この奇妙なエネルギーは一体何?! 一度聴いたら頭から離れない、昆虫キッズの2ndアルバム『text』が完成しました。エンジニアに近藤祥昭(GOK SOUND)、マスタリングに中村宗一郎を迎えて制作された本作。THE NOVEMBERSの小林祐介、麓健一、スッパマイクロパンチョップなどがゲストで参加し、バンドに新たな彩りを加えています。シュールな歌詞や、中毒性のあるヴォーカル&アンサンブルを、持ち前のポップ・センスで昇華した全13曲!
1. nene / 2. いつだって / 3. サマータイマー / 4. FLY / 5. ミスターロンリー / 6. ハネムーン / 7. 花とエルボー / 8. アメリカ / 9. 魔王 / 10. アンネ / 11. S.O.R. / 12. ふれあい / 13. 太陽さん
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INTERVIEW
昆虫キッズの音楽には本当に色んなものが詰まっている。それは音楽として語ればキーボードやホーンが躍るカラフルなアレンジ、独特なメイン・ヴォーカルとかわいいコーラスのコンビネーションだ。そして、それらがひとつなっている曲を聞けば、身も蓋もなかったりロマンチックだったり、切実だったり上の空だったりするイメージが頭の中に浮かんで、聞こえる以上の何かを残していく。そんな昆虫キッズのギター、ボーカル高橋翔に話を聞いた。
インタビュー&文 : 滝沢時朗
思い付きから曲が広がる
——『text』はポップでアレンジも色々試されている面白いアルバムだと思います。アレンジはどうやってされているんですか?
ポップで王道なアレンジが好きっていうのはありますけど、基本的に曲単位でどういう風にするのが合うかを試して作ってます。アレンジは調子がいい時なら曲の原型を1時間ぐらいで作れちゃいます。早いほうだと思うんですけど、体質的にそっちのほうが合うんですよ。時間をかけて作ったから良くなるわけではないし、その逆にパッてできたものが悪いってことも絶対ないですね。それで、また色々アイディアを出して、足したり引いたり色々やっていくんです。それで、ライブで演奏を重ねるんですけど、単純にやっぱりみんな飽きてきます。そうするとアドリブが入ったりして、曲が変わっていくんですね。それを繰り返していると曲の性格が見えてきて、色んな方向に行けるっていうことがわかってくるので、やってて面白いです。ライブはライブで4人でできることも限られてますから、その中で遊んでちょっとずつ変えていくのが、バンドの体質に合ってますね。だから、今『text』に入ってる曲もライブではアレンジが変わってきている曲がありますよ。
——「アメリカ」は曲の途中でアメリカ国歌が入ったりと結構思い切ったアレンジですが、どうやって作られたんですか?
ほとんど思いつきなんですよ。単純にこれ入れたら面白いなと思って。でも、「アメリカ」はもう途中でアメリカ国歌のコーラスが入らないと決まらない曲になってしまっていて、思い付きから曲が広がるのは、やっぱりやっていて面白いです。「魔王」の魔王の台詞も「アメリカ」のアメリカ国歌と同じでノリでやってることなんですよ。そこでやっぱり聞いた人が色々想像したり、笑ってくれたりしたらそれでOKなんです。そこまで深い意味はなかったりするんで。とはいえ、真面目にやってる部分とふざけてやってる部分があるので、そのバランスを取ることは大事ですが。あんまり真面目すぎるとはぐらかしたくなるんですかね。照れ隠しっていうか。それは自分の性格からだと思うんですけど。そういうところが出てるのかなと思います。
——アルバムを作る際に最初からこうしようというような方向性を考えて作られてましたか?
作るにあたって、明確なコンセプトっていうのはなかったです。基本的に活動がライブ中心なので、ライブを繰り返していくうちに新曲がどんどんできて、ある程度の曲数が揃ったら、アルバムになるように曲を並べて組み立てるんです。そこでトータル・バランスを考えて、こういう曲が欲しいと思ったら作ります。なので、『text』はライブの流れでできたアルバムですね。曲を作っていいなと思ったらライブでやってみて、それから細かいところをスタジオで詰めていく作業をして、納得できるレベルまで持ち上げるって感じですかね。あと、今回は毎回ライブに来てくれている人がCDを聞いた時に全部知ってる曲だと面白味がないだろうなと思って、ライブでやってない曲を入れてます。
——アルバムの流れがはっきりしているので、アルバムをはじめから意識して曲を作られているのかと思いました。
アルバムとしての流れは欲しかったんですが、とりあえず考えて曲を並べていったら、それが最初からよくできた感じの曲順だったんです。なので、意図していたとも言えるし、意図していなかったとも言えるんですが、すごく自分でやっていて面白かったですね。こんなにきれいにはまるんだみたいな気持ちよさがありました。
——今回のアルバムでポップになったと同時にロック・バンドとして力強くなったとも感じました。豊田道倫 with 昆虫キッズ『ABCD』で切れ味のいいバンド・サウンドを出されていたので、その経験が今回反映されているのかと思ったんですが、いかがですか?
まず、基本的には普段のライブ活動の積み重ねがベースとしてあります。豊田さんとやったことに関しては、僕達はバック・バンドで参加していて自分たちが中心のアルバムではなかったわけですよ。そこで普段の意識と何が違うかって、やっぱり責任感だと思ったんです。もちろん真面目なんですけど、中心ではないってことで、そこまで緊張もしてないしそこまでリラックスもしてないフラットな状態でレコーディングできたんです。だから、あそこまで荒々しい演奏もできたし、いい意味で無責任にこっちはできました。人のバック・バンドでアルバム一枚作るって、今まで通りに活動してたらなかなか得がたい経験なので、バンドとして大きいものだったと思います。
——バック・バンドに徹することで客観的な視点が持てたんですか?
それもありますし、人と何か一緒にやることによって、メンバーの違う引き出しが出てきたり、昆虫キッズの中でやってたら出てこなかったアイディアも出てきたと思うので、その経験がみんな還元されて、バンドとして面白くなったのかなと思います。
——歌に関しても以前より解放的になったように思いますが、どうですか?
まず、前に出した『My Final Fantasy』は、歌入れは半分宅録だったんですよ。自宅で歌入れをしていたので、どうしても隣とかが気になっちゃって、しぼんだ歌い方になっていたところがあります。スタジオで使用してたマイクも結構影響があります。あと、今回は気持ちとしてはもっと声を遠くに届かせてってことはすごく意識しました。
——高橋さんのヴォーカルは、ポップなメロディをえぐ味のある歌い方で聞かせることに特徴があると思います。意識してそう歌われてるんですか?
極端な話、カラオケ的な歌い方でよかったら、もっとうまく歌えると思うんですよ。でも、そういうカラオケ的なうまさはいらないんです。それとは違う言葉とかメロディをもっとよく歌うための歌い方のイメージを僕は持っていますから。メロディをはっきり聞かせて、あと言葉・単語・歌詞をそのメロディの波にうまく乗せてあげられるっていうことが、カラオケっぽくうまく歌うっていうことより重要です。そっちの方が聞いてる人に届くし、頭の中に絵が浮かぶと思うんですよね。まだ、試行錯誤してる段階ですけど。
——歌い方で具体的な目標にしているアーティストなどいますか?
目標というか、すごく良いなと思っているのはスピッツの草野正宗さんです。あの雰囲気は単純に憧れます。すごく絵が浮かぶ感じがいいんですよね。でも、ああいうきれいに歌う人とは逆の、パンクの荒々しくがなり立てるような感じにもすごく影響を受けましたよ。きれいに歌いたいときもあるし、真逆にまくし立てるように叫ぶ時もあるので やっぱり、そういうふり幅があることが面白いと思うんです。
——昆虫キッズの歌詞は抽象的な表現と、ダルいやエグいといった日常的に使っている言葉やアニメ・ゲームからの引用が同居している点が特徴だと思います。その点は意識して作詞されいますか?
歌詞のことに関しては自分でもあんまり分析できていないので、なんでこういう風になるのか自分でもわかっていないんですけど、自分の中でこう小さいストーリーみたいなものがあるんですよ。場所であったり、時間であったり、季節であったり、歌の中に出てくる人物像であったり、イメージの中でその人たちとか場所が変化していく感じを考えていくんです。自分個人のメッセージとか言葉を紡いでるっていうよりは、自分の中で考えてるパラレルな世界の出来事を作ってる感じです。自分の中の普段の想像があって、それが曲を作ることによってどんどん話がそこに集まってできてくるっていうのかな。ダルいとかっていう単語を入れるのは、例えばなにかの歌を聞いていて、すごく現実的な言葉が急に出てくるとハッとする時があるんですよね。そういう驚きみたいな感じが好きなんですよ。なので、どこかで普段自分たちが友達としゃべってる時に出てくるような単語とか、歌詞にならないような、多分歌詞にしないだろうなって言葉を盛り込めた時はすごく自分で楽しいですね。こういう方向性もあって、形になるんだっていうことを知ったので、それは発見でしたね。
今こんなにかっこいいバンドがいるのに、なんで聞かないんだろう
——高橋さんのブログで般若やThe Style Council、Deerhunterを取上げられていて、昆虫キッズの音楽性と同様に面白い幅広さだと感じましたが、いかがでしょうか。
ゾンビ映画が好きだけどタイタニックみたいなピュアなラブ・ストーリーが好きって人もいると思うし、人間ってやっぱりふり幅があるから面白いと思うんですよね。般若が好きだからこのラッパーが好きじゃないといけないってことはないし、スタイル・カウンシルが好きだからUKのおしゃれな音楽が好きってことでもないと思うので。それは表と裏っていうか、自分のそういう部分もあるし、逆の部分もあるってことです。知り合いでも渋い戦前のジャズが好きだけど今ハードコア・パンクやってますみたいな人もいて。でも、それから若い時にハードなことをやってて、そのバンドを辞めた後にひとりできれいな弾き語りをやったりとか。そういう人が好きだし、増えてったら面白いなと思いますけどね。
——メンバーの間でもそういう感覚は共通なんですか?
それは多分共通じゃないと思いますね。メンバーはみんな好きなものとか音楽の趣味はバラバラです。昆虫キッズの世界観は自分の中のことだと思うんですよ。僕も完璧に理解して欲しいとは思ってないですけど、一緒にやってるってことは面白いと思ってくれてるんだと思います。他のメンバーは何を聞いてるかというと、ドラムの佐久間くんはオウテカとかテクノよりのものが好きで、冷牟田くんは昔の日本のアンダーグラウンドなロックが好き。ベースののもとさんはメロコアとかHawaiian 6とか好きだったかな。こんなにバラバラなんですけど、でもそのほうが面白いんですよ。バラバラな人間が集まった時にすごくマジックが起こるんです。同じような趣味の人間でバンドやるっていうのももちろんいいことなんですけど、やっぱりそれって想像を越えられないんじゃないかなって思うんですよ。バラバラな人間同士でいると、一見合わないようでもパシッと決まった時の爆発力やエネルギーがすごいと思うんですよね。普段交じり合わないものが交じり合った時に発生する感じっていうのが、曲を作ってるときとかみんなで合わせてる時とか、たまに感じるんですよ。それは多分メンバーもわかってると思います。マジックを感じられた時はすごく自信にもつながるし、バンドとして大きいですね。
——高橋さんはどのように音楽を聞かれていたんですか?
最初はとにかくお小遣いもらったら、レンタル屋さん行って8cmのシングルの適当にチャートに入ってるやつとか借りて、テープ買ってきてそれを全部ダビングするってことをしてました。でも、中学生ぐらいの時にすごく違和感を覚えることがあったんです。僕はL⇔Rがすごい好きだったんですけど、その時はGLAY聞いてる人ばっかりだったんですよ。なんでL⇔Rはこんなにいいのに、みんなGLAY聞くんだってすごく思いました。自分がいいと思ったものって、そんなにみんないいと思わないんだって。
——L⇔Rもポップだけど、ちゃんと聞くと変なところのあるバンドですよね。
そうなんですよ。L⇔Rは今聞くと独特だなと思うんですけど。それで、高校に入ると音楽にはっきりはまるようになったんです。高校では軽音楽部に入ってて、僕はNumber Girlがすごく好きだったので、バンドでコピーしてました。でも、Hi-STANDARDとかMONGOL800がめちゃくちゃ売れてた時期で、みんなそれとかGLAYをやったり、先輩はまだXとかLUNA SEAをやってたりしてて。信じられなかったんですよ。なんでそんな昔のバンドのコピーを今やってるのかなって、ずっと疑問でした。今こんなにかっこいいバンドがいるのに、なんで逆に聞かないんだろうって。それで、同じようなこと思ってる仲間もいなかったから、なんとか同級生にお願いしてドラムやってベースやってって頼んで、交換条件としてお前はソフィアのコピーやる時ベース弾けって言われたり。自意識的だったと思いますけど、疎外感がすごくあって。でも、高校卒業して一応音楽の専門学校に行ったんですけど、やっぱり、そういうとこ来る連中って同じことを感じてるんですよね。そういう人に出会うのはすごくでかかったです。単純に自分以外に日本にいないと思ってたんですよ。Number Girlそれなりに売れてたのに。そういうのがあってひねくれたんだと思います。
——じゃあ、今はそういう疎外感はあんまりないんですか?
今考えると高校の軽音楽部はHi-STANDARDとかGLAYで全然いいんですよ。それで間違ってないんです。やっぱり、めちゃくちゃ売れてたなりの理由がありますから、それは高校生がコピーしたくなるよなって思います。だから、 疎外されてるみたいなのはないけど、違う形で何かの違和感はあります。でも、それってみんな持ってるものだとも思いますけどね。
——そういう違和感が音楽を作る動機になったりしますか?
動機かどうかはわからないです。全然普通に楽しく毎日過ごしてて、家で音楽を普通に聞いたりしてる中でも、すごい暗い曲ができたりするし、逆にいやなことがあったりして落ち込んでる時に明るい曲ができたりもするんです。それが何でかわからないんですよね。誰かに説明してもらえるものでもないし、自分でも説明できることじゃない。だから、曲を作りたいんだと思います。
頭の中をぐるぐる回るポップネス
ハイファイ新書 / 相対性理論
Perfume以降の新世代ポップ・シーンを牽引するバンド、相対性理論。萌え文化とリンクしながらアンダーグラウンドとも直結。淡々としているけど、突き刺さってくる言葉の群。『00年代後半のうた姫? 』センスが逸脱しております。ネクスト・ジェネレーションのナンバー・ガール的存在!
はしけ / シャムキャッツ
泪と笑いのズッコケROCK4人組(全員長男)登場! ココロにするりと入り込むポケット・サイズのポップ・ミュージック。くるり/はっぴいえんど/サニーデイ・サービス/ユニコーンなど、邦楽史に名を刻むポップ・ミュージックを背景にした秀逸なメロディー・センスと、トーキング・ヘッズやXTC、近年ならばクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーをも匂わすひねくれたサウンドとのコンビネーションは、聴く者の記憶にストーカーのようにまとわりついて離れない。たよりないのに愛しい、クセもの過ぎるヤング・ジェネレーション。
ドアたち / オワリカラ
今、話題のバンド最新型ポップ・サイケデリア「オワリカラ」が早くも登場!! 唯一無二なアンサンブルと強靭な音圧のサイケデリック・サウンドが「新しい世界」へ導いてくれる事間違いなし! 2010年型ROCKの始まりは「オワリカラ」。
PROFILE
高橋翔(Vo,G)、佐久間裕太(Dr)、冷牟田敬(G,Key)、のもとなつよ(B)
2007年、高橋翔と佐久間裕太の2人で自主CDR『ユウとユウコのために』を発表後、冷牟田敬、のもとなつよを迎え、シングルCDR『アンネ/恋人たち』ほか自主作を立て続けに発売。09年、フル・アルバム『My Final Fantasy』を全国発売し注目を集め、同年、豊田道倫のアルバム『ABCD』に豊田道倫 with 昆虫キッズとして全面参加、さらなる話題を呼ぶ。本年5月、吉祥寺GOKサウンド・スタジオにて名エンジニア近藤祥昭により5日間の録音、3日間のトラック・ダウン、さらにピースミュージック中村宗一郎のマスタリングが施され、2ndアルバム『text』が完成した。
LIVE SCHEDULE
『昆虫キッズレコ発ツアー☆テキストとシャンソン☆』
- 2010/08/06(金)@下北沢440
※『text』持参もしくは当日購入でチケット千円オフ 終演後、サイン会あり
- 2010/08/07(土)@新宿LOFT
- 2010/08/14(土)@静岡Freaky Show
- 2010/08/22(日)@新宿Motion
- 2010/08/22(日)@渋谷HOME
- 2010/08/28(土)@名古屋KDハポン
- 2010/08/29(日)@大阪ハードレイン
- 2010/09/11(土)@宇都宮KENT
- 2010/09/18(土)@新代田FEVER