
前作『Alice in wounderword』から約1年半、古川本舗、待望のセカンド・アルバムが完成。エレクトロニカ、ポスト・ロック、アコースティックを融合した独自のポップ・サウンドが更に進化。ゲストに、山崎ゆかり(空気公団)、大坪加奈(Spangle call Lilli Line)、アイコ(advantage Lucy)、拝郷メイコなどを迎え、様々な色を見せる、浮遊感溢れたサウンドをお楽しみください。
古川本舗 / ガールフレンド・フロム・キョウト
【販売形態】
HQD(24bit/48kHzのwav) / mp3
【販売価格】
単曲 250円 / まとめ価格 2,000円
1. 魔法 feat. ちょまいよ / 2. 月光食堂 feat. acane_madder / 3. グレゴリオ feat. ちびた / 4. ルーム feat. 花近
5. KAMAKURA feat. 古川本舗 / 6. IVY feat. 歌うキッチン / 7. KYOTO feat. アイコ(from advantage Lucy)
8. 春の feat. 大坪加奈(from Spangle call Lilli line) / 9. はなれ、ばなれ feat. ばずぱんだ
10. 恋の惑星 feat. 拝郷メイコ / 11. family feat. YeYe / 12. girlfriend feat. 山崎ゆかり(from 空気公団)
INTERVIEW : 古川本舗
古川本舗、とはなにかの店ではなく、男性ソロ・ユニットの名前である。以前にもバンドをやっていたことは明らかになっているが、その名義での活動は2009年からニコニコ動画にボーカロイドを使った楽曲を投稿し始めたことからはじまる。彼の楽曲はあれよあれよという間に人気を博し、2011年には投稿した楽曲を中心にまとめたファースト・アルバム『Alice in wonderword』を発表する。その内容はボーカロイドを使用せず、ニコニコ動画で交流を築いた歌い手を起用し、それに加えて野宮真貴とカヒミ・カリィという渋谷系を代表する2人のアーティストに同じ曲の異なるヴァージョンを歌わせるという古川本舗としてのキャリアと今後の方向性を同時に示すようなものだった。そして、今回、セカンド・アルバムである『ガールフレンド・フロム・キョウト』がリリースされた。前作を踏まえつつさらに古川本舗のユニークさが深まった今作を彼はどう考えて作ったのか。インタビューを読んで欲しい。
インタビュー & 文 : 滝沢時朗
写真 : 畑江彩美

その時々でかっこいいと思うものを出していたっていう感じです
——『ガールフレンド・フロム・キョウト』は、アコースティックなサウンドにエレクトロニカの音使いも絡んだサウンドで、様々な要素が詰まっていると感じました。ルーツにしている音楽を教えていただけますか?
14歳ぐらいからバンドをやっていたんですけど、当時は漫画だと『SLAM DUNK』とかが流行っていて、みんなバスケ部とか運動部に入っていたんですね。それで、運動部に入る人たちはプロになりたいと思ってやっていて、勉強をやっている人にしても大学に入りたいとか明確な目標があるわけです。僕は両方できなかったので、そうすると将来のビジョンがない状態になるわけですね。それで、何かしきゃいけないなと思ってバンドを始めたんですよ。だから、音楽を真剣にやらないとどうにもならないと思っていてました。その時はヴィジュアル系を聴いていたんですが、ルーツであるメタルも意識して聴いていたりしました。高校に入ってThe Clashとか初期のパンクを聴いていみたりと、その時々で音楽に対して幅広く取り入れようっていう感覚があって、そうやって取り入れたものをさらに掘り下げるような聴き方をしていました。そういう状態が大学くらいまで続いたんですが、大学の音楽サークルに入ることで、さらに音楽の世界が広がりましたね。そういうところってマニアックな音楽を知ってる方が偉いみたいな風潮があるんですけど、僕がいたところもそういう感じで(笑)。飲み会のネタとして音楽を聴くみたいことから始まって、Dinosaur Jr. とかのオルタナティブ・ロックとかを聴いていきました。
——エレクトロニカなどもその時から聴き始めたんですか?
その当時はいわゆるギター・ロックのバンドをやっていて、バンドでアウトプットするために聴く部分が大きかったので、そこに反映できて自分が面白いと思えるものは何かっていう聴き方をしていました。だから、あんまりエレクトロニカとかは聴いていませんでしたね。それで、20代半ばでバンドをやめて違う仕事についたんですね。そこではじめて自分のアウトプットと関係なく、音楽を聴いていいんだっていう状態になって、もっと色々とスムーズに聴けるようになりました。その頃にエレクトロニカを聴いて、クラブに遊びに行くようになっていたのでハウスとかも聴くようになって。

——ボーカロイドを使用した楽曲を発表されるようになるわけですが、その時はいかがでしたか?
ある時に地元の先輩からボーカロイドのソフトをもらったんですよ。Macしか持っていなかったのでしばらく放置していたんですが、その内Windowsも使える環境になったので、じゃあ、昔のバンドでやっていた曲だとか、やりたかったけど出せなかった曲をボーカロイドでやってみようと。そうやって触り始めたのが2008年~2009年です。それから、曲を発表するようになったんですけど、アウトプットすることを意識して聴くという形には戻りませんでした。バンドの時は職業にする前提で曲を作っていましたけど、そういことを全く考えないで出せましたから。取り入れたものをそのまま出せるっていう感覚もあったので、そこでまたどんどん広がっていきましたね。
——お話を伺っていると、常に聴いている音楽のルーツを探るという聴き方をされてきていますね。エレクトロニカなどの最近聴かれてるジャンルに関してもそうなんですか?
エレクトロニカは聴き始めてまだ日が浅いので。好きなアーティストはTelephone Tel Aviv、ポスト・ロック寄りだとAlbum Leaf、フォークトロニカだとDofですけど、どこが深くてどこが浅いのかあんまりよくわかってないかもしれないですね(笑)。
——インタビューズでBurning Airlinesが好きと書かれていましたけど、エモだとポスト・ロックにつながる流れがあって、Album Leafにもつながりますね。
エモはJoshuaとかGet Up KidsとかのDoghouse Recordsのバンドをよく聴いてました。そのあたりから引っ張ってきてるのはあるかもしれないですね。あの辺のエモ・バンドはそのままポスト・ロックに流れたり、エレクトロニカをとりいれてたりするので、自然につながるのはつながったのかなという気はします。
——そういった形で新しい音楽を今もどんどん聴いているんですか?
そうでもないですね。なんだかんだ言って20代前半の時に聴いていた音楽が好きだよな、みたいなところに帰ったりしています。先日別の企画で久々にDinosaur Jr. を聴いたらかっこよくて(笑)。
——元々バンドをやられていたというところで、前作のファースト・アルバム『Alice in wonderword』には「mugs」や「ムーンサイドへようこそ」といったバンド・サウンドの曲がありましたが、今作ではないですね。
前作はアルバムにすることを前提に曲作りをしていたわけではなくて、曲を作ってボーカロイドに歌わせてサイトに投稿するっていうことだけでやっていましたからね。その時々でかっこいいと思うものを出していたっていう感じです。たまたま、そこにバンド・サウンドが入ることがあったりというだけで。今回はアルバムとして、1枚にまとまるものしたいっていうところがあって、ライヴでの再現性とかも意識しないで映画のサウンド・トラックのように作ったので、その結果としてバンド・サウンド的なアプローチが減ったという感じですね。完全になくなった訳ではないですが。
暗いところから明るいところに着地するような作品を出したかった

——映画のサウンド・トラック的という言葉が出ましたが、どういったコンセプトか詳しく伺えますか?
僕の曲は暗い曲や悲しい曲が多かったりするんですけど、そうではない側面を出したいな、ということが意図としてあったんですね。でも、いきなり明るい側面を出すんじゃなくて、暗いところから明るいところに着地するような作品をまずは出したい。それが今回のコンセプトですね。アルバム12曲通してもそうだし、1曲単位でもそうなるように音も世界観も作りました。暗いから明るいへの、小さいグラデーションを12個積み上げたら、大きいグラデーションになるようなアルバムですね。
——歌詞は別れをテーマにしたものが多いですが、アルバムのコンセプトに沿った結果なんでしょうか?
ターニングポイントみたいなものがあって、前後がちゃんと描かれていることが大事だと思っています。別れをターニングポイントにして、別れる前と後のストーリーを描く、もしくは、ちゃんと想像できるものにすることで暗いところから明るいところへの流れを表現するというような考えで、別れをテーマとして盛り込みました。
——今作の歌詞の中では「夜」や「明日」「朝」という言葉がよく使われてることが印象的でした。これはなにかしら意味があるのでしょうか?
ターニングポイントみたいな切り替わる瞬間って確実にあるんですけど、同時にすごく曖昧じゃないですか。いつからが朝とは言えないし、いつまでが夜とははっきり言えないし。別れるにしても、この瞬間からもう完全に別れましたっていうことはあんまりないと思うんですよね。混ざり合っていてグレーの感覚っていうのが、別れを取り巻く時間帯には絶対あるんですよ。それで、結果として別れて、はっきり分離してるってことがちゃんとわかるっていう瞬間はありますけど、それまでのどんよりした感じっていうのが、今回には必要だったんだだろうな思います。
——それでは、今回のレコーディングはどのように進められましたか?
今回はデモの段階までかなり作りこんで、僕が知っているミュージシャンにこう言う感じでお願いしますと頼むところは同じです。ドラムの森さんは今回がはじめてですが、とてもハマり良いドラムをたたいてもらえました。。ボーカルに関しては、デモを作った段階で楽曲に関してどういう声が必要なのかっていうことを考えて、ボーカルの選定を始めました。表現が難しいですけど、例えるとマンガを読んでる時にマンガのキャラクターの声がなんとなく頭の中で鳴っている感じに近いです。そこをひたすら詰めて合致した人にオファーを出しました。
——歌い手の方を選ぶのには苦労されましたか?
5曲目の「KAMAKURA」は自分が歌っているんですけど、この曲はどういう声がいいのか思いつかない状態で最後まで進んでしまって、最終的にデモで歌っている自分の声がはまっているんじゃないかというところで着地しました。本当にその人の声でいいのかどうかっていうところは、やってみないとわからないところがあって。でも、やってみて違ったからダメだっていう話でもないわけですよね。そこを考える作業っていうのは自分の想像力との戦いというか、苦労しましたね。
——自分の声に対してもプロデューサー的な距離のある見方で判断されるんですね。
自分の中で演奏担当と作詞作曲担当とプロデューサー担当は完全に切り分けていますね。わりとプロデューサー視点は冷酷に見ています(笑)。
——古川さん本人の弾き語りのシリーズ作品で『シンガロン』を出されていますよね。あれを聴いていると、すべて古川さんが歌うということもあるんじゃないのかなと思ったのですが。
『シンガロン』とかは、作品作りと言うよりは自作自演やる感覚は忘れたくないなという意味でつくっている感じですね。今、古川本舗としてやってることって、最初から自分で歌いたければそうしてるよなっていう話ですね。自分が歌うっていう選択肢を意図せずにアルバムで外してきたっていうことは、そこは分けて考えたほうがいいんだろうなと。
——歌い手の方はニコニコ動画で有名な方と、CDアルバムを何枚も出している有名なバンドのボーカルの方が混在していますが、そこは古川さんが聴いている範囲で選んだ結果そうなったというだけでしょうか?
そうですね。そこはフラットに見ています。

——ニコニコ動画の歌い手の方は普段からチェックしているんですか?
最近はあまりしてないですね。参加してもらってる方っていうのも自分が以前、ネット上でカラオケを公開していた時に自分の曲を歌っていて知っていたりという経緯です。新しく探してということは考えてなかったですね。
——それでは、バンドのヴォーカリストの方は、古川さんが元々聴いていて好きだったんですか?
もちろん。もう大好きですね(笑)
——advantage Lucy、Spangle call Lili line、空気公団と歌ものでありつつ音響表現も重要にしているバンドという印象ですが、たまたまそういうバンドの歌い手になったんですか?
好みがそっちなのかもしれないですね。そういうバンドを集めようっていうオファーをしたわけではなくて、自分が聴いてきたものもそうだし、好きなものもそうだし、作るものもそうだしってなると自然とそこにはまってくる声って今回のようになるのかなと思います。
——元曲がボーカロイドで単にギャップが大きいだけかもしれないですが、「girlfriend」に空気公団の山崎ゆかりさんは個人的に意外でした。
僕は自然とはまったなと思ってます。このアルバムの締めになる曲をどういう風にするべきかってところで、あたたかさとか母性的なものを持ちつつも、全部受け入れるわけではなくてちゃんと線を引いてくれる感覚も持っている声っていうところで山崎さんがぱっと思い浮かびました。
——なるほど。そう説明してくださると腑に落ちますね。
空気公団を聴いていても思うんですけど、精神的に寄り添って歌ってくれる感じもあれば、すごいドライに聞こえる瞬間もあったりして、その必要以上に入ってこない距離感が好きなのかなと自分では分析していました。アルバムの最後は明るくしたいと思っていたんですけど、明るくなりすぎないというところでは、すごくいいバランス感覚になったと思っています。
どこかに毒みたいなものを常に入れてたいなというところがある
——「girlfriend」のようにボーカロイドの曲として投稿されていた曲や自主制作のEPの収録されていた曲もありますが、今回のために書き下ろされた曲もあるんですか?
「魔法」や「グレゴリオ」といった新曲群がそうですね。他にも合わせるとちょうど半分の6曲になります。
——「魔法」と「グレゴリオ」はミュージック・ビデオ(以下、MV)をアップされていて重要な曲ですね。
「魔法」は出来た段階で今回のアルバムの軸になるだろうなっていうのは予想していたので、楽曲の世界観を音や歌詞だけではなくて、映像的にも見せたいっていう意図はありました。それで、MVを作りましたね。
——「魔法」のMVはYouTubeにアップされてるものとニコニコ動画にアップされているものでラストが違いますよね。
あれは違う動画サイトに同じものを公開しても面白くないんじゃないかなと思って。動機としては作品性っていうよりいかに見る人に楽しんでもらえるかっていうところですよね。それに相応しいものとしてふたつのストーリーがあってもいいんじゃないかっていうことになりました。 そのアイディアを元にどうやって作品生をもたせるかというところを考えて行ったという感じです。 「魔法」は僕の死生観みたいなところを曲に落とし込んでいるんですけど、死生観って一概に語れるものではないですよね。生きていることによって得られる素晴らしい可能性とその逆の無常観を表現にするためにどうやれるだろうと考えて、2本の軸があってもいいのかなと。
——「グレゴリオ」の歌詞も、注意深く読むと異なる解釈があるとブログで書かれていましたけど、物事は単純ではなく、良くも悪くも受け取れるというのが古川さんの基本姿勢なんですか?
特に「グレゴリオ」がそうなんですが、単純に受け止めると美しいストーリーなんだけど、そうじゃない受け止め方もできるよねっていうところに面白さを感じますね。自分としては性格が悪いだけなんじゃないかって思ったりしますけど(笑)。「グレゴリオ」以外の楽曲に対してもそうなんですけど、どこかに毒みたいなものを常に入れてたいなというところがあったりするんですね。すごく普通に聞こえるんだけど、なにか違和感が残って、そこから広がる世界に想像できる余地があることに面白さを感じますね。
——「グレゴリオ」は単純にいい話だなと思っていたので少しショックでした(笑)。でも、確かにいい驚きの体験ですね。
MVは曲を作る時とちょっと考え方が違ったりするんですよね。曲の世界観を膨らますということだけではなくて若干プロモーション的で、どうやったらMVを楽しんで見てもらえるかっていう部分がありますね。例えばどうすると曲に対する理解が深まるかっていう観点で考えると、歌詞の見方を変えるとこんな風にも見えるんだよって解説を見た後でMVを見ると全然違う感想になるかもしれない。そういう仕掛けは面白がって作りたいですね。
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PROFILE
古川本舗
10代の頃より作曲活動を始め、数々のバンド活動を経て宅録に目覚める。 同人盤としてEPを発表する傍ら、多数コンピや楽曲提供、アレンジ提供などメジャー、インディー関わらず幅広いフィールドで活動。 2011年にインターネット発祥の音楽レーベルBalloomの立ち上げに参加。 同レーベルよりアーティストとして2年間の活動の集大成をパッケージしたアルバム『alice in wonderword』を発表。 ゲスト・ボーカルに野宮真貴、カヒミ・カリィ、拝郷メイコ、マスタリングにはテッド・ジェンセンを招いた本作で、群雄割拠のシーンの中で、まさに唯一無二と言えるポジションを獲得した。 その活動が認められ、2011年ビルボード・ジャパンの優秀インディーズ・アーティストにノミネートされる。 2012年、SPACE SHOWER MUSICより一年半ぶりのセカンド・アルバム『ガールフレンド・フロム・キョウト』を発表。 山崎ゆかり(空気公団)、大坪加奈(Spangle call Lilli line)、アイコ(advantage Lucy)らをボーカルに迎えた本作で、新たな世界観を確立。 作詞作曲編曲だけでなく、アルバムのアート・ディレクション等、作品の世界観を多岐に渡る方法で表現するマルチ・アーティスト。