いま注目を集めるレーベルpanaiより、アルゼンチン音響最重要人物による2作品が到着!
Alejandro Franov / AQUAGONG
アルゼンチン音響最重要人物、世界中のあらゆる楽器を使いこなす音の妖精、Alejandro Franovの新作は、なんとAlejandro自身が熱唱。一風変わったコミカルなメロディに呪文のようなキャッチーな言葉の響き、そしてのびのびとした歌いっぷり。時折聞こえるゴング(鐘、鈴、銅鑼)はクリアだったりエディットされていたり。無限に溢れ出る水のように、歌い続ける、鳴り続ける。
Sami Abadi / amber & topaz
“どこでもないどこか”のサウンド・スケープ。オーガニック・サイケデリアを特徴づけた前作の評価もすこぶる高い、電子ヴァイオリン / マルチ楽器奏者の登場! 身の回りのあらゆるもの、民族楽器からおもちゃ、電子音まで取り込む自由で柔軟な発想、マジカルで深く潜っていくような距離感覚、ノマディックで幻想的な世界観。アンビエント〜アヴァン・トイ〜民族音楽まで幅広い音楽ファンにおすすめです。
"どこでもないどこか"へのサウンド・スケープ
Alejandro Franovと聞けば、少しでも関心を持っている人は、まずアルゼンチン音響派という言葉を思い浮かべるだろう。2001年のJuana Molina『Segundo』が日本で評判を呼び、彼女のアルバムに参加している人脈がいずれも興味深い活動をしていることが知られようになり、日本ではそれらのシーンをアルゼンチン音響派と呼ぶようになった。その音楽性を紐解くと、隣国ブラジルで60年代に英米のロックを取り入れることで確立されたMPB(※1)の歌心と実験精神、タンゴの本場であることからくるであろうリズムやグルーヴへの感覚、また、ジャズやクラシックを下地として身に着けている者も多く、様々な要素が交じり合っている。名前の元であるシカゴ音響派(※2)は当時の最先端というイメージが強かったので少し懐かしさを覚えるし、アルゼンチン音響派という言葉もそれに少し引きずられる感じはあるが、元々がマイペースで変わった音楽をやっている人たちなのだ。今回PanaiからアルバムをリリースするAlejandro FranovとSami Abadiもそのシーンの重要人物ではあるが、まずは気持ちをフラットにして接してみてほしい。
では、順に追っていこう。Alejandro Franovはピアノやアコーディオンは言うに及ばず、ジャンベやシタール、ムビラ(※3)までこなすマルチ奏者。楽器からもわかるとおりインドやアラブの民族音楽にも造詣が深いようだ。彼はインストのアルバムが多いのだが、ここで取り上げる『Aquagong』では歌が中心になっている。Alejandro Franovの憂いとユーモアが一体になったような歌声と、独特の少しこもった感触の音響はとても相性がいい。特に1曲目はLee Perry(※4)のサウンドでRobert Wyatt(※5)が歌っているようでとても心地よかった。今、名前を挙げたような仙人のような容姿と音楽性を持つアーティストに惹かれる人には聞いて欲しいし、Alejandro Franovと共演したこともある山本精一が好きな人だったらかなり気に入ってもらえると思う。また、歌詞の対訳が発売元のNature Blissで公開されるので、そちらも是非。
続いてSami Abadi。エレキ・ヴァイオリンが主に弾く楽器だが、彼もマルチ奏者だ。彼のアルバム『amber & topaz』はシンセサイザーを中心にしたオール・インストだ。基本はアナログでやわらかい音のアンビエントだが、ヴァイオリンやおもちゃのような音のパーカッションが入って飽きない。また、音の質感こそアナログであるものの4曲目「Tial」と6曲目「Weave」はミニマル・テクノとしても聞けるような曲で、あくまで現代に鳴らされている音だと感じられる。普段からクラブ・ミュージックに親しんでいる人にも入りやすいと思う。
振り返ると様々な音楽のジャンルを挙げているが、それは彼らが本当に様々な音楽を吸収し、どの切り口から聞いても面白い作品を作っているという証だ。それと同時に、親しみの持ちやすい音作りでもあるので、なにか軽く風変わりな音楽を聞いてみたいという人にもおすすめしたい。聞き手がどんな姿勢でも、彼らの音楽は微笑みかけてくれるだろう。(text by 滝沢 時朗)
※1 ムジカ・ポプラール・ブラジレイラの略。「ブラジル・ポピュラー音楽」の意。
※2 90年代半ばからシカゴを活動の拠点とするTortoiseなどを中心にしたシーン。
※3 親指ピアノとも呼ばれるアフリカの民族楽器。
※4 ダブのオリジネーターのひとり。Bob Marleyのレコーディング・エンジニアも務めた。
※5 ジャズ・ロック・バンドの代表格Soft Machineにも在籍していたイギリスのシンガー・ソングライター。
注目のレーベル、panaiの下記音源も配信中!
David Darling & The Wulu Bunun / Mudanin Kata
ボアダムスYOSHIMI、カヒミ・カリィも絶賛する大傑作アンビエンス作品の登場です!台湾の山岳少数民族、ブヌン族。ハーモニーの原型ともいえる彼らの素朴な合唱と、名門ECMからのリリースでも知られるデヴィッド・ダーリンのチェロと台湾奥地でのフィールド・レコーディングの奇跡的な出会い。遥か音楽の起源にまで想いを馳せ、子から孫の代まで聴き続けて下さい。
Morteza Mahjubi / Song of Black Tulips
ボローニャ国際絵本原画展入選など国際的にも評価の高い、イラン人イラストレーターのモルテザー・ザーヘディ。そして音楽通の間では名盤の呼び声高い、モルテザー・マフジュービーの2枚のアルバム「The Art of The Piano 1, 2」のコラボレーション。時代を越えて、絵と、音楽と、詩がお互いに呼応し、穏やかに、ときに激しくイランの美しい風が吹き抜けます。音響派、現代音楽、アンビエント好きにも大推薦!!
Lamine Traore / Ho Duniya
アリ・ファルカ・トーレ、サリフ・ケイタを生んだ音楽大国、西アフリカ、マリ共和国。国際的なフェスにも多数参加し、地元でも注目度抜群の若手実力派バラフォニストのラミン・トラオレのデビュー・アルバムが、日本初上陸。
Richard Crandell / Essential Tremor
アフリカ南東部ジンブバブエ/ショナ族の民族楽器「ムビラ」(別名カリンバ。親指で弾くことから親指ピアノの愛称でも親しまれている)によって奏でられた至福の音楽集!