踊ってばかりのこの国へ、辛辣だが愛に満ちたメッセージ
アルバム冒頭、「Island song」(=島の歌)と題されたナンバーで、踊ってばかりの国はこう歌う。〈僕は今のあんたは愛せない〉。およそ1年ぶりとなる待望の新作は、私たちが暮らすこの島国を憂う、本当の意味でのブルースだ。メンバー脱退、活動休止、新メンバーの加入…。この1年、激動の季節を過ごしてきた彼らの、セルフタイトルを冠した意欲作。BOROFESTAでも彼らを招集し、先輩バンドマンでもある編集長の飯田仁一郎による、下津光史(Vo, Gt)へのインタヴューとともにお楽しみください。
踊ってばかりの国 / 踊ってばかりの国
【配信形態 / 価格】
mp3 / WAV まとめ購入(14曲) : 2,000円 (単曲購入は各200円)
【Track List】
01. Island song
02. 東京
03. セシウムブルース
04. メイプルハウス
05. 恋の唄
06. いやや、こやや
07. your mama's song
08. 風と共に去りぬ
09. 正直な唄
10. どちらかな
11. 踊ってはいけない国
12. サイケデリアレディ
13. それで幸せ
14. song for midori [Bonus Track]
INTERVIEW : 下津光史 (踊ってばかりの国)
2012年10月の活動休止発表から、どれほどの人がこの作品を待ちわびただろう。ようやく届けられた3rdフル・アルバム『踊ってばかりの国』は、その期待を大きく上回るものだった。新宿歌舞伎町のど真ん中、風林会館で聴いた「東京」は、アルコールで火照った体に突き刺さった。くるりの「東京」にも前野健太の「東京の空」にも負けない、踊ってばかりの国にしか唄えない最高の「東京」。気が早いが、2014年上半期の超名盤だ。僕らは、踊ってはいけない国に生きているけれど、彼らによっていつまでも踊らされるのだ。
聞き手 : 飯田仁一郎 (OTOTOY編集長/Limited Express (has gone?))
この国ってむっちゃ”踊らされてる感”がある
――2012年末にベースの柴田くんが脱退して、いったん活動を休止しましたよね。あらためて聞きたいんだけど、あのとき下津くんはどういう心境だったの?
下津光史 (以下、下津) : いやあ、もうねえ、メンバーのこと家族やと思ってたんで、家族離散ぐらいの気持ちになって、廃人と化してました。Twitterでも「もうバンド辞めます」みたいな(笑)。
――そうだね。暴露してた(笑)。
――ロン毛だけで(笑)。バンドが家族っていう考えは今も変わってない?
下津 : 変わってないですね。兄弟というか。
――なんとなく下津くんのワンマン・バンドなのかなって思ってたけど、そうじゃないんだね。
下津 : ワンマンなとこもありますけど、基本的にみんなで楽しみたいですよ。
――ワンマンなとこってどこ?
下津 : メンバーは歌詞の内容にはまったく興味ないんですよ。音楽がやれたらいいという人たちなんで。何か物申したいっていう発想は俺ぐらいしかないです。
――なるほどね。「物申したい」っていうワードが出たけど、たしかに「東京」とか「セシウムブルース」とか、今回のアルバムは社会的なことを歌った曲がすごく多い。それは下津くんの世代では珍しいことだと思ったんだけど、そういう歌詞を書き出したのって何か理由があるの?
下津 : 今回は『踊ってばかりの国』っていうタイトルもそうなんですけど、この国ってむっちゃ”踊らされてる感”があるじゃないですか。
――ある。特に最近ねえ。
下津 : 自分が4年前につけたバンド名が、ええ感じに世の中に当てはまってきたっていうか。当時はそんな深い意味なかったんですけど、今の情勢とか見てたら、「むっちゃ当てはまってんちゃう?」って思えてきて。で、今回のアルバムは東日本大震災以降、東京のネガティヴな部分が浮き彫りになった時期に書いたんで、こういう歌詞が多いんですよね。
――そうか。その中でも特に「東京」がすごい曲だと思いました。これはけっこう意気込んで作った曲なの?
下津 : ほかの曲とあんまり変わらないですけど、でも一番アナーキズムはあるかなと。ロック・バンドやし、何か言わなアカンかなっていうのはちょっとありましたね。でもそんなに強い使命感とかはなくて、むっちゃ無責任な気持ちで書きました。
――無責任な気持ち?
下津 : 僕の歌詞って、アンチテーゼがないと思うんですよね。あるものを歌うだけというか、起こってる現象を歌っただけ。なのに、こういう歌詞を書いてしまうと、みんな勝手にアンチテーゼだと解釈するんですよ。でもよく見たら全然違う。そこがむっちゃ主張したいとこなんですけど。
――下津くんとしては普通のことをあるがままに歌ってるだけだと。
下津 : そうですねえ。例えばこの国が南の島だったとしたら、「風がそよいで、海が青くて」みたいなことを歌ってるだけですよ。
――「踊ってはいけない国」もそうだよね。こういうこと歌うだけで珍しい曲に見えてしまう。
下津 : 斉藤和義さんの「ずっとウソだった」(※註)ってやつもそうですよね。
※註 : 斎藤和義による、自身の代表曲「ずっと好きだった」の替え歌。2011年の福島第一原発事故を受けてYouTubeに投稿され、日本政府を批判するような辛辣な歌詞で話題を呼んだ。
――じゃあ全体としてカチっとコンセプトを決めてるわけじゃないんだ。
下津 : まあ恋愛のことも歌うし、仕事はあんましてないからアレやけど(笑)、その時期ごとに不自由に感じてることを歌うというか。
――下津くんが思ってることとか、生きてる様をそのまま歌うって感じなんだね。
下津 : そうですね。僕の見たもんしか歌ってないというか。でも音楽が最優先で、それを崩すような歌詞を書いてしまったら伝わるものも伝わんないんで、そこが一番ですかね。
海外のいいところを日本に落とし込めた唯一のチーム
――なるほどね。それじゃあ、音楽的な部分も聞いていきます。今作はブルースっぽいアレンジが印象的だったけど、これは誰の影響なの?
下津 : ギターの林くんの影響が大きいですね。
――そうなんだ。ギター最高だよね。
下津 : ギターいいっしょ! 天才っすよあいつ。
――林くんはどんな音楽を聴いてるんだろう。
下津 : 彼はロバート・ジョンソンだったり、昔のラグタイムだったり、古い音楽が好きですね。
――踊ってばかりの国って、いい意味で今の音楽を追いかけてる人がいないんだろうね。下津くん自身はどんなサウンドをイメージしてました?
下津 : 僕は「はっぴいえんどがUSインディー界に出てきたら」みたいなテーマでやってますね。
――ほう。具体的にはっぴいえんどのどの部分に感銘を受けてますか?
下津 : ティン・パン・アレーとかもそうなんですけど、海外のいいところを日本に落とし込めた唯一のチームというか、ビーチ・ボーイズのトラックに、日本的な歌謡を溶け込ませた功績というか、そういうところ。モビー・グレープとかの感じを日本で再現するみたいな。なんかその和洋折衷な感じがすごい。地球の音楽感っていうか。
――面白いなあ。今って「はっぴいえんどのことが好きです」っていうバンドはすごく多いけど、踊ってばかりの国は全然タイプが違うよね。それはなんでだと思う?
下津 : 軽いものがあんまり好きじゃないんやと思うんですよね。フィッシュマンズぐらいまでは聴けるんですけど、それ以降の日本の音楽ってあんま好きじゃなくて。どんどん軽量化されてるというか、シャカシャカになってるんで、そこを聴いてるか聴いてないかじゃないですかね。僕らは聴いてないタイプやったんですよ。
――2000年代の音楽にはあんまり興味がない?
下津 : そうですね。2000年代はアメリカ、イギリスばっかり目がいきましたね。ちょうどストロークスの1stが小6とかやったんで、そのくらいからガレージ・ロック・リヴァイヴァルとかばっかり聴いてました。
――なるほど。軽いものが好きじゃないっていうことだけど、曲作りもしっかり腰を据えてやる感じ?
下津 : 曲作りは、ベロベロに酔って帰ったときとか、疲れてるときにやりますね。あとは夢の中で見たメロディーにコードを当てはめていったり。「正直な唄」って曲は夢で見たんですよ。
――それカッコいいエピソードだねえ。
下津 : あとは、思い浮かんでから3日経っても忘れないメロディーとかがあって、そういうのを曲にしていきますね。
――そうなんだね。今回、録音はどんな風にやりました?
下津 : ベーシックは一発発録りですね。ダビングとかをせずに、一番ライヴに近いものを出したかったんで。
――それはなぜ?
下津 : 踊ってばかりの国って、めっちゃライヴ・バンドなんですよ。でも音源にしてしまうとライヴ感が薄れるじゃないですか。だからそれを出したかったんですよね。そこはちょっと意識しましたね。
――僕も何回かライヴを見させてもらってるけど、あれはカチっと決めてやってる感じ?
下津 : いや、もう曲だけ覚えてあとは楽しんでやる感じですね。まあ僕と林くんがどんだけ呑んでるかにもよるんですけど。
――ライヴ前はけっこう呑むの?
下津 : 僕は前のバンドが終わる2曲前ぐらいからしか呑ませてもらえない(笑)。
――そうなんだ(笑)。下津くんにとって酒って何なんですか?
下津 : 弱虫が持ったメリケンサックみたいな感じですね(笑)。
――ははははは(笑)。テンション上げないとやってられない?
下津 : 僕、家でずっと三角座りしてますからね。だからほんまに見栄張ってるんですよ(笑)。
俺、音楽しかないじゃないですか?
――あんまり想像つかないけどね。最後に、次の作品についても聞かせてください。
下津 : 今回のアルバムから外れた曲を練り直して、同時進行で新しい曲も作っていくっていう感じですね。歌詞の内容がむっちゃ柔らかくなると思います。
――それはまたなんで?
下津 : そういう気持ちなんですよ。
下津 : そうですね。今回のアルバムには去年とか一昨年とかに書いた曲も入ってるんですけど、最近はけっこう落ち着いてきたんですよね。
――家で三角座りしてるって言ってたけど、下津くんはわりと内に籠っちゃうタイプ?
下津 : いやそれがねえ、東京に出てきてからそうなったんですよ。
――へー。
下津 : 昔は川で遊びまくって、そのまま家でも壁潰したりとかしてたんですけど(笑)。
――この街はどうですか? 東京って街は。
下津 : 最近はそんなことないですけど、この街って個性出すことを押さえ込もうとするなって感じて。でも下北沢に引っ越してからは楽しいですけどね。ちょっと住宅街の方に行くと苦手です。なんか僕が育ったとこが変過ぎたんですよね。兵庫県の尼崎なんですけど。
――例えばどんなところが変だったの?
下津 : 東京にはびっくりドンキーみたいな家ないじゃないですか?
――ない(笑)。
下津 : でしょ? あんなんばっかりやったんで。
――でも下北は楽しいんだ。
下津 : そうですね。下北やと友達がいっぱいおるんで、子供と離れとっても紛らわせるというか。家で三角座りは、子供と離れてるのも大きいですかね。
――子供を地元に残してきてるわけだし、ミュージシャンとして成功したいって気持ちは大きいの?
下津 : それはありますね。メンバー全員、音楽で食ってく気しかないんで。
――そこに対しての焦りはない?
下津 : 期限みたいなのはないですね。僕はこれ一生やってると思うし。
――でも焦ってるバンドって多いよね。早くいろんなフェスに出たいとか、売れたいのに売れないとか。
下津 : それは結果でしかないというか、焦ってやっても説得力のあるものって出来ないと思うんですよね。地に足ついてないと高く飛べないというか。前に飯田さんが言ってくれたんですけど、俺、音楽しかないじゃないですか? だから一生やるしかない。もうちょっと学校で勉強しとけばよかったですね(笑) 。
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2012年、活動休止発表の直前に発表された3rdミニ・アルバム。踊ってばかりの国の真骨頂であるサイケデリック・サウンドはそのままに、彼らの音楽的探究は、アシッド・フォーク、ジャズ、そしてアイリッシュ・パンクにまで広がった。今の時代に投げかけられたメッセージは、そのサウンドと絶妙に溶け合うことで、より深く聴く人々の心に突き刺さる。
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LIVE INFORMATION
『踊ってばかりの国』 レコ発ワンマン・ツアー
2月8日(土) 名古屋 APOLLO BASE (旧APOLLO THEATER)
2月16日(日) 梅田 シャングリラ
2月21日(金) 仙台 PARK SQUARE
3月7日(金) 福岡 Queblick
3月14日(金) 札幌 COLONY
3月30日(日) 下北沢 GARDEN
PROFILE
踊ってばかりの国
2008年に神戸で結成。自主制作の1stミニ・アルバム『おやすみなさい。歌唄い』(2009)、2ndミニ・アルバム『グッバイ、ガールフレンド』(2010)がともに好評を得る。2010年、〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈RUSH BALL〉などの大型フェスに出演。2011年3月に初のフル・アルバム『SEBULBA』を発表し、全国ツアーを行うなど、活動の幅をさらに拡大させる。同年11月には2ndフル・アルバム『世界が見たい』をリリースするも、2012年末、ベースの脱退と共に活動休止。2013年4月、〈COMIN’KOBE13〉のステージで活動を再開する。