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レペゼン横浜のホップ・クルーZZ PRODUCTIONがついにアルバム『ダブル・ゼータ』をリリースした。サイプレス上野とロベルト吉野やSTERUSSの所属するクルーとしてファンには知られていたけど、このアルバムではその全体像がばっちりわかるアルバムになっている。
じゃあ、まずはどんなサウンドなんだろうか? サイプレス上野とロベルト吉野を育んできたクルーだけあって親しみやすく、オーセンティックと新しさの間を行くラップやトラックはボーっと聴いていても楽しい。STERUSSのMC二人による詩情にあふれた曲や、普段あまり前面に出ないクルーをピック・アップする曲もみんなキャラが立っていて素晴らしい。しかし、もっと注目して欲しいのはリリックのテーマだ。タイトル通りアッパーでくだらなさすぎる「SEX ON THE BEACH」、サイプレス上野が自分のキャラをネタにした「世渡りJAWZZ」、車の免許が無いプレッシャーをぼやく「逃亡者」、風俗通いをネオンのようなきらびやかなトラックに乗せて綴る「徘徊ブルース pt.2」等、ほとんど友達同士の与太話的なテーマが多い。ロックなどの他ジャンルだったらイロモノの曲で終わってしまうようなものばかり。けれど、ラップもトラックもかっこいい。しかも、それがシリアスなテーマと同列で違和感なくアルバムの中にある。言ってしまえば何てことはないトピックを、しっかりと音楽として聞かせてくれることがヒップホップなんだと聞いてて気付かされるのだ。
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そして、もうひとつのポイントは、聞いているうちに彼らの仲間内の生活が想像でき、コミュニティとして見えてくるところだ。これは当然のように思われるかもしれないが、そうでもない。アメリカから輸入したヒップホップという文化が、より広い層の日本人の日常に適した形で根付いてきたってこと。横浜はもともとOZROSAURUSに代表される強面のヒップホップが盛んな土地。いわゆるウェッサイというやつだ。それはそれでひとつの形だけど、ZZ PRODUCTIONはB-BOYやB-GIRLも含みつつ、そうじゃない人にとってもより身近な感覚でヒップホップだ。これは日本のヒップホップの幅がぐっと広がり、ひとつの旬が来ているってことである。小難しいことも書いてしまったが、「無駄話から探る可能性」の音楽がぎっしり詰まったこのヒップホップ・アルバム。ぜひ聞いて楽しんで欲しい。(text by 滝沢時朗)
PROFILE
ZZ PRODUCTION
STERUSS(DJ KAZZ-K、CRIME6、BELAMA2)、サイプレス上野とロベルト吉野、DEEPSAWER(STONE DA、希)、MIC大将、謎・みっちゃん、ビート武士、DJ KENTA、三木 祐司から構成。地元、横浜、藤沢を拠点に活動。横浜の主流とされるウエッサイ、ローライダー、等のストリート系のHIPHOPとは一線を画す184045、通称“非通知045スタイル”を掲げる横浜のハズレモン達たちではあるが、HIP HOPへの愛情は人一倍強く、虚勢をはる事もなく、ナードでもなく、自然体でありながらも、どこか普通じゃない彼らのスタイルは既に全国的に人気がある。トラック・メーカー陣の作り出すバラエティ豊でハイ・レベルなビート、MC陣のスキル、ライブ・パフォーマンス、顔立ちは、現在、「もっとも総合力の高いHIP HOP CREWは彼らかも」という予感を確信へ変えつつある。
ヒップホップを身近なものに
WONDER WHEEL / サイプレス上野とロベルト吉野
『HIP HOPミーツallグッド何か』を座右の銘に、『決してHIPHOPを薄めないエンターテイメント』と称されるライブ・パフォーマンスで、HIP HOPにとどまらず、ハードコア・パンクからロック・ステディからハウス・イベントまで、あらゆるジャンルを駆け抜ける彼らのセカンド・アルバム。
WHALABOUT / S.L.A.C.K.
前作デビュー・アルバム『My Space』から一年も経たないうちに、セカンド・アルバムが完成。前作に比べ、RAP、TRACK共に、更に独自のゆるさと鋭さが共存している。もちろん大半のTRACKメイクを自らが手掛ける中、お馴染みMonjuから16FlipがTRACK提供。フューチャリングに仙人掌。そして、Jazzy Sportから話題を呼んでいるBudamunkyのL.A仕込みのビートも興味をそそる。
HAGULIFE / KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S
HIP HOPだけに留まらずテクノやダンス・ロック・フィールドなどでも話題沸騰中の21世紀最高の鬼才MC鎮座ドープネス擁するKOCHITOLA HAGURETIC EMCEE’Sのファースト・アルバム。ゆりかごから墓場まで、公務員からハスラーまで、みーんな楽しめちゃう新感覚。MCバトルで鍛え上げた本物感と、新たなHIP HOPに向かおうとするオルタナ感が共存した名作。