ゆーきゃんが創造する、広大な「静寂」
先日の東京BOREDOMで観た彼の姿が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
aie、Melt-Bananaに挟まれる形で、いつものようにギター1本を片手に、どこか所在なさげに現れたゆーきゃん。転換なしでひたすらテンションの高い熱演が続く中で、唯一静かで穏やかな時間を演出してくれた彼のパフォーマンスが、結果的に最も印象深く残っているという人は、きっと僕だけではないだろう。
ほとんどのミュージシャンにとっては恐怖の対象であろう「静寂の時間」が、彼にとっては最大の見せ場であり、武器となるのだ。
東京BOREDOMのステージでも披露されていた新曲「サイダー」が、recommuniで目下推奨しているHQDシリーズで配信される事になった。現在制作中だというミニ・アルバムへの期待がもう抑えきれなくなる程の、キャリア屈指の名曲と言っていいと思う。そしてこの高音質配信の魅力を知って頂くのに、これほど適した楽曲もない。伴奏はギターだけ。もちろん声を張り上げるところは一度もない。それなのにどんなに激しい演奏をするロック・バンドよりも、ずっと力強くて、色鮮やかに響くのは、彼が発する音のひとつひとつに、確かな存在感が宿っているからだ。フレットを指がすべる音。軋む弦。ふっと洩れる吐息。そのどれもが、彼の音楽を構成する上でかかせないものだという事を、この「サイダー」で実感してもらえたら、それほど嬉しい事はない。あなたが望めば、ゆーきゃんはいつでもすぐ傍で歌ってくれる。(text by 渡辺裕也)
DISCOGRAPHY
ひかり
しんた(スキマスイッチ)、井上周一(folk enough,electronics guitar recordings)、anG(electronics guitar recordings) 、あらかじめ決められた恋人たちへ、坂本陽一(エレキベース)や船戸博之(ふちがみとふなと)など、ゲストを多数迎えて制作された今作は、柔らかな質感にゆーきゃんのうたが合わさった、珠玉の一枚。
20071008
ゆーきゃんのライブ・アルバムは張りつめた空気の中から聞こえる優しい歌声に、癒される事間違い無し。アコースティック・ギター一本による弾き語り、全4曲20分という短い時間ながら、そこに居た数百人のオーディエンスに「うた」が届いた瞬間がパッケージされた貴重な作品となっている。スピーカーによじ登って歌ったという完全アンプラグドのラスト・ナンバーがとにかく生々しい。
LIVE SCHEDULE
- 10月18日(日)【ボロフェスタ'09】@京都烏丸中立売 KBS HALL
- 10月30日(金)【aka rui heya】@新宿motion
- 11月3日(火・祝)@福岡 public space 四次元
- 11月7日(土)@高円寺のら犬カフェ
- 11月21日(土)【霜月 あかるい部屋】@IID 世田谷ものづくり学校
- 11月26日(木)【歌のある風景 #2】@大阪心斎橋 club jungle
- 11月30日(月)@名古屋鶴舞 k.d.japon
PROFILE
ゆーきゃん
富山出身のシンガー・ソング・ライター。京都で歌い始め、現在は主に東京で活動している。アシッド・フォーク/サッド・コアを体現するようなその声と日本語詩は、聴くものに儚くも強烈な印象を残す。弾き語りのほか、サポート・メンバーを加えたシティ・ポップス・バンド 「ゆーきゃんwith his best friends」、関西アンダーグラウンドが誇る鬼才ダブ・トラック・メーカーとのコラボレーション・ユニット「シグナレス(ex.ゆーきゃんmeetsあらかじめ決められた恋人たちへ)」、Limited Express(has gone?)のJJ、PARAの家口茂樹らとのバンド「conterattack from the babymoles」など活動は多岐にわたる。京都で開催されるD.I.Yフェス「ボロフェスタ」主催メンバーのひとり。「生まれ変わったら天使になりたい」と言ったとか言わなかったとか。