MOD LUNGの矢田圭伸が立ち上げたPOWER ELEPHANT!から、MOD LUNGの3rd album『River Songs』とWE ARE!の2nd album『Treatment Journey』が発売された。この2バンドだけでなく、東京のTHE BITE(ex BREAKfAST,UG MAN)やGO FISH(from NICE VIEW)等は、パンク・ハードコアを基盤に持ちながらも、先人のeastern youthやbloodthirsty butchersが築き上げたそれとは決定的に違う日本語うたものROCKだ。LABCRY&LETTERの三沢洋紀が、「今、日本で一番オシャレな音楽は、ハードコア出身のうたものバンド達だ」と言っていたが、それはまさに彼らのことだと思う。地下シーンで起こっている新しい日本語うたものROCKバンド達は、今まさに沸点に達しようとしている。はっぴいえんどでも、フィッシュマンズでもない。この漂う生活感は、ハードコアそのものなのだ。新進気鋭の要注目レーベルPOWER ELEPHANT!から、MOD LUNGの矢田圭伸と、WE ARE!の板垣周平に話を聞いた。
インタビュー&文 : JJ(Limited Express (has gone?))
結果を出したいかどうかは重要じゃないし、スポーツみたいで嫌なんです
−WE ARE! は、どんなバンドから影響を受けていますか?
板垣周平(以下S) : 俺はメロディック・パンクの世代だったので、当時ムーブメントだったHi-STANDARDから始まって、海外のバンドもいっぱい聴いて、その後にeastern youthやfOULを聴きだしたんですよ。GOD'S GUTSやLess Than TV周辺なんかも。特にfOULの「砂上の楼閣」ってイベントは、全国から面白いバンドばかりよんでいたので、影響はかなりでかいです。「なんてハイセンスなんだろう」って惜しげもなく通っていました。
矢田圭伸(以下Y) : WE ARE!の前身バンド、13月の頃は、fOULに強く憧れているけれど、どこかグリーン・デイのような、イースト・ベイ・パンクの匂いも漂っていて、元気がいいfOULのようだった。でもバンド名をWE ARE!に変えてからは、音がどんどん伝わってくるようになった。
S : 13月の頃は、俺の完璧なワン・マン・バンド。でもそのやり方にどんづまっちゃって、1年ぐらい活動を休止したんです。再スタートの時に、もっと皆で自由に曲を作ろうってことで、WE ARE!に改名したんです。
−MOD LUNGは、どうでしたか?
Y : 僕はWALLやTHIS WORLD IS MINEってバンドをやっていて、メロディック・レーベルsnuffy smile(現在活動休止中)から出していたこともあって、WE ARE!が影響を受けていたLess Than TV、eastern youthやbloodthirsty butchers等からは少し放れた場所にいたんですよ。THIS WORLD IS MINEで2枚の音源をだして、その後にLINEっていうTHE SMITHSの珍解釈みたいなバンドをやりました。でも、作り込んだものではなく、もっとシンプルなロックに興味がいってMOD LUNGを始めたんです。
−今回、何故WE ARE!を自身のレーベルPOWER ELEPHANT!からリリースしようと思ったのですか?
Y : まわりで特に好きなバンドは、WE ARE!とTHE BITE。WE ARE!がレーベルを探していたので、必然的に「出す?」って事になって。僕は、WE ARE!の日本語詩をリスペクトしていて、英語だったMOD LUNGの歌詞を日本語に変えるくらい。赤い疑惑やWE ARE!って、日本語を使ってとても良い詞を書き続けているんです。それって、eastern youthやbloodthirsty butchersの日本語の使い方とは、また違うものだったんです。
−確かにWE ARE!、MOD LUNGやTHE BITE等の日本語詞からは、今までの日本のロック・シーンになかった肌触りを感じます。
Y : 僕は身近なことをストレートに、周平君は文学的に歌う。それぞれが方法論を持っているけど、個々人にとっては自然な使い方なんです。
S : 歌詞はね、すげー良いか、全く良くないかのどちらかであるべきだと思っています(笑)。僕は9割くらいが直感で、残りの1割はみんなを楽しませたい職人魂を燃やして作ります。ラブ・ソングの要素も強いんですよ。でも世間で言われている一般的なラブ・ソング、要は歌詞の内容が愛に関することを歌っているのではなく、たとえ「お前が嫌いだ!」と歌っていてもそれが最終的に愛の方向を向いているかが、いちリスナーとしても敏感に反応してしまうし、作り手としてもそこを意識して書いています。少し抽象的かも知れませんが、そういう意味では俺もラブソングを歌っているという自負はあります。
−周平君は、矢田さんが書く歌詞をどう思いますか?
S : 今回のアルバムは、凄いパンク・ロックな歌詞だなと思ったんです。全曲主人公の立ち位置というか感情の流れが似ていて、それが最終的にいい意味でのパンク・ロックっぽさや生活感に繋がっていると思いました。
Y : 僕は、月曜日から金曜日までネクタイ締めて働いている普通のサラリーマンなんですよ。その生活には、派手な物語があるわけじゃない。でもね、そこで感じたことをあえてそのまま歌ったんです。このアルバムは、普通の労働者、普通のサラリーマン、普通の家庭人が音楽を作るとはってことの一つの僕なりの答えなんです。派手な物語なんてなくたって、良い音楽は作れるはずだと思ってるから。
−矢田さんは、しゅうへい君の歌詞をどう思いますか?
Y : 前作は、失恋的な歌詞が多かったよね?
S : 失恋はしょっちゅうしているので(笑)、多かったかどうかはよくわかんないですけど、モチベーションにはなっていましたよ。だから、失恋した主人公の存在はとても大きく写ったはずです。
Y : そうなんだよね。逆に今作は、11曲それぞれに色んなタイプの主人公がいるんですよ。周平君は書く文章も面白いから、各曲の物語がちゃんと伝わってきましたね。
−矢田さんはサラリーマン。周平君はアルバイトで生計をたてていますよね。生活の状況は違いますが、インディーで音楽をやっていくことをそれぞれどのように考えていますか?
Y : アメリカのSuperchunkがやっているMerge RecordsやFugaziのIan MacKayeがやっているDischordは芸術的にも商業的にも成功していますよね。彼らのように良いバンドをちゃんと出していけば、日本でも振り返ってくれる人がたくさんいるんじゃないかな。メジャーに行きたくないとは思わないけれど、いきたいとも思わないです。メンバーはみんな堅い仕事をしているし、その中でサウンドをひねり出せるタフさがバンドについてきた。僕は今年で32歳。年をとると親、家や子供のこと等いろんな問題にぶちあたるけど、それでも音楽はやめたくないんですよ。だから、メジャーに行くかどうかはどうでも良くて、全部、全力でやるしかないんです。 CD を売って食べていくのはなかなか厳しい時代になったとみんな言います。思うに、イベントをするか、グッズを売るか、もしくは携帯の音楽配信で一山あてるみたいな方法しか残っていないのかもしれない。でも僕はやっぱりCDやレコードをだして、それが売れて成功する姿に憧れているんですよね。レーベルでもバンドでもインディーなりの底力を出したいと思っています。WE ARE!とか、かっこいいバンドはちゃんと世の中にいるから、彼らがちゃんと続けていける土壌を作りたいんです。
S : 僕は、色んな場所で、色んな人に聴いてもらいたいですね。そうじゃないと意味がないと思う。だから、自由のきくパート・タイムの仕事をしています。たくさんの人に見てもらって、色んな意見を聴いて、それでまた、自分の音楽が変わっていくのが楽しみなんです。スタジアム・ロックを目指しているわけじゃないのに、近所のおっちゃんには、音楽をする=メジャーでやりたいんだろってすぐ見られる。「メジャーに行きたいの?」とか、「紅白に出たいの?」とか。でもそれは結果でしかなくて、俺らはやりたいことを追求しているだけ。でもその論理って日本では誰にも通用しないんですよね・・・ どういう結果を出したいかどうかは重要じゃないし、スポーツみたいで嫌なんです。
−そういう気持ちって凄いわかりますよ。
S : FUJI ROCK FESTIVALに出演することは大事なことじゃない。「でたい〜」なんて誰でも思ってる。それよりも、そこでどんな曲を演奏したいかが大事なんだと思います。
生活に素直なことが、僕等のスタンスであり、音楽のやり方なんですよ
−矢田さんは、レーベルをいつから始めたのですか?
Y : 去年の夏から始めて今作で4枚目。生き急いでいますよね〜ほんとに(笑)。でもね、仕事だけじゃなく、音楽的にも今働き盛りなんです。良いバンドがいて、彼らにレーベルがなかったら、じゃあ出そうってなっちゃう。高校生の時にバッド・レリジョンが好きで、ブレット・ガーヴィッツのエピタフ・レコードを知って、始めてレーベルを意識したんです。高校の先生に「将来何をやりたいの? 」って聞かれた時に、「レーベルをやりたい」って言ってた程ですよ(笑)。で、STIFFEEN RECORDS、FINE TUNING!やsnuffy smile等で音源を出させてもらって、自分のスタンスが決まってきた。それは、お金じゃなくて、足を使って広げていく。あと多くの人に聴いてもらうためには、頭を下げてでも音楽を理解してもらって、媒体に載せてもらう。今は音楽を創るだけではなくて、レーベルをするってことにも、とても興奮しています。WE ARE!とかSaddlesとか心の底から良いと思うバンドを出していけば、いつか答えはついてくると信じてます。
−POWER ELEPHANT!は、矢田さん一人で運営しているのですか?
Y : 一人で全部やっていますよ。とは言え、仕事中にレーベル仕事は出来ないので、朝5時くらいに起きてメールを一気にうつんです。そして7時には家を出て、8時から働いています。電車に乗っている時くらいしか音楽を聴けないですけど、それでもなんとかやっています。
−自身のバンドMOD LUNGをリリースするのはなぜですか?
Y : 自分のバンドを、自分自身で一度出してみたかったんです。自分の思う音を、自分でプロモーションから流通までやってみたかったんです。けっこうきついんですよ(笑)。HMVの本社とか行って「これは、オルタナティヴ・カントリーって言うジャンルなんです。日本にはいない種類のバンドなんです! 」とか言うんですよ。けっこう、寒いでしょ(笑)。恥ずかしいですけど、自分の音源を自分で出すとレーベルに芯が通ったような気がしますね。
−レーベルの現状はどうですか?
Y : 今問題になっているのは、ロック・バンドのレーベルなのでレコーディング費がかなりかかるんです。良いレコーディング・スタジオでどうしてもとりたいって思うんですよね。今回も800枚くらい売れないと赤字になっちゃう。でも素晴らしい音源が出来たら、「まぁ、いいか!」ってなっちゃいますよね(笑)。
S : お金かかりますよね。でも10年後、20年後に聴きなおした時に、ちゃんとしたものであってほしいから、やっぱりスタジオ録音にはこだわりたいって、WE ARE!のレコーディングの時も矢田さんに納得してもらったんです。
−最後に、WE ARE!とMOD LUNGの今後の展望を聞かせてください。
Y : いきなりなんですけど、子供が生まれるので、1年くらいMOD LUNGは休みます。だから、レーベルとプロデュース、後は曲を作ることを頑張ろうと思っています。嫁さんと0歳の子供を残してツアーは行けないですしね。音楽も子供も重要だから。生活に素直なことが、MOD LUNGのスタンスであり、僕等の音楽のやり方なんですよ。あと、冬にBEAT CARAVANというALT-COUNTRY/ PUB ROCKのバンドのアルバムを出します。
S : 逆に俺らは、バリバリとツアーをやって、早速次のアルバムに向けたレコーディングをしていきたいと思っています。20代のうちに三枚のアルバムを出したいと音楽を始めた頃から思っていたので。
POWER ELEPHANT! CATALOGUE
1997~2000年にかけて東京を中心に活動したEMOTIONAL MELODIC PUNKバンド。 2008年8月15日にコンプリート・ディスコグラフィーが発売。Snuffy SmileからのTHE MILES APART(イタリア)とのスプリット音源、Burst Your Noiseからの単独CD,デモ・テープ音源、LIVE音源を17曲収録。全曲デジタル・リマスタリング済み。未発表曲を2曲含む。新レーベルPOWER ELEPHANT!リリース第一弾!
東京で活動する日本初の本格的なALT-COUNTRY(PUNK + COUNTRY ROCK)バンドSaddlesの待望の1stアルバム。アメリカのどのバンドよりもアメリカを感じれるほどのスケール感、懐の深さ。私たち日本人が憧れた“かつてのアメリカ”がこの一枚にはギッシリつまっている。THE REPLACEMENTS、WILCO、NEIL YOUNGやBOB DYLANなどの良質なロックンロールを求めている方には絶対に届く音だ。
WE ARE!が2009年夏におくるアルバムは、SMITHや初期のR.E.M.をも彷彿させる正真正銘の「ギター・ロック」。なにげない日常を血のしたたるような鋭利な切り口で僕らをはっとさせる詩が音楽になり、僕らの耳や目や皮膚からしみこんでくるようです。「泣ける」音楽は結構ありますが、その先を暴き出す意志と力、そして優しさに満ちたこの作品は本当に稀有だと思います。
平成のクレイジーホース、MOD LUNGの最新作がvo/guの矢田氏が立ち上げたレーベルPOWER ELEPHANT!から遂にリリース。4人目のメンバーに若き天才スライド・ギタリスト大地氏を加え、全日本詩で挑む10曲。そのパワーは東京一と噂されるの怪人 安原氏の強力なドラミング。人懐っこいベース・プレイで婦女子の人気を獲得するベースのコウタ氏。そして、ギター・ボーカルの矢田氏ががっぷり四つにくみ、強靭な多魔川サウンドを完成。これは、日本語ロックのクラシック!
LINK
POWER ELEPHANT! website http://power-elephant.com/
POWER ELEPHANT! myspace http://www.myspace.com/powerelephant