謎の集団kappaがやってきた!
ototoyにkappaがやってきた! …て、kappaって誰? 彼らの正体は、戸田誠司を中心に、ミュージシャン、エンジニアや作編曲などで活躍するメンバーで構成される、機械と人力、コンセプトと感覚、両方ありの「脱力系」バンド。とくさしけんご、タナカカツキや鈴木光人など、蒼々たる顔ぶれ! 今回、iPhone、iPadアプリでリリースされ話題となった、森川幸人著の電子書籍『ヌカカの結婚の音楽』『テロメアの帽子の音楽』のサウンド・トラックをリリースする彼ら。遺伝子のしくみや虫の生態という、一見「お勉強」になってしまいそうなテーマを、シュールさを含みつつほのぼのとしたタッチで描いた絵本と、彼らの作り出す音が見事にはまっています。戸田誠司のインタビューと共に、ゆっくりと彼らの世界に浸ってください。
INTERVIEW
日本の音楽プロデューサー、作曲家、編曲家でもある戸田誠司が、新たにkappaというバンドをスタートさせていた。メンバーは、タナカカツキ、鈴木光人、そしてOTOTOY強烈推薦のとくさしけんご等、相当の強者達。そして届いた楽曲は、『ヌカカの結婚の音楽』『テロメアの帽子の音楽』のサウンド・トラック2作品。自然と映像が想起される楽曲のセンスには脱帽です。こうしちゃおられないなと、とにもかくにも戸田誠司にインタビューを試みた。最初の質問はこれ。「kappaとは、いったいなにもの?」
インタビュー&文 : JJ(Limited Express (has gone?))
——今回配信となる『ヌカカの結婚の音楽』『テロメアの帽子の音楽』の2作品を創ったkappaとは、いったいなにものなんでしょう?
いろんな理由で世の中に0円仕事が増えてきました。作業に見合った経済的なみかえりがないものをプロフェッショナルが受けていくことは自滅行為かもしれないし、そういうのを嫌う人がいるのもわかるけれど、僕らはむしろ積極的にそれをやりたい、楽しみたい。パソコンのおかげで音楽を創るのに高額な予算が必要なくなった、つまり、手伝える様になったわけですよ。誰かの作品だったり展覧会だったりDVDだったり、音楽は必要だし、見たり聴いたりしたい人はいるんだけど、ほとんどお金を生まないものがたくさんある。そういう素晴らしいものに音楽を手伝える。僕が4年前に出した『There She Goes Again』ってDVDも、全編の映像を映像作家さんたちが気持ちだけで作ってくれたんです。kappaもそういうバンド。『ヌカカの結婚』や『テロメアの帽子』も発売前はこんなに数が出るなんて予想できなかったわけで、絵本を作った森川幸人さんも「予算ないです」と。そういうこと関係なく「iPhoneアプリおもしろそー、やるよー」って集まったのがこのメンバー(笑)。
——それぞれ忙しいのに(笑)。そのメンバーは0円プロジェクトの時以外も一緒にお仕事をされたりもするんですか?
もちろん! 普通に。まだkappaに予算あるプロジェクトの発注がないし(笑)。kappaは「プロの趣味バンド」なのかなー。そんな集まりだからこそできることや音楽が作れればいいし、今日の睡眠時間を少し減らせば何か作れる、何か面白そうなことができる、そんな時代でもあるわけ。
——『ヌカカの結婚』『テロメアの帽子』以外でもkappaでやっているものってあるんですか?
タナカカツキのブルーレイ作品で『ALTOVISION』ってドラッグ・ムービーがあるんですけど、それはこのメンバーでやっています。あと、いつか配信したいと思っている『kappa』ってアルバム1枚分のオリジナル・タイトル。
——メンバーは固定のメンバーなんですか? kappaっていう集団って考えた方がいいのでしょうか?
集団って考えた方がいいのかもしれないですね。もし間違ってkappaでライブをやる事になったら、ライブに適したメンバーを募るのもいいかもしれない。まぁこれも0円だろうけど(笑)。
——メンバーそれぞれ音楽やそれ以外で仕事をされてると思うんですが、無償で集まる理由というのは何でしょうか?
それは面白いからでしょうね。先行投資といった先を考えているわけでもなく、美しい助け合いでもなく、ただ面白そうだから何かを作る。
——kappaのプロジェクト自体はいつ頃からあるんですか? またkappaをやるキッカケは何ですか?
三年前から。知人が管理してる伊豆高原の研修施設でレコーディングできるかもしれないって話が出たのがキッカケで。その時にいたのがこのメンバーだった。せっかくいい環境があるんだから何か作らないとバチが当たる。2週間かけて10曲仕上げた。でもそこで気持ちが止まっちゃった。作って満足しちゃったんだよね(笑)。
——それで世に出ないまま、まだ眠っているんですかっ!
そう! (笑)。お願いします!
——聞きたい。必ず、配信してください! kappaは、戸田さんが中心になってやっていると考えていいのですか?
いまのところそうかも。まぁ映画のときはカツキ(タナカカツキ)さんが(笑)。やんないけど。まぁ各自で勝手にいろいろやってますよ。とくさし君(とくさしけんご)のアルバムは、今回直接kappaはフォローしなかったけど、デモの段階でメンバーが意見を言ったり、MAX(音響系ソフト)マスターの千葉ちゃんが音源協力してる。
——kappaの皆さんに共通点はありますか? バンド系のミュージシャンの雰囲気とは少し違う様な気がします。
うーん… 何でしょうね。共通項は音楽を作るのが好きなんですよ。つきつめると音楽でなくてもいいくらい、みんな音を作るのが好きなんです。別に誰かの前で演奏したいとか無くて、ただ音を作るのが好きな人達なんです。目標も音楽を作ること、自慢じゃないけど自己満足と紙一重、自分の中で完結するのは得意ですよ(笑)。「自分用」とか「自分たち用」の音作ったりしてますから。サンレコの優等生!!!(笑)
——メンバー皆、心地いい環境で音楽を作るのに飢えてたんでしょうか?
パソコンを中心にして音楽制作するようになって、スタジオでなく部屋だろうがどこでもいい、好きなときに一人でやれていろいろなことから制約が無く自由にできる環境になってきた。でもその制約の無さが、逆になんでも自分でやらなければいけないみたいになってしまって、予算削減もあって既定の義務感になってしまってる。その窮屈な感じをもう一度大きな可能性に変えないとなーとはみんな思っていたと思う。
——(笑)。皆さん一人で音楽を作る方が好きだったりするんですか?
その時々じゃないかな。その辺はね、みんなスタジオも経験してるから自由なんだよ。一人で作るのも好きだと思うし、みんなと作りたい時もあるし、それが音楽のどの部分を作ってるかで変わってくる。自分一人でやった方が良いのができると思えば一人でやるだろうし、皆とやった方が膨らむと思えばそうするだろうしね。
制約も楽しんでしまえば大した苦労じゃない
——伊豆高原では、どういった手法でレコーディングされたんですか?
広い食堂兼談話室にドラムやらアンプ置いて、マイクも立ててのレコーディングですよ。あとは机をコの字型に並べて4、5人それぞれがコンピューターに向かって作業するみたいな。作りかけの曲を流しっぱなしにしてると誰かがダビングしたり、構成しなおしたり。疲れたら横で喋ったり寝てる。食事タイムに何かBGMかけようとすると、折角このメンバーいるんだからそのBGM作ろうよって(笑)。始めは和むつもりで作ってたものが、段々「いいね」ってなって曲になったりしてた。結局ご飯は数時間後。
——なんかすごい集団(笑)。
でもね自分達の出した音にプライドはあるんですけど、売っていこうとか色んな人に聴いてもらいたいとかいうパワーが欠けてる、残念ながら、はっきり言って(笑)。わざわざ盤まで作って周囲に迷惑はかけられないんで、カタログが増えてもいろんなところに支障のない(笑)、ダウンロード販売いいよねって、OTOTOYにお世話になる事になりました。
——とっても嬉しいです。kappaの活動は、ミュージシャンがどういう形で音楽を作り続けるのかっていう大きな指標になると思います。とくさしさんの作品にもある種のユルさみたいのは感じたので、ある意味納得というか…。
毎年夏のバーベキューと忘年会をやってるんですが、その資金は出るといいねって目標はあるんだけど(笑)。最終的にはモナコに別荘!
——なるほど。今回発売する『ヌカカの結婚』や『テロメアの帽子』を作ったキッカケを教えてください。
DVD『There She Goes Again』を作った時に一曲、それにあう映像がなかった。ちょうど『ヌカカの結婚』の絵本を読んで面白いと思ってた所だったので、直接メールで著者の森川さんに1話分の絵と話を使わせてもらえないかって頼んでみたんです。もちろん0円で(笑)。しかも最初にお会いした時にはもう自分でFLASHアニメ作っちゃってて見せた。それを見て森川さんも「面白いですね」ってすぐに了承してくれた。その何年か後、森川さんの方から『ヌカカの結婚』をiPhoneのアプリにしたいとメールをもらった時に、あ、これで0円の恩返しができるなー、ぜったいやろ、0円で! って。
——どのように録音されたのですか?
けっこう急ぎの進行だったので、うちにある東南アジアの木琴を使って色々音を作ろうとタカシ(渡部高士)のスタジオに行って、半日その木琴でひたすら叩いて録音した。その素材をkappa全員に投げて「これでなんかよろしく! 」って出来上がったんです。『ヌカカの結婚』の音に関しては一週間でできましたね。その後のミックスで一週間って感じかな。面白いのがね、まずエンジニア・チームがiPhoneのスピーカーの特性を調べるわけですよ。昔ヒット曲にラジオ・ミックスってあって、どのスピーカーで聴いてもある程度良いバランスにしてあるのと同様の考え方。大多数の人がまずアプリの音をiPhoneのスピーカーで聴くわけだから、このモノラルのiPhoneのスピーカーからいい音で聞こえる事が僕等には重要だった。音の位相だったり色んな部分を調整しないとiPhoneのスピーカーで聞く場合は音楽として成立しないので、その部分にもの凄い気を使って、細かい作業の積み重ねでしたね。もちろんヘッドフォンで聴いてもいい音で作ってあるし。
——すげー! マニアック(笑)。
制約もね、その制約も楽しんでしまえば大した苦労じゃないんですよ。そのあたりはエンジニア魂なのかなー。今は圧縮音楽がメインだけれども、それをいちいち嘆く前に、圧縮されてもいい音を考えていかないとね。
——すごいですね。OTOTOYで推奨している24bit48kの高音質だった場合は、それすらも制約として考えるんでしょうか?
そう!(笑)。そうしたら24bit48kの配信で一番良い音で聴く為の音作りはどうすればいいのかをエンジニア・チームが考えるわけです。
——『kappa』の配信の際は、24bit48kで是非!
ぜひとも! っていうか、今回のヌカカとテロメアも2448用にOTOTOYの配信ヴァージョンってことでマスタリングし直してますけど(笑)。
——最後に、戸田さんとコンピューターの関わりについて教えてください。戸田さんのコンピュータ・ミュージックへの反応の早さは何故ですか?
好きだから。それだけだと思う。1980年初頭にコンピューターを触ってからの10年は、何をするにもそれこそ持ち出しばかりだったんですよ。それでも続けたって事は好きだから。当時はコンピューター好きって言っても相手にもしてくれない、特に役に立つわけではないしね。だからこそ一番楽しかった時期っていうのもありますけどね。へへへ。
——好きになったキッカケは何だったんですか?
Apple IIのアドベンチャー・ゲームかな。キー入力していくゲームで、「open the door」とかキーを入れるとドアが開いたり「鍵が無い」とか英語で出てきて「left」とかキー入力すると振り向いてそこに鍵があったりとかね。「未来が来た! これすごいっ! 」って。その前にATARIのテニスとか平安京エイリアンとかあったんだけどコンピューター相手なのにこっちは体しか使ってないんだよね。それでそのアドベンチャー・ゲームをやったら「頭脳きた! これが人工知能ってやつ? 」って、もうそこからはどっぷり。半年後にはアセンブラでコード書いてた。
——いま戸田さんがコンピューターとつき合ってく上で大事にしている事は何ですか?
94年くらいからコンピューターは主としてコミュニケーション・ツールとして使われる様になったと。本来コンピューターってそういうものだったんだって勘違いするくらいコミュニケーション・ツールになってる。それまでスタンド・アローンだったパソコンがインターネットによってつながる、そしたら人と人が繋がって行くのはもちろん当然で、今はその繋がりを楽しんでるんだろうね、ツイッターにしてもウェブにしてもブログにしても。そういう情報交換も楽しいんだけど、そこから批評は構築されても、歌詞やメロディは生まれにくい。そっちじゃない事を、どんなにその集合地が大きく良くなったとしても、生み出せない事はあるんだよっていうのを知って欲しいし、kappaはそういう事を大切にしてやってますね。あっ、そんなデカイこと考えてなかった(笑)。いや、ただ音楽作ってるだけです、はい。
kappa's member PROFILE
戸田誠司
SHI-SHONEN、REAL FISH、FAIR CHILDを経てソロ・アルバム『Hello World:)』を発表。その約10年後、ソロ・アルバム『There She Goes』をリリース。『There She Goes』に共鳴した気鋭の映像作家・クリエイターたちが参加し制作したDVD『There She Goes Again』をリリース。
掛川陽介
偶然となりゆきを軸に人生を歩み、現在、kappaの他にLanguage、TOMISIRO、Casual now! などのユニットでも活動。作品提供は、ベルリンフィル、SMAP、北野映画、ケロロ軍曹など。クラブDJ(DJ Synthesizer)として知られる他、歌詞を多く手がける。が、作詞家ではなく詩人でありたい派。無境界なバイオグラフィー更新中。
渡部高士
ロンドンでエンジニア/プログラマーの経験を経て日本で活動。電気グルーヴのツアーでは、ステージ・メンバーとしてWIRE'99、NATURE ONE FESTIVAL、DANCE VALLEYやLOVE PARADE等に出演するなど、テクノロジーとクラブに通じた異才である。自身のバンド、OVERROCKETとしても活動中。
鈴木光人
田中フミヤ主催のTOREMAや細野晴臣主催のDaisy worldよりキャリアをスタート。1997年、OVERROCKETを結成し活動を始める。その一方、1998年にはエレクトリック・サティの名で『gymnopedie '99』をリリース。現在はSQUARE ENIX所属、iTunesよりソロ作品『IN MY OWN BACKYARD』(2007)、『NEUROVISION』(2009) を発表。
タナカカツキ
マンガ家・映像作家・アーティスト。『バカドリル』、『オッス!トン子ちゃん』などの著作多数。『SUNDAY』、『ALTOVISION』など映像作品多数。この他、CM、ビデオクリップ、テレビ番組のオープニングやジングル、スポット映像などの制作を多数行う。
千葉一裕
音楽・映像・プログラミングなど、幅広いフィールドでのんびりと創作活動を行う。1998年頃から都内のクラブを中心にVJとして活動。フライヤーやウェブなどのアート・ワークも手がける。近年は主にMax/MSPを使用した音楽ツールのデザイン・プログラミングと、それらを活用した楽曲制作に注力。
本澤尚之
作曲・編曲・エンジニアリングをトータルに手掛ける新世代のクリエーター。近年は、楽曲を作りながらミックスするスタイルによって累計70万枚以上のセールスを誇るSotteBosseのアレンジャー/エンジニアとしても活躍。近年、掛川陽介との音楽ユニットTOMISIRO、LanguageやCasual Now! などでも活動中。
松田正博
デジタル環境におけるノウハウと、アナログ環境で養われた生楽器のレコーディング技術をあわせもつエンジニア。アーティスト、プロデューサーの意図を把握し、具現化していく能力の高さで多方面より支持を得ている。moonriders、姫神や上野洋子などのスタジオ・ワークで活躍中。
スギモトトモユキ
高精細かつユーモラスなエレクトロニック音楽を制作しているミュージシャン。自身のレーベル Modulation よりアルバムをiTunes他でリリース。映像クリエイター/VJとしても活動している。最近では、USTREAMを活用した、映像とライブパフォーマンスを融合した形でのオンライン・ライヴも試行中。
とくさしけんご
作曲家。 現代音楽の分野において、第20回日本現代音楽協会作曲新人賞、第10回東京国際室内楽作曲コンクール第1位受賞。タナカカツキ『AltoVision』などに参加。2010年、アルバム『華麗なるホリデーの世界』を配信で発売中。
長野孝豊
大阪のニカおっさん。さくらトーンとしても活動している。
綱島慶
アナログ回路とハンダ付けの巨匠をめざす。
kappaメンバー とくさしけんごの音楽と映像の世界