世界が注目するスピリチュアルでコズミックな音楽集団Build An Arkが、結成10周年記念アルバムをリリースする。リーダーのCarlos Ninoが、過去未発表の貴重な音源のみを厳選した決定盤は日本オリジナル企画。また、同時発売されるGaby Hernandezの新作『Sweet Starry Night』のプロデュースもCarlos Ninoが担当し、ジャジーでソウルフルかと思えば、ブラジル音楽を思わせる楽曲が収録されている。そして、今回はGaby Hernandezの新曲から「Healing Vibrations」を1週間のフリー・ダウンロード。Build An Arkの世界にドップリと浸かって頂きたい。
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10年間の活動がコンパイルされたアルバム
Build An Ark / The Stars Are Singing Too - 10Year Anniversary Special 2001 - 2011
内容としては、フル・アンサンブルのインプロヴィゼーション、ソロ曲、そして流麗なメドレー、Dntel(Sub Pop所属のシンセ・ポップ・スーパーグループ、ザ・ポスタル・サービスの片割れ)によるリミックスまでも収録されており、Build An Arkというコズミック・ファミリー・バンドの深みと幅の広さを物語る傑作に仕上がった。
彼女の魅力的な音楽性を余すことなく表現した新作
Gaby Hernandez / Sweet Starry Night
オペラからポップス、フォークロアからエクスペリメンタルなど幅広い音楽を吸収してきた彼女の魅力的な音楽性を余すことなく伝えるアルバム。ヴォーカル・アルバムであるが、アンビエントとしても、ジャズとしても、エレクトロニカとしても聴くことができる開かれた作品。
Build An Arkの精神性
LAのインターネット・ラジオdublabの設立にかかわり、自身も15年以上続くラジオ番組を持ち、ヒップ・ホップをベースに様々なプロジェクトで新鮮な解釈の音楽を提示し続けるLAの重要アーティストCarlos Nino。そんな彼が深く関わるアルバムが2枚、日本オリジナル企画で世界で配信される。一枚はNinoをリーダーに多くの人物が自由に参加することで活動するプロジェクトBuild An Arkの10周年記念アルバム『The Stars Are Singing Too』。ライブ、セッション、リミックスにリハーサル音源を集め、Build An Arkの今までの軌跡がわかるように編集したアルバムだ。このプロジェクトはSun RaやPharoah Sandersのカバーをしていることからもわかる通り、スピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズをヒップ・ホップ以降の感覚で捉え直した音楽性がメインとしてある。しかし、サンプリングではなく、実際に70年代からその分野で活躍しているPhil Ranelinなどのミュージシャンを迎え入れて作るというところに肝がある。
DJによって再発見されたレア・グルーブを通過したビート感覚にも通じ、そうしたテクノロジーが中心の時代であることをわかった上で、世代を越えて人と集まることをBuild An Arkは選択してきた。本作を通して聴くとサウンドが懐古的にならず、常に新鮮に響いてきたことがわかるだろう。それも刺激的であると同時に居心地がよく、一貫して聞き手がそこに居続けやすい音が鳴っているのだ。また、8曲目からのノンビートのアンビエントになる流れは、スピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズの再構築からはじまったプロジェクトの実験的な面の成果を表している。初期の祭りのような高揚感ではなく、こうした静けさの中で時間を共にすることでできるつながりが、10年間継続し、またこれからも継続していくための彼らのやり方なのだろう。
そして、もう一枚がBuild An Arkにはじめから今に至るまで参加し続けているシンガーGaby Hernandezのソロでのセカンド・アルバム『Sweet Starry Night』だ。今作もNinoが彼女を全面的にバック・アップし、これまたNinoのプロジェクトであるLife Force Trioが演奏を担当している。それだけあって、アルバムはジャズやフォークを基本としてアンビエントやエレクトロニカのような音の質感も持ち、穏やかな雰囲気の中に様々な音楽の要素が結びついている。そして、歌い手のGaby自身もNinoと同様に幅広く音楽に精通していて、ヴォーカルからそれが伺える。フォーキーな曲の時は、Vashti Bunyan のようなフリー・フォークのルーツになっている英国の内省的なシンガー・ソングライターを思い出させるし、スペイン語で歌う曲ではアルゼンチン音響派の代表格Juana Molinaのような雰囲気をかもし出しているのだ。全体的に穏やかでやさしげな雰囲気の中に、精神的な自由を求める芯の強さがあると言ったらいいだろうか。やはり、そこはNinoと通底する感覚であるし、近年のBuild An ArkやTurn On The Sunlightと連続した作品なのだろう。
彼らは経済的に発展した社会の中で音楽によって地域コミュニティを形成し、それが継続することで音楽的な豊かさを保ち続けるという難しいことに成功した好例だ。しかも、それが社会に流されず、自由であり続けるというアンダーグラウンドな理念の基に継続している。ありがちな言い回しになってしまうが、変わり続けることで変わらないということを実現しているようだ。この二枚のアルバムはそのことを示し、そして、これからを示している。(text by 滝沢時朗)
RECOMMEND
teebs / Ardour
音源デビュー前にして、Brainfeeder、Dublab、Poo-Bahに所属しそのドリーミーに幻想的で甘く、まるでおとぎ話の世界にいる様な錯覚に陥ってしまう音世界を作り上げ、多くのコアな音楽ファンを魅了してきたL.A.ビート・シーンの若き才能。
Take / ONLY MOUNTAIN
テイクが本来持っていたジャジーなグルーヴとゆるやかなサウンド・スケープの世界が、Low End Theory直系のデジタルでコズミックなビートと出会って化学変化を遂げたハイブリットなビートを表現。
Turn On The Sunlight / TURN ON THE SUNLIGHT
「ジョン・フェイヒーとブライアン・イーノが海と星と愛についての音楽を作ったとしたら」そんなカルロスの夢想から始まったこのプロジェクトは、ダヴィデ・バルラや中村としまるら様々なアーティストとの演奏経験を持つNY在住のギタリスト、インプロヴァイザー、ジェシー・ピーターソンと一緒に作り上げられた、フォーキーで、そして最近のBuild An Arkにも感じられるアコースティックなアンビエントの空気にも包まれた素晴らしい音楽空間を作り上げた!
PROFILE
Build An Ark
LAのブラック・ジャズの柱であったNimbusレーベル。そのレーベルを生んだきっかけであるピアニスト、故ホレス・タプスコットによって1961年に結成されたPan-Afrikan Peoples Arkestraに参加していたヴェテラン・ヴォーカリストのドワイト・トリブル。ヒップ・ホップからジャズへと活動の幅を広げ、LAで頭角を表し始めていた若きプロデューサーのカルロス・ニーニョ。この二人の交流がきっかけとなり、9.11の悲劇的な状況に対する平和的なレスポンスとして、Build An Arkは2001年にLAで結成された。
多くの音楽文化がクロスし、様々な世代が混じり合う、他に例を見ない音楽コレクティヴとして、21世紀のソウル、スピリチャル・ジャズ、ポエトリー、モダン・インプロヴィゼーション、クラシック、そしてポップスまでを範疇に収めた演奏で高い評価を得る。いまやLAを代表するプロデューサー&DJとなったカルロス・ニーニョをリーダーに、前述のドゥワイト・トリブル、ブラック・ジャズ・レーベルTribeの創設者である伝説的なトロンボーン奏者フィル・ラネリン、Nimbusレーベルの看板ピアニストだったネイト・モーガン、AACM出身でアフロ・セントリックなジャズ・ファンク・バンドThe Pharoahsの創始者であるダーフ・レクロウなど、本物のヴェテラン・ミュージシャンから、J・ディラの追悼プロジェクト『Suite for Ma Dukes』のオーケストラ・アレンジで有名なミゲル・アットウッド・ファーガソン、女性ヴォーカリストのミア・ドイ・トッドやギャビー・ヘルナンデスなど、幅広い気鋭のアーティストが参加した一大プロジェクトとして、世界中から支持を集めている。
Gaby Hernandez
カリフォルニア州ロサンジェルスで生まれ育ったギャビー・ヘルナンデスは、10年前からロサンジェルスのトップ・アーティストとコラボレーションをしてきたシンガーだ。彼女はBuild An Arkの創立メンバーの一人であり、2001年からこのグループの一員として活動している。オペラからポップス、フォークロアからエクスペリメンタルなど幅広い音楽を聴いてきた彼女のスタイルは、彼女が最も影響を受けたシャーデーとカレン・カーペンターの中間にあると言えるだろう。しかし、様々な音楽的影響を取り入れながらも、自分のユニークなサウンドを確立している。彼女が大切にしている音楽について語り出すと、レオンタイン・プライス、ミニー・リッパートン、ガル・コスタ、ヴィオレッタ・パラなどバラエティに富んだアーティストの名前が溢れるように出てくる。