滲んでいく人間と機械の境界線 ──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー
もはや説明不要のサイケデリック・ロック・バンド、OGRE YOU ASSHOLE。彼らの5年ぶり8枚目となるフル・アルバム『自然とコンピューター』が到着した。前作の『新しい人』と比較するとサウンドはよりミニマムに、それでいてダンサブルに、焦点をしぼった印象の仕上がりだ。抽象的とも取れる歌詞のなかでは、人間の不在を感じさせる世界が描かれており、かすかな痕跡をもとに人間という生き物の生態を逆算して再構築していく仕掛けが施されている。輪郭が曖昧だからこそ受け手の思考を許容し、また、促しているようにも感じる1枚だ。
OTOTOYでは今作のリリースにあたり、岡村詩野、松村正人、河村祐介の3名によるレヴューを掲載。三者三様、こちらもまた思考を刺激させる内容となり、脳内にまったく新しい引き出しが増築された感覚をおぼえるだろう。必読である。
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機械は確かに人間を制御できない。だとしても? Text by 岡村詩野
本作の伏線になっているのは昨年6月にリリースされたEP『家の外』だ。4曲入りながらラストの“長い間”が11分を超える長尺曲で、基本的には1曲がコンパクトなこのバンドにしては異例。クラフトワークを含めたクラウトロック周辺のミニマリズム、あるいはアーサー・ラッセルのようなガラージュ/ディスコ感が底辺にある……ことは何もこのEPに限ったことではないが、アナログ・シンセやモジュラー・シンセが人間化、人間が機械化している過程がここにきて加速していることを“長い間”が表現しているような気もした。それは、彼らが音楽人としてテーマにしているのではなく、世の中が既にそうなりつつあることを暗に提示しているということなのかもしれない。人間が機械を操るのではなく、機械が人間を動かすような時代に、自虐的なまでにどんどんその境目を崩していっているOGRE YOU ASSHOLEの回答のない命題のようにも思えたのだ。
そういう意味で、彼らの音楽は常に不気味だし、常にどこか可笑しい。もちろん、彼らは同化している人間たち(自分たち)をただ嘲笑っているわけではなく、それを懸命に食い止めようとしているわけでもなく、ただ、ただ、それがどういう意味を持つのか? を考えている。答えは出ないけれども考えているのだ。前述のEP『家の外』に続くフル・アルバムたる本作は、一歩その回答が見えるようなところまで来ているけれど、やっぱり人間と機械との同化が一体どういう意味を持っているかの真理までは到達できない、というような作品ではないかと思う。出戸学は出来る限り感情を押し殺して歌っているようだが、どうしたって人間の感情の揺れが顔を出す。自分たちの存在のエゴをどれほど消そうとしても、勝浦隆嗣のドラムはクイントン・ジョセフのようなホットなフィジカルさを引き寄せ、清水隆史のベースはジェームス・ジェマーソンもかくやの親しみある音色を探っているかのようだ。“らしい音色”を放棄しようとしても馬渕啓のプレイはジャズ・ギターの色気を醸す。クラフトワークさながらのアナログ・シンセを多用しても、結局制御できず音そのものは揺れてしまう、フィーリングの匂いは漏れ出てしまう、ということを彼らは本作で見事に体現して見せた。だが、スティーヴィー・ワンダーのようなソウル・ファンクに始まるも、まるで大きく反り返ったレコードで聴いているような音の揺らぎに終わる2曲目“影を追う”のエンディングの薄気味悪さ、歌詞を持たないタイトル曲の、シャーベット状に広がる音のさざ波に刻まれた絶望と希望紙一重の奇妙なブライトネス……それらは、「機械は確かに人間を制御できない。だとしても? 」と、それでもその意味を回答しようとする我々の意識を鈍く叩く。
気がついたらターンテーブルは回ったままだ。デヴィッド・トゥープの本がその前で開かれてページがパタパタと行ったり来たりしている。でも、これが2024年のポップ・ミュージックの一つであることを、我々は記憶させねばならない。今回も、やはりまずはそこからである。
岡村詩野
『TURN』(turntokyo.com)編集長。音楽ライター。京都精華大学、昭和音楽大学非常勤講師。α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(毎週月曜日10時)パーソナリティ。