6年の「王道ポップス」をコンパイル──3月に解散したつりビット、55曲収録のラスト・アルバムをリリース
3月24日、〈つりビットラストライブ〜Sail Away〜〉を持って、6年の活動に終止符を打った5人組アイドル・ユニットのつりビット。これまでに生まれた楽曲全てを収録したラスト・アルバム『Never Ending Story 〜All of Tsuribit〜』がリリースされた。デビュー時から順を追った曲順に初々しさや懐かしさを感じながら、「王道ポップス」と言われた楽曲に焦点をあてて紹介する。
REVIEW : 約6年間に渡るつりビットの王道ポップス探求の旅
2019年7月31日、つりビットのラスト・アルバム『Never Ending Story 〜All of Tsuribit〜』がリリースされる。これは、2019年3月24日のマイナビBLITZ赤坂をもって解散したつりビットの全曲集。4枚組に実に55曲が収録されている。
つりビットは、釣りをテーマにしたアイドル・ユニットとして2013年5月にデビュー。キャッチコピーは「いつか世界を釣り上げます」だった。聞間彩、安藤咲桜、長谷川瑞、竹内夏紀、小西杏優という5人のメンバー構成は、解散までの約6年間、変わることがなかった。
つりビットが掲げ続けたキーワードは「王道ポップス」。ここでは、つりビットの提示した王道ポップスの軌跡を振り返っていきたい。
2013年5月22日に初めて世に出た楽曲が、配信シングルの『スタートダッシュ!』。作詞はトベタ・バジュン、作編曲は楊慶豪が手がけた楽曲だ。サウンドで印象的なのは、うなるエレキ・ギターと鳴り続けるエレクトロな音。楊慶豪はAKB48にも楽曲提供をしており、そうしたサウンドと通底するかのような楽曲だった。2013年7月24日にリリースされたデビュー・シングル『真夏の天体観測』以降もそうした路線は継承されていくが、カップリングの「サバイバルドリーム」は歌謡曲色の濃いメロディーだ。「真夏の天体観測」も「サバイバルドリーム」も、作曲はAKB48の「フライングゲット」を手がけたすみだしんや。初期段階でつりビットの目指す方向性は明快だった。
2014年3月26日のシングル『旅立ちキラリ。』のカップリング「恋のマジカルスイーツ〜あなたの恋を叶えます〜」はシャッフル・ビート。同じくカップリングの「寿司パラダイス」は和風と、徐々にサウンドの幅を広げていく。
そして、つりビットにとって大きな転機となったのが、2014年7月30日にリリースされたシングル『踊ろよ、フィッシュ』だ。言うまでもなく、山下達郎の1987年の楽曲カヴァー。前嶋康明の編曲は、つりビットに厚いコーラスをもたらした。
2015年4月1日のシングル『負けないガッツ〜いつか世界を釣り上げます〜』のカップリングの「アイツのひざだっこ」は、歌謡曲色の濃い楽曲。この作編曲を担当した久下真音は、翌2016年に欅坂46のデビュー・シングル「サイレントマジョリティー」を編曲することになる。
2015年8月5日のシングル『釣り銭はいらねぇぜ』は、ブラスセクションの音色が響く昭和歌謡色の強い楽曲。修二と彰の「青春アミーゴ」のようだと言えばわかりやすいだろうか。作曲はすみだしんや。ここまで味付けの濃い楽曲はつりビットのなかでも珍しい。
つりビットの初のベスト10ヒットとなったのが、2016年6月15日のシングル『Chuしたい』。田村信二作曲による爽快なこの楽曲は、オリコンの週間シングルランキングで5位を獲得した。そして、カップリングの「渚でラテアート」は、山口俊樹作編曲によるシティ・ポップとして聴くことができる。同じくカップリングの須藤英樹作曲の「ギョギョギョムーチョ」はラテン歌謡だ。
2017年4月5日にはセカンド・アルバム『Blue Ocean Fishing Cruise』がリリースされる。ここに収録されていた山口俊樹作編曲の「Blue Ocean Fishing Cruise」、永塚健登作曲の「妄想フィッシング学園」や「Get ready Get a chance」は、まさにシティ・ポップ路線の楽曲だ。
2017年11月1日のシングル『1010〜とと〜』では、作詞作曲をCHI-MEYが担当した、雄大なナンバーだ。カップリングの「'Cause you make me happy」は、すみだしんや作曲による後期のつりビットを代表する傑作。全編のメロディーの美しさが突出している。
2018年3月7日のシングル『不思議な旅はつづくのさ』のカップリング「Piece of cake」は、つりビットにとってもっともブラック・ミュージック色が濃い楽曲。作編曲を新屋豊が担当したディスコ・ナンバーだ。さらに2019年3月6日のラスト・シングル『プリマステラ』のカップリング「TOKYO WONDER GIRL」は、鴇沢直作編曲によるソウル・ナンバーだ。
さらに、『Never Ending Story 〜All of Tsuribit〜』と同日には、ラスト・ライヴを収録した映像作品『つりビットラストライブ 〜Sail Away〜 in マイナビBLITZ赤坂』もDVDとBlu-rayでリリースされる。前述の「TOKYO WONDER GIRL」「Piece of cake」「Get ready Get a chance」が3曲連続で歌われるパートは音楽的にもっとも重要。そしてアンコールで、舞台袖でアカペラで歌った後に、ステージに登場して歌われる「'Cause you make me happy」のカタルシスも強烈だ。
つりビットの言う「王道ポップス」は、一筋縄ではなかった。ときにAKB48以降のアイドル・ポップスであり、ときにシティ・ポップであり、ときにブラック・ミュージックだった。『Never Ending Story 〜All of Tsuribit〜』と『つりビットラストライブ 〜Sail Away〜 in マイナビBLITZ赤坂』で聴くことができるのは、約6年間に渡るつりビットの王道ポップス探求の旅なのだ。
text by 宗像明将
DISCOGRAPHY
PROFILE
つりビット
つりビットとは、釣りとビット(小さな一片や最小単位などの意)を掛け合わせた造語であり、釣りというレジャー&スポーツに打ち込むことを誓った少女たちで構成されるアイドルユニット。2013.5.22 配信シングル『スタートダッシュ!』でデビュー。
つりビットたちは、釣りを通して大自然の優しさ厳しさ大切さを学び、また、スポーツとして競争を意識し精神を鍛えながら、情緒豊かで素敵な女性に成長することを目指します。そしてその魅力をトップアイドルとして開花させるべく頑張って行くのです。
釣りのビギナーである少女たち。そんな彼女たちが、立派なアングラーに成長していく過程で得られる体験をアイドルとしてのパフォーマンスに変えるべく、悪戦苦闘して行きます。
たとえ今は小さな一片でも…少女たちはいつの日か世界を釣り上げます!! アングラーとして。そして、アイドルとして。