LIVE REPORT「One Night Re:Birth Again」 | 「ロマンシング サ・ガ」シリーズの名曲を、伊藤賢治率いるロックバンドが熱演!!
文 : 滝沢時朗 / 写真提供 : 葛西龍
「ロマサガ」ほど音楽とゲームの結びつきが強い作品もないだろう
「ロマンシング サ・ガ」(以下「ロマサガ」)シリーズなどの作曲で有名な伊藤賢治(以下、イトケン)。2013年2月に彼のゲーム音楽をリアレンジし、バンドで再現したライヴ「One Night Re:Birth」が行われた。そのライヴの好評と、2014年2月26日に発売する新たなるアレンジ・アルバム『Re:Birth Ⅱ-閃- / “SaGa” Battle Arrange』を受けて、1月18日に再演ライヴ「One Night Re:Birth Again」を開催。前回の「One Night Re:Birth」は「聖剣伝説」シリーズと「ロマサガ」シリーズからの選曲だったが、今回はすべて「サガ」シリーズからの選曲だ。
会場は新宿文化センター大ホール。2013年の日本橋三井ホールの収容人数を上回り、座席で1800人ほど。それでも、チケットは売り切れ、会場は期待に満ちた人でいっぱいだった。会場SEとして流れる「ロマサガ」のアレンジの元曲や声優の杉田智和による案内のナレーションを聞いてリラックスしていると、SEがゲームのはじめにタイトル画面で掛かる「オープニングタイトル」に変わり、イトケンとバンド・メンバーが登場。メンバーは前回の「One Night Re:Birth」と同じく、上倉紀行(Gt、Key)(※1)、寺前甲(Gt)、榎本敦(Ba)、山内優(Dr)(※2)、和田貴文(Manipulator)(※3)といったゲーム音楽に関わる精鋭たちだ。
最初の曲は「必殺の一撃~死闘の果てにメドレー」。ゲームボーイ用ソフト「サ・ガ2 秘宝伝説」からの新規アレンジ曲だが、イトケンがシンセを弾きまくるメタル・フュージョンな曲に生まれ変わり、一気に会場のテンションを上げる。続いて「バトル1メドレー」「四魔貴族バトル」とイトケンのファンには定番のバトル曲でさらに場を盛り上げる。そして、演奏後にイトケンからの第一声「One Night Re:Birth Again、はじまったぞ!」で、客席から歓声が巻き起こる。メンバー紹介をはさんで、やはり、これも定番曲である「Believing My Justice」を熱演し、次に新規アレンジ曲の「Battle #5」。元々が激しい曲だが、生のブラスト・ビートでさらに冴えるイトケン・メタルに観客も総立ちで応える。
ここでトークになり、前回、会場で最もリアレンジしてほしいという声のあった「下水道」を演奏することを発表。ミニマルな電子音のリフがかっこいい人気曲だが、それにも関わらず下水道のマップで使われていることでファンの間では有名な曲。イトケンもこれについて「そもそもキャラクターのフィールド曲として作っていて、下水道のことは考えてなかったから、この選曲には驚いた。でも、これでプロデューサー視点の選曲の仕方を学ぶことができた。」「これだけネタも含めて愛される曲になるとは思わなかった。ニコニコ動画のタグの「飲める下水道」って(笑)」と語っていた。アレンジされた「下水道」は、跳ねたリズムのジャズ・ファンクな曲になっており、イトケンの新たな引き出しを聞くことができる新鮮なものになっていた。
そして、ここでスペシャル・ゲストとして「サガ」シリーズのプロデューサーである河津秋敏が、「One Night Re:Birth」のときと同じく飄々とした様子で登場。まず「このアレンジでもらってたら、多分、下水道には使わなかったよ。」と話して会場を和ませる。ここで「エンペラーズ サガ」(※4)の人気投票の結果、様々な過去の話などが聞けたが、音楽に関する話で言えば、以下の発言が興味深かった。
河津 : ゲームボーイの曲をアレンジするのはどうなんですか?
伊藤 : 入社当時は、ゲーム音楽のことは全然知りませんでした。もう三和音で作るということ自体知りませんでしたよ。
河津 : 当時のゲーム音楽は、あの時代だからあったのものですよね。それがいまこうやって演奏されているのは、ちょっと不思議な感じがありますね。
伊藤 : 三和音で作曲したおかげですごく勉強になったところもあります。限られた音数で、なにをベースにするか、どの音をメロディにハモらせるかっていうことを考えているうちに、自然と対位法(※5)が身に付きました。そのおかげで、ピアノしかやってこなかったけど、オーケストレーションもスムーズにできた。貴重な体験でした。
笑いが絶えずに進んだ河津とのトークも終わると、土屋玲子(Vn)が登場。前回の「One Night Re:Birth」では、ニコニコ生放送のなかで、土屋の入ったバンド・メンバーを七英雄だというコメントがあったということで、バンド・メンバーを七英雄に当てはめていき、ひと盛り上がり。そこから、『Re:Birth II - ロマンシング サ・ガ バトルアレンジ』収録時には穏やかなジャズ・アレンジだった「七英雄バトル」を、今回はロック・アレンジにして演奏。さらに「邪聖の旋律」で会場に再び熱気を漲りはじめる。どちらも印象的なイントロからはじまるシンフォニックなアレンジの曲だが、それがヴァイオリンによってさらに芯が強くなって響き渡っているようだった。続いて新規アレンジ曲の「クジンシーとの戦い」。元々のキメの多い編曲がバンド演奏によってさらに迫力を得て、聴き応えのあるアレンジになっていた。ここで土屋は一旦、奥へ引いていく。次も新規アレンジ曲の「Battle #1」。「サガ フロンティア」からの曲だが、演奏前にイトケンから「8人の主要キャラ全員に専用のラスボスバトル曲があって苦労した。もう意地で曲を作ってた。」「植松さんにプログレッシブ・ロックを教わって、最初はわかんないと思いながら聞いていた。でも、それでできたのが「ラストバトル−エミリア-」。」と、作曲についての苦労話が語られた。「Battle #1」では、グルーヴィーなベースラインの上でイトケン節のメロディが踊るフュージョン・メタルが味わえた。
そして、ついにラスト3曲。しかも、「One Night Re:Birth」のときと同じく「ラストバトル(ロマンシング サ・ガ2)」「ラストバトル(ロマンシング サ・ガ3)」「決戦! サルーイン」とラスボス曲3連続の流れ。「ラストバトル(ロマンシング サ・ガ2)」のイントロから瞳孔も開いてくる。バンド・メンバーも頭を振り始め、イトケンのキーボードと寺前のギターで交互にソロを弾きあい、演奏は加速度的に白熱していく。その勢いで演奏をやりきった後、バンドは拍手に包まれながら退場するが、もちろん、アンコールがかかる。1曲目は新規アレンジ曲の「呼び醒まされた記憶」。これも元からスピード・メタルのような激しいアレンジの曲だが、さらに激しさを増した演奏で熱量は増していき、再び客席は総立ちになる。そして、再びヴァイオリンの土屋が入っての「バトル2(ロマンシング サ・ガ3)」。新規アレンジ曲の「Last Battle-Asellus-」では、ヴァイオリンのソロから始まるアレンジに変わっていて、イントロから耳を奪われる。
ここでさらにゲストの岸川恭子(Vo)が登場。ここだけの編曲という「バトル2(ロマンシング サ・ガ1)」では、楽器とともに主旋律を歌い上げ、楽曲に新たな息吹を吹き込んでいた。そして、岸川と言えば外せない、イトケンのラテン調の楽曲の代表作「熱情の律動」。岸川のヴォーカルが会場中に轟く。最後にまたメンバー紹介があり、バンド・メンバーは舞台の袖へ。イトケンが「最後に1曲だけ」と言って、「オープニングタイトル-ピアノソロ-」を弾き始める。バトル曲で最高潮に盛り上がった後のこの曲は、シンプルなだけに「ロマサガ」という物語への期待や喜びといった感情をまた沸き上がらせ、胸を打つものがあった。曲が終わるとスタンディング・オベーションが起こり、「One Night Re:Birth Again」は幕を閉じた。
終わってみて感じたことは、「ロマサガ」ほど音楽とゲームの結びつきが強い作品もないだろうということだ。プログレッシブ・ロックやメタルを元としたアレンジは運命の過酷さや理不尽さを表しているようだし、歌謡曲的とも言われるメロディや時折聴けるラテン調楽曲の哀愁は運命の中でも立ち向かっていく人間の意志を感じさせる。そして、それらはすべて「ロマサガ」という言葉数の多くないゲーム体験から、無意識にプレーヤーが感じていることでもある。イトケンの曲はゲームの外でもそうした体験を新鮮な形で思い出させてくれるし、「One Night Re:Birth Again」はそれだけでなく音楽とゲームの両方に関して新たな発見さえさせてくれるようなイベントだったと思う。
2014年1月18日「One Night Re:Birth Again」
開催日時
2014年1月18日(土)17:00 開場 / 17:30 開演
会場
新宿文化センター大ホール
出演
伊藤賢治(Key) / 土屋玲子(Vn) / 寺前甲(Gt) / 上倉紀行(Gt、Key) / 榎本敦(Ba) / 山内優(Dr) / 和田貴史(Manipulator) / 岸川恭子(Vo)(アンコール)
・スペシャルゲスト : 河津秋敏(スクウェア・エニックス)
〈セットリスト〉
01. 必殺の一撃~死闘の果てに メドレー
02. バトル1 メドレー(ロマンシング サ・ガ〜3 & ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
03. 四魔貴族バトルメドレー
04. Believing My Justice
05. Battle #5(サガ フロンティア)
06. 下水道
07. 七英雄バトル
08. 邪聖の旋律
09. クジンシーとの戦い
10. Battle #1(サガ フロンティア)
11. ラストバトル(ロマンシング サ・ガ2)
12. ラストバトル(ロマンシング サ・ガ3)
13. 決戦! サルーイン
En.
呼び醒まされた記憶
バトル2(ロマンシング サ・ガ3)
Last Battle-Asellus-
バトル2(ロマンシング サ・ガ)
熱情の律動
オープニングタイトル-ピアノソロ-
2014年2月26日発売『Re:Birth Ⅱ-閃- / “SaGa” Battle Arrange』
Re:Birth Ⅱ-閃- / “SaGa” Battle Arrange
・「ロマンシング サ・ガ」シリーズの楽曲をバトルアレンジで全曲新録・新アレンジ!!
・ジャケットは小林智美氏による新規描き下ろしイラストを使用!!
・初回生産限定盤には本アルバム収録曲の原曲音源をOTOTOYでダウンロードできる、ダウンロード・コードを封入!!
>>公式サイトはこちら