma Maeda(milch of source)も含めて。彼等の音楽性は様々ですが、でも、同窓生のように感じている人達です。
Virgin Babylon Records所属アーティストの音源はこちらから
world's end girlfriend / Starry Starry Night - soundtrack
world's end girlfriendが音楽を担当し2011年に台湾、中国、香港、シンガポールで公開された台湾映画、林書宇監督作品『星空 Starry Starry Night』のサウンド・トラックが、WEG主宰レーベルVirgin Babylon Recordsよりリリース! 湯川潮音がゲスト・ヴォーカルとして参加したリード・トラック「Storytelling」ほか、ストリングス、ピアノ、チェレスタやシンセサイザーなどを用い、儚く美しいメロディーと共に少女と少年の憧れと冒険、喪失と希望をやさしく描き出した全12曲。
『Starry Starry Night - soundtrack』特集はこちらら
Joseph Nothing Orchestra / super earth
トラック・メーカーJoseph Nothingが、ドラマーの吉川弾を迎え入れた新ユニットJoseph Nothing Orchestra名義で新作をリリース! 前作では廃墟でのフィールド・レコーディングを行った彼が今回創り上げたのは、「日本で活動している流しのドラマーと宇宙オタクで映像マニアの女の子、そしてスーパーアース(地球と似たような環境の星)からの来訪者が出会って音楽を始める」という、なんとも気になるストーリーをもつリード曲をはじめとする全11曲。
Joseph Nothing Orchestraインタビューはこちらら
Go-qualia / Puella Magi
Go-qualia初のCDアルバム作品。「魔法少女」をコンセプトの中心におき、複層的世界と物語を描いた傑作が誕生! セフィロトの樹(生命の樹)とクリフォトの樹(悪の樹)という相対した二つの樹を中心とした二つの世界。その狭間に在る現実世界で魔法少女の「喪失」と「希望」の物語が全15曲79分のなかで繰り広げられていく。
PROFILE
XINLISUPREME
2002年にイギリスの名門レーベルFatCat Recordsよりデビュー。 その強烈なサウンドは「Like My Bloody Valentine Meets Early Jesus & Mary Chain Meets Merzbow or Suicide」 と評され、アンドリュー・ウェザオールからも"THE XINLI INCIDENT"、 初期のクランプス以来のベスト・ロック・ミュージックと絶賛された。 しかし、2002年以降CDのリリースはなく、2005年、2010年に自らのオフィシャル・サイトより いくつかの曲のみがmp3でフリー配信された。その中の2010年に発表された「Seaside Voice Guitar」は この1曲の制作に3年半の時間がかけられ延々と繰り返される録音の中、驚異の音像が産み出された。 そして、今回のCD化にあたり再度本人により新ミックス / リマスタリングが半年かけて行われ 前人未到の極限の音楽『4 Bombs』が完成。 XINLISUPRME10年ぶりとなるCD作品がVirgin Babylon Recordsよりリリース。
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