2026/06/05 18:00

高橋健太郎x山本浩司 対談連載

『音の良いロック名盤はコレだ!』 : 第14回

お題 : ダニエル・ラノワ 『Shine』(2003年リリース)

オーディオ評論家、山本浩司と、音楽評論家でサウンド・エンジニア、そしてOTOTOYプロデューサーでもある高橋健太郎の対談連載。本連載では、音楽、そしてオーディオ機器にもディープに精通するふたりが、ハイレゾ(一部ロスレス)音源と最新オーディオ環境を通して、改めて“音の良さ”をキーワードにロックの名盤を掘り下げてみようという連載です。毎回ロックの名盤のなかから「音の良さ」で作品を選び、解説、さらにはそのアーティストの他の作品、レコーディングされたスタジオや制作したプロデューサー / エンジニア、参加ミュージシャンなどの関連作品など、1枚の「音の良い」名盤アルバムを媒介にさまざまな作品を紹介していきます。

第14回の名盤はダニエル・ラノワ 『シャイン』。ブライアン・イーノに見出され、プロデューサー、エンジニアとしても活躍するアーティストによる2003年の作品です。そしてオーディオ機器の方はVolumoのIntegro。いわゆるデジタル・ストリーマーとプリメインアンプが一体型になったオールインワンな機器で、パッシヴ・スピーカーと接続し、インターネットとつなげるだけで簡単にハイレゾ・ストリーミング環境が構築できます。多様な入出力も搭載しているので拡張性も申し分ない逸品です(詳しくは本記事後半を)。

本連載14枚目の音の良い“名盤

ディランなどロック界の要人が次々とオファーするエンジニア

本記事でフィーチャーされている楽曲のプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

高橋:前回は山本さんからの推しがあって、パティ・スミスの2004年のアルバム『トランピン』を取り上げましたが、すごくナチュラルな録音でした。今回は同じくらいの年代で、逆の方向のものを聴きたいと思ったんです。そこで思い浮かんだのがダニエル・ラノワという存在で。

第13回のお題 : パティ・スミス 『Trampin'』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

山本:とても面白い人選だと思います。中心になるのは2003年の『シャイン』をというアルバム。

高橋:はい、ダニエル・ラノワはプロデューサー、エンジニアとして、1980年代にブライアン・イーノとともにU2の『ヨシュア・トゥリー』というアルバムを手がけて有名になりましたが、今聴いて面白いのはもう少し後の時代の作品だということで、2003年の彼自身のソロ・アルバム『シャイン』を中心に、プレイリストを作ってみました。

山本:彼はフレンチ・カナディアンですよね。

高橋:もともとはケベック州出身で、フランス語圏で育った。でも、音楽の世界に入ってきたのはオンタリオ州で、お兄さんのボブ・ラノワと小さなスタジオを始めてからです。17歳から地元のバンドのレコーディングなどをしていたんですが、それがなぜかブライアン・イーノの耳に留まって、イーノが突然、スタジオ予約してやってきた。イーノはスタジオの中のいろんな場所でチャイムを鳴らして、それを録ってくれって頼んだそうです。そこからラノワはまずイーノのアンビエントものの仕事をしたんですよね。

山本:なるほど。僕はやはり80年代半ばにU2の『ヨシュア・トゥリー』とかを聴いて、この人の音は面白いなと思ったのが最初かな。健太郎さんはいつ頃、彼に注目したんですか?

高橋:僕が最初に惹かれたのは、1981年にジョン・ハッセルというトランペット奏者がイーノのレーベルで『Dream Theory In Malaya (Fourth World Volume Two)』というアルバムを作ったんですよね。それが何とも言えない空間を感じさせるサウンドで、ダニエル・ラノワというエンジニアの名前に注目するのには少し時間がかかりましたが、最初のラノワ体験はそれですね。

山本:そのジョン・ハッセルのアルバムもそのカナダのスタジオで録ってるんですか?

高橋:そうです。ハッセルはその頃、カナダのトロントを拠点としていたんです。

山本:プレイリストの中にハロルド・バッドとブライアン・イーノのアルバムの曲がありますね。

高橋:あ、それがイーノが最初にラノワ兄弟のスタジオにやってきて、録音したチャイムが入っている曲だと思うんですよ。

山本:カナダといえば、ロビー・ロバートソンの最初のアルバムもラノワのプロデュースですよね。

高橋:そうですね、ロバートソンはカナディアンで先住民のインディアンの血も引いている。フレンチ・カナディアンのラノワとは、そこで精神的な繋がりもあったんでしょう。ラノワの最初のソロ・アルバムは『アカディー』というタイトルで、これは17世紀にイギリスに滅ぼされたフランス移民の国、今のカナダの大西洋岸にあったアカディアから来ている。ザ・バンドの後期にロビー、ロバートソンが書いた「Acadian Driftwood」という曲はそのアカディアを追われたフランス系の人々の悲劇を歌ったものでした。

山本:U2で注目された後、ピーター・ゲイブリエル、ボブ・ディラン、ロビー・ロバートソンなど、ロック界の要人が次々にラノアのところに行った。ボブ・ディランの『Time Out Of Mind』、これも僕も大好きなアルバムでした。

高橋:ボブ・ディランの長いキャリアの中でも特別なサウンドのアルバムですよね。ラノワ色で染め上げたと言ってもいい。

山本:ラノワはニューオルリンズに住んでいたこともありますよね。

高橋:1989年にネヴィル・ブラザーズの『Yellow Moon』というアルバムをニューオルリンズで録音して、その後、彼自身もニューオルリンズに住み着くんですよね。歴史を辿ると、17世紀にアカディアを追われた人々はルイジアナに流れ着いてケイジャンになるんですけれど、彼も同じ道を辿って行ったとも言える。

山本:そのへんの流れは面白いですね。

高橋:それでニューオルリンズの古い建物をスタジオに改造するんですけれど、ラノワという人は普通のスタジオが嫌いなんですよ。U2やピーター・ゲイブリエルやボブ・ディランみたいなビッグネームの仕事は彼らの指定するスタジオでやらざるを得なかったけれど、彼の中には商業スタジオじゃない空間で音楽を作りたいというのが強烈にある。だから、スタジオを作るところからプロジェクトを始めたりする。ウィリー・ネルソンの1998年の『テアトロ』というアルバムでは、古い映画館を借り切って、アルバムを作っています。

山本:映画館にスタジオ機材を運び込んで、スタジオにしているんですね。

高橋:だから、このタイトルとジャケットなんです。その場所にしかない特有の響きを生かした方が、面白い作品が作れるというのが、ラノワの思想としてある。

山本:このアルバムを聴くと、それがよく分かりますね。独特の湿度感の高さや霞んだ感じ.彼の根っこにそういう音に対する憧れみたいなのがあるような。

高橋:そういえば、3年前にインタヴューした時に、あなたの音に「水」の感触があると言ったら、「オンタリオ湖のそばで育ったからね」と言っていました。今はまたカナダのスタジオが拠点。でも、ジャマイカにも住んでいるようです。

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