アーバンギャルド浜崎容子の官能エレクトロ歌謡──菊地成孔作詞曲や名曲カバー収録のソロ第2作配信
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アーバンギャルドのアイコンであり歌姫、浜崎容子が6年ぶりのソロ・アルバム『Blue Forest』をリリース。今作にはジャズ・ミュージシャンの菊地成孔やポストYMOと謳われた伝説的エレクトロニック・バンド、URBAN DANCEの成田忍、現代音楽・ジャズ・エレクトロミュージックの分野で話題を呼ぶ音楽家、服部峻、そしてアーバンギャルドのキーボード、おおくぼけいが楽曲作りに参加。今回は浜崎自身がアレンジ、プログラミング及び、サウンドプロデュースを手がけ、アーバンギャルドのサウンドとは異なるエレクトロを中心とした内容となっている。配信と共に特集では浜崎容子にインタヴューを敢行。濃度の高い1曲1曲にじっくり迫った。
浜崎容子 / Blue Forest
【Track List】
01. 硝子のベッド
02. 雨音はショパンの調べ
03. ANGEL SUFFOCATION
04. 誰より好きなのに
05. Forever Us
06. ねぇ
07. Lost Blue
【配信形態 / 価格】
MP3 : 単曲 251円(税込) / アルバム 1,500円(税込)
INTERVIEW : 浜崎容子
浜崎容子の2010年のアルバム『フィルムノワール』は、彼女が所属するアーバンギャルドの関連作品の中でも最高傑作のひとつだった。自身の打ち込みにより制作した『フィルムノワール』での浜崎容子は、アーバンギャルドの歌姫という立場から離れ、聴く者を鬱蒼とした森の中へ導く妖精のようだった。あのアルバムでの官能性と背徳感は、甘い毒のように忘れがたい。
あれから6年。浜崎容子の新作が届けられると聞き、インタヴューを即座に快諾した。『Blue Forest』は、小林麻美や古内東子のカヴァーを収録し、さらに新たな作家陣を迎えているなど、前作とは明らかに作風が異なる。驚くほど風通しがいいのだ。しかし、繊細であることに変わりはなく、しかも浜崎容子というヴォーカリストのさまざまな魅力を照らしだしている。
浜崎容子と会話をするのは約2年ぶり。私の背中を押したのは、浜崎容子の新作『Blue Forest』だった。
インタヴュー&文 : 宗像明将
写真 : 大橋祐希
アーバンギャルドとは別のものを表現したいので、ブルーなイメージのものをお願いしました
──『Blue Forest』には、”浜崎容子と女たち”(2013年9月16日に開催されたアーバンギャルドのライヴのオープニング・アクトとして登場したバンド)で演奏された楽曲も収録されているのでしょうか?
歌詞やタイトルを変えて入っています。厳密には、最後の「Lost Blue」はアーバンギャルド加入以前の曲なんです。当時仲が良かった男性ヴォーカリストとデュエットするために書いたんですよ。本当は別の曲を最後にしようとしたんですけれど、すごくマニアックになって「これは聴いていて疲れるな」と思ったので、「Lost Blue」をポップスとしてさらっと聴けるものとして作り直しました。
──たしかに『Blue Forest』には外向きの風通しの良さを感じました。
アーバンギャルドは知っていてもジャケットで手に取りづらい人もいると思うので、今回のアルバムはそうした人でも手に取りやすいものにしました。アーバンギャルドは限定した客層に思われがちなのですけど、『Blue Forest』は外に向けたヴォーカル・アルバムとして、「女の子」も「思春期」も関係なしに、全年齢向けで老若男女に聴いてもらえるものにしました。
──「硝子のベッド」はご自身による作詞作曲編曲の打ち込みテクノで、浜崎さんの本領発揮だと感じました。
テクノやエレクトロが好きだから、ということに尽きますね。アーバンギャルドで表現しているテクノやニュー・ウェーヴも好きですけれど、ソロでは自分の側に寄せています。
──「雨音はショパンの調べ」は小林麻美さんの1984年のヒット曲です。この選曲をしたのはなぜでしょうか?
自分も好きですし、人から「イメージに合ってるね」と言われたんです。アルバム作っていくうちに、間口を広げるためにカヴァーを入れようという話になり、この曲なら自分のカラーに寄せられると思いました。
──「雨音はショパンの調べ」は、ドラムなどが原曲の1980年代っぽいアレンジを踏襲していますね。
2番以降に出てきますね。80年代のテクノが好きだし、オリジナルのガゼボのサウンドのほうがよりテクノ色が強くて好きなんです。カヴァーを歌うことに抵抗があった時期もありましたけれど、考えてみるとアーバンギャルドでメンバーが作った曲を歌うのもカヴァーに近いんですよ。
──「ANGEL SUFFOCATION」は菊地成孔さんが作詞をされていますね。どういう経緯だったのでしょうか?
ソロ・アルバムを作るにあたって、カヴァーに加えて新しい驚きが欲しかったし、「今だろう!」と勝手に熱望してダメ元でお願いしたらOKしていただきました。
──以前、菊地さんとパークハイアット東京で会っている写真がありましたね。
今回参加してくれている服部君(服部峻)が菊地さんの教え子なんです。彼が東京に来たとき「会わせたい人がいるからお洒落してきて」と言われて、連れて行かれたパークハイアット東京のエレベーターの中で誰かと聞いたら菊地さんだったんです。服部君がきっかけを作ってくれて、菊地さん、成田(成田忍)さんが参加してくれた特別な曲になりました。
──「ANGEL SUFFOCATION」のイントロには、SPANK HAPPYの「インターナショナル・クライン・ブルー」を連想しました。
せっかくならSPANK HAPPYをオマージュしようと考えて、自分がヴォーカルだったら…… と妄想しながら作りました。菊地さんに歌詞を書いていただくことになった時、すでにあった曲はどれもピンと来なくて、新たに作りました。
──歌詞も、まさにSPANK HAPPYを連想させる言葉が出てきますね。
アーバンギャルドとは別のものを表現したいので、ブルーなイメージのものをお願いしました。とは言いつつ、菊地さんのお好きなように書いていただいてかまわない、とお伝えしたんです。返ってきた歌詞は「これは!」というものでした。メッセージが一緒に届けられて、「アーバンギャルドと違うイメージで、というものなのでタイトルは英語にさせてもらいました」と書かれていたんです。「浜崎さんの曲はSPANK HAPPY寄りだったので、そちらの方向にシフトしました」とも書かれていました。
──「ANGEL SUFFOCATION」のアレンジはアーバンダンスの成田忍さんと共同で行っていますが、どんなスタイルで作業をしたのですか?
成田さんには「絶対ギターを入れてほしい」とお願いしました。SPANK HAPPYにはギターがないなと思ったので、そこは変えました。それは成田さんの存在が大きいです。結果的に、オマージュしつつオリジナルなものになりました。
執着もすごいし、「メンヘラ」という言葉のない時代の恋愛の狂気を感じたんですよ
──「誰より好きなのに」は古内東子さんの楽曲を、アーバンギャルドのおおくぼけいさんとアレンジしていますね。本作でのヴォーカルの表現の繊細さでは出色の出来だと感じました。
いいところにお気づきになりました! 今回ピッチをほぼ直してないんです。エレクトロなんですけれど、ピッチを直すのは好きではなくて、ヴォーカルのニュアンスや息遣いを残しました。
──古内東子さんという選曲にも驚きました。
自分もびっくりです。アルバムのコンセプトとして「青」と「恋愛」を掲げていて、私が大人の恋を歌っているイメージを古内さんに抱いていて。それを話したらディレクターさんが「カバーしてみては?」と提案してくれました。この曲って、男女が付き合っているのかどうかもわからないじゃないですか? 不倫かもしれないし、恋人を亡くされたのかもしれないし、片思いかもしれないし、2年目でマンネリなのかもしれないけれど、そのどれにも合うものを秘めていてすごいんです。いろんな恋のせつなさを歌っていることに衝撃を受けて、普遍性があるなと思いました。執着もすごいし、「メンヘラ」という言葉のない時代の恋愛の狂気を感じたんですよ。そういう女の人の「陰」の側面を出したかったんです。
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──アーバンギャルドのメンバーから、今回おおくぼけいさんだけが参加しているのはなぜでしょうか?
私の好きなピアニストだからです。お互いの意思疎通もできて、話が早いのもありますね。
──「誰より好きなのに」を聴きながら考えたのですが、シャンソンを歌われていた影響はあると思いますか?
大いに影響していると思います。シャンソンもオリジナルがあるけれど、たくさんの人が歌っていて、誰がオリジナルかもわからないじゃないですか。「雨音はショパンの調べ」もたくさんカヴァーされていて、ポピュラリティーのある選曲をしたと思っているんです。シャンソンは自分なりの解釈で歌っていいので、そこをフル活用できました。「誰より好きなのに」も、すごく妄想力を働かせましたもん、「この男女は付き合ってないんじゃないか」とか「写真を集めているだけなんじゃないか」とか(笑)。
──「Forever Us」は浜崎さんの作詞作曲編曲ですね。
この曲も「硝子のベッド」も、”浜崎容子と女たち”で演奏した曲です。歌詞もタイトルも変えましたけれど。
──「Forever Us」は歌謡曲っぽいなと感じました。
一回聴いたら覚えられるキャッチーなサビを作りたいんです。資質なのかもしれません。やっぱり浅倉大介さんに傾倒していたので、その影響だと思うんですよ。accessはデカダンですよね(笑)。浅倉さんの曲はキャッチーだし、イントロでつかむところにも影響されています。天馬は「よこたん(浜崎容子の愛称)はメジャー志向だ」と言うし、そこも浅倉さんに影響されているのかもしれません。
服部峻君から「プロすぎる歌手」と言われたんですよ(笑)
──メジャー志向と言うと、アーバンギャルドの2015年のミニ・アルバム『少女KAITAI』に収録されていた「コインロッカーベイビーズ」は、メジャーなアーティストに楽曲を提供している大智さんとの共作で非常にキャッチーでしたね。
自分の知られざる側面かもしれませんね。大智さんとは、スタジオにこもってコード進行を決めて歌いながら4時間で作ったんですよ。学ばせていただきました。あそこから曲に対する姿勢もバキッと変わりました。今までは自我が出ていたと思うんです。「フレンチ・ポップスが好きだからそちらに寄せたい」とか、「こう思われたい」っていう欲求があったんです。でも今は、アーバンギャルドでは天馬のワードにハマって、インパクトがあって誰でも口ずさめるキャッチーな曲を作りたいですね。
──「Forever Us」には耽美な雰囲気もありますね。
耽美と思われて嬉しいです。「秘密の恋」を裏テーマにしました。チラリズムと同じで、モロ見せされても興奮しないですよね。歌詞も最初はもっと退廃的で情景描写が多かったんですが消しました。
──「ねぇ」を作詞作曲編曲した服部峻さんとの出会いはどんなものだったのでしょうか?
彼が中学生で、私も10代のとき、音楽スクールで同じクラスにいたんです。「変なのがいるぞ」とお互いに思っていて(笑)、それから意気投合しました。
──今回組んだのはどういうきっかけなのでしょうか?
彼がアーバンギャルドのクリスマスワンマンライヴ(2015年12月22日)に来てくれて、その翌日にお茶をしたんです。そのとき「ソロ・アルバムを出すかも」と話したら、彼に「よこたんの声で脳内再生される曲があって、いつか歌ってほしいんだよね」と言われて、「このタイミングで作ろうよ!」という話になりました。
──その「ねぇ」は、ヴァイオリンやウッドベースの音色が響く本作でも異色の楽曲です。これは生なのでしょうか?
それは彼に訊いてみないとわからない部分ではありますが、最初はピアノでコードだけを弾いている状態で送られてきて。とんでもない曲が来た、と。「ありがたい、幸せだよ!」ってメールを送ったんです。アレンジを待っている間に先にヴォーカルを録っておいたら、彼から「プロすぎる歌手」と言われたんですよ(笑)。「すごくいい歌を歌ってくれてありがとう」って。
──この複雑なアレンジを聴いていかがでしたか。
彼らしいなと思いました。これが「服部峻」なんです。想定していた部分もあったけれど、想像以上のものを持ってきてくれました。
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──「Lost Blue」は浜崎容子さんの作詞作曲編曲。前作では作詞は「思春の森」のみでしたが、今回3曲の作詞をしたのはなぜでしょうか?
カヴァー、菊地さんと服部君の作詞と、自分の言葉以外の比率が高くなったので、単純に自分の言葉で書きたい欲求が強くなったんです。「フィルムノワール」で「思春の森」を書いたときに実は好評で、私の歌詞をもっと読みたいという声がいまだに続いていて、それに応えたいというようなおこがましい気持ちではないんですけど、「書いてもいいんだ」と思ったんです。
──書きたい言葉とはどんなものだったのでしょうか?
今回は恋愛がテーマなので。恋愛は誰でもしているし、誰かが共感できるものだし、自分も経験や聞いた話で蓄積があるから書けるかもしれないと。
アーバンギャルドが自分を探しだしてくれたし、間違ってはいけないんです
──「フィルムノワール」から6年を経て完成した「Blue Forest」はどんなアルバムになったと感じていますか?
女。女の子じゃないんです。しかも、自分の内面に向かい合っているんじゃなくて、誰かにぶつけようとしているんです。自分自身ではなく、他人に対して、みたいな。
──アーバンギャルドのツアーと平行してソロ・アルバムを制作をしたの大変だったのではないでしょうか?
しんどかったです(笑)。『フィルムノワール』のときは懇願して出させてもらったけど、今はアーバンギャルドが私の最優先事項で、プライベートも捨てて90%を占めているんですよ。ソロ・アルバムなんて1ミリも考えていなかったときに事務所からお話を頂いたので。
スタッフ : タイミングですね。
バンド活動以外のことをできるのはありがたいです。アーバンギャルドが毎年新作を作れて、ツアーもあると思われていることは恐ろしいことなんです。当たり前のことじゃないですから。それを乱すことは嬉しいし、違う側面を見せられるのも嬉しいです。浜崎容子からアーバンギャルドに入れるかもしれないし、最終的にはアーバンギャルドを知ってほしいです。
──浜崎さんの著書『バラ色の人生』を拝読しましたが、2013年のツアー中は脱退を考えていたと書かれていましたよね。今、そこまでアーバンギャルドに自分を捧げているのはなぜでしょうか?
これしかできないからです。アーバンギャルドがあってこそソロができる、という考え方なんです。万が一ソロが売れたとしても、私の中心は絶対にアーバンギャルドなんです。アーバンギャルドが自分を探しだしてくれたし、間違ってはいけないんです。辞めたかったのも、一瞬の気の迷いだと今は思えます。例えばみんな会社で働いて、辞めたくなることもあるじゃないですか? でも、今は信念のほうが強いんです。
──次のソロ・アルバムの構想はあるのでしょうか?
考えています、具体的に。でも秘密(笑)。今回ソロ・アルバムを出させてもらえて、大変でしたけど楽しくて、それはアーバンギャルドとも違った楽しさだったので、両方やっていけたらいいなと思います。
──そうなると、わりとすぐに次のソロ・アルバムが聴けるのかもしれませんね。
来年も生きているかはわからないし、確約はできないですけどね。
関連作
アーバンギャルド / 昭和九十年
二十一世紀生まれの"トラウマテクノポップ"バンド、アーバンギャルドの通算7枚目にして、メジャーデビュー4枚目のフル・アルバム。狂った電子音に濃厚なアンサンブル、女性&男性ツインヴォーカルがはじける唯一無二のサウンドは、"病的にポップ。痛いほどガーリー"。
LIVE INFORMATION
VILLAGE VANGUARD インストアライヴ・ツアー
6月15日(水)19:30@VILLAGE VANGUARD 渋谷宇田川店
6月17日(金)19:30@VILLAGE VANGUARD アメリカ村店
6月19日(日)12:00@VILLAGE VANGUARD 名古屋中央店
浜崎容子ソロ・アルバム『Blue Forest』発売記念ライヴ Into the Forest~Dark Blue Door
6月18日(土)@大阪・北堀江Vijion
6月19日(日)@名古屋X-HALL
6月30日(木)@六本木SuperDeluxe
PROFILE
浜崎容子
6月30日生。通称よこたん。
アーバンギャルドの歌姫にしてアイコン。前衛都市の絶対的権威。兵庫県出身。飼い猫はスコティッシュフォールドのソレイユ(♂)。作曲、編曲もこなし、シャンソン歌手、コラム執筆、モデル、ナレーションなどの活動もしている。福井県勝山市の音楽大使。エレクトロの分野ではソロとしても活動。